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シリーズ討論

《討論会》電力の規制緩和とその影響

国民会議ニュース2000年05月号所収

さる3月30日、電力の規制緩和が電力料金や業界に与える効果・影響、さらには自由化と地球環境問題とをどのように関連づけて考えていくべきかなどの問題を巡って、電気事業審議会の委員をされた植草益東洋大学教授、新村保子住友生命総合研究所生活部長や佐竹誠東京電力企画部長、桑原淳イーパワー・マーケッティング・ディレクターをお招きして討論会を開催しました。以下はその記録です。なお、読者にとって議論の流れをよくするために発言の順序を一部組み替えたところがあります。


T 電力の規制緩和の目的と意義
● 全般的評価
● 電力会社側の対応
● 新規参入の規模
● パラダイムの転換
● 託送制度の問題点
● 補完電力料金について

U 地球環境問題との関係
● 電事審での検討
● 自由化政策と環境政策の矛盾
● 具体的な方策
● 自然エネルギーの活用策
● 自由化こそ環境対策の基礎
● 消費者の意識と行動のギャップ
● これからの課題



T 電力の規制緩和の目的と意義

● 全般的評価
植草(東洋大学教授): 今回の電気事業法改正の前に、平成7年にかなり大きな改革を致しました。そこでは発電について競争入札制度を導入し、発電部門に新しい企業が入ってくる制度をつくりました。さらにそのときに、料金制度がどうも硬直的で内部の変革が起こりにくいということで、九電力体制を生かしつつ企業にインセンティブを与えるという方式のヤードスティック方式(物差しという意味ですが)を入れまして、優良企業の価格に他の企業が追随する方式をとりました。それと同時に、企業の生産性向上をなんとか促したいということで、イギリスのように官庁が生産性向上率を決めてやっていく方式はいろいろ政治的なものが入って厄介なので、企業自身に経営効率化目標を毎年出してもらい、その成果を毎年発表していくという制度を導入しました。
 こうして、平成七年にかなり時間をかけて改正し、これをやれば電力会社も頑張ってくれて良くなるのではないか、したがって審議会もすぐ開かなくても済むのではないかと思っていたのですが、佐藤通産大臣が電力会社を発電、送電、配電の3つに垂直分割するという案をいろいろなところで発言された。さらに、電力の内外価格差が非常に大きいから、これを何とかしなければいけないということになって、再び審議会が開かれることになりました。
 それまでの審議会というのは、審議会を開く前に官庁とその関連の産業界で話し合って、内々のところは大体決めておいて、あとは需要家とかわれわれ中立委員の意見を聞いて纏めるというのが一般的なやり方でしたが、そのころから情報公開の問題が出てきて、また行政手続法が出来て、さらに官庁におけるいろいろな審議会の委員長を官庁OBがやってはいけないということが打ち出されて、審議会改革が随分行われていたわけです。そういう流れの中で、通産省は電力側とは殆ど相談なしに自由化をやるという方針を打ち出してきました。アメリカ、ヨーロッパの動向を全部紹介し、全面自由化というような意識が強い提案をぼーんと審議会に出したわけです。電力側は大変びっくりしまして、それから半年以上、電力側と通産省はしゃべらなかったのではないかと思います。私どもは中に入ってえらい苦労をいたしましたが、結局、審議会に基本政策部会という新しい部会が出来まして、本日ご出席の新村さんと八田さんも一緒で、全面自由化するか部分自由化するかという大議論をした末に、部分自由化とし、特別高圧を対象として、産業用、業務用の大口需要(2万ボルト、使用量2000キロワット)については自由化するということにいたしました。今まで電力会社が中心になって発電し配送電していたわけですが、新しい企業も入ってきて発電をして直接需要家に売っていい制度を、どのくらい新規参入が出てくるか大分気を揉みながら、つくったわけです。ここに至る話をしますと大変なドラマがありまして、その裏話の方が面白いんじゃないかと思いますが、この部分自由化によりまして、日本の電力需要の3割が自由化されることになりました。
 その他にもいろいろな改革を行いました。たとえば、火力発電についてはIPP(Independent Power Producer)という独立の発電事業者が電力会社に競争して入札していますが、電力会社も自ら火力発電をやっていて、これは入札ではありません。それがイコール・フッティングではないというので、電力会社の発電部門も自ら電力会社に入札する制度にすることにしました。これは分割しろという議論に当然なってくるようなものを含んでいて、ちょっと危ないところもあるのですが、まあそういう形にしました。ただし、水力、原子力についてはとてもそういうことはできませんから、火力だけが対象です。
