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シリーズ討論

道路公団問題の経緯と今後

道路関係四公団民営化推進委員会
委員長代理     田中 一昭
国民会議ニュース2003年08月号所収

国民会議では8月8日の第29回総会に田中一昭道路関係四公団民営化推進委員会委員長代理をお招きし、これまでの経緯と今後の方針などについて話を伺い意見交換しました。以下、その概要をお伝えします。


T 田中一昭 委員長代理 報告要旨
  1 道路関係四公団民営化推進委員会の発足から答申まで
    委員会の特徴
    審議の公開
    委員会と国交省の関係
    記者会見について
    委員の任命
    委員の間での意見の対立
    上下分離方式について
    永久有料制について
    今井委員長の辞任
    道路関係四公団民営化推進委員会発足の背景
  2 道路関係四公団民営化推進委員会発足の背景
    特殊法人等整理合理化計画について
  3 民営化委員会の前提と制約
  4 現状と展望
    これからの展望
    藤井総裁を巡る問題

U 意見交換
  【織方弘道・有料道路研究センター代表】
  【加藤寛・千葉商科大学学長】
  【角本良平(交通評論家)】
  【松原聡・東洋大学教授】
  【鈴木良男・旭リサーチセンター社長】
  【竹中一雄・元国民経済研究協会会長】



T 田中一昭 委員長代理 報告要旨
はじめに
 今井敬委員長が昨年の12月6日に突如としてお辞めになり、以後委員長代理の私が会議を主催しております。
 今井委員長は「自分の描いた審議の仕方ができないから委員長を降りる」と述べて席をお立ちになり、われわれもみんな立ってお送りしました。さて、私たちの委員会は設置法でつくられているのですね。内閣府の審議会でも、たとえば総合規制改革会議は政令でつくられていて、こちらも初めは政令でつくろうとしたらしいのですが、内閣府に置くためにはそういうわけにはいかなくて、法律で委員会が設置されました。委員長が辞められたとき、委員長代理としてあとをどうするのかという問題に直面しました。設置法第5条の3項に、「委員長に事故があるときはあらかじめその指名する委員がその職務を代理する」とあります。私は今井委員長から昨年6月24日の第1回会議のときに委員長代理に指名されていました。そこで、「この場合は事故にあたるのか」と事務局長に質問しましたら、「これは事故にあたります。委員長代理が委員長の職務を執行してください」ということでした。そういうことで、いま、委員長はおりません。しかし、今井さんは委員もお辞めになったわけではなく、中村委員と今井委員長は委員としてまだ在籍しておられるわけですが、出席はしておられません。したがって、12月6日以降は7人のうち5人だけで会議を開いているという変則な状況となっております。

1 道路関係四公団民営化推進委員会の発足から答申まで
委員会の特徴
 委員会は昨年の6月24日に第1回会議が開かれまして、12月6日に答申しました。この間、会議は35回開いております。1回最低でも3時間半くらいやるのですね。その間に2日続きで2回くらい集中審議をやっておりますから、半年間にトータルで150時間やっている計算になるそうです。会議は長くやればいいというものではないのですが、週2回の会議は緊張の連続でした。かなり気を使って発言しないといけないし、黙っていると賛成したものと取られてしまうのですね。反対といわない限り黙っていれば賛成だというひとがおりまして、そのため、彼の発言についていちいち「反対」といってからかったこともありました。このようなおかしなことが委員会ではたびたびありました。
 委員会で最初に決めたことは会議の公開です。事務局の案は原則非公開にするというものでしたが、ややこしい問題のときはむしろ公開したほうが円滑にいくであろうという信念を私は持っておりまして、今回の委員会ではそれを実行しようと思い事務局にあらかじめいっておいたのですが、幸い猪瀬さんが「公開すべきだ」と言い出しまして、大宅さん、松田さん、川本さん、それから中村先生も賛成してくれました。委員長は逡巡しておられましたが、7人のうち6人が公開すべきだというものですから、公開になりました。

審議の公開
 公開でやるということで、記者が40人くらいやってきたのですが、全部入れないですから各社1人ということで、別室のモニター室を用意して入れないひとはそちらで聞いてくださいということになりました。それから、今井委員長や松田さん、猪瀬さんのスタッフが来ますし、今日お見えになっている織方さんだとか、屋山太郎さん、吉田耕三さん、桜井よしこさんなども是非聞きたいということで来られます。そういうひとたちも席の制約はありますが、自由に聞いておられます。それによって、一種のワイドショーのようになってしまいました。テレビは冒頭に入るだけなのですが、ワイドショーのように賑やかにやらないといけないと思い込んでいるひともいて、今井委員長も大変だったと思います。
 私などはどんな審議会でも発言したいときは委員長に了解を求め、指名されてから発言するというルールが黙っていてもあるものだと思っていたのですが、ヒアリングしていると委員長の了解を得ないでどんどん聞いていくひとがあり、委員長が「それはあとにして」というようなことを一、二度いわれたこともありましたが、それを無視してやるものですから、一度無視されると以後無視されるのですね。そういう意味では今井委員長も苦労されました。審議のルールがきちんとしておらず、自然体で進んだということかもしれません。議論が委員同士や、ヒアリング相手(道路局長や公団の各総裁など)と委員との自由なやりとり、事務局が口を挟むと怒られたりと、委員長も事務局も大変だったと思います。

委員会と国交省の関係
 この委員会は内閣府の審議会なのですね。ということは、内閣府の仕事でないと内閣府の審議会では審議できないわけです。実際、内閣府設置法を読んでみると、内閣府というのは、基本的には、従前の総理府の所掌事務と経済企画庁の所掌事務をそのまま持ってきただけであって、各省全体の上に立って全省のことをやるという所掌にはなっていないのですね。そこで、道路関係四公団民営化の調査審議という仕事を内閣府の所掌にまずしなければならない。そのためには、法律で内閣府の仕事だというようにしなければいけない。道路の仕事は黙っていると、国土交通省の仕事なのです。
 したがって、道路四公団改革法案作成の仕事を委員会事務局がやろうとすると、法律上委員会がやれるようにしなければならない。中央省庁の改革関連法案などは事務局が全部つくりましたが、それは、中央省庁等改革基本法の中に、改革推進本部が置かれ、事務局も置くと書いてあって、中央省庁の改革については改革推進本部(したがってその事務局)でやると書いてあるのですね。
 小泉さんが意見書に基づく措置を扇国土交通大臣に丸投げしたのはおかしいと私に意見を下さったひともいるのですが、しかし、それは違っていて、扇さんにやってくださいといったけれども、本来答申を受けて法律をつくる、あるいは具体的な措置を講ずるというのは国交省の仕事なのですね。小泉さんが扇さんにいったのは、あなたのところの仕事ですから、しっかりやってくださいという程度の話なのです。その発言によって、国土交通省に仕事がいったと考えているひともおりますが、それは間違いです。

記者会見について
 当初2回くらい、会議のあとで今井さんと私とで記者会見を行ったのですが、それが委員会で大問題になりました。つまり、今井さんと田中だけが自分たちの考えをいうのはけしからんというわけです。記者さんに審議を公開しているわけですから、会議の経過は「皆さんお聞きの通り」ということになるわけで、今日の話で何が大事だったのか、これから先どうなるのかという話にどうしてもなります。委員長としても個人的な見解ですがと断りながら、お話しせざるをえません。それがほかの委員の考えと違う場合もあります。それに対して、委員全員が記者会見するのはいいが、委員長や委員長代理だけで記者会見するのはけしからんというややこしい話がありました。そのときは、さすがに紳士の今井さんも怒りまして、それなら記者会見は止めたとなりました。それでいちばん困ったのは実は新聞記者なのですね。新聞記者は記者会見してもらったほうが書きやすい。3時間半にわたる議論を何が大事か、大事でないのかなかなか分からないですよね。ましてや官邸詰めの記者が中心ですから、経済のことや道路のことは分からない、議論の内容が分からない記者もいるわけです。あらかじめ勉強してくればいいのですが。
 通常だとレクチャーしてくれるわけですから、大体どの新聞をみても同じことが書いてあるわけです。しかし、今度はバラバラで違うのですね。夜中の12時頃になると、各社の記事が分かるのですが、「なぜうちの記事にはこれが載ってないのだ」と記者が怒られたり、記者が差し替えになったりもする。まず社内で競争が起き、次に各社同士で何をメインにどう書いていいのかとなるわけです。だから、記者がいちばん困ったのです。これは記者がそういっておりましたから間違いないでしょう。そういう競争を導入したという意味では、非常に画期的なやり方ではなかったかと思います。

