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シリーズ討論

医療保険制度改革をめぐって討論
−第3回市民税調(10月4日)の記録−

山崎泰彦上智大学教授
国民会議ニュース2002年10月号所収

司会:市民税調は本日で3回目になります。本日は医療保険制度改革について議論したいと思います。医療制度改革については、坂口厚生労働大臣が試案を発表するなど動きが出てまいりました。そこで、上智大学の山崎教授に最初の問題提起をお願いして、あとは山崎さんとのディスカッションではなく、皆さんとのディスカッションという形で進めたいと思っております。
 また、昨日の夕刊に、連合が社会保障ビジョンを出したという記事がありましたので、急遽今日の会合で配っていただき、小島生活福祉局長からご説明をお願いすることに致しました。


T 山崎泰彦上智大学教授説明要旨
 1 坂口試案について
 2 医療保険制度改革の展望
   【有識者意見交換会】
  @ 一元化(給付と負担の公平化)の方法
   【統合一元化はない】
   【国家負担の傾斜配分による財政調整】
  A 高齢者医療制度の可能性
  B 保険者のあり方
   【地域単位の保険】
   【国保の広域化】
   【政管健保の分権化】
   【健保組合の扱い】
   【地域保険者連合の結成】
   【医療保険運営法人制度の創設】

U 小島茂・連合生活福祉局長説明要旨
   【5つのポイント】
   【突き抜け方式の提唱】

V 討論・質疑応答



T 山崎泰彦上智大学教授説明要旨
1 坂口試案について
 今回の健保法の改正では、異例なことですが、「医療保険制度改革に関する基本方針の策定」ということで、いろいろな約束を将来に向けて行っております。将来にわたって7割給付を維持する、そのために改革を進めるということですが、具体的には、まず、保険者の統合及び再編を含む医療保険制度の体系の在り方、新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬の体系の見直しについては14年度中に基本方針を策定することになっております。次に、健康保険の保険者である政府が設置する病院の在り方の見直し(いわゆる社会保険病院の見直し)、それから、社会保険庁の業務運営の効率化及び合理化、あるいは、政府が保険者である社会保険及び労働保険に係る徴収義務の一元化、政府管掌健康保険事業及び当該事業の組織形態の在り方の見直しなど、特に社会保険庁がらみのことがいくつも掲げられておりますが、これについてはそれぞれ2年3年、あるいは5年をめどに、結論を出すということになっております。
 今年度中に基本方針を策定するという方針を受けまして、9月25日に坂口厚生労働大臣が試案を発表しました。よく大臣というのは辞めるときに試案というものをお出しになります。坂口さんも辞めるかもわからないということでお出しになったわけです。まだ非常に抽象的なものでございますが、これをもとに11月中にも、事務局としての案をまとめるということであります。
 その内容は、ひとつは、都道府県単位に保険者を再編・統合していくこと。もうひとつは、年齢構成や所得に着目して制度を通じた負担の公平化を図ること。制度の一元化に向けたこの二つの流れが示してあります。保険者の再編・統合につきましては、国保の広域化を図ること、政管健保は都道府県単位に組み替えること、組合健保に関しては、規制緩和等を通じて小規模健康保険組合あるいは財政窮迫組合が統合しやすいようにすること。そして一番のポイントが、事業所単位で選択・加入できる新たな法人の検討ということです。健保組合は財政が苦しくなると解散して政府管掌保険に移ってくるわけですが、政管健保に移らずに、新たな法人を作ってはどうかということです。
 また、高齢者医療制度の創設も検討するということにはなっておりますが、これにつきましては、9月30日の『週刊社会保障』の記事などによりますと、大臣は、新しい高齢者医療保障制度を作るかどうかを検討する。出来ないかもわからない。しかし、出来なくても、年齢構成などに着目した制度間調整ができれば、もう高齢者医療保障制度はいらないかもわかわらない、というようなことを言っております(大臣の発言は、全部、厚生労働省のHPに載っております)。つまり、高齢者医療保障制度についても一応「考えてみる」ということで、与党サイド(自民党には独立型高齢者医療保障制度を創設するという意向が強い)にも配慮した表現にはなっております。

2 医療保険制度改革の展望
【有識者意見交換会】
 厚生労働省の保険局に、学識者5人の意見交換会というものがありまして、5月の末から8月の末まで4回にわたって議論をしました。これは非公開でございまして、まあ終わった後はいつも記者クラブでブリーフィングはしていたようです。今はほとんどの審議会・研究会は公開ですのに非公開というのはめずらしく、非常に関心をもっておられる報道機関の方が多くて、私も取材は受けておりました。何か報告書が8月の末にまとまったらしいという新聞報道がありますが、報告書などというものではありません。この「医療保険制度の体系に関する有識者との意見交換における議論の概要」というのは、要するに議事録で、そんなたいしたものではありません。議事録ですから、全く相反する意見も載せてありますし、私の言ったことも大体載っているということです。特に、8月の末の段階で、新しい医療保険を担う法人を作ってはどうかという報道がいろいろありました。が、あの委員会の場では、私の発言ということになっております。今日はその辺が一番ポイントになろうかと思います。
 今回の健保法の改正で、将来にわたって自己負担はもう上げないということになってしまったわけです。ですから医療保険の給付の範囲を見直すとかそういうことはあるかと思いますが、7割給付は堅持、これ以上負担を上げないということになると、今後は、三方一両損という改正はないということです。患者負担を引き上げるという改正はない。それからもう一つは、税を導入するということは、非常に難しくなってきていると思います。「医療保険医療費の財源内訳」という表がありますが、平成14年度で、公費の割合が32.5%になております。それが今回の改正で、老人の対象年齢を75歳以上に引き上げますが、しかし公費負担率を1/2に引き上げますから、しかも高齢化が進むということで、平成37年度には42%になる。今回の改正でもなお、公費の割合が10%もあがるということは非常に厳しいことでありまして、これ以上さらに税金をつぎ込むことはありえないと思います。この42%まで公費を上げていくことも非常に難しいと思います。それは、さしあたって基礎年金の国庫負担率を2分の1までに上げるとなっておりますが、その財源さえも確保できるのかどうか難しい。はっきり言ってできないでしょうね。しかし、付則で2分の1に上げるものとすると言っているわけですから、優先順位は年金です。したがって、医療に新たにこれ以上国庫負担金をつぎ込むということは、おそらくできないと思われます。そうすると結論としては、今後の負担増は保険料という形で国民に引き受けていただく以外にないと思います。保険料ということになると、負担の公平ということが従来にも増して要請されることになる。
 もう一つは医療の効率化ということで、保険者機能を強化するということになると思います。ですから必然的に制度体系のあり方、そして保険者の機能を強化するという方向で今後の改革が続けられていくことになると思われます。そこで、私のレジメですが、これはほぼ私が先ほどの意見交換会で発言したことの要旨です。私は他の委員がこう言ったとか、事務局がこう言ったということに関しては、取材に関しては一切答えないことにしておりますが、私がこう言ったということに関しては、しゃべることにしております。ですから、5人の委員全員にあたれば、議事録ができるということになります。

@ 一元化(給付と負担の公平化)の方法
【統合一元化はない】
 そこで、一元化、つまり給付と負担の公平化ということですが、まず統合一本化というのはありえないということです。これは私の意見です。要するに、被用者と自営業者の垣根を外すということはありえないということです。統合一本化と言いましても、単一制度、単一保険者という形にはならない。これは年金や雇用保険は全国一本の制度(年金は一本ではありませんが、基礎年金はそういうことになっている)ですが、しかし、年金と医療、福祉とは違う。医療・福祉というのは地域でサービスが完結するわけです。年金のようにどこで保険料を払っても、どこに住んでいても、同じ負担に対しては同じ給付が発生するということではありませんから、医療については単一制度・単一保険者というのはありえない。
 次に、単一制度ではあるけれども複数の保険者ということは考えられる。介護保険というのは一本の制度ですが、保険者は市町村の数だけあるわけです。この場合には、保険者間の財政調整が不可欠になる。つまり、保険者間の格差ができるわけですが、その場合に、例えば介護保険型ということになりますと、地域の一住民として、ひとつの制度に自営業者もサラリーマンも加入するわけです。事実、第1号被保険者はそうなっているわけです。しかし、退職した老人の世代であればそういうことは可能であっても、現役を含んでいますと、やはりサラリーマンと自営業者の垣根は越えられないと思います。そしておそらく、地域の住民として一つの制度に入るという形になりますと、事業主負担を失うのではないか。あるいは、国庫負担がどうなるか。今は、サラリーマンには基本的には国庫負担をしていない、しかし国保には国庫負担をつけるということになっているわけですが、その扱いがどうなるか。ということで、まあ統合一本化は現実にはないと思います。

