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シリーズ討論

第2回市民税調の開催

湯元健治日本総研主席研究員ほか
国民会議ニュース2002年09月号所収

 8月6日、第2回市民税調が開催された。当日は、日本総研の湯元健治主席研究員・蜂屋勝弘副主席研究員から日本総研のレポートの紹介とが行われ、また、連合の小島茂経済政策局次長から連合における検討状況について報告があり、その後意見交換を行った。


T 日本総研レポート要旨
 1 税制改革論議のあり方
 2 税制改革の具体案
 3 諸制度の改革
 4 地方への税源移譲について
 5 改革後の国民負担

U 連合における検討状況
 1 納税者の権利と公正な納税環境の整備
 2 公平な所得税制度への改革
 3 消費税問題
 4 その他環境税など

V 自由討論



T 日本総研レポート要旨
(蜂屋) 日本総研では6月26日、「税制抜本改革のグランドデザイン −小泉改革に求められるもの−」を発表した。以下はその概要である。
1 税制改革論議のあり方
 現在の税制改革論議は混迷しているように思われるが、その原因は@デフレ対策、経済活力の向上、財政の健全化という時間軸の異なる目標を同列に論じていること、A具体的な数字に基づく論議が十分でなく、イメージや抽象的な言葉で議論されていること、B財政構造改革、社会保障制度改革、国と地方の財源移転システムの改革など他の構造改革と一体的な改革の将来像が示されていないことによる。
 したがって、これからの論議に於いては、短期中期、長期を明確に峻別することが必要である。短期とは、1〜3年、経済活性化に軸足を置いた税制改革、中期とは5〜10年で、財政バランスの改善を念頭におき、長期とは10〜30年の射程で、高齢化のコスト負担をいかに国民に求めるかという議論である。その際、抽象論やべき論ではなく、具体的な数字に基づく議論が不可欠であり、財政構造改革、社会保障改革、国・地方の財源移転システムの抜本改革の一体的なグランドデザインを示すことが重要である。いまの議論は税制だけの話に終始している。 日本総研では、これまでいくつかの提言を行ってきたが、今回の提言はこうした発想でこれらを集大成したものである。
2 税制改革の具体案
@短期の改革
 経済の再生をしない限り次のステップに進めない。しかし、短期とはいうものの、短期的なデフレ対策と位置付けるのではなく、中期的な視点からビジネスフロンティアの拡大に資するインセンティブ税制を中心に考える。同時に、将来を考え、国民の税制に対する信頼を確保するための改革も不可欠である。
 信頼回復のためには、所得税におけるクロヨン(所得捕捉率格差)の是正(納税者番号制度の導入)、企業関係の租税特別措置の縮小、消費税制度の見直し(免税点の引き下げ、簡易課税制度の廃止、インボイスの導入)が必要である。
 経済再生をサポートする税制としては、IT投資促進税制や試験研究費促進税制、さらには都市再生特別区域における不動産関連税制への優遇措置、ベンチャー・起業支援税制の拡充、投資信託に対する優遇や金融商品課税に見直し(2元的所得税の導入)などが挙げられる。
 また、社会構造の変化への対応として、配偶者控除、特別配偶者控除の廃止、定率減税の廃止なども必要である。チャレンジをサポートするための改革、あるいは高齢化を乗り切るための改革と位置付けられる。
A中期の改革
 中期改革の目標は財政バランスの改善であるが、財政赤字の削減を目指した増税はすべきではなく、歳出の削減で対応すべきである。2002年度のプライマリー赤字は19.6兆円であるが、これを10年かけて歳出削減で黒字化するためには、社会保障に係る公的負担の対名目GDP比を一定にし、公共投資の水準を80年代の水準にまで削減し、政府消費の水準を横ばいに抑制することが必要である。しかし、この間にも進行する高齢化によるコスト負担増を勘案すると、2012年度までに必要なプライマリーバランスの改善幅は33兆円にも及ぶ。このうち、公共投資の水準を80年代の水準にまで戻すことは年2.8%減を続けることであり、これは達成可能であろう。また、政府の消費水準を横ばいに保つことはかなり厳しいがなんとか実行可能と思われる。しかし、社会保障の公的負担の対GDP比を一定にすることは、2012年度の水準44.1兆円を33.5兆円に、つまり試算額の4分の3にまで切り詰めることになり、極めて困難である。仮に、厳しい給付抑制策をとったとしても、その効果はせいぜい2.2兆円に過ぎず、必要額10.6兆円に遠く及ばない。この分については、結局、増税するしか方法がない。われわれとしては、2007年度から消費税率を段階的に引き上げることとしているが、将来、消費税率は2ケタになることは必至であるので、軽減税率を同時に導入することが必要だと考える。