 そのほか、こういう競争制度を導入して産業分野における価格の引き下げ、内外価格差の縮小ないし解消を目標にするわけですけれども、そのことのために小口の需要家、とくにわれわれ家庭用の需要家が不利益を蒙ることがあってはならない、さらに、家庭用を含めた全需要についてサービスの多様化を是非実現しなければいけないし、競争分野の効率化は小口分野にも利益が均霑されなければならないということを謳いまして、同時に料金制度部会を途中から発足させて、こちらで制度改革を行いました。最近、いろいろなサービスを東京電力が始めましたので、みなさんもご承知だと思います。
 では、なぜ特別高圧というものについて自由化したかといいますと、自由化するにあたっては、日本におけるエネルギー・セキュリティを確保するという目標は絶対崩せない、それから電力の安定供給というのも崩せない。電力というのは全家庭、全産業が使う財でありまして公益的な財でありますから、これの安定的供給というのは欠かせないということです。それから環境への負荷を十分考慮しなければいけない。また、多様な公益課題、特にユニバーサル・サービスの確保ということもある。これらの目標を考えながら、安定的にやっていこうとしますと、技術的な制約が出て参ります。皆さんご存じでしょうが、電力会社には給電指令という電力の供給を指令するセンターがそれぞれの本社の中にあります。発電所と全部ネットワークが組まれていて、どこかで落雷などがあって送電線が使えなくなる、あるいはどこかの発電所で事故が起こるというようなときは、全体をサッと管理できるシステムが出来ておりまして、大口需要家はそのネットワークのなかに組み込まれているのです。したがいまして、大口需要家を自由化しても電力の安定的な供給システムに大きな支障がないということで、ここから始めたということです。家庭用までやるためには、全国の流れを全部把握しなければならず、このコンピュータシステムはアメリカでは一部出来ているのですが、日本では東大の研究所、電力会社でも一生懸命やっているようですが、まだ十分出来てはいない。それから、電気の流れというほかに、給電指令を小口まで全部応用出来るシステムが出来ないと、そう簡単には全面自由化は出来ないということです。
 本日の議論のテーマのひとつは環境問題ですが、この審議会の過程で基本問題検討小委員会ができまして、そこでさきほどご紹介した電力の発電分野の入札制度、電力会社も火力について入札にするということを検討したなかで、火力が非常に増えていくということは当然温暖化、CO2を含めた問題を発生させるということになります。丁度折しも京都会議が開かれたあとでありましたから、通産省の需給部会でこれからの目標値を定め、その目標値にあわせて、特に火力の発電については認可制というほど強くはないのですが、それに抵触しない範囲で火力発電はやっていくということを決めました。したがいまして、環境問題を一切考えないでこの制度を作ったわけではないということを申し上げておきます。では、これで全て済むかどうかということは、これから大変な議論になると思います。
 これから競争になって、大口需要分野はかなり価格が安くなるだろうと期待しているわけですが、価格が安くなれば需要が増えていくかというような議論がいろいろあるかと思います。産業需要については当然安くなればいろいろ使うことになると思いますが、それと省エネとの関係もまたちょっと難しい問題があるようです。一方、家庭用は安くなってもそんなに大量に使うというわけではないと思うのです。急に家庭用が安くなるということはないと思いますが、それでも最初に申し上げましたように経営効率化目標を平成7年に導入いたしまして以降は、ずいぶん料金は下がってきております。料金はオイルショック以降ずっと下がってきており、その殆どは原油価格が下がったためでありますが、最近は殆ど経営効率化というところで下がってきております。
 最近の新聞を見ますと、電力会社の社長さんは全面競争時代の経営だということで大変な意気込みで、電気と石油とガスと、エネルギー間の競争も大変強まってきております。最近ではNTTと東京ガス、大阪ガス3社の共同事業が進みますし、東京電力もいろんな分野で事業展開をしていますし、大変経営が変わってきました。また、ガスとか石油以外に、オリックスが世界的なエネルギー企業エンロンと金融システムを基礎にしてエネルギー管理・経営するという大変な企業をつくろうとしております。フランスからも進出してくるようですし、ロシアは大統領も新しく替わって、サハリンからのパイプラインなどを考えますと、実に壮大な改革が今始まろうとしているところです。