【国家負担の傾斜配分による財政調整】
 国庫負担の傾斜配分というのは今までもやってきたことで、自立できる健保組合や共済組合には国庫負担を入れないで、政管さらには国保と、弱くなるほど国庫負担の傾斜を入れていくということですが、今後の将来を考えますと、ますます制度間の格差が拡大していく。その拡大する部分には全部国庫負担、公費をつぎ込むということも、現実にはありえないことです。そこで、老人保健法をはじめとして退職者の医療について、制度間の財政調整を取り込んでくるということが、1980年代以降の改革でした。そこでまあ完全財政調整ということを私は言っておりますし、厚生大臣もそのようなことを考えているようですが、リスク構造調整ということになります。
 部分的財政調整は今やっているわけでして、完全な財政調整ではなく、格差が発生するその主要因に着目して、老人だとか退職者だとか、そういうところで調整して、完全財政調整ではないけれどそれに近いところまで、財政調整の効果を現実に発揮していると思います。さらにこれを拡大するとすれば、子ども医療費をみんなでみるとか、あるいは、精神病をみる。今は退職して精神病院に長期入院してとケースが結構現役世代でも多いのですが、これが結局みんな国保に入ってくる。こういった、個別の要因で合意を得やすいところで調整をして、それを拡大していくことも考えられることです。完全財政調整に行くまでのセカンドベストということですが、ただ拠出金負担増により健保組合の合意が得がたくなっている中では、非常に難しいのかもという感じはします。それから現行制度では、老人医療と退職者医療制度が全く異質であって、何かよくわからない、非常に不安定である、という問題があります。
 なお、完全財政調整について説明いたしますと、リスク構造調整といっているわけですが、保険者の責任に帰すことのできない、年齢構成や所得水準というものに着目して、これは完全に調整するが、逆に、実質的な医療費の格差については、保険料負担に反映させるということです。サラリーマンと自営業者の間は、年齢構造の調整に限定する。そして被用者保険の制度間は、所得も調整対象とするということです。自営業者とサラリーマンは所得捕捉の違いもあって、どうしても年齢要因に限定せざるを得ない。一方、被用者保険の制度間では所得を調整対象にするということは、政管健保に対する国庫負担がなくなるというで、これが最大のメリットです。先ほど今回の改正制度でも国庫負担が負担が相当上がり、これを確保するのも相当難しいと言いましたが、したがって、保険局としてはこれは非常に魅力があると思います。
 この魅力というのは、医療費という要因については保険者の責任として保険料に反映させるわけですから、保険者自治、保険者機能を発揮するという余地が十分に残されるということと、構造的な要因は、社会連帯に沿って調整するということです。しかし組合健保の合意が得られるかということが問題で、どうしても所得水準の高いところは、相当な持ち出しになることになります。

A 高齢者医療制度の可能性
 介護保険タイプの高齢者医療保険制度を作って、将来的には介護保険とドッキングするというのが私の持論ですが、これは実現可能性はないと思います。先ほど、与党に配慮して高齢者医療制度の可能性も残しつつ、ということを大臣が考えていると申し上げましたが、現実には可能性はなくなったと思います。
 その一つは、介護保険とドッキングするという方向を目指すということになると65歳で統一するのでしょうが、今回の健保法の改正で老人医療の適用を75歳まで年齢を引き上げたため、ギャップが非常に大きくなった。また、この独立型というのは非常に公費を食うわけですので、財政的にも実現可能性はなくなったと思っています。

B 保険者のあり方
【地域単位の保険】
 これが本日のメインの報告でありますが、医療の地域性ということを考えると、保険者はやはり地域単位が望ましいと思います。一番いいのは、第二次医療圏ということだと思います。日常生活圏と言っていいのですが、全国360くらいの医療圏に分かれております。よく都道府県単位と言われますが、実は同じ都道府県の中でも、非常に医療費の格差があるわけです。神奈川県のようにあまり過疎地とか離島などがないようなところでも、宮ヶ瀬のあの辺ですとか、何とか村だとかに行きますと、長野県と同じように、非常に医療機関に恵まれていないということからもわかります。ということになりますと、単位としては日常的な医療が完結していると言われる第二次医療圏あたりが望ましいのではないかと思います。
 いずれにいたしましても、医療計画の策定は都道府県知事になっておりますし、医療保険機関の指定、保険医の登録は、地方社会保険事務局長になっております。こういったことからも、保険者は地域単位が望ましいと思います。

【国保の広域化】
 国保は都道府県化ということが言われますが、県が引き受けるということはありえないし、望ましくないと思います。それは例え都道府県を保険者にしたとしても、保険の適用だとか、保険料の徴収は市町村に委託せざるを得ないわけでありまして、収納率が落ちるのは確実でございます。したがって、広域化というのは、市町村合併を進めていくのが本筋だと思われます。小規模保険者のリスク分散機能の低下につきましては、共同事業を拡大していく。今でも都道府県単位では共同事業をやっているわけでありまして、そういうことでも対応できると思っています。

【政管健保の分権化】
 先ほど今後のメニューには社会保険庁がらみのことが多いと言いましたが、今後の改革で、政管健保の問題が一番大きくクローズアップされるのではないかと思います。地域単位に分割するわけで、私は第二次医療圏が一番いいと思っていますが、今全国一本のものをいきなり360に分割する手前で、都道府県単位というのがあるのかなと考えております。
 なぜ政管健保を分権化するのかと言いますと、今の医療保険の中で、医療は地域的なものであるといいながら全国一本化になっているのが政管健保でありまして、これが一番悪い保険だと思っております。これほど医療費に地域差がありながら、全国の中小企業の労働者がみんな同じ保険料を払っているわけであります。長野の零細企業の保険者が払った保険料が札幌や西日本に行ったりということになっておりまして、長野県民よ怒れという感じなのであります。関東も大体低い。したがってこれは社会保険庁が非常に気にしておりまして、大体これだけ医療費に地域差があって、市町村国保が苦しんでいる、健康保険組合もみんな苦しんでいるわけですが、北海道の事務局長は涼しい顔をしている。とんでもない、汗を流せということです。事実、国保連なんかは地方に行きましても、社会保険事務局というのは全く地域の医療に関心を持ってくれないというわけでございまして、そういうことで、分権化しなければならない。
 しかしながら、仮に都道府県単位あるいは第二次医療圏に分権化しますと、また格差が出てきます。所得だとか、年齢構成の違いなどが地域的にあるからでございまして、それはやはり調整する。そして実質医療費の格差は保険料に反映するということでございます。
 なお、社会保険庁を分割して都道府県単位にすることにはこだわらない、ということを私は言っております。社会保険庁が医療と年金を一緒にやっていることのメリットはあるわけで、年金を都道府県単位に分割するということはありえないわけです。すると、社会保険庁の組織は全国一本で残してもいい。しかし医療保険の運営については、保険料の水準について地域差を設ける。実質医療費の年齢構造あるいは所得水準による違いは全国でプールします。しかし医療費の違いというのは、都道府県ごとに保険料に反映させるということになります。ですから当然北海道の政管健保の保険料はドンと上がるわけです。そして北海道の健保組合と北海道の市町村国保と同じ痛みを、北海道の事務局にも、あるいは北海道の中小企業の労働者にも、分かち合ってもらいたい、こういう仕組みにしたいということです。

