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シリーズ討論

第1回「市民税調」の開催

国民会議ニュース2002年05・06月号所収

第1回「市民税調」の開催

 さる5月30日、第1回市民税調が開催されました。税金という身近な問題を、一部の専門家の議論に任せるのでなく、市民税調という形で、広くみんなが議論に参加できる場をつくることには誰もが異論がありませんでした。どのようなことを議論すべきかについては、政府税調や経済財政諮問会議の動向をみることは大事ですが、それに引きずられることなく、市民の立場から今後のあるべき税制についての基本的なスタンスを固めていくことが先決であるという雰囲気でした。席上、これまで準備会での議論をもとに事務局がまとめたペーパーをもとに議論を行い、今後、議論を積み重ねて秋には意見をまとめる方向で努力することで一致しました。
 その後、6月27日に開催されました第26回定時総会のあと、今後の市民税調の検討についても議論が行われ、8月に開催される第2回市民税調では、税制や社会保障制度改革について案を出しているところの関係者にも参加してもらい、相互の意見の突き合わせの中から、市民税調としての独自の立場を明らかにしていくこととなりました。(なお、6月27日には第2回市民税調を開催する予定でしたが、参加者があまり多くなかったため、今後の方針についての意見交換に止め、第2回は8月はじめに開催することにいたしました。)
 以下、当日提出されたペーパーとそれに対する主なご意見を掲載いたしますが、さらにご意見を事務局までお寄せいただければ幸いです。このペーパーはあくまでも第1回の議論のためのペーパーですので、どのようなご意見でも結構です。


1 なんのための税制改革か
2 どのような社会を目指すか
3 財政構造改革について
4 税制の改革
5 年金・医療保険・介護保険制度の改革



《討議資料》
「市民がのびのびと活躍できる社会」実現のための税制改革案
(議論のためのたたき台)

2002.5.30
行革国民会議事務局
1 なんのための税制改革か
 われわれの税制改革の目的は「市民がのびのびと活躍できる社会」を実現することである。政治・経済・社会のそれぞれの部門において市民が主体的な役割を演じることが、日本の活性化に結びつく。税制改革はこの活性化を促進するための積極的な役割を担うべきである。
 当面の課題として、財政危機や景気回復あるいは社会保障財源の確保などが挙げられている。これら諸課題はいずれも重要であるが、そのための短絡的な「税制いじり」は行うべきではない。市民社会を強化し市民政府を実現するプロセスの中で、これらの諸課題を解いていくというのが、われわれの考え方である。

2 どのような社会を目指すか
 「市民がのびのびと活躍できる社会」とは、「ひとが年齢・性別や国籍を問わず、制度や慣習に縛られることなく、就労しまたは社会的に活動できる社会」である。また、そうした社会を持続可能とするため、社会制度とともにとくに環境問題など外的条件についても配慮が必要である。
【個人の自由を保証】
 家族・世帯中心の考え方あるいは終身雇用を前提としたこれまでの考え方を改め、税制や社会保障制度を個人単位に再構築する。これにより、結婚・離婚や就職・離職など個人の人生選択の自由を保証する。
【みんなが支える社会】
 選択の自由を保証された個人が共感と連帯をもとに家族、地域社会をつくり、それが国レベル、地球レベルにまで広がっていく。社会を運営する費用は、それぞれの個人がその能力や受益に応じて「公平に」負担する。企業も法人として社会を構成する一員であり、社会を支える役割を担うことは当然である。税とはお上から取られるものでなく、市民が自分たちの社会を維持していくために納得して支払うものにしていきたい。
【市民セクターがより大きな役割を担う社会】
 社会をみんなで支えるということは、費用負担だけの話ではない。少子高齢化時代には社会的サービスの需要が高まることになるが、その供給を政府やその外郭団体に全て任せるのでなく、市民や企業が積極的にその役割を担うような社会をめざす。政府セクターにのみ機能を集中させるのではなく、政府セクター、企業セクター、市民セクターがそれぞれバランスよく社会を維持していくような分権社会を目指し、そのために税制・財政システムを改革する。
 今日、とりわけ重要なことは市民セクターの強化である。NPOを含めた市民セクターによる社会的サービスの供給など多様な市民ビジネス・市民活動を促進・強化することにより、社会の中に重層的なセイフティネットを張り、安心出来る社会を構築していく。
【地方主権社会】
 国・都道府県・市町村という上下関係を改め、市町村を中心とし、都道府県や国が補完する地方主権社会を目指す。
【国際化対応】
 国際化は企業の競争の問題だけではない。日本国内に多くの外国人が居住し、納税していることを念頭におき、納税者主権と「国民」主権のギャップを埋める努力を行う。さらに、国際的な経済力の格差、貧困の解消、民主化の促進にも、地球市民の一員として心がける。
 企業や金融商品のように国際的に流動するものについての税制は、国際水準に揃えなければならないという制約があることを前提として、システムを構築する。
【持続可能な社会】
 持続可能な社会を実現するために、ひとつには財政や社会保障制度など社会的制度の基礎を固めることが必要であるが、さらにそれを超える問題として、環境への配慮がますます重要性を帯びている。今回の税制改革においても、環境保全(とくに地球温暖化対策)を重要な柱とすべきである。