● 電力会社側の対応
司会:こうした事態に電力会社としてどう対応しようとしているのか、お話し下さい。

佐竹(東京電力企画部長):日本では、北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の10社が一般電気事業者で、電気を一般の方が買うことが出来るのは原則としてこの10社からだけに限られていたわけですが、さきほど先生のお話のように、3月21日を期して、そのなかの大体3割の消費量を使っておられる大口の工場ならびにビル(イメージとしては例えばホテルとか病院、あるいは事務所ビル)など、ある一定規模以上のお客さまに対しては、どなたから買っても基本的にはいいと自由化されたわけです。例えば通産省をはじめとして政府の関係機関は電力も他の物品と同じように入札制度を採るということで、今その準備が進められています。そういう自由化ですから、電力会社からみると、マーケットシェア100%の状態から何%か失われることになります。もともと今の世の中でシェア100%の仕事をしているところなどはないと思いますので、そういう意味では、やっと電力ビジネスも普通のマーケットに近づくのかなと思います。
 各電力会社の各社長は全員、全面自由化の気構えで仕事に取り組もうと考えています。私ども電力会社の立場で自由化をどう捉えているかといいますと、これまでも一生懸命にお客さまあるいは地域社会等々の信頼を勝ち得るように地道な活動もやってきましたけれども、基本的には、東京電力をお客さまから選んでいただくということがなく、東京電力が売るもののなかから選んでいただくという商売でした。つまり、隣の電力会社から電気を買うとか、あるいはEパワーさんから電力を買うとか、そういうことが出来るようになるということは、東京電力も、改めて選んでいただく立場に立つということになります。これまではどちらかといえば供給の論理というのでしょうか、お客さまのためによかれとは思っても、最後の最後には供給者の立場でやってきた面が残っていたのではないかという反省もあります。それが、こんどは本当にお客さまがわれわれを選んで下さるのかどうかということが出発点になりますから、180度ものの考え方、仕事のやり方を変えていかなければなりません。そういう意味でお客さま本意の仕事のやり方、考え方にして、あるいはサービス、商品の選択が可能なようにいろいろ工夫してメニューを増やしていく、そういうことをやっていかなければならない。
 加えて、もうひとつ重要なのは、100%マーケットシェアを保障され自然独占が認められてきた裏返しに、電気料金は規制料金でした。これからも自由化にならない7割のお客さまについては引き続き規制料金ですけれども、しかし、料金を引き下げるときには届出でいいことになりました。認可という特別な手続きを経ないで、届け出ればそれで済むということで、非常に機動的に動けるようになり、かつ、当然規制料金の部分については原価を適切に反映しなければいけないということはありますけれども、お客さまにとって魅力のあるいろいろな工夫を今まで以上にすることが出来るようになったのです。また、経営的には電気事業以外のビシネスについても兼業の規制がなくなりましたので、電気事業以外の事業はいちいち役所に許可をいただかないとできないという面倒臭さはなくなりました。機動的に動けるし、経営の自由判断で出来るようになったわけです。そういう意味で、基本はお客様の利便性を考え、かつ、電気料金を相対的に安くするという今求められているお客さまのニーズに叶う方向で努力する。そのためにはコストを思い切って下げるような工夫をいろいろしていく。これは仕事のやり方を含めてやっていきたいと思います。
 残念ながら3月21日からきょうで10日めですが、まだ新規の供給者の方は名乗りを上げてこられていませんし、電力会社以外の供給者から買うと決まったお客さまもいないということで、今現在では全部東京電力や各地の電力会社から電力を買っていただいている状態です。しかし、通産省の入札などをふまえて、あと数ヶ月間に、多分、きょうここにお越しのEパワーさんも含めて新規参入の方の活動が始まってくるのかなと思います。
 正直いって、売上が減るとか利益に影響があるとかいう面で心配はありますけれども、競争の中での結果がマーケットのなかではっきりわかるようになるという点では大変ありがたい、やりがいのある状態になったのだと受け止めています。決してピンチだとは思っていません。むしろチャンスだと考えております。われわれにとって、いろいろな意味で大きく物事を捉え、一緒に育っていくうえでもチャンスだというふうに捉えています。

