シリーズ討論目次に戻る TOPに戻る 
シリーズ討論

道路関係四公団民営化問題−政府・与党申し合わせの問題点−

田中一昭拓殖大学教授
国民会議ニュース2004年3月

 行革国民会議では2月19日、道路関係四公団民営化推進委員会委員を辞められた田中一昭・拓殖大学教授をお招きし、道路関係四公団民営化問題などについて話を伺い意見交換しました。以下、その概要をお伝えします。


はじめに
T 政府・与党申し合わせ(平成15年12月22日)の要旨
 @ 民営化の目的等
 A 民営化に向けた有料道路の対象事業等の見直し
 B 新たな組織とその役割
 C 料金の性格とその水準
 D 建設・管理・料金徴収
 E 承継する資産・債務の内容
 F 支援措置等
U 政府・与党案の問題点
 @ 民営化ではない
 A 道路公団方式の存続とプール制の拡大
 B 地域分割ではない
 C アクアライン方式による国の丸抱えによる建設スキーム
V 展望
 @ 止まらない建設
 A 進まない返済
 B 機構に溜まるツケ
 C 繰り返される計画見直しという名の先送り
W 結論
X なぜ辞めたのか
Y 質疑応答

【事務局より】お話のなかで出てきました『偽りの民営化』が2月末WACから出版されました。詳しくはこちらまで。



はじめに
 去年の12月22日に民営化推進委員会の委員を辞めたということになっていますが、総理大臣に「辞めたい」と申し上げたのが22日で、それから総理大臣が「辞職を認める」という通知をくれて、辞職が認められたのは25日でした。そういうわけで3日のズレがあります。辞めたあとは、大変忙しい毎日でした。新聞やテレビなどはできるだけ断ってきたのですが、説明責任がありますから、引っ張り出されてきたわけです。一方で、今井さんがお辞めになった時点で、「一度整理しておこう」と思い書き溜めたものがあって、委員会が終了したら再整理して本にしようかなと思っていたのですが、こういう顛末になりましたので、2月末あたりに『偽りの民営化』といったようなことで、出版しようと思っています。私憤というよりか公憤でして、世のなかにはいろんな人がおられます。「8割聞いたのだから」と総理はおっしゃるのですが、記者会見でも申し上げましたように、私は「基本になる2割をしっかりしてきちんとした民営化で普通の会社ができれば、あとの8割は黙っていてもついてくる」という認識なのですが、その2割が無視されている。それを「合格点」だとか「90点」だとかいう人がいると、余計に分からなくなっています。松田JR東日本会長と『文藝春秋』3月号で対談して(「「道路公団」裏切りの民営化全内幕」)、随分大勢の人から「ようやく分かった」という手紙やメールを頂きました。「どういう構造になっているのか分からなかったのが、あの対談で問題の所在がよく分かった」ということです。したがって、今回の問題と今日これから説明することは、その記事をお読みになればあまり説明することはないですし、今日ご出席の屋山太郎さんが産経新聞2月12日の【正論】で明快に指摘していらっしゃるので(「血を流さぬ改革などあるものか道路公団民営化の大いなる誤解」)、皆様のご承知の話ばかりであります。しかしながら、せっかくですので大学の教授らしく話を整理して申し上げたいと思います。


T 政府・与党申し合わせ(平成15年12月22日)の要旨
 道路関係四公団民営化の進め方につきましては、12月22日に、「政府・与党の申し合わせ」が発表になりました。この政府・与党の申し合わせということの位置付けですが、これは政府・与党の決定で、この決定に基づいて国交省は法案を作るということになるわけです。何十年も私は役人をしておりましたが、政府と与党、総理大臣も出て決定したことは非常に重い。ところが最近、いろいろな動きを見ておりますと、総理大臣や担当大臣が申し合わせとは違うことをいって「そうだそうだ」ということが起きていますが、さすが国交省の官僚はしっかりしておりまして、そういうことには一顧だにしないのです。政府と与党が決めたことを、総理大臣が「ああいったこういった」といって、国交大臣が変えるようなことをおっしゃっておりますが、官僚は「政府・与党の申し合わせではこうなっております」としか答弁していません。当たり前のことです。それを変えるためには、もう1回、協議会を開かないといけないのです。
 今回は政府・与党の協議会は2回開かれました。昨年の11月28日と12月22日の2回です。このように2回開くことも非常に珍しいことで、通常は1回で決めてしまいます。実は、2003年10月28日に総理大臣に対して、私たち委員会は勧告をしました。勧告というのは伝家の宝刀で、審議会の設置法に勧告できると書いてあっても滅多に勧告することはありません。設置法では、意見書を提出したあとの委員会の仕事は、意見を受けて策定する政府の施策の実施状況を監視するという役割があります。監視というのは、一般的抽象的に国交省や道路公団を監視するのではなく、「意見を受けて実施していることを監視する」ということです。それが、1年近く経って、通常国会に法案を提出するというのに、国交省はのらりくらりと一向に法案を出してこない。そこで、10月28日に、松田委員が「総理に勧告しよう」といい出しまして、みんなが賛成し勧告文を作りました。ポイントは、国交省に政府案を出すよう求めているのに出してこないので、総理大臣に対して「国交省に早めに政府案を出せと指導してください」と勧告しました。通常勧告は伝家の宝刀ですから抜かないですし、やるとしても、事務局と内閣官房とが示し合わせて「こういうことをやるので承知してください、よろしいでしょうか」といってやるのが普通なのです。ところが、今回のように予め事務局ともまったく相談することなく決めてしまうというのは例があまりありません。ともあれ、政府・与党の申し合わせというのは大変重みがあるということを、まず、申し上げておきたいと思います。以下、ごくかいつまんで、申し合わせの内容をご説明します。

@ 民営化の目的等
 まず民営化の目的等についてですが、借金を45年間で確実に返済すると書いてあります。それから、本当に必要な道路の建設をする。十分にコストを考え、合理化して真に必要な道路については建設するということです。次に、民営会社を作って多様で弾力的な料金設定、サービスを提供するのだということが目的として書かれています。