3 財政構造改革について
 租税負担に社会保障負担をあわせた国民負担率を50%を超えないようにするということについては、これまで大まかなコンセンサスが国民の間でつくられてきた。現在、財政赤字を加えた潜在的負担率は47%に達している。これ以上新規に財政需要を増やす余地はなく、既存のものとの振り替えをする以外にない。
 行革をやってもたいした財源は捻出できないとの説明をこれまで財政当局は繰り返してきたが、昨今の不祥事の報道を見ると、財政支出全体にかなりの「水増し」が含まれているように思われる。財政の赤字を減らすには、増税を云々する前に徹底した合理化が必要である。また、現下の不況で雇用を維持するために民間の企業、勤労者・組合が経験している辛苦を考えれば、政府部門の人件費についてかなり思い切った削減がとられない限り、負担増についての世論の納得は得られないだろう。
 「高福祉・高負担」か「中福祉・中負担」かなどの議論がこれまで行われてきたが、これは地域のの選択に委ねるべきである。そのためには、歳入・歳出の決定権限を自治体に移譲する必要がある。民主主義のもとでいたずらな財政膨張を抑えるためには、負担と給付の関係を地方分権によって明らかにし、地域の選択に任せていくことが極めて有効であり、財政構造改革はこうした発想に基づき地方分権を軸として行うべきである。なお、現在の著しい経済力の地域間格差のもとでは、地域間格差を補正することが必要であるが、現在の複雑煩瑣な地方交付税制度に代わる、簡素な財政調整制度に改革しなければならない。特に、やる気のある地域にはその努力が報われるような制度設計が必要である。
 直間比率の是正や税負担を「広く薄く」するなどの問題も、自治体へ税源の大幅移譲を行った後、地域の実情に応じて検討すべきである。

4 税制の改革
 市民セクター強化、地方分権、持続可能な社会の実現を主眼として、以下のような税制改革を行う。
@ 所得税
【家計に経費控除の導入】
 社会的サービスの供給者は政府だけではない。NPOなど市民セクターも重要な役割を担っており、今後、更にその役割が高まることが期待されている。そのためには、政府セクターと市民セクターとの関係を、政府を主とし市民セクターを従とする補完関係から、相互に競争する関係に改めていく必要がある。市民が、税を支払うことにより政府のサービスを受けるか、寄付・会費や利用料支払いなどにより市民セクターあるいは企業のサービスを受けるかを自由に選択出来るようにすることが望ましい。
 そのためには、こうしたNPOや企業などへの寄付・会費、利用料支払い等は税の振り替えであるとみなして、その分、税を差し引く制度を導入すべきである。
 さらに、市民セクターの活動を強化するためには、介護や育児など具体的なサービスを提供する組織だけでなく、広く文化・芸術分野での活動や各種の政策提案、国際的連帯・市民外交などなどさまざまな分野での市民の自発的活動を支援することが必要であり、こうした組織に対する寄付・会費なども控除の対象とすることが必要である。
 どのような活動に対して控除を認めるかについては、無条件になににでも認めるというのは現実的ではないとしても、出来るだけ制限的でない運用が望ましい。運用を市民参加でチェックする仕組みが必要となる。
 さらに一歩進めれば、家計にも企業と同様の控除制度を設けることを検討すべきである。経費として認めるものとしては、当面、上記NPO等に対する寄付等のほか、投資的経費(住宅取得・改修費用、教育費など)が考えられる。株式投資などに伴う損失については、勤労所得と切り離して繰越を認めることが適当である。現行の給与所得に対する特定支出控除の対象に、こうした項目を追加し、給与所得控除との選択ができるようにすべきである。