委員の任命
 委員のみなさん、総理大臣から任命されて委員になっているわけで、どの委員も総理から頼まれて委員になったのだ、今井さんだけが偉いわけではないという話になるわけです。今井さんがどうして選ばれたのかというと、どの審議会でもそうですが、誰かがサクラになって推薦する。法律に互選すると書いてあるわけですから、みんなパチパチで済むわけです。ただ、この互選というのがどの審議会でもそうなのですが、私は基本的におかしいと思っています。審議会というのは、土光臨調のときもそうですが、総理、あるいは各省の大臣にとってみれば、政治生命がかかっているわけで、それでお願いしているわけですから、委員長というのは総理または大臣の任命でいいと思うのですね。
 委員長が辞任されたときに、委員長になりたいひとがいるわけです。内々互選すべきだというひともいましたが、私は今申し上げたような理由で、法律に規定があるからといって、改めて互選することには反対だと主張しました。そんなことをしたら、そんな非常識な連中がつくった意見書かという話になってしまうのではないかと。
 なお、事務局には30人近くおりましたが、3分の2が旧建設省からの出向ですね。このように事務局は構成されています。

委員の間での意見の対立
 中間整理までの間は、新聞等ではどちらかというと委員の間での議論、対立が多く取上げられました。基本的な見解が違っている。まず、高速道路というのはそもそも国のものであるかどうかという話なのですね。国のものであるとの認識に立っての民営化となると、新会社は国から借りるしかない。その国にあたるものが、保有・債務返済機構という独立行政法人なのですが、そこから借りるという方法しかないわけです。つまり、新しい民営会社というのは、道路資産を借りて事業を行う会社だと考える。こうした考え方に対して、新幹線だって同じことではないか、なぜ高速道路が(最終的に)国のものでなくてはいけないのかという議論をまず行わなければならないわけです。

上下分離方式について
 鉄道の場合には、イギリスのように、鉄道線路とその上をオペレートする汽車とを別の会社にやらせるやり方がある。そういう議論を小坂徳三郎さんが運輸大臣のときに、臨調が答申を出す直前に意見として持ってきたことがあります。これが上下分離論なのですが、そのときの議論を思い出すと、事故が起きたときの責任が、上を走る方にあるのか下の線路にあるのかという問題があります。もうひとつ、技術開発していくのに上も下も同時にやらないと駄目だという考え方で、臨調第4部会では何の反対もなく上下一体で考えました。
 道路の場合はどうなっているのかというと、上を走っているのがトラックだとかマイカーで、初めから道路と上を走るものという考え方からすると分離になっているのです。ですから、道路の場合の上下分離論というのは、下の道路施設の所有を国にし、それをオペレートする会社を別にするという考え方と、所有も運営もひとつにするという考え方との違いなんですね。
 もうひとつ。料金が入ってきますと、その料金を使って従来ほどではないにせよ、道路を建設したいというのが、今井さんと中村さんの考えなのですね。猪瀬さんも初めはそれに乗っていたのですが、途中から風向きが変わりました。それだと、いまの公団と変わらないわけです。料金の一部を道路の建設費に回すということができれば、道路族にとっては楽なわけです。自分の財布の中から建設費を回せるわけです。私はそうではなく、いったん会社が借りた金は基本的に40年、50年でもいいのですが、固定して元利均等で毎年返していくべきで、返したあともゆとりがあれば、経営判断で新規の借入金と合わせて建設するのかどうするのか考えればいいとの考え方です。そもそも、料金の中からいくらか建設に回せばそれだけ返済期間が延びるわけです。高速道路は名神ができたときから30年経ったら無料にするとなっていて、平成7年頃まで30年だったのですが、ここ8年くらいの間に40年、50年となった。料金を上げなければ期間を延ばす以外ないですね。返済が50年となっているのはそういうことです。いまでも世論調査をすると、安くしろという意見が多い。また、外国で生活したことのあるひとたちは、先進国はみんな無料で、料金を取っているのは大体発展途上国だ。日本は高速道路では、イタリア、メキシコ、スペインのように発展途上国だといいます。

永久有料制について
 私たちの委員会には初めから制約があるのです。設置法を見ますと、前年12月に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画に基づき、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団に代わる民営化を前提とした新たな組織を考えることになっています。民営化を前提とした議論するときに、永久有料制にするのかどうかということで委員の意見が割れました。50年経ったら無料にするというのがいままでの考え方ですが、自民党の方針ではそこをあいまいにしていて、50年経って管理費をどうするのかは今後の検討にゆだねるとしています。
 どうして今後の検討にするのか。永久有料制にすると直ちに固定資産税がかかるのです。50年先でも、100年先でも無料にするといっておきさえすれば、総務省は固定資産税をかけない。それで、私が「49年くらいまでは無料にするといっておいて、49年目になって最後の1年で来年有料化するといったら、それまでの固定資産税はどうなるのか」と聞くと、「そんないじわるな質問をしないでください」といっておりましたけども、そういう話になるわけです。今井さんは途中で「この問題はペンディングしましょう」といい、今井委員長がおられた間はペンディングになっていたわけですが、それは固定資産税の問題があったからなのですね。
 意見書では、道路資産は最終的に民営会社の所有になるわけですから、初めの10年が過ぎたら永久有料制となります。そうなると、固定資産税がかかってくる。公団とか道路局の発想で面白いのは、税金を払うことを「収益が流出する」ということです。税金で取られることが悪であるような発想で、私などは国家の収入になることだから、民間会社が税金を払うことはいいことではないかと思うのですが。料金の問題についても、独立した特別会計みたいなものを作りたいのです。会社が借りた金を料金で返済し、料金収入の一部を新規建設に還流させれば、誰にも邪魔されずに公団と国交省だけで道路を建設することができるわけです。ところが、税金も払い、別途建設費は賄うとなると、そのための努力をしなくてはいけないわけです。
 結局、それはいまの公団と変わらない。何のために民営化するのかということになる。いまの国交省の発想というのは、形だけ民営にして、規模は若干縮小するが、基本的にいままで通り料金の中から建設するというのが本音なわけです。結論を先にいえば、看板だけ書き換えましょうということです。

今井委員長の辞任
 中間整理するときの審議の仕方についても、ある日突然、建設費を料金から回すという、いまと全く変わらないあるひとの案が出てきた。その資金を受けて道路建設する民間会社と、負債と資産を有し新会社に資金を提供する保有・債務返済機構という、いまの公団を2つに分けることと同じことになる案です。極端にいうと、2つに分けていかにも民営会社をつくりましたという格好をしようというわけです。それで、中間整理では、機構が貸付料として吸い上げた資金から新会社に補助する格好になっている。ある日突然出てきて、大体3時間半も議論していると疲れが出ているときに提案され、それが通ってしまった。そのときに、それがおかしいといっていたのは、私と川本さんだけで、「中間整理」の内容には反対だが、多数が賛成なら総理のところに提出するのはかまわないということで納めてきたわけです。
 ところが、12月6日の取りまとめのときは、今井委員長だけが自分のご意見をピンで留めたかのように変えない。多数決をすれば5対2と明快なのに、多数意見に賛成しない。そこで、松田さんが、政令に可否同数のときは多数決と書いてあるのではないかと言い出した。確かに政令に書いてあるのですが、これはもともと猪瀬さん対策のために設けたらしいのですね。ところが、それがとんでもないところで効果を発揮した。委員長とて頑なに自分の意見に固執されると、採決する以外にないわけです。辞任の際の今井さんの言い方は、「多数決を取らないということで運営してきたが、私の審議の方針がみなさんに否決され、不信任された」というものでした。

道路関係四公団民営化推進委員会発足の背景
 道路の民営化の話は急に出た話ではなく、前々からあったのです。森内閣のときなのですが、2000年12月1日の行政改革大綱で冒頭の5ページを費やして特殊法人の問題を取上げました。ほかに2001年1月から再編される中央省庁についてこれから整備すべき事項、公益法人の問題、公務員制度など、洗いざらい行革のことが書かれました。特殊法人については、廃止、民営化も書いてあって、しっかり精査するということが書いてありますが、個々の法人について何をどうするのかは書いてない。この大綱を受けて、2001年12月に石原行革担当大臣になってから、特殊法人等整理合理化計画を閣議決定しました。小泉内閣が2001年4月26日に誕生し、それ以降特殊法人等整理合理化計画の策定に向けて作業が着々と進められていたわけです。
 いい加減な計画だとの声もありますが、私の経験からすると、特殊法人改革ではこれまでのそれとは大いに違います。どこが違うのかといえば、まず、合理化計画のスケールです。163の特殊法人・認可法人のうち共済組合などを除いて118について改革案を書いた。そして、小泉総理は、廃止・民営化を基本に置いた。石原大臣の前任は橋本行革担当大臣でした。いうまでもなく橋本さんは自他共に認める行革のプロですが、行革推進事務局に、公務員制度改革、公益法人、それから特殊法人の3つのことをやらせました。彼がいちばん力を入れていたのは公務員制度改革かと思います。特殊法人改革については、大綱にはいろいろと書いてありますが、独立行政法人に持っていければ成功ではないかと考えておられたふしがあります。独立行政法人にすれば、3年から5年間に所管大臣がこういうことをやりなさいと目標を指示して、それにしたがって独立行政法人は中期計画や毎年度計画をつくる。それに基づく成果を第三者評価委員会が評価して、毎年公表する。委員も誰が評価したかも公表する。それを総務省の評価委員会がもう1度チェックする。その白書的なものがこの間出たのですが、通則法ができて横並びのチェックができるということで、かなりの改革になると考えたわけです。しかし、これから気をつけないと、独立行政法人は特殊法人と変わらないという事態に陥ることも十分に考えられます。この特殊法人等整理合理化計画の中に当然のことながら道路関係四公団のことについても盛り込まれております。