A 民営化に向けた有料道路の対象事業等の見直し
 ご存知の通り整備計画区間は9342キロあります。そのうち7300キロ近くはもう供用しておりますから、未供用の区間2000キロの事業方法を見直すと書いてあります。このうち、抜本的に見直すというのは、管理費も賄えないようなところで、143キロです。有料道路事業費を縮減するというのは、20兆円を7.5兆円にする。こういうことがあるから、小泉総理大臣が胸を張って、2月18日の党首討論でも「私はまれにみる画期的、抜本的で大胆な改革であると思っている」としゃべっている。
 当初、国交省は、残りの2000キロを作るのに20.6兆円かかるといっておりました。それを委員会で国鉄の例も引きながら、大体2割はコスト削減できるはずで、20兆円から2割引いて16兆円までになる。さらに、2005年度からスタートするとして、それまでに3年あるので、1年に1兆円、3年で3兆円の工事を行うから、残りは13兆円になります。また、委員会がスタートする前の2001年10月19日の閣議決定「特殊法人等整理合理化計画」で、「民営会社がどうしても採算上作らないということであれば、しかもその計画の道路が国として作らなければいけないものであれば、会社に作らせないで行政が税金で作る」という新直轄方式で国が4分の3、地方が4分の1の負担で作るということになりました。これは15年で3兆円計上しております。2002年3月に法改正が通りましたから、この新直轄分でさらに3兆円減り、13兆円が10兆円になります。そこで、「ここまで減らせば小泉さんの顔が立つのではないか」ということになりましたが、猪瀬さんが盛んに2003年10月下旬ころの委員会から「もう3兆円なんとか減らせば、小泉さんの顔も立つだろう」と言っていました。しかし、何をどうやって減らすのかということはよく分かりませんでした。そこで、2003年12月18日から、猪瀬さんは努力され、国交省と値切り折衝をやって、はじめ5兆円で吹っかけ、国交省は5000億円からスタートして、いきついたのは2.5兆円減らして7.5兆円。これを聞いて小泉総理は「まさに画期的なことだ」と痛く感激されたとのことです。さらに、管理費は2005年度末までに3割のコスト削減をやりますという決定になっております。

B 新たな組織とその役割
 新しい会社の仕事は道路の建設と管理と料金徴収で、政府が全株持つ特殊会社になります。保有機構(仮称)というのは独立行政法人ですが、現在の4公団が持っている資産と債務を全部保有する。私どもの意見書では保有・債務返済機構といっていましたが、今回の法案では保有機構(仮称)となっています。ここが資産・債務を持つ。財投を借りていますから、期限のきたものの借り替えをする仕事も行います。リース料は民営会社からこの機構に支払われますから、この機構が国に借金を返済する。
 この決定で重要なことは、機構は民営化から45年後に解散するということです。ちなみに、私どもの意見では10年後に止めることにして、資産も借金もそれぞれ分割される新会社に移行するということになっております。これを45年と半永久的にこの機構が持って、45年後にはこの資産は道路管理者のものになる、つまり国のものになります。意見書では、10年後には会社のものですから、今のJRと同じように会社のものになるとなっていました。もちろん、NTTやJTのように国がどうしても株主のままでいたいのならば、3割だとか2分の1だとかの株を持てばいいという考え方もありますが、委員会意見では、国は全株売却することになっています。しかし、そういう方法を取らないで、45年後にはすべて国のものになるということです。新しい会社を作ったとしても、SAやPAについては会社は自分のものにするのですが、道路自身は国のものになりますから、そのときに会社は道路資産をまったく持たないことになり、今のファミリー企業がやっているような仕事をやるのかなということが想像できます。
 債務返済の考え方については、機構は民営化から45年後に債務を完済するということになっています。冒頭で話した民営化の目的等についてもそうですが、建設費が20兆円から7.5兆円に減るのですから、それが念頭にあってこういうことになるのかなと思うのですが、今でもご存知の通り、1994年には30年で道路公団は無料解放するということでした。それが10年経った現在どうなっているのかといえば、料金の値上げができる陽気ではありませんから、50年後に完済するという計画になっています。それを5年も早めて45年で完済するという。自民党や公明党は今までのスピードで残余の道路を作るといい切っていますが、これから作る道路というのは採算が50%未満で、出来の悪い道路ばかりなのです。それを今までと同じスピードで作って、完済について50年後を45年後にするとは一体どういった芸当でやるのか、およそできない話ではないか。つまり、目的と実際の仕組みが結び付いていないやり方になっているのではないか。
 それから、機構の有利子債務を、高速道路・本四関係分は広げず、ほかは上回らないように努力すると謳っております。

C 料金の性格とその水準
 料金の性格とその水準については、料金の設定に当たっては利潤を含めないということですが、今の料金でスタートするとして、仮に努力して利益を上げるとすると、この努力を認めてあげないと経営をうまくやろうとするインセンティブが働かないのではないでしょうか。利潤を含めないということは、努力してコストを下げて利益が出ても、料金を下げなくてはいけなくなります。逆にいえば、そんな努力を誰がするのかという話になります。一生懸命努力して下げれば取られるだけのリース料になるだけの話で、「利潤を含めない」というのはそういうことです。私たちは努力した分は報いがあるようにしなけらばならないといっているのですが、国交省は要するに、利益を得ることを悪であると観念しておりますからこういうことになってしまいます。弾力的な料金を導入するということですが、ETCがこれから進んで、日にちや時間帯など実情に応じて料金を変えることができると。当面1割程度の引き下げに加え、別納割引廃止を決めましたから、そういうことを踏まえてさらに引き下げると。猪瀬さんがおっしゃるものですから、近藤さんも「2割下げる」とおっしゃていますが、最近公団内部の話を聞いて見ると、「あそこまでいうのではなかった。大変だ、大変だ」といっているそうです。口の軽い人ですからホイホイなんでもいうのですね(笑)。

D 建設・管理・料金徴収
 建設・管理・料金徴収については、新規建設における会社の自主性の尊重となっており、自主性、拒否権を与えると。これは委員会の意見にも書いてありますから、こういうように法律で自主性を尊重すると書けば実現できると思っていますが、法律に書けばいいということではない。それから、すでに供用している区間にかかわる管理は会社が実施する。現在、事業中の区間の取り扱いは国交大臣と地域を管轄する会社が協議して、やる、やらないを決める。協議が進まなければ別の会社と協議します。会社が建設しないことに正当な理由がある場合は、会社が建設する区間とはしない。つまり、自主性を尊重して会社が作らないといえば、それは会社が建設しない区間にしますというわけです。理由が正当かどうかは、国交省の社会資本整備審議会で判断するということです。そこで、論者は「社会資本整備審議会を御用審議会にしないようにすればいいのではないか」というわけですが、社会資本を「整備」する審議会でありますから(笑)、たいてい先が見えております。向こう45年間にできるかできないかということを、新しい会社が拒否するときには、交通事情や景気などから立証しないといけないのですが、およそ拒否はできない話だと思います。会社に45年間にできないことを証明しなさいという前提に立っています。今後新たに建設する区間の取り扱いについては、申請主義でやり、許可要件は法定しますと。許認可の基準はあらかじめオープンにすることになっていますから、それに従ったのだと思います。
 会社による建設における資金調達と返済については、会社は自己調達資金で建設します。建設完了時に借りた借金は債務とともに機構に移管し、機構を通して借入金債務を返済するという仕掛けになっています。最初中村委員が提案したものは、リース料を機構に払い、機構の事務費を引いて全部財投に返してくれれば早く返済が済むのですが、そのリース料のなかから建設資金を供与すると書いてあったのです。料金をぐるっと回して建設に使いますというわけです。そうなると、返済期間は延びます。程度によっては本当にひどい話になりますし、その結果が現在の40兆円の借金になっているわけです。つまり、機構からお金を回すようなことをはじめはやろうとしたわけです。それが11月28日に国交省が提案したうちのC案だったわけですね。A案というのは委員会の意見に沿った案と書いてありましたが、委員会の書いた案よりも厳しいものでした。採算が合わないものは作らないと書いてありまして、そういうことは意見書には書いてありません。C案というのはさきほど申し上げた中村案ですね、建設資金をリース料から回す。それで真ん中にB案を書いてきたわけです。政治家はA案とC案の間にB案を書けば、それが落しどころだと考えます。B案は、自主的に資金を調達させて道路を作りましょうというものです。民間会社ですから、効率的な借り方をして効率的な建設の仕方をするでしょうと理解するわけです。委員会の意見もそこまでは同じです。ところが、政府・与党案では、作った途端に借金も道路も機構のものになる。意見書では、調達して自分で作ったものは自分の資産、自分の借金にしなさいとなっていました。そうすれば、効率的な借り方や建設の仕方をするだろう。アクアラインが初め1兆1000億円かかるといっていて、民間会社だからうまくやるだろうと考えていましたが、結局1兆4000億円以上、3割以上余計にかかった。公団が引き取るのですから、痛くも痒くもありません。アクアライン会社には合理的にやるインセンティブがありませんでした。