【人的控除の改廃】
 これからの時代は、みんなが働いてみんなで家計や社会を支えていくことが必要だとの認識に立てば、専業主婦を優遇する専業主婦控除制度(配偶者特別控除制度)は廃止すべきである。家事労働などアンペイドワークは共稼ぎ家庭においても行われており、片稼ぎ家庭だけのことではない。配偶者控除についてもその社会的存在理由は薄れていると思われる。しかし、専業主婦控除と同時に廃止するとなると影響は大きいので、数年後に段階的縮小の道を選ぶべきであろう。
 老人、子ども、障害者などに対する人的控除については、児童手当や社会保障制度との重複があるので全廃すべしとの意見がある。これにより税制は大幅に簡素化されるし、また、税控除よりは現金ないし現物給付の方が政策目的は達しやすいことは確かである。しかし、こうした給付は今後財源の確保も含めて自治体の責任にしていくべきであると考える。すなわち、税控除と給付の選択は自治体ごとに決定すべきことであり、後で述べる所得税の住民税化などと同時に検討することが望ましい。
 配偶者控除を当面維持していくとなると、いわゆる「103万円の壁」問題が発生する。したがって、配偶者控除に専業主婦控除で採用された消失控除を取り入れ、103万円から段階的に控除額を減らしていくようにする。また、専業主婦控除廃止に伴う1兆円強の増税分の使途については、増税となる層の意見も聞きながら、別途検討する必要がある。

【所得税の住民税化】
 今後の税制のあり方としては、国税である所得税を市町村の住民税に移し替えていくことをめざすべきである。そうすることによって、地域の政府サービスはその地域の市民が支える体制を明確にすることができるし、上に述べた税金か寄付かといった市民の選択も、より明瞭な形で進めることが出来る。課税最低限の水準に関する問題も、国税である所得税で考えるのではなく、地域に対する市民の参加の問題として地方税の問題とすべきである。
 所得税の全額を住民税化すると地域間の税収格差が大きくなるので、基礎となる税率10%の適用部分を移譲する案が出されている。われわれも、こうした案も参考にしながら、税源移譲後の各自治体の財政状況はどうなるかを計算し、新たな財政調整制度の構築を検討していきたい。
 住民税中心の税制に組替えたとき、現在のように住民税が所得税の付加税であるかのごとき扱いは改め、むしろ、所得税を住民税の付加税とするか、あるいは住民税収の一定割合を国に渡す制度に改めるべきである。これにともない、税務署と税務事務所の一元化も進むことになる。

【源泉徴収から申告納税へ】
 既に述べたように,家計にも経費控除の考え方を大きく取り入れていくことになれば、給与所得者も自ずと申告納税の道を選ぶことになるだろう。

A 相続税・贈与税
 生前贈与を増やすことにより高齢者の貯蓄の流動化を図るという考え方が出されているが、そうした個人間・家族内の贈与とともに、さきに触れたNPOなど市民セクターの活動に役立たせる工夫も必要である。相続税においても、こうした市民セクターの活動に対する寄付などを控除の対象とすべきである。
 所得税を住民税化するとともに、相続税も地方税と改めるべきである。これにより、地域における蓄積が地域で活用できるようになる。

B 消費税
 消費税を福祉目的税として活用すべきであるとの議論が多いが、その議論を行う前に、福祉サービスのうちどれは国が行い、どれは自治体が行うものかをはっきりさせるべきである。それを行わずして、国税たる消費税を増やすことはますます地方の国依存を強化することになる。
 年金を除き、社会福祉の担い手は市町村及び都道府県であると考え、その財源を消費税に期待するのであれば、消費税は地方税化することが必要となる。年金については、別途、今後の改革案を定めたあと、必要な財源は国税として徴収することになる。
 所得課税にくらべて消費税は逆進性が強く、社会保険料は更に強い。今後の制度設計にあたっては、それぞれの特質を十分考慮し、最適な組み合わせをめざすべきである。

C 環境税
 市場原理を活かしながら環境保全に配慮した社会をつくるためには、環境税の導入が必要である。
 環境税に導入にあたっては、環境保全に効果があるほど強力な税制とすべきであり、環境保全に名を借りた効果の薄い一般財源調達の方便にしてはならない。
 具体的には、地球温暖化防止のための炭素税の導入が必要である。そのほか、市民立法機構が別途提案しているリターナブル瓶活用促進のための課徴金制度などさまざまな工夫が必要である。

