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シリーズ討論

年金改革と今後の課題

高山憲之一橋大学教授
国民会議ニュース2004年7月

 行革国民会議では6月25日、高山憲之一橋大学教授をお招きし、年金改革と今後の課題について話を伺い意見交換しました。以下、その概要をお伝えします。


1 事実確認
 1)厚生年金収支は実質上すでに赤字に転落している
 2)厚生年金のバランスシートは巨額の債務超過となっている
 3)平成10年以降、社会保険料負担は国税総額を上回っている
 4)年金保険料負担が公租公課の中では突出して重い
 5)国民年金だけでなく厚生年金でも空洞化が静かに深く進行している
2 年金改革法:主要ポイント
 1)保険料の引き上げ
 2)給付の抑制
 3)国庫負担率引き上げのための増税
 4)その他
3 年金改革法を検討する
 1)負担増でバランスシートはどう変わる
 2)若者と企業の年金離れをくいとめることはできるか
 3)社会・経済の変動に順調に対応しているか
 4)「税金で負担すべき年金給付とは何か」の議論は十分になされているか
 5)受給開始年齢を65歳超に引き上げることは将来ないといえるか
4 年金制度への信頼をとりもどす方策
 1)「みなし掛金建て」(スウェーデン方式)への切りかえ
 2)税金負担の年金給付を「上に薄く下に厚い」形に改める
5 バランスシート上の債務超過をどう圧縮するか
 1)給付の抑制
 2)公的資金(税金)の投入
質疑応答



1 事実確認
1)厚生年金収支は実質上すでに赤字に転落している
 日本の年金制度はなぜこんなに問題なのかという背景説明から致します。図1は厚生年金の実質収支が年々どうなっているのかというものです。厚生年金は民間サラリーマンが原則として全員加入する制度です。日本の公的年金の規模としては最大のもので、財政的には従来いちばん安泰な制度だと思われてきたのですが、ちょうど21世紀に入った2001年度から年々の「実質収支」が赤字に変わりました。国の特別会計は、特別な一時金収入もすべてどんぶり勘定で現金出納帳的に収入に計上していま
すが、ここでは、本来ストック勘定で調整すべきものを外すという計算を行っておりまして、これが「実質収支」です。収入から農林年金からの積立金の移管や、代行返上に伴う基金からの積立金の移管を除いてみると、2001年度以降ずっと赤字が続いている。厚生労働省の財政再計算の数字によると、これから5年くらいは赤字が続き、その後は黒字に変わることになっております。しかし、保険料収入による見込みが適正かどうかという判断によりますが、私自身は基本的には赤字基調が継続するのではないかと考えています。厚生年金は従来ずっと黒字を計上して積立金を積み増してきましたが、いよいよ様変わりの状況になり、事実上積立金の取り崩し過程に入りました。

2)厚生年金のバランスシートは巨額の債務超過となっている
 フローについての計算の次はストックの計算ですが、ストックは資産と負債をみればいいということで、バランスシートをみます。今回の改革が行われる前と後で、どうバランスシートが変わったかということですが、4月下旬に厚生労働省が改革後のバランスシートを発表しました。ただそれは非常に限定的なもので、改革前はどうだったのかということは書いてありません。そこで、発表された資料を基に私が独自推計したものが図2です。保険料を引き上げずに現在の13.58%の水準に維持して、国庫負担3分の1、給
付も現行法の通りと仮定したときのバランスシートがどうなるのかということが、図に示した「改革前」ということです。
 ここでは、バランスシートを将来拠出対応分と過去拠出対応分の2つに分けてあります。厚生労働省の数理課がこういう形で発表していますが、将来拠出対応分というのは評価時点が2005年3月末、本年度末ということです。現行法の規定する保険料や給付約束が2005年4月からもそのままつづくと仮定した場合、資産と負債がどうなるのかということを推計したものです。ここでは、保険料は13.58%のままという仮定をして、将来加入者が払い込んでいくわけですが、加入者数がどうなるのか、賃金はどのくらい伸びるのか、割引率はどうするのかということを仮定しないと、一時金換算はできないわけです。そのための仮定が(注)に書いてありますが、財政再計算のときに使った数字です。割引率は運用利回りに等しい利率3.2%をここでは使っています。そういう形で保険料収入を一時金換算すると将来拠出対応分の保険料資産は920兆円です。将来に向けて考慮する期間は今回の厚生労働省は2100年までで、2100年以降の数字はバランスシート上の資産と負債にはカウントしないという考え方で整理していまして、ここでもその考え方を踏襲しています。国庫負担は基礎年金の3分の1で、これも一時金換算で一括で払うとしたら130兆円ということになり、資産全体で1050兆円ということです。給付債務は2005年4月以降に支払われる保険料に基づいて給付約束がなされるものを一時金換算したもので、全体で1100兆円ということです。これも平均余命など厚生労働省がよく使う社会保障人口問題研究所の数字を使ってやったものです。こうしてみますと、将来拠出対応分については、資産と負債のバランスがほぼ取れていて、給付債務の4.5%くらい、50兆円という若干の債務超過となっています。したがって、この将来分だけでみると、バランスシートが特に痛んでいるという状況ではありません。国庫負担を若干増やすとか、給付債務を少し削るだけで財政的には問題なく、現行の保険料水準で今約束している給付自体が特に高いとか低いなどとは、言えません。
 ところが、過去拠出対応分をみると、ここでの給付債務800兆円というのは過去の保険料支払いに基づいて支払いを約束したもので、債務というのはそのうち支払い約束をしたが、まだ支払いが行われていないものという意味です。たとえば、厚生年金の場合、過去に50年以上歴史があって、現在70歳や80歳の人はすでに年金を受給しているわけです。今までにもらった年金、給付された年金については債務ではないのでカウントしていません。過去に保険料を払った現在70歳の人はあと10数年平均して生き延びるだろうとして、その10数年分の給付を一時金換算してここに入れるということです。あるいは、団塊の世代は現在50代の中ごろにいるわけですが、過去35年や30年くらい保険料を払い込んでいます。この人たちは60歳を超えれば、20年以上に渡って年金をもらえるというふうに思っているのですね。過去の拠出分を担保にして年金はもらえると考えているわけで、その部分をすべて一時金換算した形で入れているということです。この給付債務が800兆円です。一方、過去の保険料は給付の支払いに使ってしまったわけで、残っているのは積立金170兆円です。国庫負担は基本的には基礎年金の3分の1ということで130兆円で、資産合計は300兆円となり、給付債務との差額が500兆円あります。
 バランスシートをみる限り、将来拠出対応分はほとんど痛みもなく修復はそんなに難しくはないのですが、過去拠出対応分は債務超過額が500兆円となっていて、この債務をどう圧縮、償却していくか、要は誰がこの債務をいつの時点でどうやってお金を出して処理するのかということがまさに問題で、これが年金問題だと考えてもらえればいいと思います。これは厚生年金だけですが、同じように国民年金もバランスシートの数字が出ています。ただ、共済グループはこれから保険料等を定款で定めるということになっていて、これが終わらない限りバランスシートは新しい結果が出てきません。そういうわけで、日本の公的年金全体としてのバランスシートがどうなっているのかということは、最新の時点のものはよく分かりません。前回の財政再計算のときに、全体として600兆円くらいあったのですが、この5年間に若干増えたと推定しています。600兆円というのは結構な金額で、日本国民全体で1億2000万人強ですが、1人当たり500万円という数字が出てきます。今の保険料や税金負担とは別に、国民が生まれたばかりの乳児から100歳を超えるお年寄りまで、全部一括して一時金で500万円を、4人家族なら2000万円を特別の負担として年金に出してくれれば、今までの負担とは別に出してくれれば年金問題は解決するということになります。しかし、そのお金のやりくりをどうすればいいのかということで、悩ましい問題を抱えている。年金は財政問題というふうに限定すれば、まさにバランスシートをみれば問題の所在がよく分かりますが、このファイナンスの方法をどうするのか。これは立場や考え方によって違ったファイナンスの方法があります。今回の改革もこのバランスシートを修復するための方法を提示していますが、それとは違う方法も当然あるわけで、いろいろな検討が必要です。

3)平成10年以降、社会保険料負担は国税総額を上回っている
 図3についてですが、現在の社会保険料負担、これは年金だけでなく医療だとか雇用保険だとか、介護とか労災など全部入っているのですが、社会保険料全体として2003年度当初予算で56兆円弱あります。国税が同じ時点で44兆円弱なので、社会保険料の負担額のほうが大きくなっています。社会保険料の負担総額が国税総額を超えたのは1998年の決算からで、ずっとその状況が続いています。