B長期の改革
 消費税、地方消費税を中心に高齢化に伴うコスト負担増に対応する段階である。2025年度には社会保障に係る公的負担は、基礎年金の国庫負担を2分の1に引き上げることや高齢化の進展によって64兆円、2002年度予算(24兆円)に比べて40兆円の増加になる。年金・医療・介護だけとって見れば、38兆円増の57兆円である。
 この財源を全て消費税で賄うとすれば、2025年度には16.0%への引き上げが必要となる。一方、所得税・住民税のみで賄うことは非現実的である。いま検討の俎上にあがっている所得控除の廃止などを全て実施したとしても、得られる税収は23.8兆円(消費税換算9.5%)であり、到底不足分をカバーしきれない。
 結局、所得税の定率減税の廃止と給与所得控除の圧縮を行うとともに、消費税率を19%(国10%、地方9%)にするシナリオとなる。ただし、生活必需品には軽減税率5%が適用されるため、平均税率は14.5%となる。
3 諸制度の改革
 以上のような税制改革の前提として、財政構造、医療制度、年金制度の改革が必要である。
 財政構造改革としては、10年後には国・地方ともに10兆円の歳出削減が必要である。また、その一環として、投資的経費を中心とする国庫支出金の削減が必要である。(税源移譲は前提とせず、4兆円規模)。さらに、地方交付税の抜本改革が必要で、交付税額を国税5税の32%に固定し、交付税特別会計を全廃する(特例交付金を含めて4兆円の規模圧縮)。また、投資的経費の基準財政需要額への不参入とともに、基準財政収入額の算定率を20%引き下げて地方の手元に財源がこれまで以上に留保されるようにする。
 医療制度改革としては、老人保険制度と介護保険制度を廃止し、高齢者の医療と介護を一本化したシルバー保険制度を創設する。また、混合医療や予防医療など、効率化を図る。
 年金制度は、現行の賦課方式を維持し、基礎年金の財源は全額税方式に転換する。厚生年金は平均標準報酬月額の多いひとほど給付乗数の引き下げ幅を大きくして、新規裁定者の報酬比例部分の給付額を総額30%削減する。また、2010年以降、積立金をとり崩し、厚生台の負担を軽減する。こうした改革によって、厚生年金の保険料は14.1%程度に維持できる。
4 地方への税源移譲について
 地方には財源がない、あるいは分権のために必要だという、いまの税源移譲論は説得的ではない。現在の歳出規模が適正かどうかを考える必要があり、補助金、交付税の削減によって、適正化を促す必要がある。
5 改革後の国民負担
 以上の改革を実行すると、2025年度の国民負担率は44.5%と、現状より5.6%上昇するものの、財政赤字を含めた潜在的負担率はプライマリーバランス赤字の解消を受けて47.2%とほぼ現状水準に止まる。家計の負担は、現状の名目GDP比14.5%から23.9%に上昇するが、これはOECD諸国の平均とほぼ同じ水準である。企業の負担は名目GDP比9.4%のまま変化しない。現在の日本の税・社会保障負担は欧米諸国に比べて企業負担の割合が大きく、これを0ECD諸国なみの家計負担にすることによって、企業負担もOECD平均なみになる。
(湯元)2025年までを展望した場合、消費税の大幅引き上げは不可避であるが、その間どういうことをやるかによって、税率は20%にも30%にもなる。厳しい歳出削減を中心にした改革を実行したとしても、15%程度の欧州諸国なみの税率になることは避けられないという現実は直視しなければならない。手を緩めれば、20%、30%という税率になって、これでは経済が持たない。
 国・地方の関係の議論は、税源移譲の議論を別にしても、交付税、補助金、国・地方の歳出規模を同時決定するような議論が必要で、別々の議論してみてもトータルの解が出てこない。そういうことで、ひとつのモデルケースを示したものである。10兆円づつ削減するとしてなにをするかという議論が出てくるであろうが、投資的経費や一般行政経費、補助金などについて、試算を行ったものである。
(報告書は日本総研のホームページ http://www.jri.co.jp/ を参照されたい)