【健保組合の扱い】
 全国展開している健保組合の扱いをどうするかということですが、健保組合についても、多くの健康保険組合は実質的に地域的だと思います。都市銀行のように全国満遍なく支店や社員がいるという場合を除けば、例えば日立だったら多くの社員が茨城にいるとかいう感じではないかと思いますから、健保組合は実質的に地域単位になっていると割り切るのがいいのかもしれません。一つの会社であるにも関わらず都道府県ごとに組合を分割せよと言うのはちょっと無理な話ではないかと思っているところです。しかしその場合でも、事業所ごとに健康保険組合の保険料率を変えるという仕組みを認めてもいいのかもわかりません。今は全国同じですよね。

【地域保険者連合の結成】
 こうして政管健保を実質的に分権化しますと、地域ごとに健保組合、政管健保、市町村国保の利害が共通するわけです。同じ土俵に上がるわけです。同じ保険料水準になるからです。したがって被用者保険、国保が共同で地域単位で保険者連合組織を作ってはどうかということです。そしてこの連合組織に、保険医療機関の指定権を与えてはどうか。今、地方社会保険事務局長が労働大臣の委任を受けて、医療機関の指定を行っている。北海道でいくら医療費が高くても、よほどのことがない限り、医療機関の指定取り消しはしません。それは事務局長には痛みがないからです。そうではなくて、大臣の委任ではなく、連合組織に指定権を与える。そして診療報酬の審査・支払も共同化する。今、国保連というのは、市町村長さんが共同で作った組織ですから、保険者が審査・支払をしているわけです。それに対して支払基金というのは第三者でございます。この支払基金というのは非常に評判が悪い。医療機関の情報を全然くれない。国保連は長期入院のリストなんかは全部市町村に配っているわけです。ところが支払基金はそうじゃない。健保組合も自分でレセプト審査をやりたいとぶつぶつ言っております。したがって、この支払基金を廃止して、この保険者連合の元に廃止した支払基金を吸収してはどうか。ということになると、国保連と、審査支払機関が二つあるのもおかしいことになるわけですから、当然再編成ということになると思います。
 それから、今、診療報酬は中医協で全部決めているわけですが、点数は中医協で決めていただいたとして、単価は地方ごとに決めるようにする。今地方社会保険医療協議会というものがありまして、保険医療機関の指定を取り消すときに、事務局長がそこに諮問して取り消すということになっているのですが、滅多に取り消さない。ほとんど仕事をしていない。この地方社会保険医療協議会という三者構成の保険者と医療提供者、そして学識者で単価を決めていただく。今介護保険で都市加算というものがあります。介護保険の介護報酬には地域差というものが入ってきているわけですが、医療保険でも地域ごとに単価を決めたらというのが私の意見です。

【医療保険運営法人制度の創設】
 最後になりますが、8月の末に会合があったときに、これで政管健保の財政は5年間はもつというわけですよ。役人というのは財政がもつと仕事をしないんですね。いろいろ議論はするんですが、ぱっとしたものは出てこない。時間の余裕があるというのならば、今の若手の課長補佐だとか係長が幹部になったときにこうしたい、というふうなことを出したらどうかと私は思います。私も役人と随分ヒソヒソ話をしてきました。例えば、中村年金課長、今は老人局長ですが、課長のときに、彼と対談をしました。それが雑誌に載ったわけですが、そこで彼は社会保険庁民営化と言ったわけですね。どうせその場の話だから、ゲラの段階で削るだろうと思っていたら、削らなかったんですね。で彼は社会保険庁から総スカンを食い、その相手をした私も相槌を打ったということで悪者になりました。で、中村さんもいまは審議官になり、8月のその場にいたわけですが、中村さんも民営化ということを言ってたでしょう。あるいは、健保のアウトソーシングという話もなくはなかった。そういうヒソヒソ話を外に出してみたらどうかということで発言をしたのが、医療保険運営法人制度の創設ということです。
 今ドイツで、被保険者が保険者を選ぶという選択性が入ったといいますが、その手前でですね、事業主、あるいは市町村長が保険者を選ぶということを考えてみたらどうかということです。健康保険組合統合・再編の受け皿ということですが、例えば、日本経済新聞と朝日新聞の健康保険組合が統合することはありえないことですよね。これはライバル会社ですから。ですから統合・再編というのはありえない。しかし、お互いの社長が、健保組合をやめよう、しかし、社会保険庁には任せたくない、あそこは働かないから、ということで、共同で医療保険会社を作ろうかという話をする。日本経済新聞社と朝日新聞社と共同出資で、民間・非営利の医療保険を専門的に運営する法人を作って、そこに事業主が運営を委託する。はっきり言って、朝日や日経の健保組合の人もプロではないと思うんですね。だったらアウトソーシングして、プロに任せたらどうか。労使が母体となって、中核となる理事は専門家から選ぶ。評議委員会組織のようなものを作って、そして執行部、理事会は専門家にまかせる。そういうものはどうかということです。ですから、政管に移るその手前で、どこかの法人に運営を委託するということです。坂口厚生大臣の話はここまでにとどまっているわけです。健康保険組合の再編の方法の一つとして、従来の健康保険組合の運営を引き受ける法人を検討すると言っているわけです。
 ところが、私がもう一つ言ったことがありまして、むしろこちらのほうがメインなのですが、政管健保の事業所の運営も、新たな法人に委託するという道を開いたらどうか。つまり、事業主が、今まで通り社会保険庁にお願いするか、都道府県に分権されたところ、あるいは民間の非営利の組織に委託するかを、選択するということです。ですから保険料の徴収は事業主が行って、運営はアウトソーシングする。すると途端に、社会保険庁は活性化しますね。選ばれる保険庁でないといけないから。事務費は、当然国の健康保険組合を代表しているわけですから、この運営法人にも事務費は行きます。しかし、その運営法人に委託したほうが保険料が安くなるとすれば、中小企業主はこちらを選ぶようになるでしょう。
 それから、国保の運用の広域化ということですが、国保についても、この運用を引き受ける法人を作ったらどうかということです。あるいは、民間にできた被用者保険を引き受ける法人がこれを兼務してもいい。国保は国庫負担も半分あり、違いがあるということになると、例えば、国保連が、その運用を引き受けるということでもいい。今国保連は随分市町村のお手伝いをしています。ですから、国保連は審査・支払は新たな地方保険者連合の傘下に入り、その他の運営に関しては、従来の市町村がやっていたものを引き受けるということになります。問題は、保険料の徴収等ですが、従来通り市町村に集めてもらい、そして運営をこの法人に委託する。都道府県の中でも医療費の地域差がありますから、地域差に見合う保険料を市町村に割り当てる。その市町村はその運営を外に出すということです。ですから、都道府県で一本の保険料ということにはしたくないと思っています。

U 小島茂・連合生活福祉局長説明要旨
 昨日、連合の中央委員会がありまして、そこで「21世紀社会保障ビジョン」を報告し承認されました。検討を始めて2年半ぐらいかかってやっととりまとめたという内容になっております。連合がこれで何を訴えたいのかということについて簡単にお話し、若干、先ほどの山崎先生のお話にもありました医療制度について連合が何を思っているのかということについてもお話したいと思います。