4)年金保険料負担が公租公課の中では突出して重い
 その内訳が図4です。従来高い高いといわれていた所得税は2003年度当初予算で14兆円弱、法人税は9兆円くらい、消費税は地方消費税込みの5%分で約12兆円です。年金保険料と書いてあるのは、社会保険料としての年金保険料です。企業の任意でやっている積立保険料や個人が個人年金で掛けているものは入っていません。これが29兆円。医療保険料は17兆円です。このように、所得税、法人税と比べると社会保険料の方が大きくなっています。ちなみに、年金保険料は昨年の当初予算で29兆円です
が、昨年における公的年金給付の支払いは恩給込みで総額44兆円です。今年2004年だと46兆円弱だったと記憶してますが、それくらいの規模だということです。
 日本の民間ビジネスでいちばん規模の大きな産業は自動車産業ですが、国内の出荷額ベースで見ると40兆円で、公的年金の事業規模はそれを超えていて、民間における最大のビジネスよりも大きな事業に公的年金はなっています。その財源44兆円の中で、年金保険料は29兆円だった。そのほかに税金負担や運用収入などがありますが、一部足りないものは積立金を取り崩してファイナンスしているという状況です。
 従来、税制改革という場合には、質・量ともにかなり内容の濃い議論、しかも激しい意見交換みたいなものが行われました。日本の構造改革というとまず税制改革という話になりますが、社会保険料をどうするかという議論はまだ税制改革の時のような形で行われていないというのが私の率直な感想です。ところが、国税総額を超えるようになってしまい、強制的に徴収されるという意味では全く同じわけです。税制改革と同じ質・量を持って、社会保険料をどうしたらいいかという議論をしなければいけないと思っています。
 たとえば、年金保険料は29兆円ですが、法人税が全体で9兆円です。年金保険料の半分弱は事業主負担です。あるいは、社会保険料56兆円のうち事業主負担は28〜29兆円あります。法人税9兆円というときに、事業主負担の社会保険料が28〜29兆円あり、経済界、経営者団体が社会保険料の事業主負担について頭を悩ましています。人を雇って賃金を払えば、自動的に上乗せされ、法人税に比べても結構な金額になっているので、強い関心を示さざるを得なくなってきている。経済団体などがいろいろなところで意見発表を行っていますが、社会保険料をこれ以上引き上げることについて、今後ますます強い抵抗を示してくると予想しています。
 サラリーマンにとっても、かつて自分の月給から天引きされる項目でいちばん金額が大きかったのが地方の住民税だというのが普通の感覚だったと思います。ところが最近は、長期の掛け金、厚生年金保険料の本人負担分が天引きの項目として最大となり、自分の手取りを減らすのは年金保険料となっています。年金保険料の引き上げは、手取り所得がどうなるのかということと関係があり、経済全体としての消費支出と直結する話であるため、そういうことも考えざるを得ないということです。

5)国民年金だけでなく厚生年金でも空洞化が静かに深く進行している
 図5ですが、国民年金の保険料の滞納者が4割近くに達しました。昨年、今年の騒動をみておりますと、これは上がり続けると予想せざるを得ない。いわゆる年金のドロップアウト問題というのは、国民年金において周知の事実になってしまったわけです。厚生年金のほうも、明快な図表はありませんが、日本で税務署に登録のある事業所数は300万弱で、厚生年金の適用事業所の数は160万くらいだったと思います。事業所はすべて厚生年金適用ということではありませんが、一説では100万前後の事業所が本
来厚生年金の適用を受けるべきであるのに、適用を受けていないという推計もあり、深く静かに空洞化というか、ドロップアウト問題が厚生年金でも進行しています。人を雇って賃金を払えば自動的に上乗せされるのが社会保険料で、厚生年金の加入は事業経営者、特に経営難に陥っている会社にとっては死活問題で、いろいろ理由を付けて適用をやめるとか、適用者の数を思い切って減らすなどいろいろなことをやっています。現に事業所の数も減っていますが、厚生年金適用者の数も減り続けているような状況にあるということです。


2 年金改革法:主要ポイント
1)保険料の引き上げ
 このような中で今回、財政対策ということが中心の法改正が行われました。主要なポイントとしては、保険料の引き上げがあります。現在、厚生年金の保険料は13.58%ですが、これを毎年0.354%ずつ引き上げ、2017年度に18.30%に届いた段階で固定する。国民年金は現在、1人月額1万3300円ですが、これを毎年280円ずつ上げ、2017年度以降1万6900円で固定する。ただし、これは賃金が上がらないケースであって、賃金が上がればこの水準とは違う形で上がっていくということです。平均的な男性給与所得者は税込みで月給36万円の人を想定していますが、今後も10数年間に渡り、毎年本人負担の保険料負担が1万円ずつ増えていくと予想されています。厚生労働省の財政収支見通しによると、これから毎年、厚生年金だけで1兆円ずつ保険料の増収を図っていく。定期的な料率アップによって1兆円ずつ保険料を増やしていきたいということです。今は厚生年金の保険料収入が20兆円前後ありますが、これから毎年1兆円ずつ増やしたい、そのための保険料引き上げだということです。

2)給付の抑制
 給付については、マクロ経済スライドというものを導入しました。具体的には、人口要因に着目して実質的に給付を引き下げる方法です。今まで給付は、既に年金を受けている65歳以上については、消費者物価スライドで、物価が2%上がれば年金額も2%改善するという制度になっていました。新規に年金をもらう人については、過去賃金の読み替えを手取り賃金の上昇率を用いて行っていたのですが、読み替えの数字を人口要因に着目して少し下方に調整します。年平均で0.9%ずつ毎年スライド率、賃金の読み替え率を下方修正するといっています。0.9%の内訳については、0.6%相当が、これから日本は年金の支え手である現役の人の数が減り、年率で向こう20年くらいに、0.6%ずつ減る。これを考慮して給付についても少し譲っていただけないかという提案です。もうひとつは、日本人は今まで以上に長生きするようになるといわれていて、年金受給期間はそれに伴って長くなるということで、この分についても受給期間が長くなる分、年々もらう年金額を少しずつ減らして調整したいということです。向こう20年間で想定すると、年率0.3%です。0.6%と0.3%を合わせて0.9%となり、これで調整します。
 しかし、物価が下がっているときには、人口要因に着目したスライド調整はしません。物価が下がったら下がった分だけ、名目は下げる。また、物価が0.5%しか上がらなかった場合は、0.5%から0.9%を引いてマイナス0.4%になりますが、その場合はゼロ、現行水準を維持する。物価が上がっているときは、少なくとも年金額を名目額で下げることはしないということです。物価が2%上がった場合は、2%から0.9%を引いて1.1%の年金額の改善を図ります。毎年物価が上がりだした段階で、年金額を0.9%ずつ実質的に目減りさせるというのがこの給付調整の方法です。今の予定では、今後20年間に渡って実施したいということです。
 図8をみてください。モデル年金受給世帯というのは普通のサラリーマンをやっていて、平均的な賃金を重ねて40年間保険料を納め、奥さんが専業主婦だったという人を念頭においたものです。この人がたまたま今65歳だとすると、現役の人の平均手取り賃金に対する年金の割合は6割弱ですが、これがすこしずつ下がっていく。賃金は基本的に2.1%ずつ上がっていくというのが将来の基準シナリオです。物価は1.0%ずつ上がっていくと。ただし、物価が1.0%しか上がらなくても、年金額は0.1%しか改善しな
いという基準シナリオで計算したもので、現在6割弱の年金額が4割プラスアルファのところまで、加齢とともに下がっていくという形になります。現に年金をもらっている人も含めて、給付調整をするという意味では、従来にない非常に大胆な給付調整の方法を提案し、それが国会で可決されました。