U 連合における検討状況
(小島)連合では1994年に「税制改革大綱」をまとめた。これは勤労者の立場から、不公正税制の是正を中心にまとめたものであるが、現在、その改定作業を行っているところである。まだ、最終的な結論が出ていない問題も多く、本日は、いまどんなことを議論しているかをご説明したい。また、環境税についてのパンフもご参考のためお配りしたが、これは昨年連合の研究会で取りまとめたもので、環境税に類型とそれぞれの功罪を述べたもので、どうすべきかについての結論は出していない。
 まず、大綱策定後7年経過しているが、当時連合が目指したことがどの程度達成したかを検証しようということである。連合はサラリーマンの立場から不公平税制の是正ということを強く主張したが、連合が望んだような是正は進んでいない。また、所得課税については総合課税を目指すべきだと主張しているが、これも進んでいない。これを担保するための納税者番号制度の導入も、議論はそれなりに進んではいるが、実現していない。
 こうした評価を踏まえて、新たな経済社会の変化に対応する課題ということでいくつか整理を行っている。まず、高齢化、少子化社会を迎えて、社会保障制度を支える財源として税制の役割が一層重要となっている。また、生活や国民意識の多様化、ライフスタイルの変化の中で、従来の標準的世帯といわれる、ダンナが働いて奥さんは専業主婦、子どもは2人というモデルの考え方でいいのか。それに応じて税制の見直しが必要である。さらに地方分権のための財源の確保も大きな課題である。分権一括法が出来ても、それを担保する税財源の移譲は進んでいない。
 連合としては、こうしたことを踏まえ、今後の改革の柱として4点を挙げている。第1は、納税者権利の確立ということで、給与所得者についても申告納税を認めるべきだということである。第2は税負担の公平・公正の確保であり、所得に応じて負担する垂直的公平と、同じ所得ならば負担も同じという水平的公平の観点から、いまの所得税の見直しが必要ではないかと考えている。第3は福祉社会の基盤となる税制の確立であり、社会保障財源の安定的確保という視点から、税制のあり方を見直す。第4は地方分権の推進。こうした4つの柱で、具体的な税制のあり方を見直すことにしている。
1 納税者の権利と公正な納税環境の整備
 サラリーマンについても、申告納税を選択できるようにすべきだということである。源泉徴収自体をやめてしまうことは現実には難しいので、年末調整をサラリーマンが自ら行う制度と現行の企業が年末調整を行う制度との選択制の導入である。これによって、国あるいは地方に対する納税者の参加と監視意識を高める効果が期待できる。
2 公平な所得税制度への改革
 また、総合課税の導入あるいは所得捕捉の改善という視点から、納税番号制度の導入が必要であると考えているがどのような制度を使うかということについては住民基本コードや基礎年金番号など、既存の制度を活用したものが望ましいと考えている。なお、住基ネットにはいろいろ問題があり、連合では個人情報保護法が出来るまでは稼動をストップしろと申し入れを行っている。
 給与所得控除や人的控除のあり方については、税調も今年の6月に基本方針を出しているが、まず給与職控除については、現在、給与所得の3割ほどが給与所得控除として控除が認められているが、この性格を巡っていろいろ議論が行われている。サラリーマンにも申告納税を認めることになった場合、必要経費の控除と給与所得控除との関係が問題となる。主税局ではいまの給与所得控除は高すぎるのでもっと圧縮すべきで、申告納税で必要経費を積み上げるというようなことは検討すべきではないかという態度であるが、連合では単純に申告納税を認めて給与所得控除を圧縮することは呑めないというということである。いずれにしても、給与所得控除の性格をもう一度位置付け直すことは必要である。
 また、配偶者控除、特別配偶者控除の見直しは、専業主婦優遇については連合内でも議論になっている。男女共同参画社会という観点からも廃止論があるが、連合としては、実際にそれを廃止した場合、対象となっている世帯では増税ということになるので、その辺の調整を図る必要があると考えている。連合では3〜4年前、2分2乗方式の導入によって配偶者特別控除制度の廃止をするという議論を行った。ただし、そのまま2分2乗方式を導入すると相当な減税になるので、税率を1.5倍するという調整を行うという議論をしてきた。これに対して、これでも配偶者に対する優遇は残るということで、もっとシンプルに配偶者控除や特別控除を廃止して、その分、基礎控除の引き上げをすべきであるという議論もあった。しかし、それも現実的には難しいということで、特別控除を廃止し、配偶者控除の対象を限定し、それによって生じた財源は子育て支援に回すという考え方が出ている。具体的には夫の年収が760万円以下の世帯に適用するもので、380万円の場合は38万円、年収が10万円上がるごとに1万円を減額していく。これによって生じた財源は児童手当の増額や保育所の充実に回す。連合では、これらを含めていま議論している最中である。