【5つのポイント】
 今回のビジョンの中で連合として訴えたいこととして、5つほど考えております。一つは、社会保障制度は、今後の日本にとって不可欠な制度であるという前提のもとに、連合がこれから目指そうという社会像を示そうということです。それは一口に言えば、労働を中心とした福祉型社会ということですが、それを支える社会的なシステムを社会保障と言う、まあそういう位置付けをしているわけです。社会保障の理念である社会連帯、まあ助け合いと言いますか、それに基づいて勤労国民が安心の給付を受けられるということで、その社会保障を支えている年金制度、医療制度、介護制度、あるいは福祉制度という社会保障全体のトータルな姿を提起したということが、一つの柱です。
 2つ目は、各制度、年金・医療・介護・福祉を通じて、利用者あるいは国民がその制度運営に参加し、お互いに責任を分かち合うという基本的な立場に立った制度運営に改革すべきだということです。先ほど山崎先生が保険者の機能の強化という言い方をされてましたが、同じように、社会保障の機能に国民が参加していくということです。今の政府が一元的にやっているような社会保険制度を社会保障基金という形で政府からはずして、第3者という位置付けをはっきりさせるというようなことについても提起をしております。
 3つ目が、社会保障給付のサービスの利用にあたって、自己選択権と言うことを重視しているということです。その際特に医療・介護は、基本的には今の社会保険方式を基本に据えるということで、医療なり介護については、高齢者自身が一定の保険料なり負担を求めていく。それを所得的に保証するために、公的な年金制度については、現行の水準を将来的には維持するという位置付けをしているところであります。
 4つ目には、年金の現行の水準を連合の試算では、現役の平均賃金の55%を水準と位置付けておりますが、それを将来的に維持するということを前提にして、医療制度の改革による質の向上、介護サービスの拡充、さらには子育て支援の拡充ということをやっても、連合が出している2025年の国民の負担というのは十分可能であるという数値的な裏づけも出してあります。
 最後5つ目には、社会保障というのは、助け合い、社会連帯のシステムであるということです。連帯というのは労働組合の原点でもあり、力でもあるということで、社会保障改革の担い手は労働組合が担わなければならない。それは社会的にも歴史的にも労働組合のもつ責務であるということを訴えて、この改革に向けて取り組んでいこうという訴えをしています。

【突き抜け方式の提唱】
 個別制度のなかで医療については、基本的には、今の医療の提供体制、診療所から始まりまして民間病院・公立病院という機関がありますけれども、それの役割を明確にするということで、無駄な医療を改善し、質の向上を図るということを基本にしております。医療に対する情報公開の徹底ということも掲げております。
 特に医療保険制度の問題につきましては、今の市町村保険と被用者保険の二本立てを基本的な考えにする。問題は高齢者医療のありかたです。これについては連合は、今の70歳以上の医療費を各保険から分担すると言いますか拠出金を出して支えるという老人医療制度は廃止して、高齢者の大方はサラリーマンOBですから、「突き抜け方式」に変えるべきだと主張しております。
 市町村についても、地域格差がありますから、それについても広域化を図っていく。必ずしも都道府県で一本化するというところまでいっておりませんけれども、広域化を図っていくという提案をしております。また山崎先生もおっしゃられましたが、政管健保が一本で行われているということ、これも非効率なことであります。運営を県単位くらいに分割するということですね。各地域に応じた運営方法に変えていく。そこに住民、被保険者が参加していくという改革を提起しています。
 老人保健制度では70歳以上の高齢者の医療費を各保険者が拠出して賄っていくということになっておりますが、実質的な老人保健の運営は市町村に委託されているということですので、被用者は老人医療のコントロールは実質的には何もできないということになっております。やはり被用者自身が、高齢者も含めて、トータルな費用管理を行っていく。そのためには、各保険者が自分たちのOBを抱えていくんだということを基本的なコンセプトにして、退職した後も、被用者全体で支援していく仕組みにしていくべきだと考えております。


V 討論・質疑応答
小椋:先ほどの山崎先生のお話、あるいは連合の方のお話を聞いて私が一番わからないのは、政管健保や組合健保をどう再編するかということは私たちにとって関心のあることですし、大事なことなんですが、それはなぜかと言うと、やはり背後にもっと重要なことを抱えているためだと思います。例えば組合健保で言うと、一人あたりの医療費というのは、国保の半分強ぐらい。老人というのは、さらに国保の5倍とか6倍のお金を使っているわけです。今の医療費で一番問題になっているのはどこかと言いますと、一つは老人医療費であって、もう一つは国保の問題です。なぜ国保が問題化といえば、それはきちんとした財源を与えないで、均等割りと称する人頭税、それから世帯平等割、私はかまど税と言っているものです。それに資産割と所得割。みんなはそれをある意味税金みたいなものだと思っていますが、これは全然違うんです。市町村国保の中でいくら収入をあげないといけないかというのを、あるパーセンテージで決められていて、それをさらに被保険者の数とか、世帯の数とかに割り当てているわけです。で、それをやると当然負担能力のないところにとんでもない税金がかかるわけです。それで何をするかと言うと、まず「算定」をするわけですけれども、算定をした額をもう一度「調停」するわけですね。つまり負担能力のないところは3割軽減、5割軽減。それから上のほうも頭切りをする。そういうことをやっているので、保険料が上がるたびに払わないところをどこか作り出しているようなものですから、保険料を引き上げると言っても限度がある。それから、実際に徴収できない。東京都でも9割を切っている。基本的には、まず国保と言うのは国費で半分医療費の面倒を見てもらっているわけですね。半分見てもらっていても、その半分も払えない。そういう制度になっているから、その制度を残しているから今の問題が解決しない。やはり日本の医療制度がしっかりするためには、国保の財政問題を解決しなければならない。
 それは何かと言うと、財源を与えなければいけないわけです。税財源を与えなければいけないと私は思っています。何らかの形で配分しなければいけないと思いますけれど、今の保険料システムで国保がやっていることは、失敗に失敗を重ねているということです。 国民皆保険になったのは1961年だと思いますけれど、それ以来ずっと赤字を続けているところがある。現段階だと3300の3分の2ぐらいが赤字ですね。その赤字は一般会計で補填しているわけです。ですから皆さんの住民税も当然そこに入っているわけです。その問題を解決しないことにはこれは解決しない。これが一つ。
 もう一つは、老人医療費の問題。これは今まではほとんど負担がなくて、ようやく今一割入ったわけですけれども、これで収まるとは思えない。で、保険者機能を強化するとどういうことになるか。これはかなり厳しいわけです。あなたはこの医療機関で診察を受けたけれども、その費用は払いませんよと言う。つまり否認をするわけです。そうすると、自己負担になるか、場合によってはその医療を受けられないということになる。だから保険者機能を強化するというのは、やらなければいけないことですけれども、厳しい局面を迎えるわけです。
 ヨーロッパなどの先進国はどうやってそれを乗り越えてきたかと申しますと、それに対してある種選択を認める。つまりこの保険者はこういう給付はするけれどもこういう給付はしないと決める。それで何とか保険者機能を発揮して、問題をあまり起こさずにやっていこうということがある。
 一つは国保の問題。もう一つは老人医療の問題。1割負担では済まない、私はもう3割でいいと思います。もう一つ老人医療で言いたいのは、老人医療は1973年に国の制度としてできたわけです。そのころの死亡率は、70歳から75歳の老人が死亡するということが圧倒的に多かったわけですね。当時の脳血管疾患があったわけですけれども、今はそこは全然低いわけです。今は80歳から85歳の間の死亡率が高い。ですから、かつては70歳以上の高齢者に給付をするというのに合理性はあったけれども、今は全くない。それからもう一つは、お年寄りがかかる病気は、中年がかかる病気と違うのかと言えば、そういうことはないわけです。年寄りだから特別に扱う必要は私はないと思います。負担能力がないから特別に扱うべきだとか、あるいは経済能力がないから優しくしてあげるべきだとか、そういう議論はやるべきだと思いますが、年齢で区分けするのはどうもおかしい。老人医療というのは、この辺で耐用年数がもう過ぎた。そういう意味で他のものとやっていかないと処方と病状とが合わない。今火がついているのは国保の問題であり、老人医療の問題なので、それを解決しないとこの医療問題というのは解決しない。ですから私は、連合のつき抜け方式というのは、最初のうちしかうまくいかないと思います。やがてはみんなサラリーマンのOBになるわけで、そうすると老人医療費の問題をきちんとしない限り、現役のところに負担がかかってくるわけです。それから国保の問題についても、一般財政からどんどん垂れ流しになる状態ではやはり税金を払うほうにかかってくるわけですから、今の問題を解決しない限りは、医療制度の解決にはならないんじゃないかと思います。