● 新規参入の規模
司会:どのくらい東京電力のシェアが食われるとお考えですか。

佐竹:東京電力の例でいいますと、ちょっと数字の感覚が皆さんに合うかどうか分かりませんが、わたくしどもの設備量、あるいはお客さまの消費量は、夏の一番使われるときで6000万キロワットというオーダーです。これはイメージとしては例えばイギリス1国ぐらいの規模です。60万キロワットでこの1%になります。
 新規参入者の方は供給力として発電所を必要とするわけですが、あらたに発電所をつくるには環境対策、地元対策を含めて、発電所をつくるためにリードタイムが必要になります。それがやはり2年〜3年くらいはかかる可能性がありますから、新しい参入者が今年持つ供給力は既にある発電所、これは産業用の工場によくある自家発電の設備を活用するということだと思います。東京電力のお客さま方が持つ自家発電設備の中で供給余力、つまり、自社でお使いになる分を差し引いてなおかつマーケットに供給力として出せる分がどれだけあるか、これは正確には分かりませんが、イメージとしては30万キロワット、あるいは40万キロワットくらいはあるのではないかと思います。したがって、さきほど60万キロワットで1%と申しましたから、30万キロワットで0.5%に相当します。
 電力会社は、月単位でも週単位でも毎日の単位でもあるいは1秒単位でも、生産と消費を同時に行うという電気の特性から、需要そのものよりは若干余裕を持った設備、予備力を常に持っています。それは短期的には3%ないし5%持っていれば、どんなときにも毎日毎日のやりとり、電力の品質は保てるわけです。となりますと、そのなかの仮に30万キロワットを新規参入者がお客さまを獲得されたということになりますと、それは東京電力から見れば0.5%ですから、予備率からみれば若干振れ程度の範囲内かなとみています。
 ただし金額的には10万キロワットのオーダーでも、例えばビル用のお客さまの単価、とをかけ算しますと、年間数10億円から100億円程度のオーダーになり得ると思います。それが30万キロワットとなる場合は、その3倍になります。今東京電力の売上は5兆円ですが、それから見れば確かに微々たるものかも知れませんが、これはまさにスタートの段階で、数年するとさらにどんどん膨らむ可能性がありますので、やや危機感を持っております。

司会:ありがとうございました。象に蚊がとまっているような感がありますが......。Eパワーの桑原さん、これからの電力マーケットをどういうふうにお考えになって新規参入のご計画をされているのか、お話下さい。