 その他の人的控除は、社会保障給付や福祉サービスなどとの関係を整理し、基本的にはその財源を給付に振り向ける方向で議論している。実際にはなかなか難しい問題もあるが、個別問題は個別に調整していくことになろう。
 問題は公的年金控除であるが、確かに現役世代と比べると優遇されている。特に65歳を過ぎると公的年金控除は倍くらいに優遇されるので、これは現役世代とのバランスを考慮して、65歳以上の控除の水準を見直すべきであると考えている。どのくらいにするかは、これからの課題である。
3 消費税問題
 消費税については、社会保障財源としてどう考えるかであり、連合ではこの税制の議論と並行して21世紀社会保障ビジョンを検討しており、そこでは基礎年金を税方式にすべきであるという方向を打ち出している。その財源は消費税を年金目的税として確保することを考えている。ただ、財源の全てを消費税に求めるのではなく、半分は一般財源からの拠出を考えている。
 地方の税財源の確保については、所得税の基幹部分(10%)の半分を個人住民税に移し、住民税の税率は10%一本にすることを考えている。これで大体3兆円規模の税源移譲が行われることになる。これと交付税改革も必要であり、最終的にどこまで財源配分をするかということについてはまだ議論が進んでいない。総務省では地方消費税として1%移すことを考えているようだが、連合ではまだ議論がそこまで進んでいない。
 地方の法人事業税については外形標準化を図るべきだというのが連合の考えであるが、ただ、その中に含まれる給与分については出来るだけ圧縮するということで、全体の課税ベースの2割程度のすべきだと考えている。総務省の案も大体それに近づいている。
4 その他環境税など
 今後の課題としては、環境税にあり方についてどう考えるかであるが、導入すべきであるがその目的や税目についてはまだ結論が出ていない。そのほか、国際的な金融取引については、特に投機的取引を抑止するために、いわゆるトービン税(0.1%)の導入も検討すべきだと考えている。

V 自由討論
(小塚)日本総研のプログラムでは消費税を16%にまで引き上げるというが、その段取りはどうするのか。また、連合は、今後の消費税についてどう考えているのか。
(蜂屋)レポートの27pに書いておいたが、2007年度に地方消費税を1%から4%に引き上げ、それと同時に消費税の軽減税率制度(国4%、地方1%)の導入と福祉目的税化を行う。その後、2〜3年おきに2%づつ消費税率を引き上げることを考えている(軽減税率は据え置き)。
(小島)社会保障全体の数字を弾いていないので、どの程度の財源を消費税に求めるかは不明である。ただ、連合は基礎年金の改革で税方式を提唱しており、次の次の年金財政再計算の時にこれを実施するとすれば、2009年〜2010年ごろには、まあ、2%あれば十分だと考えている。将来的にも年金だけのためならば、2〜3%あれば済むのではないか。
(賀来)財政構造の改革や税制改革によって、経済のバランスがどう変わるのか。
(湯元)まず、われわれは10年間でプライマリーバランスを改善すべきだとはいっていない。政府が言っているこの目標を達成するには、こんなに大変なことなのだということを示したに過ぎない。世の中の認識があまりにも甘すぎるのではないかと考えている。2%程度のプライマリー黒字が必要だと考えた場合、トータルで30兆円ほどのバランス改善が必要になる。年あたり3兆円ということになるが、今年度の予算編成で国債を30兆円以内に収めるため、3兆円の削減を行ったが、これを今年も行うのはとても難しく、すでに政府税調では所得税を中心に増税の話が出ている。
 こうした機械的な歳出削減ということは早晩行き詰まることになるので。当面の財政再建においてはあまり数字のことは考えずに、無駄なものに歳出が配分されているものを見直すことに全力を挙げ、数字自体はあまり目標とすべきではないと考えている。