E 承継する資産・債務の内容
 承継する資産・債務の内容については、道路資産は新直轄、国と地方の税金でやる方式となるものを除き、機構が全部承継します。SA、PAは会社がすべて承継するとなっております。

F 支援措置等
 支援措置等については、税制とか金融上の必要な措置を講ずるために、関連法に必要な規定をおきますとなっています。それから、これは新幹線のときにもこうなっていますが、大規模災害の復旧等のために、必要に応じて財政上の措置を講じるよう規定しますと。これも「委員会がそういうことをいっているから、これも聞いてあげた」と8割のなかに入っているわけです。


U 政府・与党案の問題点
 政府・与党申し合わせの概略を説明しましたが、この問題点について申し上げます。何よりも問題なのは、なぜ「民営化」ということがいわれたかという、改革の原点を忘れていることです。民間会社を6つにしても5つにしても、45年でピリオドを打たれるということにすると、プール制と償還主義は維持されているということになります。

@ 民営化ではない
 責任を負う、民間市場がありません。つまり、永久リース、45年後に高速道路資産は国のものになります。「無意味な自主性」と書いているのは、自主性を発揮する動機がないということです。料金に「利潤を含まない」ことについては、鉄道、タクシー、飛行機など、公益事業はめちゃくちゃ儲けることはないですが、だからといって利益をみない会社というのは考えられないのではないか。国交省も公団も初めから、名称だけ変える民営化を目論んでいた節があります。

A 道路公団方式の存続とプール制の拡大
 リース返済表に名を借りた机上計算の継続については、従来公団が十八番でやっていた手口です。料金収入は高く、コストは低く見積もる、つまり、建設のための方便なわけです。コストを半分にするということは倍作れるということですから、済んでしまってから、たとえば「100億円かかる予定だったのが200億円かかった」となり、「しょうがない。みんなの責任だ」となります。そのときは、役人は2〜3年で担当が変わっていますから、5〜6年後に誰も責任を取るものがいない。

B 地域分割ではない
 始め6つの会社でスタートして、本四はあとで西の会社に合併させるということについては、「委員会が日本道路公団をまず3つに分けますというから、委員会意見を聞いているではないか」というわけですが、政府・与党の申し合わせでは、日本道路公団を3分割するが、「その債務は一体的に管理する」と書いてある。これでは、なんのために分割するのかということになります。面白いことに、さすがに気が引けたとみえて、新会社にインセンティブを与えるための方法をこれから検討すると書いてある。「どうもおかしいな」と書いている人たちも認識しているに違いない(笑)。

C アクアライン方式による国の丸抱えによる建設スキーム
 今回の決定は「アクアライン方式による国の丸抱えによる建設スキーム」と同じであるということですが、「作ったあと放り投げるなら経営努力をしないのではないか」と思います。最後は国(機構)が抱えるなら、国の信用をバックに金を貸します。「政府保証はしていなくて、会社がお金を借りて道路を作るということは、会社の自主性を尊重している」というわけですが、借りて作るのですが作ったとたんに機構のものになるので、お金を貸すほうは機構がそれを引き受けてくれるわけですから、政府保証よりよほど安心です。そういうわけで、これがなぜ民営化なのかよく分かりません。


V 展望
@ 止まらない建設
 株主、金融不存在の会社の自主性は建設を否定するのだろうか。会社が拒否する意味、必要がないですから、自民党の族議員の方々がにっこり笑っていましたが、今までの通りお作りになるのでしょう。

A 進まない返済
 市場の監視がなければ効率化はないという釈迦に説法の話です。猪瀬さんや大宅さんは「国民の監視が必要だ」といっていますが、何をいっても政府は聞くわけがない。自らの規律を持つような会社の仕組みにしようというのが今回の目的であったはずです。誰かにいわれなけらばやらないという会社を作るのが目的ではない。「国民の監視が必要だ」「みんなの責任だ」というのは詭弁に過ぎない。

B 機構に溜まるツケ
 45年先の話でも、意見書では元利均等で返済し、新しい借金は全部会社のものと考えていますから、40年なり50年の均等でできるわけです。ところが、この仕組みで元利均等でやれといっても、できるわけがありません。毎年、今までと同じスピードでお金を借りて作るわけですから。どんどん借金もかさんで資産も増えるわけです。これを申し合わせ通りにやりますと、機構には借金が溜まります。

C 繰り返される計画見直しという名の先送り
 作りたい道路は作るというこの仕組みになりますと、機構に溜まるツケは結局は45年経つと国民負担になります。返せるはずがない。こんな馬鹿な計画を作った人も責任を取ることはまったくない。45年経ったときに、法律を改正して借金は税金で返さざるを得ませんと。あるいはまた、何十年か返済を繰り延べすることになるでしょう。