山口:予防医学という観点で医療を考えるという観点があまりないような気がするんですけれども。病気にならないような工夫をするとか、そういう議論を今後していく必要があるのではないか。例をあげると、過労死なんてしょっちゅうありますけれども、残業をさせておいて手当てを払わないなどということは、ほとんど厳しく罰せられていない。これは厚生労働省とは違う所管なのかもしれないけれども、まあそういう関係が一つ。
 もう一つは、一定の条件で、治りにくい病気、癌とか多額の医療費を要するものですが、これには自動車保険と同じように、個人がかけていく民間保険を発想するということも必要なのではないか。かけるかけないは個人の自由です。細かいルールも必要でしょう。それ以外は国なりなんなりで保障していくと。
 それから病院側の方から言いますと、公益法人扱いということで、税金が22%ぐらいだそうですけれども、一般の企業は大体40%ぐらい。22%という安さだと、過剰な設備などもあるのではないかと。それをやることによって、例えばベッドがいっぱいあるから過剰に入院させようとか、そういうことがあるのではないか。こういう特別措置法みたいなものは止めてしまうということですね。
 三番目には、医療側の不正請求とかに関する厳しい措置なんかをもっと考えていく必要があるのではないか。一種の税金のつまみ食いですから、こういうものは厳しくしないと。

野口:医療改革については、お金の問題と、そうでない質の問題がありますが、常にお金の問題で制度を処理していくということに重点がおかれてしまって、その論議だけに終わってしまうということがある。今は患者のための医療ということが言われていますけれども、それは何か。常に医療供給者からの「患者のための医療」ということしか出てこないんです。患者から、あるいは保険者からでてこない。お医者さんなんかに聞きますと、歯医者さんなんかいい例ですが、大体2割ぐらいが悪質だという。悪質だというのは、いいかげんな治療をしているか、あるいは詐欺と同等のことをやっているわけです。それが2割いるわけです。患者の視点から言いますと、まずこれを排除していくということが挙げられます。それをやるにはどうしたらよいかというと、情報公開あるいは第3者評価ですね。情報公開とは、要は、カルテの中身と請求書の中身があっているかどうか、こういう病気の場合、あそこは何ヶ月で、ここは何ヶ月かかる、そういうデータが蓄積してくれば、あそこの病院はいつもふっかけてるということがわかるわけです。先ほど保険者の機能を強化すると、患者が治療を受けるのを制限するということになるということでしたが、そういうところは制限すべき、排除していくべきなんです。患者の立場から選択していけばいいわけです。
 それから突き抜け方式とかいろいろ財政のシステムがありますけれども、まず保険者が、保険者と言うのは健保組合ですが、自分たちで共同して、情報を蓄積して、それで注文をつけるということをやるべきだと思います。それについて実は今年の春から通達が出されていいはずなんですが、新聞にも載っているんですけれども、残念ながら厚生労働省は、これを出さずにずっと置いてきている。これをもっと追求すべきです。そうすれば、それぞれのところで相当なデータが持てるはずです。
 もう一つは、プライマリーケアもひっくるめて、病院と直接契約をやりながら、地域において、健康管理も含めた医療体制をつくっていく。その辺が、私は患者の視点から見たときの大きなポイントになっていくのではないかと思います。

宮武:山崎先生のご提案とか連合の方針を踏まえて考えますと、今の市町村の国民健康保険を、組合健保とか共済組合と同じような一つの保険者として考えるのかと言うと、実態的にそうではなくて、市町村の国民健康保険というのは、言わば、引退した人たちの受け皿であるわけです。ということは、国民皆保険制度の土台になっているということです。今の医療体制の中で、国民の大多数が是としているのは、国民全体が医療保障を受けられるということ。この体制は守りたいということが一つなんでしょうね。もう一つは、圧倒的多数とは言いませんが過半数は、保険料方式という、保険料を払えばそれによって医療が受けられるということを大事にしたいということも多数派意見だと思います。この二つの原理みたいなものをどうやって守るか。
 国民全体が医療保障を受けられるようにする、とりわけお金がかかる高齢者の医療ということに関すると、医師会や経団連がおっしゃっているような、高齢者独立制度というのは、きわめてわかりやすいですよね。本人が1割負担で、あとは公費でということになりますから。ただ、9割が公費でと言うと、山崎先生がおっしゃったように莫大なお金がかかる。仮に実現したとしても、高い手術は保険がかかりませんよというような、制限医療が出てくる。実現可能性ということとともに、そういう制限医療に落ちる危険性がある。
 片方で、連合がおっしゃっている突き抜け方式というのは、被用者の中ではみごとに保険原理が効くんですけれども、国民健康保険側に回ってみると、これはおまえのところはもう死ねと言っているに等しい。そこのところが悩ましい。この二つの原理を守ろうとすれば、なにか違う方式はないだろうか。ドイツのように、年齢も所得もすべてひっくるめて完璧に調整するような方法は、日本ではなかなかできない。それは自営業者の所得把握が非常に難しいということもあります。現実には、まず、年齢だけで競争条件を整えて、そのあとで山崎案を取り入れていくのがいいと思います。
 私は山崎先生の素案というのは見事だと思います。要するに地域保険というものが、ずっと日本の医療保障の中では青い鳥のようなものだった。住んでいる地域の中でお互いが支えあって、医療保障を築いていく。たいていの医療は基本的には地域完結型である。地域の医療保険が極めて脆弱で、そこをてこ入れしなければならない。政管健保がまさに代表だと思うんですけれども、加入している被保険者の声が、全く保険制度に反映できない。こんなことでは抜本改革はできるわけがない。被保険者に参画権があるという形に変えていかなければいけない。給付と負担の両面で口が出せるという仕組みを考えていかねばならないと思います。問題は、スタート条件を整えること。年齢を調整した上で、次は所得だというような調整をして、自分の努力ではどうにもならないところだけは条件を整えるということをまずやらないといけないのかなという気がいたしました。

司会:結局どこかが誰かの分を負担するということは変わらないわけですよね。もちろん政管健保自身が効率化することによって多少の効率化はあるにしても、それで全体のシステムが作れるわけではない。そうすると、最初からずっと議論されている老人の部分を誰が持つのか。山崎先生のお話によると、結局地域の組合健保がやるか、面倒を見きれない分は財政調整をして他の地域が見るということになるんですか?

山崎: 先ほど、おそらく高齢者医療制度というのはできないだろうと申しました。老人保健制度ができる前に一旦戻すんですね。高齢者の大多数は国保に入るということになると思います。そしてその上で年齢調整をする。あとサラリーマングループは所得の調整をする。
 年齢構造は全部調整しますが、所得については、今のままと言いました。つまり国保には2分の1の国庫負担があって、被用者保険には2分の1事業者負担がある。マクロ的にはバランスが取れている。つまり、事業主負担に見合うものが国庫負担であるという説明になっているわけです。

小椋:そこが私は、経済学者かお役人かという差かと思うんですけどね。もとの厚生省の資料というのは、労使の労の部分だけを比較して書いてあるわけです。しかし普通のマーケットベースのあれでいけば、そういう法的な負担の配分は意味がないということは、普通は教えるわけです。ですから、サラリーマンの雇用に対して、30万なり40万なりがかかっているという・・

山崎:つまり、賃金が支払われると、こういうことですね。エコノミストの中でもいろいろな見解がありまして、つまり賃金の切り下げになっているという説と、物価に転嫁されているという説とがあります。最近では、橘木さんのように利益から出しているというものもあります。経済学者の見解を一つにまとめて欲しいというのもありますが、結局ですね、今の話は超えられないんですよ。つまり、自営業者とサラリーマンの間の垣根ははずせないんです。

