柳敬助

　これは、長野県南安曇郡穂高町の碌山美術館にある柳敬助画伯の作品の一部です。柳敬助を調べていくと、ドラマチックで著名人との交友関係も多彩です。

　敬助は新築なった中村屋のアトリエに移り、明治４４年（1911）３０歳のとき相馬黒光の紹介で雑誌編集者、橋本八重と知り合い結婚しました。結婚式では最初に高村光太郎が祝辞を述べています。また、高村光太郎の妻智恵子は日本女子大で八重夫人の後輩にあたり、二人を引き合わせて仲人をしたのは敬助夫婦すした。
　敬助は結婚を機に中村屋から雑司が谷に居を移し、３人の子供に恵まれました。敬助は画家としては珍しく穏やかな性格だったと言われ、友人も多かったようです。短歌もよくし、雑誌の挿絵なども手がけました。彼は肖像画家といわれるように渋沢栄一、藤山雷太など著名人の肖像画を多く描きました。とはいえ、彼は寡作で「展覧会に出すためという理由で、絵を描きたくない」などと友人に書き送っています。
　また、梅原龍三郎、岸田劉生などとともに二科展の設立、審査員など活躍しましたが、大正１２年（1923）５月、４２歳の若さで病没してしまいました。

荻原碌山作　　女

　東京では荻原守衛（碌山）が、新宿中村屋（中村屋サロン：当時の有名な文化人や著名人が集まった場所）の敷地内に敬助のアトリエを建設していました。敬助の父は翌年３月他界しました。４月にアトリエ完成の電報が届き上京の準備をしている翌日、碌山急死の電報が届きました。碌山の枕元には敬助が泉から持っていった満開の桜が飾られていたそうです。新宿中村屋は、皆さんお聞きになったことがあることと思いますが、インドカリーやクリームパンを初めて売り出したところで有名です。碌山は、年上の女主人相馬黒光（こっこう）に憧れ、この「女」という彫刻は黒光さんをイメージして作られたものです。スーパー「アピタ君津店」のお菓子売り場に時々、碌山や黒光という名のお菓子が並んでいるのをみかけますが、この２人にちなんで命名されたものです。

千葉県立美術館所蔵

青木重夫画伯によれば、敬助のほうが断然上手とのことです。また、千葉県立美術館にも２点購入され展示されていました。
　私たちはいつかこれらの作品を拝借して、「君津市が生んだ肖像画家柳敬助作品展」を開催し、市内の方々に生の作品を身近で観ていただき、柳敬助をもっと多くの人に知っていただきたいと思っています。

　大正１２年９月１日、敬助の友人たちの呼びかけにより、日本橋三越で追悼展が開催されました。９月１日といえば関東大震災が起こった日です。文展や二科展に出品した彼の代表作のほとんどが焼失し、多くの人の目にふれる機会を失わせる結果となりました。また、賛助出品してくれた友人たちの作品も一緒に焼失してしまい、その時の目録だけが残されています。ほんのわずか残された柳敬助の作品のほとんどは、安曇野の碌山美術館と八重夫人の母校日本女子大成瀬記念館で大切に展示、保管されています。碌山美術館には、アメリカ修行時代同じモデルを描いた荻原碌山と柳敬助のデッサンが展示してあります。彫刻家となった碌山は大胆で荒削りなデッサン。肖像画を得意とした敬助は丹念で質感のあるデッサン。２人の描き方には歴然とした違いが見られます。

　遺作展・遺作の行方

＊名前をクリックすると肖像画と人物紹介がご覧になれます

山田謹吾	敬助の実弟（文安、はるの四男）。
岩崎總五郎	敬助の義兄（姉婿）。渡米時、父文安に協力して資金援助した。
渡辺由太郎	周南小学校校長。（周南小の礎を築いた人）
佐藤善次郎	籾山小学校時代の恩師。（敬助の画才を認めた人）
堀江正章	千葉中学校時代の恩師。（氏の薫陶で才能が磨かれる）
花澤荘作	同郷の先輩。（能書家で文章もたつ文化人。「笑賀」と号し短歌や俳句にも長じた）
立川栄三郎	友人立川二郎氏の父
鈴木利三郎	同郷の友。（敬助より３歳年上の先輩。開業医）

　明治４２年１２月帰国後、敬助の留守中に相次いで家族（母、兄、弟）を失って、すっかり元気を無くした父を慰めながら、しばらく泉の生家で制作の日々を送ります。この頃に、郷土の風物や身近な人たちの肖像画を描いています。郷土の友人立川二郎氏に宛てた手紙に中で彼の『肖像観乃至芸術観』を述べている。

　親友死去・結婚・活躍

　さて、柳敬助は明治１４年（1881）周淮郡泉村の医師山田文安の次男として生まれ、５歳で絶家となっていた親戚の柳家の名跡を継ぎました。籾山小学校（現中小学校）では校長の佐藤善次郎に絵の天分を見出され、千葉中学校に進学すると堀江正章に師事しました。一度は医師を目指しましたが受験に失敗し、東京美術学校（現東京藝術大学）洋画科に入学しました。ちなみに、この年銀座中村屋が創業しています。卒業を待たず、明治３６年（1903）２２歳のとき渡米し、ニューヨークで油絵の勉強をしているときに、荻原守衛（後の碌山）や高村光太郎、戸張弧雁などと知りあい、親友となります。明治４２年（1909）９月、ヨーロッパに渡り、各地の絵画を見て帰国しました。

　敬助生い立ち　
　　（柳敬助年表）

＊柳敬助画伯の作品の多くは長野県安曇野にある「碌山美術館」が所蔵しています。常設展示ではなく、特別展として開催されますので、碌山美術館のホームページで確認してからおでかけください。