 とはいえ、長期的に考えると、とくに社会保障のコスト増は、既に現在もはじまっている。2004年に基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げることは決まっているが、その財源はなにも決まっていない。どのぐらいの財源が必要になるかを計算すると、2分の1に引き上げるだけで3兆円、さらにその間にも進む高齢化のために3兆円、あわせて6兆円が必要になる。これをどうするのか。われわれの提言の中では、この分については所得税改革のなかから財源を捻出していくしか方法がないと考えていて、経済が再生するということが大前提として、定率減税などの見直しでカバーしていくしかない。
 先ほど、経済を再生させるための税制改革ということを言ったが、これは規模にしてせいぜい2兆円程度であって、これをネットで減税するのではなく、消費税の益税解消とか税制の信頼性を回復させる措置をとる中でその程度の増収は期待できるだろうと考えている。短期的にはネット減税になっても中期的にはバランスがとれるはずだと考えている。そうした努力をまず行うべきで、当面、3〜5年程度は財政のバランスにこだわりすぎると経済の再生は出来ない、中長期の目標も達成できないと考えている。
 こうした努力を大前提として、2005年度以降日本経済が正常に戻ることを大前提として、こうした中長期に消費税引き上げの絵を描いたわけである。そこが崩れると、とてもこんなことは出来ない。
(小島(正))日本総研のような試みは政府税調もやらなければいけないと思う。それにつけても、社会保障とくに医療の問題はもう少し突っ込んだ検討が必要だ。混合医療の導入も提唱されているが、混合医療を導入したくらいではとても医療費の抑制にはならない。なによりも、そのベースとなる医療は今のような制度でやっていくのかどうか、きれいごとではなく、こうすべきだということをいうべきだ。
 所得捕捉の問題をあげられたが、あるところでこの問題を指摘したら、トーゴーサンピンの問題はもうサンピンの所得の比率が小さくなったので、あまり声があがらなくなったといわれた。しかし、国民の考え方はそうではなくて、不公平ということについての問題であり、政治家や農業者の所得が相対的に小さくなろうが、その捕捉率が3割だとか2割だとかいうところが問題である。これをサラリーマンなみの9割になった場合、どのくらいの額にのぼるのか、本来は税務当局の仕事であろうが、どこかで試算すべきではないか。
 軽減税率の問題であるが、消費税率が10%以上になっていく中で、軽減税率を5%のままに据え置くことが妥当であるのかどうか。軽減税率で考えられているのは食料品などであろうが、食料費というのはどこまでがベーシックなものであるのかどうかがわからないので、果たして軽減税率ということがいいことかどうか、また、軽減税率と一般税率との格差が非常に大きくなることは税の体系上問題になるのではないか。
(湯元)まず、所得捕捉の問題については、たとえウェイトが下がってきたからといって放置すべきではなく、税の信頼性を確保するための大前提のことであると考えている。私どもなりに試算をしてみると、完全に捕捉できたとして、年間1兆円程度である。予想したよりも意外と少なく、それほどこれらの所得のウェイトが下がっているということである。しかし、多い少ないにかかわらず、これはやるべきであると思う。
 軽減税率は欧州諸国では広範に導入されており、ゼロ税率のところもある。欧州では15%から25%とかなり差があるが、日本では2割を超えるとなるとかなりの抵抗感がでてくる。先ほど基礎年金の100%税方式化の話もあったが、もしそういうことを目指すならば、消費税率はさらに短期的には3%幅、長期的には5〜6%幅で引き上げる必要があり、それをオンすれば消費税率は20%を超えることになる。これは何も努力をしないとこうなるというのではなく、かなりの努力をしてもこうなるという数字であリ、何もしなければ25%〜30%という数字になってしまう。
