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行革時評

納得のいかない夫婦間年金分割の見送り

事務局長 並河 信乃
2004/01/23

 1月23日の各紙報道によれば、与党の年金制度改革協議会は、22日、離婚しない場合の夫婦間の年金分割については慎重論が強く、今回は見送ることを決定した。離婚時の年金分割については、20日に合意している。

 これまでの年金制度では、専業主婦が離婚すると夫の厚生年金はもらえず国民年金だけになるという事態が、今回の改正によりなくなるということは大きな前進である。しかし、この夫婦間の年金分割を、離婚のときだけに限って認め、仲良く暮らしている夫婦間では認めないというのはどういう理由なのだろうか。

 新聞では、「分割を認めれば家族のあり方が変わる」との慎重論が自民党内にあると報道しているが、納得の出来ない理由である。それぞれが年金権をもち、ともに助け合って生きていくのがこれからの夫婦であり、別になんの問題も生じないだろう。むしろ、離婚しなければ年金受給権が生じないというのでは、別居では駄目で離婚しなければならなくなる。

 共稼ぎ夫婦との間で不公平となるとの意見もあるようだが、これは働いていない専業主婦が年金受給権をもつことについての批判なのだろうか。しかし、共稼ぎであろうとなかろうと夫婦間で年金を合算し分割する方式(二分二乗方式)にすることにすれば、すっきりする。今回の夫婦間分割案が片稼ぎの夫婦の場合だけしか取り上げていないのは中途半端だということは、既にこの欄で述べたとおりである。

 厄介なのは、基礎年金についてのいわゆる3号被保険者問題で、専業主婦は掛け金を払わなくとも年金を受け取れるというのでは、共稼ぎや自営業の人との不公平が解決されない。専業主婦の年金はその夫が払っているのではなく、共稼ぎや若い世代が肩代わりしているのである。やはり、専業主婦という人々も国民年金(あるいは基礎年金)の掛け金を支払うべきだろう。1200万人ものひとが掛け金を払わないで国民年金が支給されるという制度はどう考えても不合理である。年額15万9600円を一挙に支払うようにするのが難しいというならば、段階的に実施したらどうか。1200万人が掛け金を支払うようになれば、年金財政も少しはゆとりが生まれるだろう。

 今回は遺族年金も改正し、遺族年金を取るか自分の年金をもらうかの二者択一ではなく、自分の年金を全額受け取った場合、現行制度との差額が生ずればその差額分ももらえるようにするというが、結局のところ、総支給額は遺族年金の範囲内であり、金額的にはとくに変化が生ずるわけではなく、いわゆる掛け捨ての問題が解決されるわけではない。掛け捨て問題の解決には、夫婦の年金権の二分二乗しかない。もっとも、この考え方からいえば、遺族年金は現行の3分の2から2分の1に引き下げるのが妥当ということになる。今回の措置はそのための下準備なのであろうか。

 パートの厚生年金加入拡大も見送られた。実施すれば企業負担が膨大になるというのが見送りの理由であるが、「みんなが働いてみんなで社会を支える」という趣旨からすれば、いずれ実現させるべき課題と考える。