3)国庫負担率引き上げのための増税
 国庫負担については、基礎年金、だれでも定額の金額をもらえる年金ですが、この3分の1を国庫負担で賄うというのが従来の制度でした。これを、2009年度までに2分の1を賄う形にするということです。財源措置として、とりあえずやったのは、給付課税の見直しだけであり、65歳以上の人たちに掛かっている公的年金等控除の最低額を140万円から20万円減額して120万円としたことと、1人当たり50万円の老年者控除を廃止したことです。これは来年の1月から実施されるようになります。それで出てくるお金は平年度ベースで1600億円です。ところが、国庫負担を2分の1に引き上げるのに必要な国庫負担財源は2兆7000億円といわれていて、1600億円しかまだ財源措置が付いていません。今後、所得税における定率減税の縮小廃止や消費税を含む税制の抜本改革によって、財源を捻出するという基本的な方向がとりあえず確認されているだけで、どういう形にするのかは今のところ不明です。

4)その他
 在職老齢年金の見直しというのは、60歳以上で働きながら年金を受けている人がいて、その人たちが受け取っている年金を在職老齢年金といいますが、賃金をもらっていると賃金は高い金額でなくても年金を一律に2割減額するのが現行制度ですが、この一律2割減額の制度を廃止するというのがひとつの内容です。もうひとつは70歳を超えて働いている人については、今は年金を減額するという制度はありませんが、これからは特に高い賃金をもらっている人については年金を減額します。
 夫婦間の年金分割というのは、離婚時に限って認める方向が認められました。
 遺族年金の見直しは、ほとんどラベルの張り替えで、金額自体は変わらないので大したことはありません。さらに夫をなくした妻の年齢が30歳未満の場合、その遺族が亡くなるまで遺族年金を払い続けるという形だったのを、20代の遺族については、これから職探しをするなど働くチャンスがまだあるのではないかということで、5年間に限って遺族年金を支給し、その後は支給しないという制度に変えるというものです。ただし、遺族が30歳を超えていた場合は、これまでと同じです。
 次世代支援というのは、育児休業を取っている人たちに対する取り扱いです。育児休業を取ると、現行では本人負担と事業主負担の保険料が免除されますが、これまでは最大で1年間しか認められていなかったのを3年間まで拡大するということです。もうひとつは、出産をしたために出産前とは違った働き方しかできない人がいるわけで、短時間勤務などで子育てをしながら仕事もするために月給が出産前と比べて下がってしまう人が出てきます。そういう場合に下がった賃金をベースにして保険料を払い続けてもらいますが、年金給付の算定に当たっては、出産前の高い賃金が継続したものとみなして、高い賃金を稼ぎ続けたというみなしで年金額につなげていきます。過去の賃金の平均を取るときに、子供が3歳になるまでは、出産後に落ちた賃金ではなく出産前の高い賃金を使って計算するという制度です。
 そのほか、まだあるのですが、時間の関係で省略します。


3 年金改革法を検討する
1)負担増でバランスシートはどう変わる
 図6図2を比べてください。将来拠出対応分と過去拠出対応分の区分は全く同じです。保険料は18.3%まで上げる。給付はマクロ経済スライドで下げる。国庫負担は2分の1に上げるというのが主な改正内容で、その結果バランスシートはどうなるか。これが厚生労働省が4月下旬に発表したものです。将来拠出対応分の保険料は1200兆円になり、280兆円増えます。国庫負担は130兆円が190兆円になり、資産総額は1390兆円になります。負債はマクロ経済スライドで削り取るということで、1100兆円が970兆円
に変わります。将来拠出対応分は債務超過から資産超過に一転する。資産超過額は420兆円です。
 他方、過去拠出対応分では、給付債務が800兆円あったがの740兆円に変わります。積立金は変わらず170兆円。国庫負担は引き上げます。ただし、特別な国庫負担があるため、単純に1.5倍にはなっていません。合わせて資産が320兆円です。過去拠出対応分の債務超過が500兆円あったのが420兆円に減りますが、将来拠出対応分のところで、420兆円の資産超過が出て、キャンセルアウトする形になります。両方合わせてバランスシートをみると、バランスシートの修復がこれでできるので、今回向こう100年に渡って財政バランスの目途を付けたと政府が主張しています。
 ただ、気になるのは、将来拠出対応分をみると、資産が1390兆円あり、負債が970兆円で、政府にとっての資産ですが、個々の加入者にとっては保険料は負担項目であり、国庫負担はまさに税金で負担項目です。給付債務は政府にとっては債務ですが、加入者にとってはまさに自分に向ける給付そのものです。総体としてみると、1390兆円の負担をして970兆円しか給付がないという世界です。これから、保険料を払う人に向けて、「あなたたちはこれだけ負担してもらいますが、受け取る給付はこれだけです」といっているわけです。保険料の負担でさえ、1200兆円ですが給付債務は970兆円ですから、ほぼ8掛けくらいしか戻ってこないということです。

2)若者と企業の年金離れをくいとめることはできるか
 こういう絵をみて、若い人が保険料を払う気になるのか。従来から若者、企業の年金離れが大変な問題で、財政的に辻褄はあったかもしれないけれど、若者が保険料を払う気になるのかという点ではまだビッグ・クエスチョンが残っている。企業についても、元々は920兆円だったものが、保険料1200兆円とかなりの負担増になっています。この負担増を企業がそのまま「分かりました、応分に協力しましょう」といってくれるのかどうかもビッグ・クエスチョンなわけです。企業はとにかく生き延びていかないといけない。政府が向こう10数年に渡って定期的な負担増計画を打ち出したわけですから、それを予定して今後雇用契約や賃金の体系を含めて、総合的にさらに検討しなおすことになると思います。その結果、全体として毎年1兆円ずつ保険料が増えていくシナリオになるのかどうか、よく分からない。政府はその気になったわけですから、企業はおそらく、それを予定して行動を変えます。企業は生き延びるしかないわけですから、前提条件が変わればそれに合わせて自分の雇用計画や賃金の支払いなどいろいろなことを見直さざるを得ない。その中で、企業のお付き合いというのがあるというように考えればいいと思います。

3)社会・経済の変動に順調に対応しているか
 今回は法律の中に、2017年度までの保険料の負担の料率のアップを毎年どうするのか書き込んだわけです。今後この保険料の見直しはしないというように法制上はなっています。従来は5年に1回、財政再計算をやっていろいろ予定と違ったことが起きた場合、保険料の見直しも含めていろいろ考えるというのが財政再計算の意味だったのですが、今回の法律の中には財政再計算をするということは入っていません。言葉が変わって財政検証をするという言葉に変わりました。財政検証と財政再計算との違いは何かというと、保険料を見直すかどうかということだけです。保険料の見直しをしませんという宣言が財政検証という意味なのです。すでに2017年まで保険料を上げて、その後は固定すると法律に書き込んで、保険料は見直さないということです。したがって、5年に1回は財政的な検証はするが、保険料は変えないという意味です。保険料は強制的に徴収されるわけで、税金と似たり寄ったりの機能を持っていますが、経済が好況であろうと不況であろうと関係ありません。年金財政の収支バランスの辻褄を合わせるのが肝心なことで、不況であっても、経済がどういう状況であっても上げ続けるという形の宣言になっています。不況下に増税するというと、時の政権は袋叩きに遭うはずですが、どういうわけか年金保険料については、そういう縛りがかからなかったわけで、経済・社会の変動に柔軟に対応しているとは思えないというのが私の率直な感想です。

4)「税金で負担すべき年金給付とは何か」の議論は十分になされているか
 そもそも国庫負担を基礎年金の2分の1や3分の1にするという議論でいいのかということがあります。基礎年金は過去の賃金が高いか低いかを一切考えず、歳を取ったらみんな一律平等に定額の年金を給付するという制度です。40年加入者が65歳から受給開始となる場合、現在6万6200円が月額で支給されることになっており、その3分の1や2分の1ですから、月額で2万2000円強とか3万3000円強という金額が国庫負担となる、最終的には税金負担となると考えればいいわけです。
 現在の年金受給者の中には、当然経済的に恵まれている人もいれば、今日明日の生活費にも事欠いているという人もいます。年金受給者は決して一律ではないですが、基礎年金はどういうわけか一律とし、基礎年金については定率で税金を投入して財源調達をするという制度です。
 私は、よく学生に向かってこういう話をします。日本でいちばんお金持ちの人は誰か。固有名詞を使うと差し障りがあるのですが、たとえば、日本経団連会長の奥田さんは今71歳で奥さんもいると仮定して、65歳で年金の裁定請求をすれば年金を受ける権利があるわけです。実際にもらっているかどうかは個人のプライバシーにかかわることですから存じ上げていませんが、ただ仮に奥田さんが基礎年金の裁定請求をして受給しているとすれば、しかも受給は65歳からしているとすれば、奥田さんにも月額2万2000円の基礎年金相当分が国庫負担で賄われていることになります。これが今度は3万3000円に上がるということですね。奥さんもいて夫婦でもらっているということになると、月額4万4000円が税金負担の年金だということです。それが、今度は6万6000円の税金負担になります。年額でいうと53万円が80万円の税金負担に変わります。そのために財源が足りず、増税だということになり、「みなさん、こういうアイデアを支持するか」と聞くと、少なくとも私の学生で支持する人はいません。「税金はもっと使い方を考えなければいけない。無駄遣いではないか。支援する必要の全くない経済的に恵まれている人に対して、なぜ税金をみんなで持ち合ってお金を届けるのだ。そのような給付はおかしい。無駄ではないか」というのが学生の反応です。
 そういう観点からいうと、「国庫負担2分の1だ、3分の1だ」という議論は乱暴にみえます。増税の好きな人はいないわけです。それにもかかわらず増税しなければいけないというときは、しかるべき理由が必要ですが、その理由説明になっているのかということです。私は年金に税金は大いに投入すべきだという主張を持っていますが、「基礎年金の2分の1だ、3分の1だ」という議論は説得力がないと思っています。その議論が足りなかったのではないかということです。