 年金や医療をどうするかということは国民の不安の原因にもなっており、少子化や高齢化が今のスピードで進んでいくことになると、持続が極めて難しくなるので、国民に年金給付はどこまで切り詰めることが出来るのか、医療はひとの命にかかわることであるのでなんでも切り詰めるということにはならないが、しかし、非効率な部分があれば医療機関の効率化を促すインセンティブを考えていかなければならない。同時に老人医療制度は財政的に破綻しているので、税によってきちんと安心できる制度に切り替えていく。一方ではコスト負担が生ずるので、それを効率化によってカバーしていくことを考えている。医療自体は2025年時点で、10%強効率化が可能であり、その分を高齢者の医療の財政増大分に充てるという考え方をとっている。年金については、2階部分の給付については自己責任のウェイトを高めていくべきだと考えており、今の厚生省案よりも3割ほどカットすることが必要な厳しい財政状況であると考えている。
(司会)その3割カットを前提として、この試算を行っているのか
(湯元)前提に入れていないのは基礎年金の100%税方式化だけである。昨年の提言では入れたが、これを入れると消費税率は20%を超えるので、日本の経済が上向くとか少子化に歯止めがかかるとかいい状況が生まれたら検討しようということで今後の検討課題に回している。
(司会)給付は削り、負担は増える。しかも、老後の安心は増えないということになると、誰もハッピーな感じは持たないだろう。安心のためには負担はもっと増えてもいいとかそのほかの選択肢は検討したのか。
(湯元)われわれはこれがベストで、皆さんこの案を選ぶべきだと言っているわけではない。国民負担率は欧州では5割を超え、スウェーデンでは7割になっていても、それで国家経済が破綻しているわけではない。高齢化が進むと経済が停滞するわけではなく、国民負担率が上昇すると一義的に経済が停滞するわけでもない。これは所得の移転が生じているだけであって、移転された所得が効率的に経済を成長させる投資や消費に向うというという経済システムを構築できれば、国民負担率が上がろうとも経済は停滞しない。そのためには、いまは金融システムが機能不全に陥っているから、金融システムを立て直すことが最優先の課題になる。民間部門の不良債権処理という問題に止まらず、公的金融の非効率性、規模の大きさを問題としなければならない。公的金融は安全な運用が使命であり、それがあまりに大きいということは民間の貯蓄が低利回りのものに充てられている分けで、そうした金融システムの是正ということを真剣に考えていかなければならない。
 そういうことから考えると、消費税率をなん%にするかという問題は、経済をどの程度再生させうるのかという問題に依存しているわけで、消費税率の引き上げ幅を大きく示して不安をあおるということはあまりしたくない。ただ、現実の厳しさをきちんと認識した上で、国民の選択にゆだねることになる。日本に2大政党制が根付いて、欧州的な社会保障を重視する体制と米国あるいは英国のような自己責任に委ねる体制などを政治家が提示して国民が選択出来るような仕組みが望ましい。今の政治を見ていると、プランすら出てこない。先のことには目をつぶって、目先のことしか議論しない状況である。
 また、雇用不安ということもあるが、いままでは一つの会社に就職してそこにいれば安心というスタイルであったが、これからは個人の能力を努力によってどんどん伸ばし、政府もそれを支援するということによって、その気になればいつでも職を代わり職につけるという能力を国民全体が高まるというのが雇用の安心が確保されている状態だと考える。経済成長がないと駄目だということはあるが、今の産業の中で雇用が固定化されているのは安心の状態ではないといえる。そこは別の政策が必要だ。
(恒松)国民に負担を求める際に、なぜ消費税になるのかという説明が必要なのではないか。
(湯元)経済主体から直接、税をとるのは投資行動や消費行動にかなりのネガティブな影響を及ぼすことになるが、間接税の場合は、それが理論的には影響度が最小限で済むというのが、定説である。しかし、たとえば97年に消費税を上げたときにあんなに影響が出たではないかという反論も出来る。上げるタイミングや幅が非常に大事であり、不良債権問題が片付かない脆弱な経済状況のもとでは2%でもあれほどの大きな影響が出ることになる。欧州もいっぺんに16%や20%にしたわけではなくて、段階的に引き上げてきた。その時々は短期的な影響は出たとしても、長期的には影響は出ていないと考えられる。所得に対する税負担を軽減することが投資や消費を活発化させ、経済成長を高めると言う考え方でやってきた。アメリカは少し考え方が違って、所得税を中心にやっていこうという考え方で、しかも連合の提言にあるように総合課税を原則としてやっており、これもひとつの考え方である。