山口:負担率というのは毎年変えるわけではないんでしょうね?例えば、病気にかからない人は、個人別に計算して、翌年は安くなるとか。今はコンピュータがあるわけですから、個人ベースでそういうのをやればいい。個別に違ってもいいんじゃないかと思いますが、そういう制度はいれないんでしょうか。

宮武:それは社会保険方式の中では難しいですよね。任意の制度であればそれは成り立つと思いますけれども、強制加入であるということが、まず民間とは違うところでありますし、医療の特質から言うと、上限がとてつもなく高い。昨年の大手の健保組合で一番医療費を使っていたのは11歳の血友病の少年で、67ヶ月間で1億9千万円使っていますね。それだけの費用を、みんなでプールした資金で面倒見ていくということが一つ。
 それからもう一つは、年代差によって医療費の使い方はどうしても違ってくるわけです。99年度のデータで、日本人が一生に使う医療費は平均して2300万円です。そのうちの半分は70歳以上で使うんですね。高齢になるにしたがって病弱になって医療費がかかるということは変わらないと思うんですね。そこに、使った使わないということを入れるとなると、年間ではなくて、生涯でやらないとバランスを欠きますよね。
 まあ現状では、市町村の国民健康保険でも、医療費の抑制をしてきたとか、合理的に使ってきたというところと、医療費を野放図に使ってきたというところが同じ保険料ではおかしいのではないかというのはまさに山崎さんのおっしゃる通りです。そういう地域の努力が、保険制度全体の中で、薄められてしまうというところの不満はわかるんですね。
 先ほどの医療費を個人会計でやれというのは、シンガポールで確かにやっていますけれども、あそこは医療を積立金みたいに積んで、積んだお金の中で使う限度枠を決めているわけです。日本の場合それは生涯会計で見ないと、公平にはならない。
 全部民間保険でやってしまって、高齢者とか障害者だけを公的な保険でというのは、アメリカがやっているわけですが、4300万人ぐらいが、入れなくて無保険者になっている。その米国の医療が効率的にお金を使っているかと言うと、国民一人あたりでもGDP比でも、世界最大の医療費を使っているわけです。逆にいうと、民間保険に任せることで医療費が抑制されるかというと、アメリカの例を見ると、それは全く逆です。

司会:話を少し戻したいのですが、山崎先生のお考えだと、年齢調整は当たり前だと。あとは、3分の1しか使っていなくて、残りは全部老人のほうに回されてしまうという不満は変わらないわけですね。それについては、それは当然のことなんでしょうか。

小椋:多分ちょっと危機意識が少ないような気がします。大体70歳から75歳ぐらいの人が、平均の6倍くらい使っているとすると、それが2025年とか2030年になると、75歳の割合で考えたって3人に一人になる。3人に一人が6倍くらいを使うとなると、医療費の3分の2が高齢者医療になるわけですよ。皆さんが健康保険組合で集めた保険料の3分の2がこれから高齢者医療に行かざるを得ない。高齢者はそのとき非常に貧乏かというと、そういうわけでもない。きちんとした消費生活を送っているわけで、単に労働所得がないというだけで、負担能力がないということではないだろうと私は思います。保険料というのをどのくらいで捉えるのかということにも関わりますけれども、やはり違う考え方をしないと、今の制度を手直しするだけでは、あと10年も持たないと思います。

栗山:関経連の栗山です。関経連は経団連と全然違う提言を2001年の3月に出しております。それは、現行の保険制度を全てやめて、都道府県単位の新たな地域保険制度にする。老人医療保険も、その地域別に再編された制度に吸収していく。その限りでは突き抜け方式です。保険者は原則として各都道府県。保険料は被保険者の全ての収入を対象に比例制で徴収する。保険者ごとに給付水準に見合った保険料率をさだめ、都道府県ごとに違う。公費負担も、国費の負担はなくなり、公費負担は保険者である都道府県が行う。当然、そのための財源を国から地方に渡すということはありますが、国は、高齢化率や所得水準の格差など、客観的な指標に基づいて、保険の財政ではなく都道府県の財政を調整する、自己負担は2割とか3割とか、高齢者も含めて一律とするという案を提案しております。理由も問題点もいくつかありますが、一つ強調しておきたいのは、組合健保は大企業で恵まれているという今の状況は続かないだろう。また、終身雇用もなくなる。職業の流動かも進むし、進まないと日本の活性化はない。そうしたときに、職業選択に影響を与えない保険制度に使用というのが最大の主張点です。大企業に勤めても、ベンチャーであっても変わらない。
 申し忘れましたが、事業主負担はありません。大企業が義務を放棄したと見られますが、実は、組合健保の既得権を放棄しないとこういう制度はできないわけで、現時点で言えば、権利を放棄してでもこういう制度にせざるを得ないだろうと思います。また、早いうちに放棄した方がいいともいえます。
 それから、老人医療の問題についてですが、別の制度にするというのは一種の上下分離方式で、高速道路でも空港でも上下分離はすべてうまくいかない。必要な高齢者の医療は、世代を通じて負担すべきではないかなと思います。
 最後に、この難点と言えば、所得捕捉の問題だと思うんですけれども、これは乗り切るしかないと言うか、どうにかしてサラリーマン以外の人の所得も把握するしかない。学生にしても、アルバイトをしていればその収入を把握して、負担してもらう。これは医療・介護を通じてそういう制度にしてはどうかという提案をしています。いかがでしょうか。

並河:そのときに、地方消費税にしてしまえという意見はなかったんですか?

栗山:税か保険かということについては、社会保険を、年金についても医療保険についても活かすべきである、全部税でみてしまうよりは、保険制度という仕組みを残すほうがいいという判断をしております。

花井:連合の花井と申します。今日は代理で出てきたんですが、今の意見を聞いていて、連合がどういう考え方で組み立てたかということと、山崎先生に年齢リスク構造調整について質問があるので、話させていただきたいと思います。
 まず連合が考えましたことは、患者がどのような医療を望むのか、それを患者本位の医療体制の確立をというところに書いております。先ほど野口さんから話がありましたが、提供側の医療ではなくて、まさに患者の立場からどういう医療を望むのか。やはり病気にならないのが一番いいわけですから、予防健康を重視した保険医療サービス体制をどのように地域の中で作っていくのか、そしてそれを支える医療提供体制はどうあるべきなのかということ。そしてその上でそれを支えるトータルな保険制度のあり方、そこにはじめてお金が出てくるんだと思うんですけど、そういう順序で組み立てました。
 医療と言うと、税でやるのか保険でやるのか、大きく二つあると思いますが、連合の中では、保険制度で行こうということです。それは、所得形態が同質であるということに着目して、地域保険と職域保険の二本立てでいったらどうかという考えです。「公正で納得できる医療保険制度への変革を」ということで、保険制度をどうあって欲しいかということを書きました。
 高齢者医療につきましては、先ほど国保に死ねと言うのかと言われましたけど、定年退職があるサラリーマンと、生産手段をもっている自営業は違うのではないかということで、退職者健康保険制度というものを考えたわけですが、決して国保をないがしろにしているわけではなくて、そこは公費によって財政調整を行って、国保により手厚い公費でやっていこうというのが、私たちが考えたことです。
 年齢リスク構造調整ですが、99年から医療福祉審議会で、補足説明として最終的に4つの案に集約されました。連合は突き抜けということなんですが、独立全国一本化、そして塩野谷先生が中心となって主張されました、ドイツをモデルにした年齢リスク構造調整がでてきたわけですけれども、私たちも考えまして、年齢リスク構造調整をとった場合、保険者機能の発揮と言うのが確保できるのかと言うのが、一番大きな疑問としてありました。むしろ保険者機能を弱めていくのではないかと懸念したわけです。
 それから実現可能性の問題として、例えば健保組合の中で、高額医療費に対して今一定の調整金を渡していますけれども、その率さえも下げて欲しいということを聞くんですけれども、健保組合の中でさえ、今の調整を拒否するような流れの中で、現実的にそういう案が可能なのかなというのと、もともとリスク構造調整が入ったのは、被保険者が保険者を選択できるというドイツのがあって、4つの調整機能が入ったと聞いているんですけれども、それが今どんな形で行われているのか、失敗しているという説もありますので、その辺を教えていただけたらと思います。
 それから最後にもう一つ、高齢者医療につきましては、長野県を見習ってですね、PPK運動ではないのですが、予防に重点をおくべきで、今のまま伸びていくと考えたら、とてもできない。それで、若人の5倍と言われている医療費を仮に3倍にとどめるとしたらどうなるかということで試算をして、これを組み立てたということをご報告しておきたいと思います。