2 道路関係四公団民営化推進委員会発足の背景
特殊法人等整理合理化計画について
 特殊法人等整理合理化計画の関係部分をざっと読まれれば、もっともなことのように思われますが、非常に不思議な文章もあるのですね。たとえば、1の日本道路公団の(2)のCに「新たな組織により建設する路線は、直近の道路需要、今後の経済情勢を織り込んだ費用対効果分析を徹底して行い、優先順位を決定する」とあるのですが、誰が判断するのか、「新たな組織により建設する路線」が主語ですよね。それと、民営会社なら当然に採算のことを考えますから、Cのことはいらないですよね。本当の意味の民営会社をつくろうと思ったら、「道路需要」を考えないでつくる馬鹿はいませんし、「経済情勢を織り込んだ費用対効果分析を徹底して行い、優先順位を決定する」というのはあたり前の話です。あえてこのCのように書いているということは、閣議決定した当事者自体がどうにでも読めるように、民営化でもいろいろあるよと。特殊法人を名前だけ株式会社にすればいいのだというのも特殊法人の民営化の中に入りますし、この整理合理化計画をつくった事務局は民間法人化も民営化に計算しています。
 ですから、この特殊法人等整理合理化計画をひとつひとつ読むと、何か変なのですね。今井委員長は第2回目の会合以降ことあるごとに、「総理から閣議決定に従ってやってください」といわれたといって、文理解釈をいちいちやり始めるわけです。@「国費は、平成14年度以降、投入しない」などは分かりやすいですね。しかし、これは道路公団についていってあるのに他の公団にも拡大して適用すべきだというひともいました。それからD「その他の路線の建設、例えば、直轄方式による建設は毎年度の予算編成で検討する」については、採算性をわれわれはいうものですから、民営化ということになると会社が道路をつくらないということもあるだろうし、国としてつくらないといけないこともあるだろうからということで、今度新直轄方式というのが法律でできましたが、閣議決定の時点ですでに予定しているのですね。現在、道路公団が無料で、つまり国・地方の負担なしでつくるのですが、95%国が出して5%公団が出して作る合併方式と称してやっているものもあります。直轄方式というのは、会社がつくらないときにどうしても国が必要なときは国費でやる。そのときに地方に4分の1負担させようということで、そのための法律がこの3月に成立したのですが、そういうことが2001年の閣議決定の時点ですでにできていたと考えられます。
 ただ、新直轄方式というのはなかなか動かないと思うのですね。新しくできる民営会社も道路をつくらないわけではないのです。採算の取れる道路だってあるわけですから。また、例えば、建設に1000億円かかる道路にすでに900億円投入されているとします。それが500億円しか儲からないとしても、あと100億円投入すれば、500億円儲かるわけですから、採算が取れないからといって投資しないわけではないと思われます。民営会社がどこまでやるのか、民営会社の幹部がどういうひとでどう運営するのかは、これからの話です。ところが、新直轄方式というのは民営会社がやらないことをやりましょうということですが、新会社がどれだけやるのか分からないのにどれだけ直轄でできるのか。地方の要望が強いそうですが、本当は民営会社がやるであろうところまで優先順位を決めて直轄方式でやる。まだ今年も来年もあるから精一杯公団のときにやっていくという発想です。民営化までは凍結するという発想がなく、とにかく事業量を確保しようとしているとしか思えない。とはいえ、直轄方式が導入されたからといってどのように活用していくのか、いまだに国土交通省の誰に聞いても分かりません。非常にいい加減な制度ができてしまった。国会でも、こっちから議論を巻き起こすこともないので、参考人で呼ばれても、直轄方式を導入しろとだけいっているわけです。

3 民営化委員会の前提と制約
 よく地方へも行脚させられましたが、県知事以下地元の大学の先生まで、高速道路をつくらないというのは国が約束を守らないということだと主張される。確かに9342キロというのは整備計画ですが、その中の9064キロばかりに国が道路公団に命令を出している。それから、プール制、償還方式は維持すべきであるという。プール制は昭和47年に考え出したのですが、それまでは路線ごとに30年経ったら無料にしますといってきた。ところが、昭和47年になって、早くできたところが無料になるというのはおかしい。遅れたところはコストが高くて償還に手間がかかる。それでは国民の平等意識に反するという議論がありまして、全部プールして均等にしていこうという話になりました。要は返せばいいのだ、借りた金を30年で返せばいいのだということです。このプール制を止めることに対して、地方に行けば、裏切られたといわれるのですね。ところが、プールというのは、水がいつも入っていないといけない。抜ける水が多ければプールの水が減ります。そうなると泳げなくなります。そのようなプール制を維持しても意味がない。
 また、償還制を維持しなさいとなると、30年が50年になったわけですから、100年先になるかもしれない。いま、族議員のひとが長生きされても100歳以上はなかなか生きないわけで、無責任そのものです。それで、待たされて待たされて100年先に無料になるのかもしれない。しかも、その利子がいくらで交通量がいくらとつじつまが合うように、机上で計算しているわけです。1%違ったら、4〜5000億円違うのにもかかわらずです。
 道路公団の問題が国民からどうして注目されたのかというと、国と地方と合わせて700兆円の借金がありますが、あれと同じ無責任体制に公団がなっているということだと思います。40兆円以上の負債がありますが、それが逃げ水のように50年先に行くわけです。新しい道路をつくればまた借金が増えますから逃げ水なのです。問題が顕在化すれば、そのときの政治家と役人が考えればいい。いまの国債残高もそうで、そのときの政治家と役人が考えればよくて、いまの景気のために使えばいいのだというように、まともな政治家がほとんどいないわけです。それと同じ体質を道路の問題が内包しているということを国民は肌で感じたのではないか。それとオープンにしたことで、ワイドショーのように面白いということになった。
 また、このひとだけは入れるなというひとを小泉さんは入れた。設置法を通すときに、猪瀬だけは入れるなと族議員は小泉さんに言っていたようです。私からすれば猪瀬さんというのは柔軟なひとで、国民がこっちに動けばこっちに行かれるわけで、非常に世論を気にされるひとです。意見が変わっても、初めからその意見だったという感じで話されますから迫力があります。私などは気がとがめて同じことしかいえませんが、そういうところは相当な素質だと思います。自民党はああいうひとを排除するのではなく、取り込めればいいと思うのですが、彼らがこのひとだけ入れるなといっていたひとを小泉さんは入れたわけですから、それは視聴者には面白いわけです。だからこそ、猪瀬さんで感心することは、「この委員会は私が背負わないとどうにもならない」といってスタッフを使って一生懸命やっていることです。私などとても勉強になります。そういうことがあって、この委員会は賑やかになりました。

4 現状と展望
これからの展望
 嵐のような半年だったのですが、その後、委員会は月1回ないし2回開催しています。嵐が去ったかのようにみなさんも忘れたような状況のなのですね。水野清先生なども「あれは失敗だった。誰もやらないではないか」といっているわけですが、そんなことはありません。規制改革会議の宮内義彦議長がいっていたように「遅々として進んでいる」。公開していたことのおかげで、政府は意見書と違うことがなかなかできません。政府には説明責任が課せられているのです。新聞記者もみんな知っていますから、意見書に書いてあることと違うことをやるとなると、政治家でも国土交通省でも道路公団でも自分たちで説明しないといけない。私たちも説得されなければいけない。私たちには政府の対応を監視する役割があって、委員会に勧告権がありますから、意見書で言った通りにやってくれなければ文句をいわなければいけない。