日本は、直間比率を是正することがコンセンサスのようになってきているが、所得税でとっていこうとしても日本ではアメリカのように税収が上がらない。なぜかと言うと、所得税の実効税率のカーブはアメリカや英国では低所得者からすぐ高くなってその後フラットになる構造であるのに対し、日本ではカーブがゆるくあがってその後フラットになってアメリカ英国なみの水準になる。つまり中堅所得層の税率が低くなっており、GDP対比で税収は半分しかあがっていない。所得税中心に税をとっていくということは中堅所得層の増税になるわけで、とてもこれは無理である。また、最高税率を上げるかというと、これも難しい。結局、所得税でとっていく方向というのは限界がある。
(得本)連合の考えは申告納税と源泉徴収の選択制であるが、日本総研ではどう考えているのか。私は、源泉徴収などやめたらいいと考えているが、前にこの会合で八田さんはいまの制度が一番いいと言っていた。
 また、国と地方の財源配分についてであるが、現行の都道府県制度を前提に議論されたのかどうか。道州制などを考えていないのか。
(湯元)われわれのレポートにははっきり書いていないことであるが、申告納税を増やしていくことは重要なことであると考えている。納税者意識を高める効果もある。ただ、いまの源泉徴収制度というのは、諸外国も羨む(国にとって)低コストの徴税システムであり、これを全てやめてしまった時の追加コストの大きさを考えると、あるものは活用しながらやっていく方向がいいのではないかと思う。先ほどの連合の議論にもあったが、給与所得控除があまりにも大きすぎるということであるならば、それとあわせて、いまは経費の中に算定されていないもの(たとえば個人の自己啓発経費)もどんどん申告していくと言うような制度とのマッチングは必要だと思う。その際、個人がいちいち税務署に行って申告するというのではあまりにもコストがかかるので、諸外国では当然のこととなっている電子申告を取り入れていくことが必要である。ようやく日本でも実験を開始したばかりであり、まだまだであるが、アメリカではパソコンのソフトで個人の資産負債を一手に管理し、銀行にも税務署にもデータがつながっていて、自宅に居ながらにして出来る。税務署のフォームも非常に簡略化されていて、間違いがあればソフトがすぐ指摘するというやり方であり、そのような仕組みをまず整えることが先決である。
 国・地方の問題は、道州制のような政治的な問題は念頭におかず、いまの都道府県を前提に考えている。諸外国と比べて見ると、諸外国では地方の自主性が非常に高く分権が進んでいる国は州政府というものがある。日本のような体制で、地方に自主財源を与えて独立してやっていくと言うことが可能かどうか、私も疑問を感じている。
(小島)連合では94年の大綱の時にも申告納税を認めろということを入れていた。しかし、いまの源泉徴収を全く止めてしまって、3月の確定申告で一発納税ということは現実的でなく、結局、予定納税を取り入れ、年末調整は自分でやるということを考えている。
(竹内)税制の抜本改革というならば、所得税系、資産税系にも触れるべきであるし、また、環境税のような問題もある。このレポートでそれらを省いた理由はなにか。
(湯元)このレポートは最終報告の形をとっているが、最後のページにあるように、既に5月29日に所得税についての提言を行っている。その要旨は、透明で公正な制度とすること、また、個人が新しいことにチャレンジすることをサポートすること、一方で高齢化を乗り切るために所得税の負担も追加していかなければならないというものである。ここで、所得税についての抜本改革の姿を示したつもりである。資産課税についてはたしかに触れていないが、私どもは相続税の最高税率の引き下げが云々されているが、これはおよそナンセンスな議論だと思い、とりあげていない。むしろ、資産課税強化と言いたいところであるが、とてもいう状況でないので、あえて触れていない。
 環境税は重要だと思うが、われわれが言わなくても入ってくる方向だと考えている。しかし、財政再建のために環境税を導入しようとしても、そこからあがる税収はたかが知れているので、やはり環境破壊を税のインセンティブでいかに防止するかということに環境税の意義があると思う。
(司会)企業は国際競争力のために企業課税は国際水準に揃えなければならないというが、企業が大変だと言うならば個人も大変だ。全て個人の負担で解決するというのは一般に違和感が出てくると思うが、そこをどう考えたらいいのか。
