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シリーズ討論

国と地方の税・財政制度の改革
――関経連「地方の自立と自己責任を確立する関西モデルの提案」より――

栗山和郎関西経済連合会経済企画部長
国民会議ニュース2003年03月号所収

02年11月7日の第4回市民税調では、関経連栗山理事・企画調査部長から国と地方の税制改革について問題提起をいだたき、意見交換を行いました。その後、関経連では財政調整制度や地方制度の改革についても検討を進められ、2月4日に「地方の自立と自己責任を確立する関西モデルの提案」と題する提言を公表されました。そこで以下に、提言の特色と税・財政制度改革に関する部分の要旨を紹介いただくことにしました。


はじめに――経緯と今回提言の特徴
国と地方の税・財政制度改革の全体像
国から地方への税源移譲
新しい財政調整制度の導入
財政的分権を受け入れる地方制度の改革



はじめに――経緯と今回提言の特徴
関経連は戦後まもなくの1946(昭和21)年に設立され、以来今日まで、広域行政や地方分権に関する提言を得意分野の一つとしている。このため、例えば道州制というと関経連が必ず引き合いに出されるといった具合だが、誤解を受けている面もある。なぜなら、提言は時代の変化とともに変遷しており、いつまでも同じことを繰り返している訳ではないからである。
道州制の提言は過去2回ある。最初の1955年は、公選知事制の採用など戦後の地方制度改革のいわば反動期にあたり、公選知事制の府県を廃止して、国の総合出先機関である道州を設け、その長は官選にするといった内容で、いまでは想像もつかない非民主主義的な意見を述べている。このころ、国の地方制度調査会でもこの問題が議論されており、呼び方は違うがほぼ同じ内容の「地方制」が僅差で否決されたという経緯がある。
その後、全国的な道州制導入は当面難しいとの判断から、まずは阪奈和合併や東海3県の合併をといった提唱が行われ、国においては府県連合を制度化する動きがあったので、関経連としては府県連合と府県合併の両方式を早急に制度化するよう提言した。
関経連として2回目の道州制提言を行った1969年はいわゆる高度成長期にあたり、全国的に道州制を実現することが緊要としたものの、公選の知事と議会を置くという内容は最初の道州制とは異なる。戦後20余年にして知事公選はすでに定着しているとの判断であったと思われる。
土光会長の第2次臨調の頃には「地方庁」構想を提言した。都道府県制には当面手をつけずに広域行政需要に対応するという趣旨であったが、むしろ中央集権の強化になるとか、縦割り中央省庁のもとでは機能しないとか、国・地方双方から反論がありほとんど無視された。
土光臨調においては地方分権の優先順位は低く目立った成果もなかった。最近のいわゆる第1次地方分権改革のきっかけを作ったのは第3次行革審の最終答申であるが、その前の第2次行革審に設置された国と地方の関係等に関する小委員会に向けて提言したのが、府県共同体と地方庁の両方を設けて、将来の道州制移行につなげるというアイデアである。
このうち府県共同体の中身を具体的に検討して提言したのが1991年の都道府県連合制度に関する提言である。モデルにしたのは欧州連合(EU)である。この提言の趣旨は1994年の地方自治法改正で新設された広域連合制度に活かされたと考えている。
関経連では、府県制度改革を含めた地方分権の受け皿に関する提言はこれが最後になっている。それは、分権型社会を創造するためには受け皿である都道府県や市町村の改革を前提条件とするのではなく、むしろ国から地方への権限移管や関与の撤廃を先行すべしとの立場をとった地方分権推進委員会の活動を支持するためであった。
この間、権限面に比べて遅れがちであった財源面の改革に着目して研究・検討を続け、1997年には地方税の拡充と補助金・交付税の段階的廃止により財政責任を伴う地方分権を実現すべきという考え方をいち早く打ち出している。最近では、同様の考え方が普及してきたが、残念ながら総論のレベルにとどまっており、具体的な改革の道筋はほとんど見えていない。
そこで今回提言の特徴の一つは、税源移譲や財政調整制度の改革について試算も含めて具体的に示したことにある。もう一つは、最近の市町村合併の動きなども踏まえて久しぶりに地方制度改革問題を取り上げ、「州制」の創設と府県連合型の「関西州」の設置を提言したことである。本稿では、前者を中心に紹介する。