D 税務行政の改革
 税制の議論を一部の専門家や族議員の占有物にせず、誰もが参加できるようにすべきである。国の「政府税調」や「党税調」についても問題は多々あるが、自治体はそこまでのレベルに達していない。自治体で税調を設けているところは稀であり、市民の意見によって税制を決めていく体制にはほど遠い。地方分権の推進、独自課税の広がりを考えれば、各自治体ごとに市民税調を設けることが必要である。
 税務行政の強権的かつ恣意的な徴税のやり方は早急に改める必要がある。とくに、異議申し立てをしやすくし、公平な判断が行われるような仕組みを創設する必要がある。

5 年金・医療保険・介護保険制度の改革
 「市民がのびのびと活躍できる社会」実現のためには、競争原理の導入により活性化を図るとともに、別途セイフティネットを張り、安心して活躍できる仕組みを準備することが必要である。
 安心の重視が短絡的に行政の膨張にならないようにしなければならない。そのためには、セイフティネットを現金給付のレベルで完備するのではなく、市民セクターあるいは企業によるサービスの提供の充実も含めて考えていきたい。それにより、福祉を「お上」から与えられるものではなく、市民が主体的に参加してつくりあげていくものとなる。
 すでに多くの改革案が各方面から出されているが、われわれとしては、制度に対する信頼性の回復、公平な負担、個人化の推進、地方分権などを柱として、さらに検討していきたい。

以上

主なご意見
*具体的な話と大枠の話がゴチャゴチャしている。まず、税制全体のシステムについての考え方を明らかにすべし。直接税と間接税、法人税と個人所得税の違いや役割を明らかにすべし
*当面の問題ならば具体性に欠ける。どのくらいのスパンでの話か







*短絡的なことを排するのは賛成













*個人単位に賛成
*個人単位、地方分権でどこまで出来るのか、また、どの程度のタイムスパンで考えるのか









*課税原則ではなく、納税原則を作るべし






























*国際的な租税引き下げ競争にならないような協調体制が必要






*賛成























*社会保障を地方に任せて本当に大丈夫か





















*寄付税制の拡充に賛成
*考え方はわかるが、これに本当に寄付が増えるか
*世界的にこういう考えは成り立つか





*利用料まで控除は行き過ぎ




*税額控除でなく、所得控除にすべし
*家計と企業との同一視は問題。
*NPOに対する課税は問題。浄財を提供した人の趣旨に反する。単年度だから余剰が出る。会計を2年、3年でやればいい



*租税回避を防ぐため、使い道などについての監視体制を作る必要あり



*家計の投資控除は行き過ぎ。税で支援する必要なし。大学教育も自己責任。










*人的控除をやめて手当に切り替えるのがスッキリする。ただし、今の縦割り行政では難しい
*個別の問題の前に、働いていない元気な大人に対する税をどうするかを考えるべし
*税よりも企業の手当の方が問題。ただし、議論よりも現実が先行する









*2分2乗方式を採用すべし








*税源移譲は必要だと思うが、若いときは税金の安いところに住み、年を取ったら福祉の手厚いところへ移住することにどう対応するか(デンマークのように居住の自由を制限するのか)
*税の引き下げ競争にならないか(特に法人関係)
*交付税を受け取る自治体が全体の半数程度にまで下がることを目標とすべし。基準財政需要を見直す必要あり。




*地方税も出来るだけ単純化すべし






*源泉徴収は廃止すべし
*廃止して納税者意識が高まるわけでない。かえって、大変なコスト増になる
*給与所得控除の額まで経費を積み上げるのは大変な苦労






*血縁でなく地域社会で活用するのは賛成だが、こうした風土・文化がない
*いま若い者にばらまくのでなく、将来の増税財源として温存すべし。所得再分配は必要


*益税の問題は無視できない。インボイス方式を採用すべき。







*逆進性の問題は、どの程度の負担となるのか、全体的なレベルをいわないと議論が進まない。






*なにかいいものを是非導入すべし

*考え方はこれでいいとしても、実際には難しい











*クロヨンなどの問題を取り上げるべし。個人所得税よりも中小法人の所得の捕捉の方が重要問題









*税と社会保障とは一体で議論すべし
*一体で議論するとしても、問題を絞らないと大変
*雇用の流動化を加速させるような年金制度、退職金税制を考えるべし

*社会保障財源を消費税に切り替えたとき、企業負担がそれだけ減るのは問題。何らかの措置を講ずべし。国際競争力を云々するほど企業は払っているのか
*法を越えて従業員福祉に力を注ぐのがGood Companyについての世界的風潮