5)受給開始年齢を65歳超に引き上げることは将来ないといえるか
 現在過渡期にあって、法律上では年金の支給開始年齢は65歳ということになっています。今回の改正の基本的な考え方は、まず負担の上限を決めましょうということからスタートしました。厚生労働省はとりあえず厚生年金でいえば20%の負担の上限を考えた。将来は予想を超えていろいろなことが起こるでしょう。その場合でも、負担は20%で固定して上げることはしません。その中で賄えるように給付を調整するというのがもともとの考え方でした。ところが、昨年末の政府と与党の調整によって、給付も50%保証すべきだということになり、法律の中に書き込みました。給付についてもモデル年金ですが50%最低保証が付きました。年金の世界では、負担の上限を決めれば、給付について下限を定めることは普通はしません。できないからしないというのが普通の考え方です。仮に給付について下限を決めれば、負担のほうは上限は決められないというのが普通の考え方ですが、今回の法律は紆余曲折があり、結果的に給付水準の保証をし、保険料の上限を固定するという両方を書き込んだわけです。当然、将来のいろいろな仮定に基づいて組み立ててあるわけですが、その仮定が狂った場合、特に予想外の事態で悲観的なシナリオが実現した場合は、財政的な遣り繰りが厳しくなります。そのときに、今回の給付水準についての50%の最低保証と、負担の上限の18.3%にあくまでもこだわるとしたら、残された調整弁は支給開始年齢しかありません。これを引き上げることに結果的に追い込まれるということになります。これは現在の年金受給者や団塊の世代には関係のないことでしょう。今の20代や30代の人にかかわりのある話になります。


4 年金制度への信頼をとりもどす方策
1)「みなし掛金建て」(スウェーデン方式)への切りかえ
 私が考えている現行制度の問題点は主として2つあり、企業と若者の年金離れをどう食い止めるかという問題と、痛んだバランスシートをどう修復するかという問題です。ほかにもいっぱい問題はあるわけですが、大きくいえばこの2つに集約されます。
 企業の年金離れ、若者の年金離れを食い止める方策は、年金のプロといわれている人たちによる議論の中での暫定的な結論は、拠出にインセンティブを与え、保険料を払いたくなる制度に変えることです。それを典型的にやったのが、スウェーデンの「みなし掛金建て」ということです。「みなし掛金建て」というのは、日本で前回の改正のときに、確定拠出年金の制度、日本版401kという制度をつくりましたが、これと限りなく似ています。「みなし」という言葉が付いているところだけが違っています。「みなし」が付いた理由は、公的年金の財政は基本的に賦課方式で、基本的に若い人がお金を納めて、そのお金はそのまま積み立てられずに年金受給者の給付として使われてしまうというのが賦課方式の意味です。そこは財政的には変わりはないのですが、あたかも積み立てたかのごとく考えて個人の保険料資産を毎年記録していくというのが掛金建ての発想です。個人ごとに年金勘定を起こします。今の社会保険庁のテープはそれぞれの人の月給がいくらであったかや、保険料を納めたのかということは記録していますが、いくら保険料を払ったかという記録はありません。掛金建ての制度は、保険料をいくら払ったのかということを、個人の記録として残していくということです。たとえば、今年ある人が10万円の保険料を払い込んだとすると、その人の個人口座に10万円の保険料の支払いがあったことを記録して残すわけです。賦課方式ですから、そのお金は受給者にいきますが、あたかも市場で運用したとみなします。運用した結果、5%の利が乗ったとすると、10万円掛ける5%で5000円ということになります。1年経ったあとに、あなたの保険料資産は全体としてみなし運用利息込みで10万5000円になっていますという記録を残して、本人に通知します。預金して元利合計が増えていく世界を想定してもらえればいいのですが、ペーパーマネーで実際に現金があるわけではない、記録上残しておくということです。2年目にまた10万円保険料を払い込みますと、保険料資産はみなしで全体として20万5000円になるわけです。それをまた市場であたかも運用したかのようにみなすわけです。そうしてまた5%利が乗ったとすると、利息相当分が1万数千円というようになるわけです。すると、2期目にあなたの年金保険料資産はみなしですが21万数千円ですよという形になり、その記録を残し本人に通知するということです。それを毎年繰り返します。65歳や60歳になった時点で、あなたのみなし保険料資産は全体で4000万円なら4000万円と通知がきます。この年金資産をいつ給付開始につなげるかどうかは本人に選択させます。65歳になった段階で年金受給を開始するという形になり、65歳時点で平均余命がまだ20年あると仮定すると、単純計算でいうと、4000万円割る20年で1年間に200万円になります。これは単純な計算で、もう少し複雑な計算を本当はやるのですが、簡単な説明としてはこれで十分だと思います。基本的に保険料資産を平均余命で取り崩していくような形の年金裁定をするということです。
 個人にとっては自分で預金をして貯金の残高が増えていく感じです。それを歳を取ったら取り崩していくという形にみえるわけです。毎年通知を受けて、自分の年金資産がどれくらい増えていくかが毎年記録として残り、それを基にたとえば65歳から年金をもらうとすれば、年額いくらになるかが同時にそのレポートの中に書いてある。それがスウェーデンのやり方です。結果的にいうと、自分がいくら保険料を払ったか、それが全部年金給付につながっているのだという1対1対応が目にみえて分かるわけです。そうすると、自分の納めたものは必ず返ってくるということが分かるので、保険料を払いましょうとなります。これがみなし掛金建ての特徴です。掛金建ての制度はすべて受給開始年齢は自分で選び、政府で決めるわけではないということで、支給開始年齢は政府の管理事項から除外されます。支給開始年齢は大問題です。給付建ての制度だからなのですが、そういう問題から解放されます。

2)税金負担の年金給付を「上に薄く下に厚い」形に改める
 図9をみてください。みなし掛金建てでやる年金は基本的に所得に応じて年金を支払う体系で、ここでは所得比例年金と名前をつけてあります。その上に白抜きで書いてありますが、税金負担の年金を上乗せする保証年金という制度になっています。下の方向は平行線で書いてありますが、スウェーデンの場合は三角形になります。たとえば、病気などいろいろな理由で若いときにあまり保険料を掛けることがで
きなかった人の年金は低いわけですが、その人についてすぐ生活保護を受けなさいという前に、年金制度の枠内で年金の名前で保証年金をプラスアルファで付けるということです。これは全額税金負担の年金です。
 これを、日本を念頭に置いた制度にすると、いろいろ悩ましい問題があります。所得補足の問題などですが、自営業などの場合、所得捕捉が完璧でないとすれば、所得の過少申告をすることで、所得比例年金が低くなるのですが、その分スウェーデン方式だと、保証年金が厚くなってしまいます。保険料を少なく掛けることで、政府からもらえる保証年金を大きくすることができるというマイナスのインセンティブを持っているわけです。日本の所得捕捉に対する信頼感がいまいちの段階では、所得の低い人については過渡的な制度として、定額の保証年金という取り扱いもやむを得ないかもしれないという意味で書かせてもらいました。いずれにしても、税金を投入する場合に、十分に所得が高くてやっていける人には、税金負担の年金は上乗せしないでもいいのではないかという趣旨です。