国と地方の税・財政制度改革の全体像
機関委任事務制度の廃止に象徴される第一次地方分権改革に対して、次なる課題は地方財政を自立させ自己決定・自己責任の体制を確立することである。多くの自治体が国からの補助金や交付税に依存した行政運営を余儀なくされている現状を変える必要がある。同時に、国と地方の役割分担を明確化し、地方の役割とされた事務・事業に対する国の法令による規制を大幅に緩和・撤廃することも忘れてはならない。国による一律的な規制が残っていると、たとえ地方税を拡充しても自由に使える余地がほとんどなく、補助金・交付税と事実上変わらないことになるからである。
国と地方との税・財政制度改革の基本は、国と地方の税収比率を支出の比率に一致するように改めることであり、そのためには@補助金の圧縮と地方交付税制度の廃止、A地方への税源移譲、B水平的財政調整制度の導入が必要である。改革の全体像は下図のとおりである。
現状の地方財政は、国の法令や各省庁の通達に縛られ歳出が全国一律的であり、歳入に占める地方税の割合が少ないという意味で自立度が低く、しかも大幅な財政赤字を抱えている(大部分は経済対策など国の政策に付き合ったことにより生じている)。
改革後は、地方税の拡充により財政的な自立度が高まる。国の規制から解放され歳出は地方の特色を発揮した多様なものとなる。財政赤字(地方債発行)は原則として認められず、地方税や料金等で住民が負担できる範囲内に必要な施策を絞り込む結果、小さな政府(自治体)になると考えられる。
小さな政府への改革は住民サービスの低下を招くとは限らない。自治体が実施しなくても民間企業やNPOでカバーできる事務・事業は少なくないからである。「地方でできることは地方に」と同時に「民間でできることは民間に」を徹底しなければならない。
補助金の圧縮と地方交付税制度の廃止
多額の補助金と交付税により地方財政が支えられている現状は、政策決定に関する自治体の責任の所在を不明確にし、不要・不急な支出の膨張を招いている。奨励的な予算補助金は別として、自治体にあまねく給付され金額も大きい義務教育や福祉など国の負担金的な補助金は、その根拠となっている法令を改廃し縮減・廃止すべきである。
そして、補助金よりも改革を急ぐべきは地方交付税である。地方が自由に使える一般財源とされている地方交付税も、実際には全国平均の行政を維持するための政策誘導的な要素が強くなり、地域によって行政ニーズが異なってきている現実に合わなくなっている。地方債の償還財源が交付税で措置されるため過大な投資を招いている面もある。さらに、税収と支出の差額を補填する方式のため、例えば、企業誘致等によって税の増収を図ると交付税が減ることから地方の自助努力を阻害する。
交付税をめぐっては、国の財政再建のため交付総額を抑制しようと目論む財務省と、複雑すぎる算定方法の見直しなど必要な改革を行いつつも制度の温存を図ろうとする総務省(旧自治省)の思惑が交錯している。
しかし、国と地方の税・財政制度は抜本的な改革が必要であり、地方交付税も単なる総額の抑制や現行制度の部分的な手直しではなく、思い切って制度そのものを廃止するという決定を行うべきである。
交付税制度は国が地方に義務づけた事務・事業の財源保障機能を担っているとされるが、そのような義務づけを止めるのが地方分権改革であり、交付税制度の廃止によって国による財源保障という発想を無くす意義は大きい。第一次分権改革の機関委任事務制度の廃止に匹敵する大きな効果を生じると考えられる。