山崎:リスク構造調整というのは完全な調整ですから、私もいいましたように、完全財調は健保組合の合意が得られるかどうか。現状は極めて限定的なんですよね。
 日本の健康保険組合というのは非常に志が低いと思います。経営努力をしていると言うけれど、あれは嘘です。本当に努力していると言うなら、医者を雇うべきですよ。ですから健康保険組合の黒字と言うのは、たまたま若い人が多くて所得が高いだけなんです。ですから財政窮迫組合について若干の共同事業をやっていますが、本当はあれは健康保険組合が完全財調すべきなんですよ。自主的に。今、苦しくなれば政管健保ですよね。苦しくなったところというのは、別に放漫経営したわけじゃないんです。リストラで若い人が辞めていって、医療費のかかる高齢者が辞められなくって、扶養家族も多くて、結局財政的にも苦しいというわけです。ですから、そういうところに対してはみんなで支援をしなければいけないんじゃないですか?それをしない健康保険組合というのはおかしい。ですから、完全なリスク構造調整をやれば、健康保険組合が持つメリットというのはほとんどなくなると思いますね。つまり、今のように経営努力をしない健康保険組合はなくなります。
ということになりますので、実現可能性はと言うと、あまり希望ないです。今すぐにできるとは思っておりません。ただ言っておこうと。
 リスク構造調整と保険者機能の強化は、両立するんです。長野みたいな予防的な事業を積極的にやれば、医療費は下がる。保険料も下がる。
 それから、国保の問題というのは、無職者が非常に増えていますが、それは年金受給者が増えているということです。サラリーマンOBが増えているんですよ。それが若い人の手取りより多くの年金をもらっている。大卒の初任給20万円の人が、高齢者を支えているわけです。しかしその高齢者は税金を払わないんです。結局増えている高齢者というのは、貧しい高齢者じゃないんです。と言うことで、公的年金と控除の見直しというのは最優先課題ですね。議論としては、さしあたって、給与所得控除並みに下げる。つまり給与所得であれ年金所得であれ、同じ所得には同じ税金を払ってもらうと。しかしそれでも2000億ぐらいしか効果がないと言うんですね。でも私自身は、給与所得並みに下げるのではなくて、もっと下げたらどうかと思います。つまり我々は背広代がいるんですから、我々には経費が必要なんです。ところが背広や外食の要らない人には経費は要らない。ですから思い切って高齢者優遇制度はやめて、適正な課税を行うことが大きな柱だと思います。
 介護保険でも、65歳以上のうち、76%ほどが非課税だと言うんですね。76%が貧しい老人じゃないんです。たまたま税金の対象になっていないだけだと思います。
 それから、栗山さんの話は結局どうなるかと言いますと、地域保険として国保に統合するのと、職域保険に統合するのと二つあるんです。職域保険に統合するというのであれば、2倍の保険料を払って単独で加入してもらうというのがあるんですが、それは現実には難しい。地域保険である国保にサラリーマンも加入するということになると、一市民として加入するわけですから、事業主負担の意味がなくなりますね。したがって事業主負担を廃止するといういい話になるわけですね。その次どういうことになるかと言いますと、サラリーマンが大量に市町村国保に入ってきますね。そうするとガラス張りの所得のやつが入ってくる。所得割のウェイトをどんどん高めると思いますね。すると取りやすいところから取るわけです。ですから、前提となるのは、徹底した所得捕捉だと思います。それは近い将来できる見通しは全くありませんから、地域保険への統合一本化もないだろうということになります。
 それから、連合の提案ですが、今日最大限連合派になったとしてお願いなんですが、厚生年金、共済年金の遺族年金の受給者もそこに入れてください。途端におたくの計算は随分違ってきますよ。本来そうでしょ?

小椋:公的年金の扱いなんですが、所得控除を当てるのはおかしいですよね。社会保険料というのは、グロスで全部かかっているわけですから、控除は何もないわけですよ。強いてあげるとすればパートタイマーが被保険者になっていないというくらいですから、サラリーマンでは月給10万円でも社会保険料はきちんとかかる。ですから、社会保険料でやるんであれば、全部同じ扱いにやるというのが、わかりやすい。介護保険みたいに、控除なんかいらない。
 もう一つは、所得税よりも消費税のほうがベースとしてはあっていると思います。福祉目的にして、県単位にするか広域にするかですが、受益と負担とが対応していればいい。今年は医療費がかかったので増税になるよ、とはっきりしていたほうが私はいいと思いますが。もし、社会保険料でというのであれば、年金からきちんととったほうがいいと思います。

浅井:浅井と申します。さきほどから、高齢者の方は豊かな生活を送っているという話がありました。現在の時点では確かにその通りだと思いますが、こういった状態がいつまでもつのか。高齢者の3つの大きな問題、介護と医療と住宅、この3つの問題をそれぞれしっかりしたものにしていただいて、その分年金の水準をですね、小さなものにする。その方が合理的な制度になるのではないかと思います。高齢者が豊かだからもっと取って良いとかいうのは、ちょっと逆のような気がしております。
山崎:豊かな高齢者からは、きちんと取れということです。高齢者だから、というわけではありません。

浅井:おそらく、これからは「豊かな」高齢者というのは減っていくのではないかと思います。豊かな高齢者が多い制度設計なのか、あるいは豊かでない高齢者が多い制度設計なのかは考えても良いんじゃないかと思います。

司会:2025年には年金給付を3割減らすと言う話も同時にしているわけですから、今の豊かさが続くかというのは、確かに疑問ですね。
 では竹中さん、豊かかどうかはわかりませんけれども、高齢者であることは間違いない。

竹中:高齢者の一人といたしまして、どういうことをやっても、今のような日本の社会では、老人医療費というのはパンクするような気がしますね。それは社会に問題があると言うか、日本の社会から、生きるとか死ぬとか言う哲学が消えてしまったわけです。いつまでも生きているんだと思っている。我々はいずれ死ぬということを忘れているような気がしましたね。本来ならそういうことをちゃんと、例えば道元さんでも良寛さんでも、死ぬときは死ぬときが一番良いというのがあったんだけど、戦後の教育でそういうことがシャットアウトされてしまったから、もうあと2,3年で死ぬことがわかっていても、悪あがきをする。そういう基本的な問題にメスを入れないといけない。
 それから大事なのは、若い人が死なないようにすることであって、救急医療だとか交通事故の防止にもっとお金を使ってもらいたい。とにかく悪あがきをやめて、社会の風潮を改めないとパンクするということを、高齢者としては思っています。

野口:いろいろなシステムの設計が、現状の、医療費がかかるという設定の元で計算されすぎているのではないか。こうやればここまでかからなくなるということがないですね。確かに連合の提案の中にそういうものが入っているわけですが、それをやっていかなければ、どんどん増えていくばかりですね。金持ちばかり長生きさせていいのかとか、そういう議論ばかり続いてきたわけです。出来高払いを前提とする発想自体が、市民という立場から、税なり保険料なりを考えていく際にいいのかどうか。私は非常に反対です。もっと中身に食い込んでいい。例えば、何千万かかる医療というのは、ほとんどが一ヶ月か二ヶ月に死ぬケースばかりですよね。普通のサラリーマンが本当にそういう医療を望んでいるのかというチェックさえも保険者の立場では現実にやられていないわけです。少なくとも市民税調でこういう話をしないと、たんなる財政ばかりの話になってしまうと思います。