5 バランスシート上の債務超過をどう圧縮するか
1)給付の抑制
 バランスシートの修復問題ですが、給付については確かに抑制しなければいけませんが、今回の人口要因スライドは一律で、月々夫婦で10万円しか年金をもらっていない人も、50万円の年金をもらっている人も全く同じ率で減らしていくという形になっています。
 それもひとつの考え方ですが、もうひとつのやり方として、夫婦2人で高い年金をもらっていない人には給付を減らすことはあまり考えない。ただし、夫婦2人で高い年金をもらっている人については、率先して譲ってもらうという考え方もあるのではないか。そういうものを組み合わせることが重要ではないかと私自身は考えています。
 ひとつのやり方として、今回給付課税の強化があったのですが、それと並んでカナダでやっているクローバックという制度があります。税金負担の年金についてはいったん支払いますが、カナダでは年金受給者も含めて全員確定申告をやっていて、4月段階で前年の所得が確定します。その段階で高い所得を得ていたことが確認された人については、前年度に支給した税金負担の年金を一部または全部を国に払い戻してもらうという制度です。日本でもそういうことをやる余地があるのではないかと思っています。
 課税強化をするとか、クローバックをするとかいう形、あるいは給付そのものの構造を見直すということです。1階の基礎年金相当分についてはあまり手を付けずに、2階部分だけを給付率を含めて減らすという方法もあると実は思っていますが、給付抑制の方法はいずれにしてもいろいろあります。その中で、今回のような一律下方調整でいいのかどうかについては、もう少し議論してもよかったのではないかと思っています。

2)公的資金(税金)の投入
 もうひとつは公的資金の投入ですが、バランスシートが痛んでいるわけで、日本では銀行に大々的に公的資金を注入しましたが、今回の通常国会でも地方の金融機関について、2兆円の追加注入を決めています。いずれにしてもバランスシートが痛んでいる場合は公的支援がなされます。
 年金について、痛んだバランスシートを修復するために集中的に税金を使ってもいいのではないか。ひとつの例として図7をみてください。ひとつの案ですが、ここにおける給付債務は、今回の改革で行われた給付の抑制と、全く同じ規模の給付債務の抑制が行われるという形になっています。ただし、手段はいろいろあって一律に下げるのではなく、いろいろな下げ方があると先ほど説明しましたが、マクロの数字は全く同じだと仮定しています。保険料については若者の年金離れや企業の年金離れに配慮して、現
在の水準から上げないという仮定でここでは計算しています。国庫負担は3分の1を2分の1に上げるということで大きな財源が出てきますが、その財源の大半は過去拠出対応分のところに使うことにして、将来分についてバランスシートがちょうど資産と負債が見合う形の金額しか国庫負担を使わないということにして、国庫財源を過去に大穴が開いている部分に集中して使います。国庫負担全体としては2分の1引き上げに相当する財源の大半を過去のところに投入するということです。その財源をどうするのかということですが、相続税や贈与税を集中的にバランスシートの修復に使う、あるいはクローバックでお金を出すとか、給付課税強化でお金を出す、あるいは他の歳出項目を削減してお金を出すことも考えなければいけないのかもしれません。
 ただ、相続税は今、大体年額で1兆円プラスアルファなのですね。これから相続税を年金のために使うということで、みなさん賛成してくれればありがたい話ですが、そういうことになるかどうかは慎重に検討しないといけません。クローバックについては現在、基礎年金の国庫負担金額が3分の1、5兆数千億円ありますが、仮に2割そこからお金が出るとなると1兆円強のお金が出てきます。今、国庫負担の2分の1引き上げに必要なお金は2兆7000億円だといっていたのですが、2兆7000億円のうちクローバックで2割戻すというようにすれば、1兆数千億円のお金が出てくる。相続税、贈与税などで1兆円プラスアルファのお金が出てくる。給付課税強化をどうするかということで、今のところ平年ベースで1600億円ですが、これをさらに強化すればもう少しプラスアルファが出てくるという形になり、国庫負担を2分の1に増やすのですが、それに相当するお金はやりくりで出てくる。
 つぎに、2007年度から年金目的の消費税、年金だけにお金を使う消費税を3%プラスして、今の消費税の税率5%から8%にする。しかし、3%上げたものをすべて年金に使うとすれば、共済年金などを含めてすべてに使うわけで、債務超過相当分で按分すると厚生年金に280兆円くらいお金が出てきます。保険料を上げなくても消費税の税率3%を上げれば、少なくとも向こう100年のバランスシートが綺麗になる絵はかけるということです。問われているのは、保険料を定期的にこれから向こう10数年間上げるのか、消費税を3%上げてそれを年金のために使うのかというのが選択問題ではないかと思いますが、この議論がもう少しなされてもよかったと私自身は考えています。ただ、今後の継続課題として、特に景気循環過程で不況に陥ることがあると思いますが、そのときに本当に今の法律に書き込んだように保険料を上げるのかは大きな問題になりますので、そういうときにまた比較検討されるかもしれません。


質疑応答
【賀来景英・大和総研副理事長】
 今回の改革案はひどいものだという前提で申しますが、積み立てた保険料は返ってくるものと考えるべきかどうか。私は考える必要はないと思っています。税金の場合は無駄遣いがあっては困りますが、1対1対応では考えません。保険料も賦課方式である場合、積み立てるということはフィクションに過ぎない。現在は限りなく賦課方式に近く、高山さんの著書でも賦課方式、積立方式も結局は同じことだという話のように理解しています。返ってくると思っている人が多いとき年金が持たないという事実はあるかと思います。その場合、どういうふうに説得するかということが重要な問題になってきます。スウェーデン方式についても、私の理解する限りでは、個人勘定に計上されているものは必ず払われるという保証はない。賦課方式を取っている以上、必ず払われる保証はないという理解でいいのでしょうか。
 それから、図6図7をそれぞれ現状である図2と比較すると、結局合計で360兆円の増収が図られる。図6では、国庫負担の増分が80兆円で、保険料の増分が280兆円で合計360兆円。図7では、360兆円がすべて国庫負担というか差は消費税ですね。そうすると、果たして保険料で増徴するのと、消費税という形で騙して巻き上げるのと、どちらがよいのかという問題はあるかと思います。もちろん、労働に与えるインセンティブという点では消費税のほうがいいでしょう。しかし、公平という点で考えるのならば逆ですよね。消費税は逆進的であり、保険料は所得比例だと思います。