W 結論
 今回のスキームは道路公団方式そのものです。道路公団は怠けてこうなったわけではなくて、一生懸命やってきたのにこういう事態になった。会社と機構を新設して目先を変えることで「改革した振り」をして国民をごまかすこそ問題ではないか。それで怒ったわけです。その怒りが分からない人たちですから仕方がない(笑)。怒ったほうが馬鹿みたいな話です。
 さらにいえば、道路四公団の改革というのは考えてみれば単純な話で、国鉄のように労働組合問題があるわけではないし、国鉄の族議員と道路の族議員とは質が違う。要するに、建設省、内務省の時代から公共事業というのは、与える一方の仕事なのです。市町村でも都道府県でも、市町村議員から国会議員まで、いかに自分のところに事業をもらうかという人たちなわけです。ですから、官僚の思う通りになる。そのあたりは国鉄とは違います。組合はおよそあるかないか分からないような状況ですから、こんな簡単な改革はないはずです。それさえもできないということは、偉そうに郵政事業を改革するといっていますが、およそ初めだけいって、何もやらないというのが小泉構造改革だと思います(笑)。松田さんとの対談でもいっておりますが、「起承転結」が世のなかにあるとして、小泉さんは「起」、問題提起をされた。これはいいわけです。みんなまたいっていると受け止めていますが、そこまではいい。ただ、「承転結」がない。それを心配しています。それと同時に、地方税財政の三位一体改革といったよほど難しい問題、関係者の利害があって大変なわけです。この道路の場合は、反対する人は誰もいない。地方公共団体はどんどん作れといっています。自分たちの負担ではないですから、高速道路を作ってもらうと、地元に仕事がきます。それから、過疎地になっている土地を買ってもらえて、一時的なカンフル剤になります。一生懸命「ああしよう、こうしよう」といっているのは委員だけなのです(笑)。そういう図式になっているときに、内閣なり行革担当大臣がいかなる姿勢を取るべきかということが問われていると思うのですが、そういう認識がない。
 そういうなかで、進めてきたわけですが、この単純なことが国民にも分からない。現在、国と地方で700兆円くらいの借金があるそうですが、この借金について、私たちは平気な顔をして済ましています。「まあ、あと40兆円くらいならどうということはない」というような能天気な国民になっているわけです。だから、誰も怒らない。原爆が落ちないと駄目なような国ですが(笑)、最近は諦めの境地で「しょうがないなあ」という感じです。小泉構造改革は第1歩を誤ったということで、「こんな画期的で抜本的な改革はない」と総理ご自身がおっしゃっているわけですから、本気なのか気が狂ったのかどうかよく分からないですが(笑)、本当に不思議です。
 さしあたりどうするかというと、この改革案を通常国会でつぶして、再度抜本改革をしなくてはいけない。そのためには、私ども自身が問われているのではないかというのが、私の今現在の心境であります。