竹中:シルバーシートやエスカレーターなど、社会全体がおかしな仕組みになっている一方で、老人医療が膨張する。病院でも、治療はいいから、もう痛まないようにだけしてくれとお医者さんに言ったら、そうしようということになるけれども、皆がそうしてたら病院経営は成り立たない。何か仕組みを考えないとね。一高齢者として思います。

小椋:今は、どんな医療でも、やってくれるところさえ探し出せばやれる状態ですよね。そういうものに対して、ある程度ゲートキーパーを入れて、必要な医療を配分することに専門家の意見を入れるかどうかということは、ひとつのクリティカルなところだと思います。

山崎:連合の方に、あるいは労働組合の幹部の方に考えていただきたいのは、各制度の総収入に占める拠出額の割合は、改正後の老人保険制度では、被用者保険は42.7%。年齢リスク構造調整方式だと、26.8%。何か楽になりそうだと。これは信じがたいですね。なぜこうなるかおわかりですか。今の老人保険の例で説明しますと、健康保険組合の老人加入率は3%ですよね。全体は12%ですね。したがって、12%分の拠出金がかかってくるわけです。ところが、年齢リスク構造調整方式だと、3%と12%の差を拠出するわけです。つまり9%分を拠出することになるんです。ですから拠出の割合が少なくなる。
 しかし、年齢リスク構造調整方式で被用者保険内で所得調整を行う場合は、政管健保との調整が入りますから、政管の拠出率が4.5に下がる一方で、健康保険組合41で、共済組合47.6なんですね。大企業の健康保険組合はこの共済組合のところを見ればいいのですが、大企業は本当に厳しくなる。しかも、来年度からは宗報酬になりますから、この双方集というのが非常に効いてくる。結局、全体としては26.8で見かけでは楽になるんですが、所得調整を行うと、大手の拠出は今の老健法の改正後と変わらないんですね。だから、大企業の労使は、リスク構造調整、特に所得の調整はいやだということをいいたくなる。特に政管との所得調整はいやだというのですが、所得の差というのは経営努力の問題ではない。

花井:先生がお考えになっている年齢リスク構造調整方式というのは、例えば5歳刻みぐらいでやるのか、どういうことをお考えでしょうか。

山崎:統計があれば、全年齢別でしょうね。今は年齢別の統計がありませんよね。組合によってものすごく持ち出しが出てきますよ。日本で一番給料が高いのは日本テレビですよ。上限が98万で、平均が70万。健康保険組合のなかでも新聞社関係は高いですよね。医療は平等給付ですからね、持ち出しが非常に多いですよ。

司会:もう一変最初に戻りますが、山崎先生がおっしゃられたように、税はこれ以上無理だよということと、それから独立方式は実現性はなくなったと。この二点はある意味ではっきり言われた。それについてもう少しどなたかご意見をいただけたらと思います。

小椋:国保というのは、高齢者をたくさん抱えているため、ものすごくわかりにくい制度になっている。機械的に、60歳でも70歳でもいいですが、給付は同じなんだけど、ファイナンスの仕方だけを変えるという意味での保険集団を作るというのは、必ずしも変なことではない。そういう解決もありうるかな、という気はするんですが、そういうのは無理ですか?

山崎:独立型に対する批判は、年齢によって医療を変えるのは筋が通らないというものなんですよね。私もそうだと思うんですが、役人がそうやっちゃったんですよね。今度は74歳と75歳が違うんです。74歳までは現役。そういうことをやってしまった。老人だからというのではなくて、若い人であっても、慢性か急性かなど、それにふさわしい診療方針にすべきだったという気はします。
 独立型というのは、税金を食うと言うのがやっぱり一番の難点ですね。独立型の魅力は、高齢者から取れるということですね。15万近く年金を受けながら、保険料を払わないで医療を受けるというのは、今の世の中で許せないですね。結局高齢者一人一人から保険料を取るためには独立型になってしまう。しかしその道がなくなったという以上、どうしたらいいか。ジレンマですね。
 独立型を支援していた人というのは、私もそうですが、将来的には介護保険と医療をドッキングさせたいということがあって、それに向けて、まず介護型の保険を作ってということでした。そうすると年齢をそろえなければならない。でも今回の改正は、独立型とは縁を切るという形であって、どちらかと言うと、リスク構造調整に向かう改正だと思います。今回の改正は非常にわかりにくいのですが、趨勢としては、突き抜けの要素が強い。突き抜けというのはリスク構造調整に近づくんですね。

小島:連合の案はリスク構造調整ではなく、公費で調整したらどうかということです。高齢者の保険料は年金に平均保険料をかけるということで、所得捕捉が出来ないということではない。ドイツでは現役が半分、あとは年金保険が負担していますが、連合の案も半分は年金受給者、あとは被用者全体で支えるということです。

新村:税金の余地がないという根拠はどこにあるのか。今の税制の中で公費負担を増やすというのはかなり難しいと思いますけれども、目的税というのは、どちらかと言うと社会保険と同じような発想だと考えるならば、考えうるのではないかと思っていますが、いかがでしょうか。

山崎:実はですね、消費税を上げると物価が上がります。物価が上がると年金も上がるんですよね。消費税というのは今のスライド制を前提にするとですね、現役だけが負担する税なんです。

小椋:私が知る限り、消費税で物価が上がるとその分だけ年金が上がるので高齢者の負担は無いという議論を、最初にしたのは野口悠紀雄先生で、香西泰、高山晟先生もそれ に同調していました。私もしばらくはそれを信じていたのですが、マクロシミュレーションをやって見ると、その結果は成り立ちません。すぐにその理由は解ったのです が、第一に、現実的な仮定の下では、高齢者の消費が公的年金の支給額よりもはるか に多いためです。たとえば月20万円消費していて、10万円の年金を貰っていると、年金は物価スライドしますが、残りの10万円については自分で負担することになります。あたりまえのことですが。とくに自営業者にはこの影響が強く出ます。第二に、賃金に対する社会保険料の賦課を止めて消費税に切り替えますと、賃金コストが下がり、それだけ物価の下落要因となります。したがって、いわゆるpayroll taxを 消費税で代替すると、物価の上昇は抑制されます。極端なばあいは、ほとんど物価の上昇が起きず、年金の物価スライドが起きない可能性もあります。もう一つ複雑な議論もあるのですが、だいたいこの二つだけで十分だと思います。(注:この部分は、会合終了後、小椋さんから送られてきたメールを転載しました)

宮武:この市民税調は増税に反対なのか

司会:増税は、皆さんが税をたくさん払って、安心できる社会にしたいというのであれば、それも結構でしょう。別にこちらは大蔵省の回し者ではないし、また、大蔵省に反対するためにやっているわけでもない。選択肢はいくつもあると思いますし、いかなる結論になっても結構です。

宮武:基本的には、日本の社会保障の給付の割合と、北欧の割合とを比べると、はるかに北欧の方が高いと言われるわけだけれども、しかし北欧の方は、年金を受けている人でもちゃんと年金を払うんです。見かけよりも受け取っている分はそんなにないということです。昨日デンマークに住み着いている千葉さんという人と話しましたけれども、デンマークでは、障害者の人が月に30万円もらっているけれども、ちゃんと所得税6万円払っているわけです。そういう当たり前の環境を作ったほうが健全ではないかなと思います。

司会:そこらへんをどう考えるのか。今の瞬間で考えるのか、将来のスパンで考えるのかとか、少し整理しながらまたご意見をうかがいたいと思います。
 それでは次はまた一月後ぐらいに、もう一つ大きなジャンルが残っておりまして、今の話とも絡むんですが、いわゆる国や地方の話です。またこれも混迷する議論になるけれどもやらなくちゃいけない。栗山さんから問題提起でもしていただいて、またみんなでつつきまわすということにしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
(文責はすべて事務局にあります)