国から地方への税源移譲
補助金の圧縮や交付税制度の廃止に伴って、国から地方への税源移譲が必要になる。これは国民の税負担を増やすものではない。地方税の拡充に合わせて、補助金や地方交付税の財源である国税を減税するのだから、マクロ的には国民の税負担は増えない。
地方交付税制度を廃止し、普通交付税の削減額に見合った税源移譲を行う場合に、基礎自治体、広域自治体ごとに地方税のどの税目によって各々どの程度の増税を行うべきか。他方で、国民(個人および法人)の税負担が中立になるよう、国税のどの税目をどの程度減税すべきか。地方税の中でも、道府県民税、事業税、地方消費税、市町村民税、固定資産税の5税が地方の基幹的税目である。税源移譲のための地方税の増税は、これら基幹的税目で行うべきである。
前頁の表は、普通交付税の削減額の全額を地方税の増税で埋めると想定した場合の試算結果である。
地方税の増税率は、道府県民税、事業税、市町村民税がそれぞれ100%(すなわち現在の2倍に増税)、地方消費税が150%(消費税5%のうち地方消費税分を1%から2.5%に引き上げ)となった。市町村の固定資産税を増税の対象から外したのは、これに見合う国税がないためである。この結果、都道府県と市町村を合わせた増税総額は、普通交付税の削減額に一致するものの、都道府県税収は不足、市町村税収は超過となる。そこで、地方消費税の都道府県から市町村への交付率50%を30%に引き下げることにより調整した。
一方、国税の減税は、道府県民税、事業税、市町村民税の三税の増税相当額を、個人分と利子割は所得税、法人分は法人税で減税すると、所得税は約半分、法人税は3分の2の減税が必要となることがわかる。また地方消費税の増税は消費税(国税)の税率を4%から2.5%に引き下げることで相殺される。
なお、最近の国家予算は巨額の国債発行を毎年行って編成されているため、補助金や交付税の財源も実は国税ではなく、国債発行や交付税特別会計の借入金でまかなわれている部分が少なくない。補助金や交付税を削減し、それと同額の税源移譲(地方税の増税と国税の減税)を行えば、国の財政赤字はますます増えることになる。財務省を中心に地方への税源移譲に強い抵抗があるのはこのためである。地方自治体は、地方税の拡充によって財政的自立を獲得する見返りとして、国の財政赤字の一部を地方が引き受けるぐらいの覚悟が必要である。

新しい財政調整制度の導入
交付税制度を廃止し、国から地方に税源移譲を行った場合、自治体間の財政力格差が拡大するから、何らかの新しい財政調整制度が必要になる。
国による自治体間の財政調整手段である地方交付税制度は基準財政収入と基準財政支出を複雑なルールのもとに算出し、その差を補填する方式である。これに対して、新しい調整方法は一人当り税収の格差を自治体間で水平的に調整するシンプルなものとすべきである。同様の制度はドイツや北欧諸国に例がある。

都道府県の場合の具体的な調整方法の一例は下記のとおりである。
a.都道府県の基幹的な税である道府県民税、事業税、地方消費税の3税を水平的調整の対象税目とする。
b.3税の一人当り税収が「交付基準」(全国平均に対する比率%)未満の道府県に対して、(交付基準との差額×人口数=不足額)に「補填率」を乗じた額(交付額)を交付する。
c.3税の一人当り税収が「拠出基準」(同)を上回る都道府県が、(拠出基準との差額×人口数=超過額)に「拠出率」(次項参照)を乗じた額を拠出する。
d.拠出率は(交付道府県の交付額合計÷拠出都道府県の超過額合計)により算出する。

試算をした結果、交付基準90%、補填率80%、拠出基準100%とした場合、47都道府県のうち交付団体数は31、拠出団体数は8、拠出率は39.8%となった。これにより、水平調整前の一人当り税収の最高(東京都)と最低(沖縄県)との格差4.0倍が、調整後には1.9倍まで縮小する。また、標準偏差も22.1から12.0に縮小し、バラつきが小さくなることがわかる。
市町村についても同様の方式が適用できると考えられるが、全国の全市町村間で水平調整をするか、広域自治体(都道府県ないし州)ごとに域内市町村間で調整するかは、その組み合せも含めて利害得失を検討する必要がある。市町村の税収を集計して都道府県間でまず調整し、各都道府県内の市町村間調整は当該都道府県の自由に委ねるのも一案である。
このような一人当り税収格差調整を行っても自治体によっては従来の交付税交付額とは大きな乖離が生じる。一定の期間に限っては地方自治体が何らかのルールに基づいて財源を拠出しあい、水平調整の形で削減された交付税相当額の一定割合を保障する激変緩和措置も必要となろう。