藤井総裁を巡る問題
 監視の仕事は法律に基づく権限ですからやっていますが、ここにきてまた賑やかになってきました。それは藤井日本道路公団総裁のおかげです。あのひとは結局、嘘としかいえないことをしでかしたために、そこにフォーカスしたのですね。国鉄のときもありましたね。嵐が通り過ぎるのを待っていればよい。中曽根内閣がずっと続くわけではない。全部の法律はつくれない。あれは当時の国鉄の太田理事だったと思いますが、そういう発言をした。それが新聞記者を通じて総理の耳にまで届いてしまった。嵐が通り過ぎるまで待てばいいという同じような発想が、道路でもあるのですね。それで、形だけの民営化にすればいいのだという、太田さんほどひどくはないのですが、法律はできてもいいから中抜き、骨抜きにすればいいという発想ですね。4月16日に顧問と秘密の会合をやったらしいのですが、その1カ月後の国会で問われても、記憶がないというわけです。
 このように、去年からいろいろな情報があちこちから漏れてくるのです。こういう情報が出てくるのは片桐一派の仕業に違いないと思い込んでしまったのですね。片桐さんというのは若いひとから慕われる男で、若い人を育てるのがうまいのですね。仕事を任せてあとで報告を受けるひとですから、若いひとは仕事をさせてもらった気になる。それでいろいろな情報を彼は持っているのだと思います。邪魔だからフランスに勉強に行けとかいわれたそうです。とにかく彼も含めて彼のグループは公団の財務に詳しいといわれています。ですから、彼をどこか遠くへ飛ばせばそれほど情報が漏れないだろうと発想したのだと思います。それで、6月1日と15日に、大体人事をやる時期でもないのに片桐さんや彼のかつての部下を地方に異動させてしまった。『選択』の問題などで頭にきたのですね。
 それから朝日新聞が幻の財務諸表をすっぱ抜きました。桜井よしこさんも週刊新潮に書いた。早稲田の加古先生という会計学の専門家に財務諸表のお墨付きをもらったのですが、実は数字も見せられないでやっていて、その後先生ご自身も公団に対して不信感を持つようになったようです。このように、大急ぎで新たな財務諸表をつくって、6月9日に公表した。われわれ委員会には9月といっていたのですが、扇大臣が急がせた。
 道路公団には資産台帳があって、どこにどれほどの面積があるということは書いてある。ほかの3公団については取得価格の記録はあるのですが、道路公団だけは取得時の価格が全く分からない。ただ、補償費は分かっているのですね。そこで、財務諸表をつくろうにもつくれない。民営化するということになると、資産評価が重要なファクターになってくる。それで、プロジェクトチームを立ち上げて、若いひとたちが委員会の始まる前から、資産をどう評価するかという「勉強会」をやっていたわけです。その結果が、「幻の財務諸表」ということになって、資産の評価でもダンボールいっぱいあるくらいのペーパーです。実は今日これから記者会見するそうですが、総裁はないと国会でもいっていたのですが、だから、「幻の財務諸表」といわれていたのですが、それがコンピュータの中から出てきた。全部で40人の関係者がいて、そのうち事務担当者が20人で、あとの20人が管理者なのですが、その20人の中の4人が財務諸表をつくりましたと証言しているのですね。それから、7人がそういうものがあるというのは聞いたことがあるとか見たことがあるとか発言しています。ところが、総裁も理事連中も見てもいないし聞いてないという。
 プロジェクトチームというのは補佐クラスです。役所でも会社でも、ああいう特別の緊急事態のためにプロジェクトチームができると、かなり優秀なひとたちが集まります。公団の場合でも聞いたところによると、優秀なひとたちを集めたそうです。そういうひとたちがいろいろ勉強し、しかも支社を使って資料を出させているのです。それを課長レベル、つまり、課長・調査役は彼らから報告を聞いていないというのです。その上は聞いたこともないし、見たこともないと。12月25日に立ち上げて7月まで1度も報告を受けないということは、道路公団は組織の体をなしていない、いったい経営体ですかという話になります。それでも、われわれは知らないと。つまり、課長と課長補佐レベルに責任を転嫁し、彼らの問題にすりかえて、経営幹部は、私たちは知らないという話にしているのです。
 話のつじつまは片桐さんの話のほうがよく分かる。7月10日ごろにつくったらしい。それによると6175億円の債務超過になっている。彼はそれがいいとか悪いと言っているのではなく、隠したことを問題にしている。しかし、経営幹部は債務超過ということに驚いた。いままでと同じように道路をつくれなくなるということになるからです。
 公団では、そういうものは全部ないものにして、新しく加古委員会をつくって、どういう会計基準で評価すべきかということを大急ぎでゼロからやり直ししましょうということになった。こういう作業を始めて、去る6月9日にこれこそが新たな真正の財務諸表でございますとして公表した。ところが、そもそも資産価格が分からないものですから、現在、調達すればいくらになるのかという方式で評価した。しかも、ランダムに抽出して推計したものなのですね。これを自分で正しいといっても、信用できませんから、第三者機関にチェックしてもらわないといけない。しかし、4大監査法人に頼んでも、監査証明は出せませんという。計算が合っているかどうかということならできないでもないということになったようですが、これは監査証明ではないですね。
 いずれにしても、片桐さんのいうストーリーのほうが、そうだろうなという感じになります。びっくりして、加古委員会を立ち上げた。財務諸表がそれほど大事なものとは私たちは加古先生にお願いするまで知りませんでしたという。しかし、2年前から行政コスト計算というのを大蔵省主導でやっている。どの特殊法人も民間並みに計算したらどういう財務の状況になり、国の負担がどうなるのかを減価償却の仮定計算でやってみてくださいといわれ、道路公団もやっているわけです。ということは、民営化前提の閣議決定となったわけですから、いかにその資産を評価し、それを財務諸表にしてみることがどれほど重要で意味があるかということは初めから分かっていることです。それを委員会がスタートして財務諸表の重要性が分かりました、民営化には大事なことです、ということ自体がおかしいということになります。いまや、藤井さんがでたらめをいっているということは明らかです。国会は終わってしまいましたが、小泉さんもなかなか政治家としては戦略家ですから、藤井総裁の更迭をどこでいちばん効果的に使うのかということだと思います。いずれにしても藤井総裁はもう死に体です。私のところにも無名の手紙が来て、公団内は大混乱だということです。財務諸表を作ったあの4人はできるひとたちだと思っていた、こう問題になると、元々応援団でないひとたちからも、「どうも総裁がおかしいという声が高くなっています」という。
 OBは100人委員会を立ち上げられました。私は去年8月、委員会の場で、四公団の内部職員に呼びかけてみたのですが、いまだに組織されていません。それから、おそらく理事の中にも理解しているひとはいると思うのです。しかし、改革気運が封殺されているのですね。
 そういう中で、扇大臣が藤井さんを妙に庇っていること、委員会に提出する資料についていちいち大臣の了解を得ることになっているなど、あれやこれやで民営化作業が進まない。中では進んでいるのでしょうが、われわれのところにはそれが全く見えない。本当に、来年の通常国会に法案が出せるのかという問題があります。この改革の成否というのは、国の財政にも大きく影響してくる問題で、単に小泉行革が成功するとかしないとか以上の問題をはらんでいると思うのです。国鉄改革の時には、加藤先生のおかげで21、22年前に整備新幹線は凍結ということを臨調答申に書いたのですね。ところが、私と川本さんがそれを主張しても皆さんが書かせてくれない。よく賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶということがいわれますが、その両方からも学ばないというのがいまの状況なのだというのが、私の締めです。