【高山】
 年金は全体としてみればゼロサムなのです。誰かが年金給付を受けるとすれば、それには負担が付いているわけですから、マクロ全体のことを考えるとゼロサムゲームです。誰かが得をしていれば、別の誰かが損をしているということです。世代的にみれば、年金制度の発足当初は、あまり高く保険料を払わなかった人がいるわけで、その人たちに寛大な給付をするというのはどこの国でも現にやったわけです。それは年金制度の枠内だけでみれば、確かに得をしているわけです。そのお金を全体としてゼロサムですから誰かが払わなければいけない。そうすると、後ろの世代は必ずマイナスになる。これは自明です。ただ、いちばん最初の世代が得をしたといっても、これは年金制度の枠内だけの話で、年金の世界の枠を取っ払えば、前の世代は本当に得をしているのかというと別の議論があって、必ずしも得をしたことにはならないということは十分立論可能です。
 そうであっても、若い人が年金に対して非常に不信を強めていて、加入意欲を失うような状態に今なっていて、そういうことに苦しんでいる国が多いわけです。そういう国で、どうやったら保険料を払ってもらえるかというときに、世代間の扶養であるなどいろいろな説明がありますが、お説教に近いわけです。そのお説教をみんなが快く聞いてくれればいいのですが、そういう形で説得に応じる人が少ないのであれば、別の説明の仕方を考えなければいけません。それで、みなし掛金建て方式というのが出てきました。実態は世代と世代の助け合いであるということに変わりはありませんが、保険料を払ってもらうときの説明の仕方を変えたということです。これにより、若い人が進んで保険料を払う気になってくれれば、ただお説教するという話よりもいいということです。
 スウェーデンの場合も自動安定装置が付き、バランスシートを毎年計算して債務超過になっている場合は、みなし運用利回りを下方調整するわけです。自分がもらえると思っていた年金が減らされるという形に結果的になります。おっしゃるとおり、払ったものがそのまま返ってくるのかというと、みなし運用利回りの利率が変わるわけで、予定とは違う話になる。こんなに年金不信が広がっている中で、どうやったら制度に対する信頼を取り戻せるのか。みなし掛金建ての可能性に注目する人が増え、世界各国で追随する国が出てきました。
 消費税か保険料かということですが、確かに経済的な実証研究によって、慎重に検討しなければいけない問題は残っているわけですが、賃金税そのものでやるか、消費税でやるかで、経済的なインパクトは大きな違いがあるということは過去の実証研究から明らかになっています。ヨーロッパなどでは、賃金税というのは雇用に対するペナルティということになって、みんな上げることに慎重になって、どちらかといえば上げない方向で今は調整に入っています。
 しかし、ヨーロッパとの比較では低いのですが、日本では現行制度で約束している給付水準との見合いでいえば、決して低くありません。これからの日本経済を成長軌道に乗せてもう一度何かをしようというときに、保険料を上げ続けるという戦略でいいのかどうかという最終判断だと思いますが、私はあまり賢明な策だとは思っていません。消費税は確かに負担だけでみれば逆進性はありますが、負担と給付を込みで、コンバインして両方を一緒にみれば、消費税負担が相対的に重くなるところには、保証年金など手当てが付いているわけです。ですから、給付と負担を合わせてみれば逆進性は問題にならないというふうに思っています。
過去に大きな傷ができてしまったバランスシートは、寛大な給付と相対的に低い税金負担や保険料負担の反映です。現在の年金受給者と団塊の世代の給付をあまり減らせないとしたら、お金を出し続けてもらうしかありません。私も今58歳で、子供もいますが、子供に向けて「あと2年しか保険料は払わない、あとは頼む」といえるのかという問題です。私は少なくとも自分の子供に対してそんなに無茶なことはいえません。自分がある程度の年金をもらうのなら、こういう状況をみる限り、お金を出し続けるしかないでしょうということです。その手段は保険料ではないですね。いちばん簡単で分かりやすいのが消費税です。歳を取ってもいろいろな形でものを買わざるをない。ものを買えば同時に老後の安心の基盤がそれだけ確実になるという形で、消費税は説明可能です。要は、今の年金受給者と団塊の世代がお金を出し続ける方法は何かということです。それでしっかりしたものがあれば、消費税でなくてもいいのですが、いちばん可能性の高いのが消費税ではないかと思っています。

【屋山太郎・政治評論家】
 積立方式からいつ賦課方式になってしまったのかを財務省の人に聞いたら、いつの間にかそうなったのだという答えだった。資産がこれだけで払うのはこれだけというのを毎年きちんとやれば、5兆円もホテルに使ったりしないと思うのですが、いつの間にか方式が変わってしまった。それが国民も役人もけじめがなくなってしまったのかという気がします。
 図9についてですが、この保証年金が下に付いているところが民主党の案と非常によく似ていると思います。保証年金のこの部分は税金だと思いますが、これは大体何%くらいになるのでしょうか。

【高山】
 図9について、これは体系としての考え方を提示したもので、何%になるかということは具体的には直結させて考えていません。所得比例年金がゼロの人に対する保証年金、縦軸の交わったところですね、現行制度からの円滑な移行を考えれば、ここのところが現行の基礎年金の金額だと考えてもらえればいいかと思います。
 最初の質問ですが、制度をつくった当事者も最初はみんな積立方式でつくったということになっていましたが、公的年金というのは元々積立方式でつくることが困難であったということです。役所が最近書いている本では、賦課方式に変わったのはスライド式に変わったからだと書いていてありますが、あれは嘘です。自動スライド規定を入れたのは確か昭和48年ですが、その前は積立だったのかといえば、決してそうではありません。年金の世界では専門用語で「二重の負担」というのですが、積立の制度には世代間の再分配ということがありません。長生きするリスクを同じ世代でリスクプール制度するというのが積立制度です。異なる世代の間でお金のやり取りはなく、やり取りがあるのは同じ世代の中でたまたま早く亡くなった人が残してくれたお金を長生きしてくれた人が使って老後の安定、長生きのリスクを図るというのが積立の基本的な考え方です。次の世代からお金をもらうということは全然考えていません。
 公的年金制度が全くないときにどういうことが起こっていたのかというと、子供が年老いた両親や祖父母の面倒をプライベートに看ている世界です。そこで新しく積立の制度を公的年金としてつくるとどうなるのかというと、積立の制度というのは、保険料を納めた人しか給付をもらえません。制度創設時点で歳を取った人は、積立の制度で保険料を納めようがない。そうなると、その人たちは従来の制度、プライベートに自分の子供や孫に面倒を看てもらうしかないわけです。それと離れて、中年や若者は歳を取ったら自分と同世代の中だけでお金をやりくりして老後を何とかしようと。子供や孫の世代からお金をもらわないという形でやるのが積立方式です。そうなると、無理が出てきます。制度をつくったときに、歳を取った人は年金制度からの恩恵を全く受けず、プライベートに子供や孫から面倒を看てもらう。中年の人たちは自分の親の面倒を看ているかもしれない。そうすると、自分たちの老後に向けて安心できる年金を確保するためにお金を拠出するとなると、ものすごく高い負担を短期間でしなければいけない。しかし親の面倒を看ているので、それはできない。低い保険料から始めるしかないのです。低い保険料を短い期間納めたとしても、大したお金はできず、それで老後の安心は買えません。若い世代も自分の祖父母や両親の面倒を看ている中で、自分たちの世代だけでやるといっても高い年金負担には耐えられない。そうすると、低い保険料でスタートするしかありません。低い保険料で多少長めにお金を掛けても大したお金はできず老後の安心は買えません。これが、積立方式でやることの限界です。どこの国でも同じです。
 ところが、賦課方式でやると、アメリカで典型的だったのですが、1年保険料を払った人には翌年から年金給付をあげますという制度を1935年につくりました。そうなると、大した保険料を納めなくても次の世代がとにかくお金を用意してくれるから、みんな年金がもらえるということで、最初から賦課方式で始めるとすっきりします。低い負担でも高い年金がもらえる制度を賦課方式だったらできるわけです。
 日本の場合は、確かに最初は積立だと説明していましたが、保険料を払った人は「暮らしのできる年金をよこせ」と政治的に圧力をかけたわけです。納めた保険料とは無関係に高い年金を最初から約束してしまった。政治が関与したということです。その段階で、積立の制度は崩れたわけです。昭和48年からではなく、ずっとそれより前から起こっていたわけです。たとえば、1万円年金の創設を昭和40年にやったわけですが、保険料と給付が見合っていた時代は非常に短く、年金給付が始まった段階でバランスが崩れていました。事実上、日本の制度も始めから賦課方式で始まったというのが正しい説明ですが、それをいうと(旧)厚生省の偉いOBたちの顔が立たないわけですから、厚労省の文書にはそういうふうには書いてないわけです。
 ですから、公的年金は賦課方式でやるしかないというのが、世界の年金研究者の常識です。それを日本では間違った説明をしていた、または間違った説明をせざるを得ない時期があったのです。国民年金は昭和36年につくって、日本の再軍備や日米安保条約の改定の時期と同じだったので、非常に社会党や共産党の批判が強く、保険料納付通知書が各家庭に送られても、それを突っ返すような運動を日教組などがやっていたわけです。そのため、納付通知書を送っても払わない人がいっぱいいました。そのときに、説明の便宜として、保険料を払えば、ちゃんと年金につながる、払いが多いほど給付も多い積立の年金だという説明を便宜としてしました。昭和30年代の終わりから40年代に入って、日教組の幹部などに吊るし上げられた厚生省の役人が開き直って恫喝したわけです。「保険料を払わない人には年金給付は出ません。責任は日教組などに取ってもらう、厚生省には責任がありません」と。このようにして、保険料納付通知を突っ返す運動を止めさせました。保険料を払えばお得な制度であるということで、反対運動を押し切るために余分な説明をしてしまった。「これは積立の制度だ」という話が広まってしまった。不幸な歴史を日本の年金は持っているということです。

【鳥居徹夫・議員政策秘書】
 図2の見方ですが、現在の制度でも将来拠出対応部分はほぼバランスシートが取れている、年金収支が悪いのは過去債務の部分の500兆円だけだということですね。その過去債務の500兆円が消費税などで埋められれば現行の年金制度はそのままでも構わないということでしょうか。
 図7ですが、年金目的消費税が3%ということで、大体消費税だと3%なら7.5兆円から8兆円くらいですが、2007年から2100年ということで大体90年間だから720兆円くらいの消費税になりますが、図7の消費税は280兆円になっています。もちろん、厚生年金のほかにも年金がありますが、厚生年金がいちばん大きいですから、そういう意味では数字が合わないのではないでしょうか。