X なぜ辞めたのか
 2002年12月6日に、今井委員長がお辞めになりました。しかし、彼は委員長を辞めたのであって、委員を辞めたのではない。「委員も辞めたい」とおっしゃったそうですが、慰留されたそうです。慰留されて留まるところは、やはり大人ですね(笑)。しかし、今井委員長や中村委員は委員会に出席なさらない。実は、2003年12月2日に、総理から委員の皆さんに食事の招待をされました。総理、近藤総裁、石原大臣、金子大臣、佐藤道路局長、丹後秘書官、そして中村委員もいらっしゃいました。中村委員は不思議な人で、食事のときだけ出てくるものですから、川本委員が「あら、先生、食事のときだけ」とおっしゃっていました(笑)。私どもは10月28日に勧告したわけですが、それに対して総理が11月13日に「意見書を基本的に尊重して、各方面に意見を聞きながら、政府案を作れ」と石原大臣にいっています。「勧告もあることだしな」と総理はおっしゃっていますから、勧告のことも忘れていませんね。「あの連中が勝手なことをやった」ということが、頭のなかに残っていると思われます。そういうことがあった直後に、私は塩川前財務大臣に夜中に電話をもらいまして、「お前はなにをやっているのだ」と。「猪瀬さんばかり官邸に行って、委員長代理はあんただろ。あんたが委員長を代理しているのだから、どうして総理にどんどんいわないのだ」と。しかし、すでに意見書でいってあるわけで、分からなければこちらに聞きに来ればいいわけですから。私も役人ですよね(笑)。「話をしてくれというなら行きますが、こちらから物欲しそうに行くことはない」といったら、ますます塩川さんの怒りを買いました。そういうことがあって、総理に会うよう申し込んでいたわけです。そうしたら、12月2日の食事会の前に20分取ってくれたのです。総理もイラク問題などで忙しくてなかなか時間が取れなかった。とにかく、総理にきちっと申し上げないといけないと思いました。総理は何枚も書いたら駄目だと聞いていましたから、1枚紙を用意しました。意見書のあとの閣議決定で、「委員会の意見を基本的に尊重する方針のもと、意見書を精査し、与野党の意見を必要に応じて聴取して」と書いてありましたが、総理は総裁選挙のときから、いい方を変えました。「委員会の意見書を基本的に尊重する」と。郵政の民営化と同じで、その先はいわないのですが、そればかりいっている。ですから、1枚紙のはじめに、第1として、ごちゃごちゃいっていた閣議決定から「委員会意見を基本的に尊重する」と断言されたのは大進歩であると(笑)。第2に、「基本的に」ということは意見書の骨格を順守することであると。第3に、「基本的に」の中身を具体的に5点挙げています。10年経ったら資産も負債も会社のものにするというのが基本なのです。そして、会社が資金調達して作った道路は会社のものにしますということです。それから、元利均等で返済する。地域分割は本当の意味での分割、猪瀬さんのいい方でいえば「北海道の高速道路に東名の料金がいかないようにする」。そして、料金値下げ。第4に、11月28日の国交省の案で、B案やC案は、総理が「委員会意見を基本的に尊重する」ということと真っ向から対立する。委員会が否定している案ですから。こういう国交省の姿勢は総理に弓を引いたようなものだと。最後に、第5番目に、B案やC案といった案で政府・与党の案が決まるのであれば、監視する意味がありませんから、辞任させていただくと。
官邸に入るとき考えたのは、総理執務室から食堂の間に記者は入れないということです。だから、総理にお会いしたあとだと駄目だと思い、総理の部屋に行く途中で記者に、その1枚紙を配りました。それから、しばらく待たされたあとで、総理にお会いすると、総理が怒っているわけです。この行動は、誰にも相談していません。そもそも相談する話ではないですし、相談していたら会わせてもらえませんよ。それで、20分間立ったままで、総理と坂野事務局長と秘書官との4人で、1枚紙についての話をしたのです。総理は「私が信頼できないのか」というわけです。昔の私なら飛び出しますが(笑)、怒られたことで逆に安心しました。怒らなかったら大変なことです。つまり、「私はぶれてないだろう」というわけです。私は「ぶれておられません。しかし、問題はこれからです。これからもぶれないでください」と話しました。おそらく、12月2日の目論みは、誰かが「ここまできたらあとは政府に任せるべきでは…」と口火を切り、周りが提灯をつけるシナリオだったのではないかと思います。ところが、それがぶち壊れたために、怒った人がいたのですね。怒った人がいたということはそういうシナリオを書いた人がいたというわけです(笑)。
 12月19日に委員会を開く予定だったのですが、ボールは国交省の側にあるので、国交省がどういう案を出してくるのか待たなければいけないのですが、こちら側から降りるような相談をしようとする人がいるわけです。12月19日に国交省から案が出てくる見込みがないということで、仮に開けば、値切りなど意見書とは違うものをいい出す恐れがある。たとえば、「5・3・2」というのは数字がいいということを12月9日からいっています。「5」というのは、5分割です。「3」は、あと3兆円減らす。「2」は、2割料金を下げる。「「5・3・2」という数字もいいではないか、これを勧告しよう」といい出すわけです。今は国交省に案を書けという話であって、こちらが案を書くという話ではないといっているのに、犬ころのようにボールのあるところに行って、「私ほど汗をかいた人はいない」とおっしゃっているようですが、私は12月19日に、断固として委員会を開かなかった。それで悪口もいわれています。
 12月22日に政府・与党の協議案が出ましたが、私は八王子で授業があって、9時15分から協議会が始まり、9時29分に私のところに提出された政府与党の協議案が送られてきて、これには激怒しました。講義を終え、昼過ぎ、携帯の留守電をチェックしたら、丹呉総理秘書官から電話してほしいと入っていた。電車に乗りかけたときでもあり、折り返し電話すると断り、新宿から改めて電話しました。すぐ小泉総理に代わり、総理は「ご苦労様でした。8割は意見書を聞いたからね」といわれます。私は「全然おかしいですよ、電話ではなく説明にあがります」と話しました。総理は憮然とした感じでしたが、慰労と慰留の電話だったのですね。「田中とは長い付き合いだから、たとえ100%案に反対でも蹴飛ばして辞めることはないだろう」という雰囲気でした。そのときは、私も蹴飛ばそうとは思っていませんでした。
 そのあと事務局へ行き、15時過ぎから松田、川本両委員と記者会見をしました。政府・与党申し合わせにわれわれの受け止め方についてのものです。前日夜8時頃、政府・与党協議会が明朝開かれることが分かったので、午後3時頃から委員会を開きたいと、坂野事務局長と打ち合わせていましたが、猪瀬さんは都合が悪いとのことであり、大宅さんは例年のごとくニュージーランドに行っていて、委員会が成立しないので記者会見に切替えたのです。なんのことはない、猪瀬さんは、われわれとは別に、2時から記者会見をしていたようです。記者会見は、私からまず、政府・与党の申し合わせ(決定)についての問題を話しました。続いて、松田委員と川本委員が話ました。そのとき、松田委員が「こんな政府の決定では委員はやってられない」と辞表を坂野局長に渡したのですね。これには私もビックリしたのですが、そのとき、記者たちが「委員長代理と川本委員はどうされるのですか」と聞いてきた。「夕方、総理にお会いするということでお分かりでしょう」と答えておきました。
 6時過ぎ、総理に会い、申合せのどこがおかしいのか説明しました。実は12月の始めごろに、塩川前財務大臣に上下一体の問題など基本的なことを1枚紙で総理に話してもらっていたのですね。総理は「分かった。法律でそのことを書けばいいのだな」ということまでおっしゃったそうです。そういう話を聞いているものですから、総理に塩川前大臣と話をされたことを確認して、「そこまでおっしゃるのであれば仕方がない」と、もはや監視は意味がありませんから、辞めさせていただきますと申しました。辞表届は1年半前から「一身上の都合により」ということで書いていたのですが、これは一身上ではないということで、記者会見のあと、大急ぎで辞表を書き、それを総理にお渡ししました。それについて「ちゃぶ台ひっくり返して」どうのこうのとおっしゃる人もいますが、身の振り方については、人と相談して決めるものではないと考えており、私の判断で決めたのです。ほかの委員に弁解することもない。考え方によっては、失礼な辞め方かもしれませんが、12月2日くらいから覚悟はしていました。屋山さんなどいろいろな人からお電話もありまして、「この際ちゃんと身を振らないと以後付き合わない」などともいわれました(笑)。それはそうなのですが、「男は韓信の股くぐり」ではないですが、本当に我慢しないといけないときもあるでしょう。しかし、総理には十分説明した、そのうえでの話ですし、私どもが身の振り方をはっきりしないと世間の人は事態の重要性が分からないだろう。現に総理は「私はまれに見る抜本的、画期的で大胆な改革案だと思っている」といい、近藤総裁は「90点をつける」、猪瀬さんは「69点をつける」と。こんなことでは世間は分からないですよね。でも、松田さんと私が辞めたことで、随分大勢の人に分かってもらえたと思います。1歩前進しました。そのほか、猪瀬さんが料金の決め方、利潤をみない、元利均等でリース料をやるということを国交省が骨抜きを始めたといい出しました。違うのです。始めから抜かれているのです。それにもかかわらず、世間の風向きが変わってきたので、国交省を悪者にして骨抜きだといい始めた。元利均等返済ができない仕組みで、しかも、利潤は認めないということははっきり書いてあるのです。最近になって国交省がいい出したことではない。それから、どんぶり勘定のことについても、道路公団を3分割しても債務は「一体的に管理する」と明確に書いてあるわけで、自分が不明だったということならいいですが、自分がフィクサーで決めたのですから、骨抜きが始まったということはナンセンスです。そういうことを、多くの人に分かってもらえればと思い、恥を忍んで説明しているわけであります。


Y 質疑応答
【角本良平(交通評論家)】
 田中さんから8割の話がありましたが、5項目の採点の仕方に問題があったのではないか。田中さんの5項目は入学試験でいいますと、第2問と第3問が30点ずつ配点すべき問題です。第1問、第4問、第5問は10点ずつ配点すればよいと。そうすれば、第2問と第3問をバツにした小泉総理は落第ということになります。
 質問になりますが、上下分離というのは、行革断行評議会からいい出したのか、それとも、それをいい出した裏幕は財務省ではなかったかという説があります。それから、世のなかが委員会意見書を出したときと、この2年後とではすっかり変わったのではないか。道路公団の置かれている事情はひどく悪くなっている。ところが、猪瀬さんはそれを分かろうとしない。次に、財務諸表を隠蔽した道路公団、国交省はその後、財務諸表を出す予定があるのかどうか。彼らは依然として頬かむりしたまま、今度の法律を通すのではないか。このことについて、私は今度の国会審議のときに民主党に知恵をつけたいところですが、こちらも嫌いですから知恵をつけません(笑)。そして、今度の勝負は改革側、田中さん側の完敗という説がありますが、私はそうは思いません。相手方が勝ったつもりでいますが、相手側の意見は現実に向かって敗れてしまう。とても実行できることではないと思います。その次に、われわれは国会の審議などにおいてどうすればいいのか。それに付随して、固定資産税の問題について、固定資産税がいくらくらいかかるということは算定しているのでしょうか。最後に、この3年間の議論のなかで、民営化すると道路を外国人が支配して困るという議論があったのかなかったのか。
 私の提言としますと、45年先に無料にする必要は毛頭ないので、永久に有料にすればいいのではないかと思います。道路公団が1956年にスタートしたとき、アメリカ人の知恵からということですが、そのアメリカでペンシルバニアターンパイクが1940年にできています。そして、ニューヨーク付近の2つのターンパイクは1952年と1954年にできた直後に、彼らはきているわけで、道路公団というのは外国の事例に基づいてできたのだという過去のことをみんなが忘れてしまっている。このことをもっと主張すればよいと。残念ですが菅さんはこういうことがまったく分からない人で、アメリカはフリーウェイであると。だから、日本もフリーにしろと。ただし、このフリーの意味はお金がタダという意味ではなくて、一般道路からフリーという意味なのですが、菅さんは誤解しています。