桑原(イーパワー・マーケッティングディレクター):新聞等々で最近私どもの会社がでてきまして、すぐにでも新規参入ができて電気を売り始めるのではないかというイメージをお持ちの方もあるようですが、さきほど佐竹さんもおっしゃいましたように、われわれも今回の自由化によってすぐに出てくる電気がどれぐらいあるかと考えてみますと、さきほどは0.5%程度ということでしたが、もうちょっと少ないのではないかと思っております。実際問題、この1年2年の間にどれぐらいの新規参入者が入ってきて、どれぐらいの電力会社さん以外の電気の取引が出てくるかというふうにみますと、やはり新しい発電所を作るまでに、とくに今は環境アセスメントなどで2〜3年ぐらいかかりまして、かつ工事で2〜3年かかるということになりますと、4〜5年単位で見なければなりませんから、この1〜2年で新規参入者が増えるということには全くならないと思っております。
 では、なぜこの段階で我々がでてきたかといいますと、世界の趨勢で電力の自由化が相当進んでおりますが、それは即小売りの自由化ということではなくて、これは電力会社同士の取引も含めて、小売りもそのバックグランドに控えている卸も含めて、電気が取り引きできるものになったのだということです。一番イメージとしてわかりやすいと思うのは穀物の取引ですが、現在大きな取引は穀物取引所で取り引きされています。海外ではそういうような取引所みたいなものを電力、エネルギー分野でも作りまして、それが大きく全体の商品の値段を下げる方向に移っております。日本でもおそらくそういう形になっていくだろうというふうにわれわれは見ております。ただし、すぐさまこの自由化によって、われわれが安い電気をつくることが出来るかどうかとなりますと、実際のところ今の段階ではなかなか難しいというのが現状です。
 電力取引所が出来るのを自然に待っているというのも芸のない話です。やはり最初は1対1の小さな取引から始まるということで、われわれもまた新しい電気の供給力、具体的には発電所ですが、それを自分で何とか作り上げまして、自由化された特高圧の方々に直接売れるような形でもっていきたいというのが目標です。そのなかでも、電力料金に占める割合の大きな燃料代が、われわれの競争力にものすごい大きな影響を与えますから、天然ガスの取引に関してエンロン自体は世界では相当シェアをもっていますので、特に天然ガスの供給、調達能力を発揮できる余地があるんではないかということも考えまして、今ひとつひとつ小さいところから始めようとしています。東電さんが危機感をお持ちだとおっしゃいましたが、まだまだ巨大な象の周りに飛ぶ虻みたいなものでして、そのようにいわれるのは嬉しいところもあるんですが、ちょっと恥ずかしいというのが正直な気持ちです。

● パラダイムの転換
司会:新村さん、電事審の審議にご参加されたということで、一言。

新村(住友生命総合研究所常務・生活部長):私はエコノミストの端くれでして、現在は住友生命総合研究所で環境問題と高齢化問題という2つの柱をもった部で研究しております。
 今回の電事審には、平成7年の改正のあとから参加しました。最初、入ってすごくびっくりしました。それまで電力のことを知らないものが突然入って、過去のものすごい長い歴史の上に立った議論はとても無理でした。そこで、私がしましたことは原理主義者に徹したということです。もともとエコノミストですから、規制緩和は大変よいことである、それも消費者にとって最終的に良いものだというふうに考えて、若干の発言をさせていただいたということです。結果として部分自由化ということですが、電事審の報告は、市場メカニズムが電力にも効くようになった第一歩として大変高く評価しております。やはり日本の電力価格は高いですから、これが日本の高コスト構造を是正する力となるのだろうと思います。
 それ以上に私は、あとの環境の議論にも結びつくんでしょうが、これまで電力が公益事業の名のもとに、公益のためにとか電力の供給責任というような形でなにもかも引き受けてきてしまったことが日本の資源配分をかなり歪めているのではないかという意識を持っておりました。したがって、それが是正される第一歩であるという意味で大変高く評価しております。ゆがみを生じているということのひとつは、私が体験したことですが、かつて政府の経済対策というと、必ずその中に電力事業の設備投資というのが1項目入っていたのです。若い役人だった私は、電力は民間企業なのになぜ景気対策をやるのか。しかもそれがかなり大きい額で、それをOKなさる。この仕組みはなにか変ではないかというふうに思いました。
 それと同時に、供給責任ということをマーケットを介さずに負わされているために、とにかく電力の方が、当時、(今は変わられたかも知れませんが、)「日本の電力需要というのは右肩上がりで、それに対してわれわれは絶対に不足を起こしてはいけないのだ」という強い使命感をもっておられた。それが、おそらくある面における過剰投資をもたらしたのではないだろうかという気持ちがありました。同時に、技術者として非常に誇りをお持ちになっている電力会社は、徹底的な質の向上をコストを無視して行っていたのではないかというような感じがするわけです。
 そのへんのところを解消する第一歩であるという気持ちで、もちろん最終的には全面自由化までいくのか日本的な新しいモデルができるのか、そのへんはわからないのですけれども、そういう意味では日本の電力に対するものすごく大きなパラダイムの変換であると考えております。今、佐竹さんも、また電事審の会議の席上で電事連の会長さんも、普通の企業になりますとおっしゃっていたことはすばらしいことだと私は思います。