【高山】
 図7についてですが、割引率3.2%で計算しています。ですから、単純に掛け算した数字にはなっていません。ここでは、将来について、消費支出の伸びはマクロの国民所得の伸びと同じだという仮定を使っています。
 図2については、公的年金問題は企業でいえば不良債権問題と構造的には似ています。私は不良債権に相当するものは区分経理をして分離してやればいいという考え方です。新しいところはみなし掛金建てで1対1対応を取るような制度で説明して、区分経理してやれば処理可能で、要は過去のところが問題だから、過去のところをちゃんと修復すれば物事が分かりやすいということです。つまり、過去債務の500兆円を埋める財源があれば、現行の年金制度のままでもいいということになります。

【新村保子・住友生命総合研究所常務】
 過去債務について処理をしてしまえば、これからは賦課方式ではなく、積立方式でも成立するということでいいのでしょうか。みなし掛金建てというのは、うまくいけば積立方式とほぼ同じにみなすというわけですから、それでバランスが取れるということであるならば、例えば基礎年金は税金にして、2階は全部積立にするということもできるのでしょうか。これまでずっと2重の負担があるという議論がスウェーデン方式が出される前からなされたと思うのですが、過去債務の部分を2重の負担的に何らかの形で処理をするという決断をすればそういう制度も成り立ちうると解釈してもいいのでしょうか。

【高山】
 バランスシートですから、一点における負債と資産を示しただけです。向こう100年間の資金繰りの話は、これだけではなく、収支の見通しを立てて収支残などがどうなるのかをやっていかないと分かりません。賦課方式を想定して先ほど示したようにやると、年々の収支のところで資金繰りの問題は起きないということです。積立に変えると、私はチェックしていませんが、多分問題が起こるのではないかと思います。そこは別途、年金国債などを用意しないとできないのではないかと考えています。

【新村】
 スウェーデンについては、それを自動財政調整という制度で解消しているのかどうかというところが、よく分からなかったのですが、スウェーデンについて質問します。
 発足時賦課方式でやってきたはずですが、発足時においてわが国におけるような債務超過はなかったのでしょうか。それと、自動財政調整制度というのは、「上に薄く下に厚く」というような中身があるのか、それとも単なる運用利回りの調整で一律となっているのか。その場合には、非常に資金繰り的に大きな乖離が生じた場合に、一律に年金が名目的に減るということがありうるのでしょうか。

【高山】
 スウェーデンについては全てを承知しているわけではありませんが、スウェーデンは最初から賦課方式でやっています。年金の枠内でやれば、債務超過はあるわけです。それをバランスシート上どう取り扱うのかは、いろいろなバランスシートの記載の仕方があり、現在のスウェーデンのバランスシートをみる限り、日本のように過去分と将来分とを両建にせずに一括して書いてあります。バランスシートは痛んでいない形のものがここ3年くらい毎年発表されています。
 自動安定装置については、みなし運用利回りを当初はマクロ経済における賃金支払い総額の伸びに応じたものにしようといっていましたが、政権交代が起きたため、結果的に1人当たり賃金上昇率でみなし運用利回りを決めるということになりました。その結果、バランスシートを立てると、債務超過の恐れが一段と高くなったわけです。みなし運用利回りをどうするのか、人口の予想や経済の予想などを仮定して、バランスシートを立てているので、債務超過になったときはみなし運用利回りを下方修正するという形のものが自動安定装置といわれているものです。このみなし運用利回りの下方調整は一律です。あらゆる人に共通に一律にみなし運用利回りを下方に下げるというやり方です。
 ただし、スウェーデンの場合、保証年金が三角形になっていますが、三角形の部分はある意味で政治の玩具の対象です。思わぬ事態や辛い経済の時代が来たときに、当然みなし運用利回りも低いし、そうなると保証年金の部分で厚みをつけないといけなくて、お金が足りず増税だなどと話が出てくるわけです。このときに、こういう図9のように綺麗に書いてある形の保証年金を従来の約束通りできるのかどうか。そこは政治の取り引きの道具で、全部税金でファイナンスするものです。とりあえずは今のところ、所得比例年金は賃金スライドですが、保証年金は消費者物価スライドしかしないという形になっています。長期的にみれば、賃金上昇率のほうが高いでしょう。物価上昇率が低いということであれば、保証年金の最低水準のところが年々実質的には下がっていくと。そこで、あまり増税ということは新たに打ち出さなくてもいいようにする。政府全体としてそこのところがスリムになると想定した形の説明になっているということは事実です。所得比例年金は自動安定装置や保険料18.5%で固定など、政治的にはタッチできないようにつくっていますが、保証年金はそういう形にはなっていません。ですから、いろいろ不都合が起きた時の調整は全部保証年金でやるという形になっています。ここがポリティカルにサステイナブルかというのはこれから注目していきたいと思います。

【逢見直人・UIゼンセン同盟】
 図9についてですが、これは一元化が前提になると思うのですが、1号の人たちを一元化するのは相当時間的にも技術的にも困難になると思うのです。それを待たないとできないということになるのですか。あるいは、被用者グループだけでもできるのでしょうか。
 改正法の中で、所得代替率50%というのがありますが、この場合、最低保証というものをどういうふうに考えるのでしょうか。
 女性の場合、3号被保険者のような人たちは、保証年金分しか受け取れないということでしょうか。

【高山】
 一元化の話は民主党が積極的におっしゃっていることで、私がいっていることとは全く関係がなく、私は民主党のブレーンでもありません。私は今回新しい本を書きましたが、その中でも一元化という言葉は1回も使っていません。私のこの体系の中で一元化を整理するとしたら、負担の一元化や給付の一元化は想定していません。みなし掛金建ての世界というのは、拠出と給付の関係だけなのです。1対1対応にしましょうといっているだけで、拠出をひとつにしましょうとか、各制度共通にしましょうとはいっていません。みなし掛金建てというのは、負担したものが必ず給付につながっていることを示してくれればいいわけで、負担がみんな同じでないといけないとはいっていません。
 民主党のおっしゃっていることは、私の誤解かもしれませんが、まず共済グループと厚生年金グループを一緒にしようという話で、負担の一元化を想定していると思います。たとえば、地方公務員共済は厚生年金よりも保険料が低く、国家公務員共済年金は厚生年金よりも保険料が高いわけです。今回、地共と国共の保険料を同じにする調整を開始しますが、国共を現行で止めて、地共が上げてくるのを待って追いついたときに一緒にしますということになりました。厚生年金と地共の関係でいえば、地共は厚生年金よりも料率が低いけれども、厚生年金で毎年0.354%上げていく上げ幅については、地共も同じにするといっているわけです。毎年毎年負担が上がっていく分、保険料が上がる率0.354%は同じにしましょう、しかし、その上げていく過程において地共は厚生年金よりも常に低い状態が当分の間は続くとなっています。最終的には、3階部分(厚生年金を上回る部分)を共済年金は抱えていますから、18.3%では止まらず、突き抜けるといっています。おそらく20%プラスアルファの料率まで共済グループは行くでしょうといっているのが今の当面のアイデアです。ですから、負担を一元化することは考えていません。当面の間は、共済グループは厚生年金よりも低いままで行きます。最後の段階で、突き抜けて上にいく。
 そういう中で、民主党は何をしようとしているのかがよく分からないのです。負担を一元化するというのは大問題です。共済グループに合わせるのか、地共に合わせるのか、あるいは厚生年金と同じようにするのかということに、どういうふうに結論を出すのかがよくみえていない。私学共済はもっと低いわけです。低いところは直ちに上げることに大反対するに決まっています。高いところは待っていいですということですぐ下げるということにはならないでしょう。ですから、負担の一元化については、共済と厚生年金でもすごく難しい。国民年金は平均的にみれば、明らかに2階部分がないところでやっているわけで、負担は厚生年金に比べてはるかに低いわけです。それを一元化、負担を同じにするといったら、国民年金の保険料を厚生年金並みにするのかという問題になります。それで、みなさんが了解するのか。これはやはり大変な問題だと思います。私は、負担の一元化など無理なことは最初から考えなくてもいいのではないかといっています。要は、拠出と給付の関係だけ同じにすればいい。納めたものがみなし運用利回り込みで必ず返ってくるような体系だけをつくればいいのではないか。国民年金については事実上、今は半額免除があり、今回の法改正で4分の1免除、4分の3免除が加わり、多段階の免除になった。国民年金については、今1万3300円ですが、みなし掛金建て方式にするのなら、1万5000円コースとか2万円コース、2万5000円コースなど上をつくっても構わないと私は思っています。納めたものが返ってくるのですから。そうすると、国民年金の保険料も段階を刻むのですが、基本的には所得比例に限りなく近づきます。ですから、みなし掛金建ての話と一元化というのは、全然筋が違う話です。
 所得代替率50%は、みなし運用利回りが長期的にどうなるのかという計算次第で、所得代替率は今の保険料をこれだけと想定すればこうなるというように仮定計算ができます。ただ、最低水準として50%保証ということはみなし掛金建ての世界ではできません。みなし掛金建ての世界は負担を決めるだけなのです。所得代替率は給付建ての世界の話で、掛金建てに変わった途端に、この話はなくなります。そうすると、将来それぞれの世代で思ったような年金にならない、あるいは予想以上に高い年金になるという違いが出てきますが、そこを調整するのが保証年金なのです。みなしでやったときに、運用利回りがそれぞれの時点で変わってきて、結局世代間でみると違いが出てきた。そのときに、調整弁の役割を担うのが保証年金です。
 女性で第3号については、今回離婚時の年金分割が入りましたが、離婚時に限らず年金分割をやれば、夫の賃金の半分を妻のものとみなせば、保証年金だけだと考える必要はないわけです。みなし掛金建ての世界で今の第3号の取り扱いは、所得分割というか、年金分割を入れれば、簡単に片付く問題だと思っています。