U 意見交換
【織方弘道・有料道路研究センター代表】
 道路公団OBという立場から、公団改革100人委員会というものを立ち上げて、マスコミに取り上げて頂いたものですから、皆様方もご存知の方もいらっしゃるのかと思います。もともと道路公団に30年勤めまして、そのあと評判の悪い公団の関連会社に10数年おりまして、有料道路一筋で生きてきましたので、老後の過ごし方を考えたときに、ほかに資源もありませんし、私がせっかく体験した40数年のノウハウを誰が引き継いでいくのかを考えたときに、誰もいらっしゃらないのですね。交通経済学者の方はいらっしゃいますが、有料道路という観点から物事を考えている方がおられない。そこで、私が細々でもやろうかということで、個人の活動ですが、名前だけ「有料道路研究センター代表」という名前を僭称いたしまして、ホームページを立ち上げるなど活動を始めました。そうしましたら2ヵ月後に小泉内閣ができまして民営化という旗が立ってしまいました。私の感じからしますと、まだ道路公団問題の所在もはっきりしないうちから結論が先に出てしまったという、問題点の把握がないままに結論があるというのがこの委員会の最大の問題ではなかったかと思います。
 そういうことで小泉内閣の公団民営化の議論が始まったものですから、私のほうでも最近ではもっぱらこの公団民営化問題に集中するようになってきました。そういう中で、片桐さんの左遷問題が表に出てきたときに、この問題をそのまま放っておいてもいいものなのかという疑問を持ちました。公団在職中は、私はどちらかというと管理者側におりましたが、その対極にいました労働組合の委員長など団体交渉の相手に座っていた連中の中に、道路公団の将来はどうなるのか、われわれの雇用はどうなるのかという観点から活動していた連中に数ヵ月前に呼ばれまして、この問題をどう考えればいいのかという話をする機会がありました。片桐さんの左遷の話が出たときに、「この問題をどう考えているのか」と尋ねたところ、「われわれの間でもいろいろ議論になっています」ということで、何日か経って、「それでは一緒にやりませんか」ということになり、100人委員会というものをスタートさせました。OBのわれわれの年代で関心のある方にお誘いをかけて、スタート時点で80人か90人くらいしかいなかったのですが、いまは125人ほどになっておりまして、いまや100人委員会の実は伴ったかと思っております。
 問題は公団の民営化のあり方についてはそれぞれバラエティに富んでおりまして、そもそも民営化委員会の考え方はおかしい、民営化などは考えるべきではないというひともおりますし、私などのように委員会の結論よりももっとしっかりした民営化をやるべきだという意見も含めまして、公団の民営化に対する考え方はかなり幅がありますが、少なくともいまの公団の総裁を筆頭とする隠蔽体質といいますか、そういうものは放置するわけにはいかないのではないかという一点でまとまっていこうということで活動を始めたわけです。
 たまたま7月10日に、公団の現職職員にビラ配りをして、その日に総裁に反省を求める文書を提出したわけですが、その日に片桐さんの『文藝春秋』の論文が発売されたものですから、それの相乗効果で大変皆様方の脚光を浴びたのですが、われわれが行っていることは極めて地味なことでありまして、それほどの大きな力を持っているものではありません。ただ確かに、公団の退職後もまだ飯を食わしてもらっているのに、なぜ公団に逆らうのだというひとがたくさんいますが、そうではなく、せっかくわれわれがまがりなりにも、最近はちょっとおかしくなっている分がありますが、いずれにしてもいままで築いてきた道路公団の歴史を汚すようなことが堂々と行われていることについては、看過するわけにはいかないのではないかということで、細々と発言しておる次第であります。
 実は、有料道路研究センターを初めてすぐに、朝日新聞の「論座」という雑誌に論文を発表させてもらいました。「高速道路の建設続行は幻想だ」という表題だったかと思いますが、このときに道路公団の片桐さんを主体にする改革の若手の連中がいままで勉強したデータを持っておりまして、それを主体に私が脚色したというか、最初と最後だけを書いたという感じのものでしたが、そのときから公式にいまの公団の改革派といわれるひとたちとの接触が表向きに始まりました。それまでも非公式に話を聞いたり、私のホームページの宣伝をしてもらったりということがあったのですが、いまでも片桐さんが左遷されたあとでも細々と公団の現状について連絡をさせて頂いております。
 最近の公団の状況は藤井総裁の意向を受けた秘密警察のような体制ができているようで、情報が漏れるたびに犯人探しがあるというようなことで、連絡を取るのもままならない。電話でも昼間は無理なので、夜になって家に帰ってきたからだとか、インターネットのメールのやりとりといったようなことでつながっておりますので、本当の意味で公団のいまの中の状況がどうなっているのかは私もよく把握できていないのですが、田中先生のほうがかなり多くの公団職員から直接の手紙などを受け取っているようですから、正確な情報をキャッチしているのではないかと思います。
 ただ、いろいろなひとが左遷されて地方に飛ばされると、いままで現場のひとは中央の動きを知らなかったということがあったらしく、それをきっかけに「そういうことだったのか」とようやく分かりだしたということが、いまのようでございますので、あと1ヵ月先になるのか、2ヵ月先になるのか、小泉さんに決断して頂いて、トップが替わればかなり改革への動きが加速されるのではないかと期待しております。

【加藤寛・千葉商科大学学長】
 昨年の集中審議のとき、8月7日か8日に、田中さんが道路公団の若手職員の皆さんにどうしたらいい民営化になるのか自分たちの意見を聞かせてくださいというペーパー出したが、反応がなかったということでしたが、職員はそうだとして、委員会でも反応がなかったのですか。

【田中】 委員会でもそれきりです。

【加藤】 委員のひとたちはそういう気持ちが何もないのですか。

【田中】 いまは分かりませんが、そのときは「何をとぼけたことをいっているのか」という感じでしたね。そんなことはあたり前のことだと思われたのかもしれません。

【加藤】 過去のことになりますが、最初に道路公団民営化推進委員会が出発したとき、松田さんが中心になって藤井さんの更迭を求めましたが、私はそのときは新聞にも書きましたが反対でした。「更迭を求めてはいけない。なぜなら更迭を求めれば必ず松田さんが味わったことと同じことを味わうひとが出てくるのだから、絶対やらないほうがいい」ということを主張しました。しかし、どうもその意味が伝わらなかったようです。会社でもそうですが、改革をするときには悪いひとが必ずいて、そのひとを更迭させたくなりますが、悪いひとはいたほうがいいのです。悪いことがどんどん分かってくれば当然更迭しなければいけなくなるのです。それは自動的なのですね。
 このようにそのときは私も反対したのですが、いまは逆です。いまはこうやって片桐さんが左遷されたということが明確になった以上は、更迭を求めるのがあたり前ですね。この間、委員会が更迭を求めましたが、更迭しないといけない。ほかのことをやっては駄目です。まだ更迭の問題が出る前には、委員会のやることはとにかく意見をまとめてみんなが同じことをいうようにしなければならなかったのですね。多少はまとまらないひとがいましたけど、それはそれなりに飲み込んで共通の地盤をつくってしまうことが必要だと思っておりました。そういうことがなかったので、私は更迭に反対でしたが、いまは更迭が大きな問題になってきたのですが、ここはほかの民営化の問題は捨てて、なしにして、それよりは更迭だと委員会が一本にまとまることが必要です。今井さんや中村さんは別ですが、ほかのひとは多数いるのですから、まとまらないといけません。

【田中】 7月24日か25日の委員会で、総裁の更迭を求めるというペーパーを書いてみなさんの意見集約をしたので、国交大臣に送ってあります。

【加藤】 それは小泉さんも知っているのですか。

【田中】 失礼しました。総理、官房長官にも送ってあって、当然ご存知のはずです。

【加藤】 それなら、3ヵ月以内に更迭を実行しないといけない。中曽根さんもいろいろ問題はあったけれども、偉かったのは、あのことを知って行動に移った。

【田中】 後藤田さんと中曽根さんはいいパートナーで、後藤田さんはあれを見た途端に怒ったのですね。

【加藤】 今度の内閣に怒るひとがいるのか。これだけのことがあって、なお知らない顔をしていたら、先ほどいろいろ戦略があって、いろいろと戦略的なことが考えているのだろうとおっしゃっていましたが、3ヵ月経てばもう駄目です。消えてしまいますよ。

【田中】 私自身、長年中曽根さんと付き合ってきて偉いと思ったことは人事ですね。土光臨調に問題を丸投げしていて、それは小泉さんどころではないのですが、一点集中、国鉄問題で、運輸大臣をどんどんそのときにいちばんふさわしいひとを持ってきた。山下さん、三塚さん、橋本さんと、その時点でいちばんふさわしいひとをあてているのですね。ところが、小泉さんが道路問題、郵政問題を大事だとされるのであれば、それにいちばんふさわしいひとをあてないといけない。総務大臣も所掌がたくさんありますが、郵政問題を中心に自分に協力してくれるひとをあてないといけない。国交大臣には女性の人気などそういうことではなく、自分の改革を実行してくれるひとをあてないといけない。そうすれば、うまくいきますよ。
 それから、中曽根さんについて感心したことは、決定的な瞬間に首を切ったということです。中曽根さんは非常に慎重なひとです。その彼が後藤田さんという最も信頼している先輩のリードもあったと思うのですが、断固として国鉄幹部の首を切った。小泉さんにそういうひとがいるのかどうか分からないのですが、そこのところがよく分かりません。

【加藤】 委員会で意見をまとめて、総理に出したと。それで、小泉さんは直接それに対して答えたのですか。

【田中】 12月6日に今井さんがいなくなって、私が小泉さんに持っていかないといけないと思っていたのですが、石原さんが総理のところに持っていった。委員長がいないからということで、石原大臣が頼みもしないのに持っていったのですね。われわれはすぐに記者会見をしないといけなかったので、その間に石原大臣が総理に渡してくれたらしいです。「模様をお話しておきました。ちゃんと提出しておきました」という報告が事務局長からありました。