司会:八田先生、コメントがあれば

八田(東大教授):私は電事審の議論では非常にうまく環境の問題を先送りしたと思うのです。確かに植草先生がおっしゃったように一部は議論されたのですが、やはり3割が対象だということで、本格的な環境への影響は今回は殆ど議論されなかった。3年後の見直しでは確実に大きなトピックになると思います。

田中(拓大教授):電力の自由化問題は、実は行革審時代から大議論をして参りました。感想は今みなさんおっしゃるとおりで、普通の会社になられたという表現がぴったりです。よくまあここまできたなあという感じを持っております。いま八田先生がいわれたように、環境の問題をきょうどんなふうに議論されるのかなと関心を持っております。本当に自由化が進んでいくと、植草先生がおっしゃった一定の目標値を定めてというやり方をとるとして、それをどうやって定めていくのか、どういう法律的な定め方をするのか、環境等を相当考慮に入れて決められるのでしょうが、考え方はどうなのかというあたり非常に関心をもっております。

● 託送制度の問題点
岡田(朝日新聞論説委員):僕も環境の問題に一番関心をもって今日来たのですが、その環境の問題に移る前に、Eパワーにおたずねしたい。今度の自由化の仕組みが本当に公平なものであるか。つまり、参入者にとって、送電ネットワークの利用がこれで十分なのかどうか。いろいろ話を聞いてみると、十分な参入の条件が整っていないように思う。ゆくゆくはやはり送電線は分離するなり、全く中立的な機関が管理するようにしなければ駄目だと思うんですが、実際に商売をやる立場でどのようにお考えでしょうか。

桑原:佐竹さんがいらっしゃるので、非常にいい難いところもあるのですが、われわれ新規参入者間の公平性は確保されていると思うのですが、既存の電力会社の発電部門と新規参入者の公平性が保たれているかといいますと、私は個人的には相当電力会社さんの方が有利ではないかと考えています。
 一番端的にいえるのは託送制度、託送料金制度の組み方です。料金制度自体が二部料金制度になっており、基本料金と電力量料金にきっちり分かれているのですが、ではその基本料金がどういうコストをベースにして出来ているかというと、ちょっと理論通りではない。つまり、通常ですと設備費をそのまま基本料金にして、使っても使わなくても発電所を建てた分のコストを払ってもらい、一方、電力量料金というのは燃料費とか変動費をその分に乗っけてくる。しかし、今の電力料金というのはそういう形にはなっていません。つまり基本料金の方が異様に小さく、そういう理論からは外れた形になっています。そうなりますと、われわれが発電所を建てて事業をやろうかというとき、設備費をどうやって回収しようかということになりますと、どうしても日本は発電所を建てるコストが高いものですから、当然基本料金は高くなっていかなければいけないのです。しかし、実際問題、電力会社さんの料金体系がそれとはまた別であるということになると、非常に具合が悪い。今までお客さんをずっと持っていらっしゃる電力会社さんは、設備資金を回収するのを遅らせても十分やっていけるという見込みがあるんでしょうが、1基1基の発電所から始めていく新規参入者から考えますと、そういう料金体系ですと、もしかすると取りはぐれるかもしれないというような感じを持っていまして、なかなかこの料金体系については難しい。これが端的にでていますのは、託送料金の二部料金でして、ここをなんとか設備費の回収分と変動費というような形にしていただければ、より使いやすかったのではないかなと思います。
 それともう一点は、託送関連費用というのがありまして、送電線の利用をするうえで、万一発電所がとまったら、バックアップしてもらうために補完電力というのを買わなければいけないのです。つまり、事故の時は電力会社さんから買わせていただくことになるわけですが、その料金がわれわれが予想していたよりもものすごく高かったのです。託送で1キロワット当たり3円くらいですよといわれていたのですが、いろいろな保険料みたいなものをのせていくと相当高くなってしまう。下手すると倍以上になってしまうというような感じになってしまいまして、結局電力会社よりも高くなってしまうケースもでてきてしまい、なかなか安い電気はつくりがたい。
 では、なぜこんなことになってしまうのかと考えてみますと、電力会社さんは既存の発電所をいっぱいもっていらっしゃいますから、1基発電所を作る場合でも、その分まるまる全部バックアップをする必要はないのですね。とうぜんネットワークはオペレーションされているわけですから、予備率は10%くらいでも十分ネットワークは維持できる。ところが新規参入者が1基の発電所を建てるとすると、理論上、自分の送る分そのまま100%保険を買わなければいけないというところがあります。ゲタを履かせてくれというわけではないのですが、一番最初から始めていく人には、あまりにもその差が大きくて、新規参入者の方が困っていらっしゃるというのが現状だと思います。