【田中】配点の問題ですが、私も反省しています。その通りだと思います。本当に基本はなんであってと。そういうことはいわなくても分かるものだと思っていましたが、同じウェートでものをいったのがいけなかったのかなと反省しています。

【角本】総理というのは5つもいったら駄目な人なのです。1ついえばよかった(笑)。

【田中】そういうことは当たり前だと思っていたのが、間違いの元だったかもしれません。口頭では力説しておいたのですがね…。
 それから、上下分離の話がいつ出てきたのかということですが、高速道路そのものを国のものと考えて、それを民間会社が借りる格好にするのかどうかという問題ですね。外国はすべて国のものであると。日本でもすべてそうであると。したがって、道路は公物であると、建設省時代からそういう観念できた。しかし、料金を取るというのは、普通の公共財ではありません。公共財というのは、使う人からお金を取れないから公共財なのですね。ところが、高速道路は受益者負担で取れる。むしろ、ドイツを始め外国では、日本の高速道路のような有料制、受益者負担制度が正しいのではないかという話になっています。このように上下分離して、国の財産にしておかなくてはいけないというわけでもないのではないか、という議論はこの委員会が始まってからしました。行革断行評議会というのは石原行革担当大臣の私的諮問機関ですから、それぞれの委員が石原大臣を支援すればいいわけで、普通の審議会のように、統一意思を決める場ではないのです。猪瀬さんは始めから道路というのは国のものであるという観念でしたから、ずっとリースという話でした。しかも、そのままでは具合が悪いので、どういういい方をしたのかといえば、独占的使用権を国が与えればいいのだと。それなら、始めから所有権を持たせてもいいのではないか。公益事業であるならば、事業法で規制すればいい話です。最小限の規制をして公益性を担保すればいいのに、なぜ国が持たなければいけないのか説得的な説明は聞いたことがありません。松田委員、川本委員、大宅委員は私と同じ意見です。中村委員までも国の所有にはこだわらないといっていました。だから、5対2で所有の問題については私どもの案のほうがよかったはずですが、猪瀬さんは自分の都合が悪くなると、神学論争だといって話をそらすのです。委員会では上下という言葉は使わないにしても、それがあったからこそ、今井委員長と猪瀬さんは公物だと主張し、必然的にリースとなり、リースだと保有機構の話につながります。
 意見書提出以降、世の中が変わってしまったということについては、逆に私から皆さんに聞きしたい話です。
 財務諸表をどうするのかというのは、民営化する以上やらないといけないことなので、国交省は検討を始めています。きちんとした財務諸表がないと分割も何もあったものではないですから。
 私の完敗かどうかということですが、友人などからは「無駄な抵抗だったね」といわれましたが、私はそうは思いません。いちばんよかったのは、この委員会は全部公開していることなのですね。密室の会議も4回くらいありましたが、密室で話しても必ずばれるものだということを知っていますから、私は密室であろうとオープンであろうと同じいい方しかしていません。同じいい方しかしないですから、猪瀬さんが秘密会で「私も降りているのに、なぜ降りないのか」と妥協を求めました。私からすると「あなたが勝手に降りただけの話で、私があなたに降りるように頼んだわけではない」と思っていました。談合というのは足して2で割るというもので、そういう意味ではあの人は政治家ですね(笑)。ただ、オープンにしたことで、今回ほど道路公団のデータ、資料が公になったことはありませんから、これは使わない手はないでしょう。
 国会審議でどうしたらいいかというのは、皆さんに知恵を出してもらえればいいと思います。参考人としてどの党が呼んでくれるか分かりませんが、出てこいといわれれば出ます。しかし、政治家を相手にするよりも学生を相手にしたほうがよほど意義があると思いますが、私が出なくても国会には誰かが出てくると思いますし、国会を通じてつぶしていかないといけない。あるいは、こういう今日の会議などで議論を進めて参りたいと思っています。
 固定資産税の話は、ほかの3公団は取得価格などすべて分かっていますが、道路公団は資産台帳はありますが取得価格が書いてないのです。要するに、お金を借りて返せばいいという発想ですから、価格は関係ないのです。固定資産税の試算についてはしたことはあります。仮の計算ですがほかの公団の数字から類推してどの程度になるか、まともに固定資産税を払えば5000億円になります。初めに事務局に騙されて固定資産税が大変だから、独立行政法人、保有債務返済機構を使って身を軽くしないといけないという話でした。公団は払っていませんが、公団だから、公的法人だから払う必要がないという説明をしていました。よく調べてみると、固定資産税もいい加減なところがあって、50年先に無料開放するから、公共財になる。だから、負担をかけないのだというのですね。それならば、「49年間無料にするといっておいて、最後の1年で民営化するといったらどうするのか」と聞いたら、「そんな意地悪な質問をしないでください」といっていましたが(笑)、要するに無料開放するから固定資産税をかけない。国鉄の例にあるように、固定資産税をかけても最大限軽くするということで、どれくらいになるか計算すると、大体500億円くらいとなり、10分の1で国鉄並みにやればできると計算しています。
 外国人に支配されたら困るというのは、プライベートの話ではあったかどうか分かりませんが、公の議論ではそういうことがあったとは記憶しておりません。

【屋山太郎(政治評論家)】
 公物と考えた場合、民営会社にして上下一体にし、資産は民間会社が持つということにすると、その道路を勝手に売り払うということはできないということになるのか。地方分権が進んできて、ある地区の道路を無料にしてくれというときには、会社から地方公共団体が買うのですか。それとも、管理権がなくなったから、公物だから、タダにする、財産を離しなさいということになるのですか。