【加藤】 それから、もう1度行かれたほうがよかったですね。私は見ていて、事務局が相当、委員のひとを束縛している感じがしています。もっと行くべきではないですか。

【田中】 こういうときにホイホイ行くのは、猟官的にとられるので嫌なのですね(笑)。

【加藤】 田中さんは役人の出ですから、ついそういう気になってしまう。そこはやっぱり、やったほうがいいですよ。

【田中】 呼ばれないと行かない。

【加藤】 そう、それが役人の悪いところなのですよ(笑)。でも、松田さんなんかもやる気にならないのですか。

【田中】 やりませんね。

【加藤】 何かそのあたりが理解できませんね。委員の方の意見が一致していないなと。何か別のことがあるのかなと。

【田中】 5人については、一致していますよ。

【加藤】 一致しているのだけれども、少しも表に出てこないと。

【田中】 意見集約するということに誰も反対ないということですよ。

【加藤】 反対ないけれど、それをみんなでいわないといけない。ただ黙っているようではいけない。

【田中】 それでも、みんなの前でいっていますからね。記者会見しなくても、記者の前でいってますから。

【加藤】 やっぱりそれでは弱いのではないですか。記者にとっては、総理に会ったということが重要なのですから。中身は分かっていても、総理にいわないといけない。「総理がどういったのか」について、記者は聞きたいわけですから。そのときに、多少は敷衍して、「総理は決意していますよ」などといったほうがいいですよ(笑)。

【田中】 それは猪瀬さんがやっていますよ(笑)。作家ですから、いろいろつくられますしね。大変だろうと思いますよ。あとで、官邸は一生懸命打ち消していましたけど。

【加藤】 一般から見ると、やっぱり猪瀬さんが一匹狼で、まとまっていないと思っていますよ。代表しているのはやっぱり田中さんだと思っていますよ。そこが全体として弱くなりますよね。

【田中】 まあ、近づかないようにしているのですけど(笑)。しかし、おっしゃる通りだと思います。

【角本良平(交通評論家)】
 私はみなさんと同じように、この改革は是非実現しなければいけないと思っております。田中さんは歴史に学ぶということをいわれましたが、実は国鉄改革の経験から、歴史は消えていくと思っています。消してはいけないので、国鉄改革も誰かが書いてくれればいちばんいいのですけども、国鉄改革の歴史を正確に残してほしいのです。たとえば、具体例でいつも申していますが、JR貨物という組織が誰のアイデアでどういう理由でできたかということは、いまだかつて誰に聞いても私が分からないのです。私が分からないのですから、ほかの方で知っておられるひとは少なくなっているのではないか。
 それと、歴史に学ぶということですけど、道路改革の歴史をおつくりになるときに、次の点だけ是非お願いしたい、入れてほしい。第1点は小泉総理は本当に道路公団改革を望んだのか、望んだフリをしているのかということです。田中さんを含めて6人、これは小泉さんが直接選ばれたのだろう。しかし、委員長は道路族が選んで押し込んだのではないかという噂があるのです。ですから、この噂がいまとなると正しいのではないかと思われる。結局、6人格好をつけたところを1人が押さえつけて、道路族のいう通りにすれば、小泉内閣も寿命が持つという作戦だったのではなかろうかというのが私の歴史の読みです。そういう皮肉な読み方が間違っているのならば、間違っていると書いて頂きたい。私は、それが正しいのではないかと思っております。
 それから、国土交通大臣を替えないのはどういうわけか。彼女はいま、これ以上早くは改革は進められないと、1ヵ月前にいっているわけです。何もしないでブレーキをかけていながら、こういうことをいう大臣を首相がいまだに放りっぱなしにしている。これは大変おかしなことです。
 それからさらにこれに尾ひれをつけておかしいのが石原行革担当大臣であります。これはスパイに情報を流しているようなものですね。ですから、これでは田中さんの努力が報いられない。
 その次に明らかにしてほしいのが、片桐さんという藤井総裁の裏切り者を事務局に入れたのは誰なのかということであります。これは大変奇妙なことで、まず私たちには考えられない。国鉄の例では、運輸省の裏切り者の林淳司氏が国鉄改革の事務局の元締めになったわけですね。これもまた大変皮肉な人事で、実は運輸省としては、あれなら大丈夫だとして送り込んだところが、見事に裏切ったのが林淳司ではなかったか。歴史を書けばそこのところをしっかり書かなければいけない。田中さんならそこのところはご存知だろうと思います。
 というようなことで、歴史を正確に書くべき段階にきた。私は実は昨年10月、加藤先生や織方さんにお会いしたときに、改革の行方についてはタカを括っているという話を申し上げました。加藤先生、織方さんは大変びっくりされたのですが、自分がタカを括っている理由は自分の本でこの間書きました。それは、国鉄改革の経験から見まして、2つの条件がございます。改革が成り立つために、改革案が納得できる案でなければいけない。これが第1点でございます。第2点は、相手が失敗するということであります。いま、この第2の条件が見事に成立したわけです。相手は完全に失敗しました。第1番目の納得できる案は、残念ながら田中さんと違った意見のひとが6人のひとの中にいますので、まあ65点の合格点になるのか、55点なのか、その境をさまよっていると思います。
 いずれにしましても、相手が見事に失敗しつつありますから、改革は必ず成功する。と申しますのは、道路族がいまからネジを巻きましても、予算がとてもつくれないと。この公団のあるうちに毎年1兆円の建設費を出すと狸の計算をしておりますけども、この計算がもう立ち行かなくなったと私は思うのです。この点だけはあとでご意見いただきたい。
 それからこの2つの条件を支えているもう1つの大事な条件がございます。国民の支援でございます。国鉄改革の時も、国民の3分の2が応援していることを、いかに運輸族でもこれを無視することは最後にできなかった。そして、運輸族はある日突然自分が運輸族であったことを名乗らなくなった。ですから、ある日突然道路族が道路族であることを名乗らなくなる、この日が必ず来ると思います。ですから、織方さんには是非とも頑張ってほしい。ただ、織方さんは非常に策略家でありまして、織方さんが100人くらいひとを集めたのがちゃんとNHKの放送に出るわけですよ。それから朝日新聞のほうにもちゃんと出るわけです。というようなことで、マスコミが国民の名の下に支持している状況では誰が何といおうと、必ず成功する。この成功を阻止するためには、相手方が有効な案を出せたら反撃できますが、いまや相手方はそれだけの能力のひとは1人もいない。片桐さんの頭に対して、あるいは彼の1995年からの蓄積に対して対抗できる人材は道路公団の中には1人もいない。私はこう確信しております。ということで、この改革は必ず近いうちに成り立つ。成り立たなければ小泉改革がつぶれるという、どちらかであろうと今日断言します。これが正しかったのかどうかは、また並河さんに席をつくっていただきたいと思います。