植草:ちょといいですか? 実務的なことは、佐竹さんにお話しいただくとして、ちょっと誤解があると思いますので。
 託送料金に二部料金を入れましたのはなぜかというと、1キロワット当たり例えば3円とすると、二部料金というのは基本料を払って、その払った分だけ今度は従量料金が例えば1円とか2円に安くなる。そうなりますと、大量に使う人は二部料金制の方が安くなる。それを実現するために、新規参入者で大手で、安い託送料金を使いたいという要望が非常に強いので二部料金を入れたのです。では、この二部料金が理論的にいった二部料金かというと、本当は二部料金という名前をつけない方がよかったのですが、いい言葉がなかったのでそうしたのです。送電線というのはもう変動費なんていうのはほとんどゼロで、設備費が殆どなんです。そすると基本料だけということになってしまう。ですから、そうなると今度は大変な基本料を使っても使わなくても払わなければいけないということで、そのいわば中間みたいなものにしたので、どっちをとっても不満はあるのですが、大きいところが入りやすくなるように工夫したということがわかっていただけないと困るんです。
 確かにご不満はあるし、3円は高いのじゃないかというのはいろいろあって、今度は料金を値下げする。それにあわせて託送料金も下げようというのが今回の値下げの大きな理由になっているのですけれども。
 託送料金については大変な議論をしまして、ずいぶん苦労をしてつくったのです。ひとつだけいいますと、今NTTがアメリカから回線接続料金を安くするようにいわれていますけれども、アメリカのようにどんどん新しい光ファイバーケーブルなどが入ったところは、新しい設備の方が安く大量にデータを送れるという技術なんですね。日本はまだそんなに光ファイバーケーブルが敷設されていませんから、設備自身がそんなに新しくないのですね。それで急に安くしろといわれたってできないのです。しかし、やろうと思えば出来ないことはないのですが、東日本会社は大丈夫なんですけれども西日本会社がアウトになってしまうのです。だからあのように分割なんかしてはいけなかったんですよ。あんな、時代に逆行するようなことをするから、価格を下げられるところも下げられなくなっているんです。
 電力についても、今電力会社間の相互融通というような形でやっているのは40銭とか50銭でやっているのです。それは、設備を全部お金を出し合って、分担してつくったものだからです。 ですから、それを分担するような金を払えば、40銭だって出来るのです。実は、そうしようかとも考えました。日本の送電線の建設コストはとても高い、山の中の何坪かを借りて建てて、ものすごいコストがかかっているのです。日本は発電コストがものすごい高い、発電コストの設備費がものすごく高いということでしたが、競争を導入して大分下がって来ました。送電線の費用もなんとか下げたいのですが、そうなるとなにか新たな制度を考えなければならない。
 まあ、こうしたこと等々を含めて、ご不満はもちろんあるし、同時に日本の電力会社を壊滅的にしてもならないというところで始めたところです。私はかなりいい線いっているのではないかと思っていますけれども、同時に、誤解はやっぱり解いていただきたいとは思っています。
 あと今回は分割の話はあまりやりませんでした。八田さんは最初からプール制度導入をかなり強く主張され、今でもそういうお考えですが、プール制度の導入のような制度の変革であれば、10電力の企業組織についていろいろ考えなければならないと思いますね。もちろん少しは議論し、八田さんは皆さんにだいぶ文句を言われました。9電力体制が出来上がってきた背景には、日本発送電という全国の送電線網を1社で持っている国営企業がやっていた時代があったんですね。これは国策でそういうことになって、さらに配電会社をそこにくっつけていったんですが、これがうまくいかなかったのです。イギリスは結局分離しましたけれども他の国は分離していないのです。企業組織としてどういうようなことにもっていくかというときに、全体がうまく競争システムに馴染むという企業システムのありかた、それはイコールフィッティングということを考えなければいけないということですが、また他方で、分離すればなんでも効率化するかといえばそうでもない、技術的な基本的な問題も考えなければいけない。このふたつを十分に考慮してやっていかなければならない。これは3年後の重要課題だと思っています。