財政的分権を受け入れる地方制度の改革
日本の国土は多様性に富んでおり、地域によって地理的・歴史的特性があるにもかかわらず、わが国の地方制度(自治体の種類やその権能、組織等)はほぼ全国画一的であり、しかも明治時代にできた府県制と市町村制が基本的に引き継がれてきた(戦時中の東京都制の採用や戦後における知事公選制の導入が比較的大きい改正であった)。これら地方制度もまた、時代の大きな変化に合わせ、また既述したような税・財政制度改革の進展に合わせて改革すべきである。
その方向は、地方制度を現状よりもフレキシブルな(柔軟で融通のきく)制度にし、多様な選択肢の中からそれぞれの地域が実情に応じて選択できるようにすることである。例えば、都道府県レベルの改革として、現行の都道府県制と併存する形も含めて新たに「州制」を設けるべきである。
地方分権社会の基礎的な自治体は市町村であり、市町村が強化されればされるほど、府県の役割は小さくなる。一方で多様な行政サービスを効率的に行うためには広域な地域連携が必要となる。現在の都道府県のままでその要求に対応できる地域もあれば、府県を超えて連合あるいは合併する方が望ましい地域もある。
「州制」では、従来の都道府県との関係が異なる4つのパターンを用意し、関係都道府県の合意により、その地域の特性や行政ニーズに応じて、いずれかのパターンを選んで設立する。現行の都道府県制を廃止し「道州制」を全国画一的な形で導入するものではない。
パターンAは、州を設立した後も、従来の都道府県の役割が最も大きい、いわば統合度の緩いパターンであり、それだけに設立が容易であると考えられる。パターンBは、州を設立した後の構成都道府県を東京都の特別区に相当する特別地方公共団体と位置づけるもので、課税権の一部が留保される。これに対して、パターンCは政令指定都市の行政区に相当するものとして都道府県を残すが、課税権はすべて州に移される。最後に、パターンDは都道府県の合併と同じであり、構成都道府県は行政組織としては消滅する。
では、関西はこのうちどのパターンを選ぶべきか。関経連としては、パターンAの府県連合型が望ましいと考えている。その理由は関西の地域特性は多様性にこそあり、府県間の個性の違いを無視して地域を同質化することは関西の活力をむしろ殺いでしまうと思うからである。
ちなみに北東北3県では合併構想があるが、その場合はパターンCないしDになるのかもしれない。まったく州制を採用しない地域も当然あるであろう。これまでの発想では、全国ばらばらで二層制と三層制が混在しては不便だということになるが、国は地方の行政に原則として一切口出しをしない地方分権社会であれば、なんら支障はないと言ってよい。
関西州と府県との役割分担は、基本的に、関西という広域の中で選択と集中が必要な分野は関西州が担い、関西内各地域の個性の発揮が必要な分野、地域間競争による効率化が期待される分野は府県が担うものとする。
関西州が機能を発揮するためには課税権をもつ必要があり国による制度改革を待たなければならない。しかし、中央集権体制を打破し、地方分権改革を実現するためには、地方が主役として革命を起こすくらいの気概を持ってまず行動を起こすことが重要である。関西としても、現制度の中で改革できるところから行動すべきである。
例えば、現行地方自治法上の制度である「広域連合」を利用し、先行して「関西州」を設置することは可能である。経済界からの働きかけに呼応して、関係の知事らが真摯に協議・検討し、基本的合意を1両年のうちに成立させることができれば、必ずや中央集権打破の突破口を開くことになると確信する。