【田中】 いまのお話には100%賛成です。国鉄改革の経験からといって、2つの条件をおっしゃいましたが、私たちも常にそのことを念頭に置きました。それから最後に支えるのは国民、世論であるというのもその通りですね。よく瀬島龍三先生が臨調のときに実現可能性ということをおっしゃっていましたが、あのときは「ちょっと無理をいっているからもう少しレベルを下げろ」というふうに聞いていたのですが、諸井さんが地方分権推進委員会のときにも、実現可能性ということで相手が納得しないとできないということを盛んに嘆いておられました。でも、実現可能性というのは、そのレベルを上げるのか下げるのかというのは、世論なのです。国民の支持があれば、できもしないようなことが実現可能になってくるのですね。
 今度の私たちの委員会で際立った問題は、委員長が、私も含めてある意味やくざなひとたちと付き合うのが初めてだったことだと思うのです。どのメンバー見ても、女性2人でさえも、一筋縄ではいかないですよ。通常の審議会は密室で、役人が内も外もセットしてサクラのような質問をさせ事務局が答える。そういう審議会になれておられた委員長ですからある面からいって、お気の毒です。どう処置していいのか、困られたと思うのですね。でも、いままでの審議会が間違いなのですね。そういう意味では、この委員会は、審議会の進め方、あり方について1つの石を投げたのではないかと思います。委員を選ぶときにも、総理や各大臣は相当気を使わないといけない。どこかの団体のひとがどこかの審議会の委員長を頼まれて、「道路の委員会の○○さんのようなひとはいないだろうな」と確認して引き受けられたそうですから、そういう効果があったのかもしれません(笑い)。
 今日の話の中で、1つだけあえて話さなかったことがあるのですが、それはどの改革でも改革のときにいちばん悪いのは財務省だということです。道路公団の仕事、有料道路制度というのは、国の財政が不如意だからということで、昭和30年すぎから借金をしてつくり料金収入から返していく仕組みにした。ところが、昭和30年代の所得倍増をご覧になれば、どんどん自然増収はあるは、国の力もついてきた。所得税率も毎年下げ、特殊法人もどんどんつくるという時代でした。そういうときに、どうして有料道路制度を止めて、本当に無料がいいのなら、無料にする努力をしなかったのか。そのときには、財投を使ってもらうことのうまみを、役人や政治家などが知りだした。役人から見れば、天下りができ、仕事のチャンスができる、ファミリーができますね。政治家はどんどんつくってもらえると。だから、初めに考えた方式をその前提がくずれたときに、原点に立ち返って議論すれば、民営化の話が出たのかもしれない。そういうことを、政治家も学者も議論するということがなかった。後知恵にはなりますが、当時は田中角栄さんの日本列島改造論で国中モノがあふれ、地方鉄道だっていくら敷いても大丈夫だといっていたときですから、景気が良かったはずで、そういうときにこそ、道路を税金でつくるべきであるとするのならば、そのための議論をするべきだった。
 しかし、私は必ずしもそうは思いません。昔は公的な仕事というのは全部、行政機関、公務員がやっていた。ところが、保育所だって公設民営も出てきて、外部委託も出てきた。公益的な仕事であっても、公務員がしなくてもいいと。同じことですね。NTTだってJRだって電力だって、みんな公益的なものですね。でも、株式会社でやって必要最小限の規制法で、チェックして、できるだけ自由にやらせたほうがよくて、役人がやるのがいちばん非効率なのですね。できるだけ民間にやらせて、最小限のチェックをしていくと。都知事の石原さんも偉そうなことをいっていますが、なぜ都営の地下鉄やバスを公務員でやっているのですかと。このように公営企業まで問題にしなければいけないと思っておりますが、その典型が高速道路です。高速道路は外国では無料ですけど、ドイツでも「日本は立派だ」といっているのですね。なぜかというと、日本は受益者負担なのですね。受益するひとから取れれば、受益者負担でやればいいのです。ドイツのアウトバーンは、ロシアのトラックや、フランス、オランダ、ベルギーなどの車が通過して、道路を痛めるのですね。それで、ドイツ人の税金で直している。これにはドイツ人も怒りまして、通るひとから取るべきだという議論がいま、起きています。トラックについては既に取っている。そういう意味からいえば、日本のほうは合理的だと。取り方をもう少し工夫すれば、早く通過できるのかもしれません。それから、どんどん安くしていく。住田さんがいっていましたが、「建設のことを心配しているが、高速道路でいちばん心配になるのは、分割したとしても、儲け過ぎる会社になることだよ」と。だから、いかに合理的な料金にしていくのかがいちばん重要な問題になると注意を受けましたけど、その通りだと思います。
 有料無料という話は、われわれは永久有料というわけですが、管理するのに必ず金がいる。それを税金で見るか、受益者に負担してもらうか。私は可能な限り、受益者が特定できれば負担してもらうべきではないかと。そのほうが健全ではないかと思っています。民主党が無料にするといっていますが、いまの40兆円はどうするのか。700兆円も借金しているのだから、上乗せすればいいという話かもしれません。もうひとつは、全国の自動車の保有者から税金のように取ればいいと。このように、島根県出身の岩国さんがおっしゃる。島根県が選挙区でなくなったから、勝手なことをおっしゃるのか。田舎に行けばいくほど、車が3人家族で3台、4人なら4台いるのです。それにいちいち税金をかける。しかも山陰には高速道路がないのです。乗りもしないのに、高速道路の料金を取るなどという馬鹿なことがあるのかと。「それは地域地域で」というわけですけど、そうすると、徴税方法が使う使わないところを分けて、どこがどうで、何台目は安くするとかというややこしい話になるのです。もうひとつは、山崎さんとかいうひとが40兆円は安い利子のものに借り替えればいいという。それなら、700兆円も借り替えなさいということになる。どうなりますか。郵便貯金なり簡保なり厚生年金の利子をチャラにすることですね。チャラにしてくれますか。いま、住宅金融公庫もやっておりますが、私も家がないときに、われわれの税金から5000億円を一般会計から補助していて、家のあるひとにないひとの税金を注ぎ込むような馬鹿なことがあるかと、大議論をしたこともあるのですけども。

【松原聡・東洋大学教授】
 今回の道路公団の議論で、少しごっちゃになっているのかなと気がするのは、道路公団自体を民営化していくという話と、道路をつくるつくらないという話がどうもどこかでごっちゃになっているのではないかという気がするのですね。今回、評価している点は、私は角本先生とは少し違って、小泉さん自身はおそらく入口の郵貯と出口の道路公団という財投の問題に対する強い問題意識があるということです。両方を何とかしたいという思いは間違いなくて、いろいろなポリティカル・マターでできない。扇さんを切りたいけれども、扇さんを切るのならば竹中もだぞといわれて、それはセットで切るのは嫌で、それなら扇さんを残そうかみたいなポリティカルだったと思うのです。少なくとも、財投の返せないはずの金を借りて道路をつくるのを今回は止めたというのは素晴らしいことで、小泉さんのやろうとしていた入口、出口論のひとつの典型的でですね、これは決定的なところなのですね。税金を使うとなると大変ですが、借りるとなるとものすごく甘くなりますから、それが止まったということは大変素晴らしい。
 もうひとつの、道路をつくるのかつくらないのかという問題になると、実は整備新幹線も同じで、実際に国が金を出せばJRも喜んでつくるわけで、そういう意味で、道路をつくる、つくらないの問題は税金をどこまで入れるかという問題に解消されるのですね。この問題に関して、ここは小泉さんがどうしてもおかしいと思うし、この点を田中さんはどう考えているのかと思うのですけど、必然的に道路の問題をやると、結局高速道路の残ったところをつくるのかつくらないのかとなるわけですが、これは国幹審の問題だと思うのですね。この問題を小泉さんが本気でやろうとしたら、国幹審を自分がトップですから開いて、いままでのをとりあえず凍結、白紙だとして、もう一度議論し直しましょうとすべきなのに、国幹審の計画をそのままにして、公団の議論の中でどこをつくるつくらない、優先順位をどうするという話にしたこと自体がどう考えても筋違いではないか。だから、最初のところで、直轄みたいな話が閣議決定で出ていて、国幹審の決定を覆せないから、民営化してもつくると、そうなると直轄しかないというエクスキューズを最初から入れているのではないか。つくるつくらないの問題では国幹審を開かなかったことがいちばん大きかったと思うのですが、どうですか。

【田中】 松原さんの論理の構成は全くそう思います。ただ、直轄は動こうと思っても動けない。民営会社がどれほどやるのかという話もありますが。そこで、われわれが最大の問題としているのは、9342キロについて残余の2100キロばかりについて、優先度つまり採算性なりB/Cなり外部性などから、順位をつけようということです。これから作る道路は大部分採算割れの道路ばかりですが、悪い中でも偏差値のいいものと悪いものがあるわけです。管理費も賄えないような道路から、それなりに管理を賄えて収入もあげる道路もある。すべてについて優先順位を付けて並べてみなさいと。ウェートについて、採算性を高くする、外部性を高くするなどの説明を国交省や政治家はしなければいけない。それをやっておけば、直轄の道路もどういう順位になるのか。政治家の力の強いところをやるという話ではなく、優先順位を客観的に算出するのです。それを国交省はしたくないらしい。政治に介入してほしいとしか思えない。してあげたという格好にしたいとしか思えない。道路は客観的にいくらでも計算できるのです。順位を付ける基準を中村先生はつくったのですから。それをオープンにすることの政治的反響を恐れているだけなのですね。ですから、直轄するにあたって、客観的な順位をつくって、それを政治が変えるのはいいですよ。ただし、変えるためには説明責任があるということです。
 これからつくる高速道路がどういう状況か、優先順位を決めさえすればよい。決めたものを止めなければいけないという理由は何もない。新たなものをつくろうと思ったら、場合によれば順位が上のほうに行くかもしれない。それから、断っておきますが、私は、高速道路は基本的にもういらないという発想には立っていません。50年前のオリンピックで道路をつくったときに、これほど東京に自動車が増える、道路交通がこうなると誰が予想したでしょうか。このように世の中どんどん変わっていくと思うのです。今井さんや中村さんと基本的に違ったのは、今井さんはもう20年くらいいまよりちょっとくらい下げて道路をつくり続けたいわけですよ。それで、15年か20年で止め、以後は負債の返済に集中すると。負債は長期固定で返すのだから多数派の主張と同じことになるのではないかと。それはおかしい議論です。20年先のある年に急に止められますか。世の中は時代環境で、いまは必要ないけども、ある事情で必要になるのかもしれない。ですから、民営会社にしておきさえすれば、民営会社は採算を考え時代に合わせてやるはずだ。どうしても国が国策上、防衛上必要ならば、優先順位はこうだけれどこういう理由だと説明すればいいと思っています。