【田中】公物と考えると、上下一体はあり得ませんが、ご質問の趣旨を勝手に理解して答えれば、お聞きの話はすでに例があって、道路公団はネットワークになっている高速道路と一般の有料道路というのがあるのです。一般有料は、道路ごとに負債を償還し、30年たつと無料開放し、地方公共団体に譲渡します。昔は採算が取れる道路が多かったのですが、今は採算が取れないということもあって、それぞれの道路の料金収受からいくらか出させて、3000億円くらいの基金を作っておいて、地方公共団体に30年経ったら譲渡するのですね。場合によっては無料で譲渡する場合もあるし、借金があればどうするのか、一定のルールがあって、話し合って決めているようです。地方公共団体が文句をいっているというようなことは、特に聞いてはおりません。
 それから、公物にするかどうかという点について。昔は八幡製鉄所などの製鉄会社や鉄道省の時代の鉄道も公物でした。公物にするかどうかは政府の方針次第です。今まで公物だったから公物でなければいけないとは考えないで、民営化する。その際、始めは国が全株持っていますが、国民に放出していく。公益性の担保は事業法などで必要最小限の規制をすればよい。道路の場合は会社が左前になってやめたとなったときは、国営にすればいい。銀行がそうではないですか。あるいは、同じような事業をやっているところに譲渡してもいいわけです。いろいろ方法はあると思います。しかし、高速道路の場合、およそそういうことにはならない。逆に、儲かって困る会社になると思います。ですから、料金をどう下げるのかを今から考えておかないといけません。譲渡する場合や左前になったときには、国のほうでどうすればいいのか決めればいいのだと思います。大災害があったときは、今度の法律で書きますが、国が財政的支援をするということになっています。

【鈴木良男(旭リサーチセンター社長)】
 20兆円を7.5兆円にするというのは、距離9342キロというものを短縮するのか、高規格道路を低規格道路にするのか(近藤さんはそういうことをいっていますが)、あるいはコンビネーションでやるのか、どちらですか。

【田中】それはコンビネーションです。任せてあります。私どもの意見書では、道路の規格を必要のないところにまで立派なものにすることはないといっている。そういった見直しも含めて、20.6兆円を7.5兆円にするという話です。

【鈴木】このスキーム自体というのは、PFIと称するものの悪い形、つまり、BTO(ビルド・トランスファー・オペレート)で、40年経ったらコンセッションが成立したから、タダでいくと。教科書に書いてある最も悪い形をなぞっているという話ですね。

【田中】最も彼はいい方法だといっておりますが(笑)。あのPFIという言葉を持ってきてやっております。

【安藤博(東海大学教授)】
 この1件はなんであったのかという問題提起ですが、どうお考えになるか。少し離れたときに、道路公団の難しさによるのか、あるいは小泉首相にあまりやる気がなかったのか、どちらのお考えになるのか。私の仮説をいえば後者でして、ここから先は田中さんの傷口に塩を塗ることになると思いますが、いろいろ掲げてある事柄のなかのプライオリティが大変低いことであっただろうと思うわけです。逆にいえば、なにがトップ・プライオリティか。この政権のやっていることの当否は、人によりますが、極めて成功率の高い、小泉さんはステイツマンということになるのだと思う。すなわち、有事立法、テロ特措法、今回の自衛隊の戦地派遣ですね。立花隆は「小泉さんのゴールは憲法改正、戦争の放棄条項の放棄」ということを書いていて、私も同感でして、最近までの国会の動きをみていると、非常にうまく党内を手なずけていて、非常に難しい法案を次々に成立させてきたわけです。最近でいえば、3人が造反したに留まっている。これは、道路だとか郵政の問題でいったんアジテートして、それを譲るというのが上手にできている党内政権操縦だと思っています。そうなると、田中さんは完敗どころではない、大いに相手に加担してしまっている。別の比喩をいえば、佐藤栄作はアメリカ政権から「全学連使って沖縄の核抜き本土並み運動をやらせているだろう」といわれたことがあるそうですが、辞める人、辞めない人も含めて、小泉さんが大変大きなリスクを背負っているというデモンストレーションにほとんど完全に利用されているのではないか。郵政もまったく同じ経路をたどると思います。ですから、私は明らかに小泉首相はまったくやる気がない、プライオリティが低いと思っております。

【田中】自分を客観的にみると、安藤さんのいわれることが非常によく分かる。意図的とは思わないが、結果的には小泉さんにうまく使われているかもしれない。景気は良くなるし、ついているところが多々あるわけです。分かりやすい道路だとか郵政で、「起承転結」の「起」だけやっておいて、大きな問題のところで持っていってしまうと。小泉さんは考えようによると随分な戦略家なのかも分かりません。大きなところの悪をするわけです。細かいところなどは知らなくてもいい。彼が大技の戦略を使っていて、それに意図せざる使われ方をしているのは事実だと思います。安藤さんからまともにいわれてしまいましたが、ほかにもまともにいった親友が何人かいます。

【得本輝人(国際労働財団理事長)】
 マスコミにもオープンにして議論を進めるなど、あれだけいろいろな人が参加したのに、「80点だとか、8割だとか、大分呆けたことをいっているなあ」という気が今日この会議に参加した人はしていると思うのですが、一部では出ておりますが、なかなかきちんとした反論なりコメントが出てきていないということがありますが、これはどういうことなのでしょうか。

【田中】マスコミの人たちがこのスキームのどこがどうおかしいのかが分からないということがあります。何人か分かっている記者もいますが、分からない人はずっとフォローをしているのに分からないといったことがあって、「質が落ちているのではないか」と記者本人に直接いったこともあります(笑)。そのへんはよく分かりません。そのあたりは屋山さんにお聞きしたほうがいいかと思います。