(湯元)企業の負担を個人に押し付けていいのかという議論は一般的に行われるところであるが、そう言う考え方が税制の抜本改革を阻むものだと思う。個人が幸せになるためには、一般的にサラリーマンが多いわけであるから、企業が再生し経済が再生しなければならない。また、個人の負担が客観的に見て重いかといえば、日本の所得税の負担は欧米諸国の半分しかない。日本が国際的に異常に個人の負担が低い国である。企業の負担は平均的な水準である。日本の企業の実効税率は40.87%で、主税局や政府税調は、日本の企業の実効税率は先進国レベルになっておりこれ以上引き下げる余地はないと言っているが、OECD諸国の実効税率は平均31%台であって、代替上から3番目くらいに高い国になっている。経団連はアジアでは20%だから日本も20%にしろと言っているが、これはいくらなんでも無理だとしても、実効税率を5%引き下げるには兆円単位の財源が必要であるので、単に減税をしてそのツケを国債発行増に回すとか、何の財源確保もなく引き下げるべきだとは思っていない。いまの企業の負担の重いところは地方における負担だと思うので、地方も財政難であるならば、国と地方との構造を見直す過程に於いて解決していく必要がある。地方のサービスの受益者は企業というよりは個人であるから、個人負担を増やすことが望ましい。逆にいえば、個人がそのくらいの負担が出来るくらいの経済に早く戻していかなければならない。経済が悪い状態で個人の負担を求めると言う発想でなくて、少なくともOECD諸国なみの負担が出来る経済に早く戻ることが大切だと考えている。結果として政府税調がいっていることと同じように見えるが、経済が再生する前に、ここ3年から5年の間にやるというのはとんでもないことであり、そういうことが出来そうだという状態になって始めて、そういう改革を徐々に進めていく、20年から30年のスパンの問題であると考えている。
(野口)個人の負担が低いといっても、社会保障などのサービス水準も低い。企業はどうかと言えば、国から受けているサービスは欧州諸国に比べて格段に厚い。企業の税金がもっと高いときにも、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われて元気だった。また、最近になって、基礎年金を全部税方式にして企業はその負担を逃れようともしている。これで全体のシステムがうまくやっていけるのかどうか。経済が元気が出るということは、企業が元気になることなのか個人消費が元気になることなのか。私は個人消費だと思う。日本総研のシナリオで個人の消費はどうなっていくのか、経済全体の絵がかけるのか。
(司会)企業が元気になって、労働組合がもっとしっかりしていれば、個人の消費も元気になるのではないか。まあ、これは冗談だが...。
(安藤)この市民税調で検討する場合に、一番大切なのは何のために検討するかである。市民税調の議論の叩き台は「市民がのびのびと活躍できるために」とあるが、こうしたことに違和感をおもちか、あるいはまあ同じだとお感じか、それぞれ感想を伺いたい。
(小島)連合では、労働を中心にした福祉社会という目標を掲げている。労働が尊重されることを強調している。これと「市民」とどう結びつくのか。そんなに違ってはいないと思うが....。
(湯元)感覚的には同感できるところが多いが、具体的な制度設計の時に齟齬が生じないかどうか。たとえば、NPOに対する税制についても、これを広げていく場合には国や地方の役割をどう小さくしていくかという議論があって、それを市民セクターがどうカバーするか。国、地方、NPOの相互の役割分担をどうするのかという議論が大前提として必要だ。細かいことをいえば、公益法人というものもあリ、それをどう扱うか。そうした検討が必要なのではないか。
 また、政府の役割を3分の1くらいにして、それを市民セクターがカバーするというのであれば、先ほど申し上げたような数字まで税負担を高める必要はなくなるかも知れない。われわれの検討はそうした要素は考えていないので、具体的な図を市民税調で描いてもらえるとありがたい。われわれも国地方あわせて20兆円削減といっており、これはかなり小さな政府となるが、さらに縮小することになったときの具体的な姿を、誰も描いていないので市民税調で書いてもらいたい。
(司会)政府とNPOの役割分担は、予めこうだと決めるのでなく、お互いに競争しながら落ち着くところに落ち着いて行くということもあるのではないか。                
(文責は事務局にあります)