【松原】 国幹審があって施行命令があってといういままでの形がある中で、国幹審の決定を変えないと優先順位云々という話になると、下のほうにいくといつまでつくってもらえるのか分からなくて約束違反だという話になる。その元をいったんゼロにして必要なところについては経営的な視点で新しい会社がしっかり決めていくのだとするしかない。

【田中】 われわれの意見に基づいて法律をつくろうとすると、いまのような国幹審はいらない。あってもいいけれども、いままでのやり方を変えないといけない。道路をこうつくりたいといっても、その優先順位さえ役人が計算すればいい。国幹審は決めたものを命令でやるという前提のものですが、今度は命令ではなくなるのです。私は関連法案の1つとして国幹審のあり方が問われてくると思います。

【鈴木良男・旭リサーチセンター社長】
 意外に思ったのは、非常に早い段階で保有債務返済機構というものをつくった。あの発想は何であったのかというのがどうしても分からない。国鉄でやったときに、結局最後に新幹線というものの短期的な金の問題でそういうものがあとで出てきたけれども、先にああいう発想は全然ないですね。要するに、債務をそれぞれの分割会社にどういうふうに負わせるのかということだ。国鉄は膨大な赤字があったわけで、どの分を国が持って、どの分を民間会社が持つという仕分けをしないといけない。そして、それを儲かるところと儲からないところとに仕分けを変えないといけない。国鉄の場合は、どのように地域分割をやっても赤字にならざるをえない会社がある。それはやむを得ない。オペレーションがあるからだ。道路の場合は、オペレーションを誰がやるのかといえばドライバーがやるのだから、タカが知れた話だ。そうだとしたら、債務のぶら下げ方次第だ。私は扇さんの委員会に意見を聞かれたのでそういう話をしたのですが、幸いにしてあのときの私の計算では藤井さんにだまされていたのか、あとの2000キロをやらなければそれほどひどい状態ではない、国鉄とはわけが違う。債務超過については少なくとも道路公団を見る限りない。こうなると、債務のぶら下げ方次第になる。たとえば、北海道だとか九州だとか、儲からないところにゼロの債務をぶら下げれば、償却しなくても済むのだから、そこのところは稼いだだけが稼ぎになる。その稼いだだけの稼ぎで貯まって、それから地方でやってくれとなったら、地方に金を出させて少しずつやればいいのではないか。このような簡単な話なのに、最初から債務返済機構が出てきた。確か、あなたも最初、その機構に賛成している。なぜああいうつまらない考え方が出てきたのか。その後、あなたはその機構について、しまったと気が付いて、つぶそうとしていたけれども、つぶせなかった。どうしてあのようなアイデアが出てきたのか。

【田中】 私自身は清算事業団的なものについては、いるのかもしれないと思っていますが、保有・債務返済機構などはいらない、上下一体で初めからやってしまえという考えです。しかも、分割した場合には収益力が違いますから、収益の調整だけすればいい。借金を背負っていても、返せる範囲内でやればいいので、あとは会社の分け方の問題だけだといっていたわけです。
 新幹線の保有機構をつくったのは、収益調整をやったのです。東北とか上越はつくったばかりで、どれくらい収益があるのか分からない。収益を調整する必要があろうということで保有機構をつくったけれども、結局機構を持っていると問題が出てきます。新幹線から85%収入を上げている東海も新幹線がリースでは減価償却ができない。東日本などは在来線が多いですから、減価償却でいくらでも投資できるのですが、東海はできないということで、結局4年半で止めたのです。ただ、東海は収益力で高いものを押し付けられて買わされた。新幹線保有機構をつくるにあたり、林淳司さんを初め運輸省は保有機構をつくるのに賛成だったようですね。松田さんなどもつくるのに賛成だった。反対したのが東海の葛西さんです。当時から、機構をつくるのかつくらないのかでこの2人は対立してきた。今回も、松田さんは高速道路について、保有機構をつくる方が、当初から会社に負わせるよりも借金の返し方としては楽になるのではないかと主張しました。固定資産税を民営会社にすると、払わないといけない。初めに事務局からもそういう説明があり、毎年5000億円以上の膨大な固定資産税がかかるという話でした。それを保有機構に持たせておけば、かからないという。だから、私は、「固定資産税の話が皆さんのいう通りであるのならば」ということで、条件付で賛成しました。
 もうひとつの理由も、民営会社は10年間くらいで機構から道路資産を買い取り、しかも従来のように財投からは借りないと。しかし、返し方のパフォーマンス、この会社には借金はあるけれども、しっかりやっていける会社だということを10年間で実証する期間とみることができる。10年したら買い戻すことにすると、この10年はいわば若葉マークの期間だと考えてもらえばいいという妥協の結果です。鈴木説に基本的に賛成です。

【鈴木】 こういうものをつくれば族議員の活躍の余地はありますね。政治の狙っているのは、保有債務返済機構は公のものだから、小泉が代わりさえすればやっぱり建設をやる。このような余地があるから、貴重な10年間というのをどうするのか。まだ法律は決まってないですから、機構をなくすように巻き返すのは難しいだろうが、やってくださいよ。まあ10年間とおっしゃったけれども、実にこの10年間が大事な時だと私は思います。

【田中】 私は、小泉さんが再選されれば意見書の通りに進むと思います。されなくても、意見書と違うことをやろうとしても、相当な力がいると思います。

【竹中一雄・元国民経済研究協会会長】
 今井さんは委員長は辞められても、委員は続けているのですか。

【田中】 委員も辞めたいとおっしゃったそうですが、強く慰留されたと聞いています。

【竹中】 ということは、いつも5人でやっているわけですね。残りの2人は有名無実化しているのですね。ずっと長らく必ず欠席されているのであれば、委員というのは内閣総理大臣に任命権があるわけですから、ずっと欠席するひとを委員のままというのもおかしいですから、内閣総理大臣が今後の状況を考えて、1人は民営化の法律をつくるうえで貢献しそうな専門家のひとと、もう1人は世論に強くアピールするひとの2人を差し替えるように内閣総理大臣に要求するのが委員長代理のお仕事ではないかと思うのですが、どうですか。

【田中】 現状がいびつな運営であり、おかしいということは私も内々申し上げております。しかし、思うに、小泉さんからすると、いまは我慢してくれということだと思います。

【司会】 最後に、年度内の大体のタイムスケジュールを教えてください。

【田中】 すべては総裁選挙に絡んでおりますし、小泉さんも特に郵政事業とこの問題を具体的にやるといっています。道路の答申を去年の12月6日に出しました。その後、政府は12月17日に閣議決定しております。ところが、この手の答申に対する閣議決定は「最大限尊重する」というのが決まり文句なのですが、われわれの意見書については、「基本的に尊重する方向で」「意見書の内容を精査し」「与党の意見を聞きつつ」「具体的に措置を講ずる」と書いてある。これは総理が政府・与党連絡会議のときの発言をそのまま文字にしたものです。それでも、最近の総理は、基本的に意見書を尊重するといっていて、後半の部分はいっておりません。
 総理が再選されるとして、道路と郵政問題は重点的にやるでしょうから、10月くらいからは急ピッチで法案のチェックをしないといけないということになると思います。法案は通常国会に出すとして予算関連法案だから、かなり急がないといけないのですが、遅れると思います。まあしかし、国鉄とかNTTの例を見ると実際の改革の半年前に法律が上がっていますから。17年の4月ですから、まだ時間がある。
 それから、この委員会をいつまで続くのかというと、法律上は18年の3月までなのです。ところが、法律には付則の第3項に「この法律は平成18年3月31日にその効力を失う。ただし、その日より前に第2条第1項の意見(われわれの答申)を受けて、講じられる施策にかかる法律が施行されるに至ったときは、当該法律の施行に合わせて廃止する」と書いてある。つまり、早く法律ができて施行されれば、われわれの仕事も早く終わるというわけです。
 しかし、注意していただきたいのは「意見を受けて」で、「意見に基づき」ではないのです(笑)。「意見を受けて」ということは、意見の通りやらなくても、意見があったから少しでも採って施策をやれば99%違うことをやってもいいわけです。しかし、普通のひとが読めば、「意見を受けて」ということはほぼ意見に「従って」「沿って」というように読んでもらってもいいと思います。このようになっておりますので、意見書と違うことはなかなかできないのではないかと思っております。
以上