【城戸喜子・田園調布学園大学教授】
 スウェーデンの年金制度については、国民基礎年金は1940代にできていて、それは最初から賦課方式です。1959年に立法化された報酬比例年金の2階建て部分は積立方式でした。一時期積立金がスウェーデンのGDPの60%くらいありました。ところが、凄いインフレで全部減価しました。それで、1980年代の終わり頃に危機を感じて、1990年に年金改正の改革案を出しました。ところが、それが生ぬるいということで、10年かけて抜本的な改革案をつくりました。それが、国民基礎年金は廃止、根源から報酬比例年金にするというもので、全く違う年金体系になりました。
 図7についてですが、年金目的消費税が3%になっています。それで、図9のところの保証年金は国庫負担になるというのならば、年金だけでかなり消費税率が高くなるのではないでしょうか。結局、老人医療と介護保険に関して、消費税を投入しろという意見が非常に強い。そうすると、消費税率の上限は一体どれくらいを許容限度と考えているのか。あるいは、図4で年金保険料が突出して重いということですが、消費税、所得税、年金保険料、医療保険料、法人税のバランスはどのようになればいいとお考えでしょうか。つまり、社会保障全体で消費税というものをどのように使っていったらいいのかということです。

【高山】
 消費税については、まさに議論を国民に委ねるべきであって、私がどうこういってそれがすぐに認められるという話でもないのですが、私は個人的には将来に向けていろいろな負担増が予想される中、負担増の最大の種目は消費税だろうと思っています。とりあえずヨーロッパの最低水準15%ですね、そこまではいずれかの時点までに上げていかざるを得ないと考えています。今5%ですから10%分あり、その10%分をどう使うかという話ですが、そのうち年金に3%を持ってこれるのかというのが大問題で、いちばん消費税を使いたいという強い願いを持っているのは地方自治体だと思っています。地方財源として消費税は考えないといけない。老人医療や介護や年金の話がありますし、国もこれから所得税も三位一体改革の中で全部うまく体系を整理しても、全部国に来ないという話になっていますし、法人税も企業が元気にならないとなかなか上がってこない。ですから、結局は消費税に期待する向きを国も持っているわけです。そうすると、仮に10%あったとしても年金にどれだけ持ってこれるのか。3%も無理ではないか、せいぜい2%くらいかなと思っています。ここはたまたまバランスシートを綺麗にするために、3%だといっただけで、3%にしなさいという主張ではありません。仮に消費税が20%でいいとなると、15%の枠が取れるわけですから、少し違ってきます。要するに、長期的に日本は消費税を何%にするのかということだと思います。その中でそれぞれの取り分が決まってきますが、最低で年金に2%くらいかなと思っています。もうちょっと上へいけば3%もOKになるかもしれない。3%に持ってこれないとなると、年金に穴が開き、バランスシートが綺麗にならないわけです。そうすると、給付をさらに切り詰めるのか、資金繰りさえうまくいけば、年金国債で一時的につなぐとかそういう話になると思います。

【鈴木準・大和総研】
 給付水準ですが、今回のマクロスライドでかなり下がってくるのではないかと思います。スウェーデン方式のみなし掛金建てを導入した場合、日本の場合は人口見通しがスウェーデンと比べて厳しい。それから、保険料水準も上の部分も18.5%と18%を超えていて、日本の場合は低い。さらに、消費税を今後入れていき、消費税の部分については、高山さんは物価スライドにはしないということだと思いますが、そうなると実質の給付水準というのは果たしてどのくらいになるのでしょうか。
 公的資金の投入について、バランスシートでマネーフローはよく分かりませんが、割と集中的に前倒しで投入していこうとご提案されていると思うのですが、積立金はしばらく増えていくような計算になっているのではないか。積立金の動きをどういうふうに考えていけばいいのでしょうか。

【高山】
 給付についてどう考えるかというのは、悩ましい問題です。負担との見合いで決めるべき話で、負担増に関しては保険料をもっと上げればいいとみんなが思えば、それなりの給付が実現できます。しかし、私の考えでは、日本人はこれから負担増ということにそれほど賛成しないと思います。そうなると、それなりに高い給付を公的年金で維持することはできないと考えなければなりません。ドイツやスウェーデンでも自動安定装置を入れたというのはまさにそうで、負担増について非常に強い抵抗があります。公的年金としては負担に合わせて給付を調整していくと。その代わりに税金やいろいろなインセンティブを使って、プライベートな世界でいろいろなことをやってくださいという形で、公と私の守備範囲を変える措置を考えている。公のほうは、多少は保証年金などで色合いを付けることは考えていますが、全体として平均でみれば給付は下がっていくという世界だと思っています。政治的に不安定になってはいけませんので、最低保証や保証年金のところをどうするのかと別途問題になるのですが、負担増にあまり賛成が得られないのならば、方向としてはそっちしかないのではないか。優雅な生活をしたいというのであれば、プライベートの部分でやってくださいということではないかと思っています。
 積立金については、消費税をいつの時点で何%持ってくるのか、保険料を上げないままで給付をどういうスピードでカットするかなどに依存しますが、お金が猛烈に使われ始めるのは2040年からあとです。今は積立金が170兆円ありますから、資金繰り的には赤字になっても大した問題にはなりません。問題は2040年からです。給付の削減スピードや消費税をいつの段階でどれくらい入れるかということに依存します。ですから、複数のシナリオが書けます。積立金をずっと減らしていくというシナリオも書けますし、一時的に増やしてその後は減らしていくというシナリオも書ける。今回の法律は一時的にまだ減り続きますが、2010年から2046年まで増やし続けるというシナリオで、2040年過ぎから膨らんでくる負担に対して、少しずつ積立金を取り崩しながら2100年まで対応しましょうという形になっています。

【岡田幹治・週刊金曜日編集長】
 みなし掛金建てだと納税者番号が必要だという説がありますが、それはどういう関係になるのでしょうか。
 高山さんの給付水準の話だと、経団連や同友会がいっているように、基礎年金部分だけ公的年金にして、あとは私的、あるいは民間の年金でいいというのと似たような考えだということでいいのでしょうか。

【高山】
 今の保険料の水準で消費税を2%入れるということであれば、それなりのことができると考えているので、1階だけにしろという主張ではありません。
 納税者番号については、まず個人年金勘定をつくれといっている。番号が付いても付かなくても事実上いい。勘定の管理としては番号を付けたほうが簡単です。今は基礎年金番号がありますけれど、それを税金にも使えば納税者番号ということになるでしょう。あるいは住基ネット情報を納税者番号としても使う形でもよいと思います。スウェーデンはそういった意味ではひとつですね。生まれたときに番号を付けるわけです。