【屋山】小泉を理解するのに、内政と外交を包括的に解説していた方もいましたが、そういう政治哲学なりがあってやっているというわけではないのですね。9・11があったということで、アメリカに触れて、イラク派兵まで一緒にやると。これは中曽根さんによると、瞬間タッチ断定型というのですね。中曽根さんなら、いろいろ国際情勢の見方があって、日本はどういう哲学でそこにアプローチすべきかと説明をしてそういう選択をする。哲学があるから説明ができるのだ。しかし、小泉の場合は、塩川前大臣も「起承転結」の「起」しかないといったことと同じで、たまたまうまく当たっているのですね。たとえば、イラク派兵をいって、5日後にフセインが捕まるわけですから、あれなどは捕まったあとで派兵しますというのなら、様にならないもいいところです。ところが、そういうところが実にうまくついている。では、内政ではどうかというと、彼の発想は構造改革といっていますが、その試金石としていちばん目立つ道路公団を取り上げたのだと。橋本などは特殊法人のどうでもいいようなものを捕まえてこれを潰すといった、私はこれは行革手品といっていましたが、「私は手品は使わないからね」と小泉はいっていましたよ。誰でも見える四公団を潰す、民営化すると。始めはJRが頭にあったのですよ。ああいう形の民営化というものがあり、もっと本丸に郵政があって、どうも構造改革をやると敵ばかり増えて、総裁選の再選はやばいなというあたりから崩れてきたような気がします。青木と古賀に頭を下げたというか。そのときに、塩川前大臣が一生懸命、10年後に上下一体でやるということを小泉にいわせて、「安心して大丈夫だ。法律に書き込むといっていた」と私にも電話がありました。挙句の果てはこういう話になって、塩川前大臣は「やはり延命策を選んだなあ」と非常にがっかりしていた。これをご破算にしてもっといいものに作るとか、そういう発想がまったくないわけです。この間、私も「血を流さぬ改革などあるものか、道路公団民営化の大いなる誤解」というものを書いたのですが、誰も殴られていないわけですよね。殴られたのは田中さんくらいで(笑)。それこそ、利害関係者は誰も損していない。こういう改革というものはないわけです。さすがに、塩川前大臣はよくみているなと。始めは入れ込んでいたのに、本当にがっかりしたようです。1月に昼食の誘いがあって、なんの用事かと思ったら、彼は非常にさびしかったのですね。なんの用事もないのですよ。「何か力が抜けたなあ」とか「小泉にはがっかりした」と、そういうことがありました。構造改革で郵政が本丸だとなっていますが、本丸まで行くわけがありません。手前の堀に落っこちているわけですから。外交的センスと内政的なセンスと非常に大政治家のようにみえるが、たまたま事件がいろいろあってうまくはまり、外交的にうまくいっているだけ。中曽根外交と比べると、中曽根さんはG7に行って中距離核ミサイル(パーシング2)をヨーロッパに配備しろといって、ミッテランが渋るのですね。そうすると、ミッテランに「最大公約数を発明したのはフランス人ではないか。その大統領がこのようなことに反対しては困るのではないか」と説得するのですね。それに対して、小泉はいきなりブッシュに会って「ドー・ユー・ノウ・ハイヌーン」と聞いた。ブッシュは始めなんのことだか分からなかったのが、もう一度聞いて「ハイヌーン(『真昼の決闘』)のことか」といって分かるわけです。「25回見た」といって2人で抱き合っているのです。そういう2人単細胞がばっちり合ってしまったという感じです(笑)。それと、社民党がつぶれたというのが大きい。憲法改正まで展望が開けてしまった。9条を断固守るといっているのは社共の15議席しかないのですから。公明党は「憲法は神聖化しない」といっている。小泉政権は「こういう難しい時期に外交的に成功したからいいか」となっている。あとは政権交代しないと、官僚を潰すのはできないという気になりました。

【安藤】小泉さんが次々に挙げている立法上の成果について、私は成功だとは毛頭思っていなくて、おそらく日本国を誤るとするならばこの段階だと思います。とんでもない亡国の道を一生懸命辿っているという感じがします。しかし、ある立場に立てば、成果でしょうね。社会党が新潟のトキのようになっている環境は、国内の国民意識の問題だと思いますけど。操縦の仕方としては、それなりのうまさを発揮している。繰り返しますが、田中さんはうまく使われてしまった。

【栗山和郎(関西経済連合会理事)】
 道路ゆえの難しさがあったかどうかというと、そちらのほうもあったと思います。ただし、それは道路固有というよりも、受益と負担を一致させる改革、後世に負担を残さない改革の難しさであろうと。なぜ難しいかといえば、国民の多くは「負担はしたくないけど受益は欲しい」という意識があって、高速道路もしかりというところがあるからではないでしょうか。たとえば、地方分権の議論でも、総論では賛成している知事が「しかし、高速道路だけは別だ」というところに、この改革の難しさがあったのかなと。今の仕組みなら、負担なしで作ってもらえる。先に作ってもらっているところは得しているという感覚が抜けない限り、そういう改革は難しいなという印象を受けました。

【司会】黙っていれば法律が制定されてしまいますが、通さないために潰すということについて具体的な手段があるのか。あるいは、仮に通ったとしても事実という重みで再改革の動きが出てくるのか、それが出てくるように努めるのか、これからの展望、方法、運動についてお話下さい。

【田中】問題が具体的になるのは年が経たないと分からないというこの問題の難しさがあり、そのときには人が代わっていたりするものですから、国会なりマスコミなりが機会を捉えて問題を指摘していく以外ない。それでわからないというのであればどうしようもないですね。どうしてこういうことをいうのかといえば、700兆円の借金の問題でも国民は誰も何もいわない。国民は諦めていますよ。それがいつ問題化するのか、超インフレになるか、国債が売れなくなるなどそういうときを待たないとしょうがない。私は委員を2年くらいやってきて、つくづく日本国民はしょうがないなと感じています。身の回りのことから公的なことも含めて、最近絶望感に囚われています。ですから、前向きにどうのこうのということは一切頭に浮かびません。なるようにしかならない、馬鹿馬鹿しくて仕様がないという気がします(笑)。

【屋山】こういうインチキ案で6月一杯までに法律を作るのですが、その議論の過程でどれくらいインチキなのかということをもう1度蒸し返すことになると思うのです。そういうときに民主党などが無料化論などをいい出したからおかしくなるわけで、構造改革の試金石でこんなものだという話で参院選になってしまうわけです。参院選で青木さんは51議席取れればいいといっていますが、もしかすると取れないかもしれない。ただ、外交で失敗していないので、国民はほっとしている部分もあるのですが、外交ばかりで輝かしき小泉政権というわけにもいかないし、何をやったのかという本当にナッシングです。

【田中】郵政民営化で「起承転結」の「起」だけを取って、彼の原点である「自民党ぶっ壊す」といった対峙する格好で、選挙に臨むのではないでしょうか。屋山さんがおっしゃるように、いちばんの方法は政権を変えることです。ボロの政権でもいいから、交代することです。細川さんのことについて、猪瀬さんは夢だけ持たせた政権だといっていますが、細川政権がわずか8ヵ月でやったことというのは、凄いことなのですね。いい悪いは別ですが、食管法は止める、規制改革は彼からスタートですし、地方重視の改革、選挙制度の改革もそうです。ですから、政権を変えることは大事なことです。政権を変えなければ仕様がない。そのために最近、徹底的に小泉を叩く行動や戦略を始めています。親しかっただけに余計に腹が立っています(笑)。これから出す本もそういう内容のもので、『偽りの民営化』ということです。基本的に小泉さんを叩く本です。

【竹中一雄(元国民経済研究協会会長)】
 まったく賛成だということを一言いいたかっただけなのですが、私は小泉内閣ができたときから、「これはうさんくさいぞ」といっておりました(笑)。外交も思いつきのいい加減で、あれを真に受けて話に乗っかるとひどい目に合うことになると思います。実際、アラブの国々や財閥にしても、表ではアメリカに協力的にみせながら、裏ではしっかり抵抗組織に金を配っているわけです。みんな一方で反米感情が強くて、他方でアメリカに楯突くとまずいということで外交はちょっとアメリカに合わせるという、複雑な路線をやっているのに、日本の場合は単細胞で、こんなことをやると亡国の道を歩んでいると思います。