八田:今議論になったことで、最後の方からいきますと、分離というのは発送電分離のはなしですよね。これはイギリスでもスカンディナビアの国でも行われたし、カリフォルニアでもやっているわけで、送電会社は送電線だけ官営でやるが、発電会社は民営化した。いってみれば分割した。完全自由化のためには発送電分離は避けられません。スカンジナビアでもカリフォルニアでもうまくいっている。(イギリスでは需要側をマーケットに乗せないという。片肺プールをつくったことが原因で失敗したのだと思います。)
 しかし、発送電分離するということは、日本全体をひとつの送電会社にしろという議論ではないのですね。例えばスカンディナビアの国は、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランドがそれぞれの独立した送電会社をもっていて、それぞれ独立した給電指令所をもっている。同時にこれらすべての国に対して単一のプールが機能している。ひとつの統一されたプールマーケットが、毎時毎時の電力料金を決め、各国の指令所に対して、明日はここの発電所はこういうふうに発電しますから給電指令の準備をしてくださいということでやっているわけです。
 電力会社を全国統一する必要は全くありません。今のままで大丈夫です。しかしプールは全国統一します。これは簡単な取引所ですから、全国統一は簡単です。何台かのパソコンとファックスがあればそれでできます。ただ、値段を決めようというだけのはなしです。プールには給電指令の施設等は全くいりません。
もうひとつの送電料金についてですが、これが今回の自由化で非常に残念なところでした。電力会社との妥協でこれくらいにしなければいけなかったのかなとも思うのですが、もっとIPPを促進するような送電料金の決め方はあったと思うのですね。具体的には、今、植草先生がおっしゃったように非常に高い送電設備を日本は持っていますから、それを均等割りにして、基本料金を高くすると、IPPも入りにくい。それは事実であると思います。で、ある種のちょうどいい具合のところで手を打ったんだとおっしゃる。そのとおりだと思うんですが、打ち方はいろいろあったと思います。
例えば、新しいIPPがどこに立地するか、それによって、将来の送電線の新たな建設が必要になるかならないか決まるわけです。とすると、新たに送電線の建設が必要にならないところに立地してくれるのであれば送電料金を非常に安くしてやり、一方もし新たな建設が必要なところであったら、これは相当に高い送電料金、基本料金をとっていいということになる。とすると、例えば東北のような供給過多のところでは、IPPが立地できないくらいに高い料金にする。そして、電力会社の区分経理上もそれを非常に高いものとして算定する。それから、東京のように需要超過のところにIPPが参入すれば、これはむしろ送電ロスを減らすわけですし、将来の送電線の建設を少なくするわけですから、非常に低い、おしるし程度の料金を取ることとする。例えばスウェーデンでは一番高いところと安いところでは基本料金に20倍の差があります。それで、将来の送電線の建設をなにも促すことにならない場所にはどんどんIPPに入って下さい、という仕組みです。日本でもそういう料金のつけ方をすべきだったと思うのです。それは今回の部分自由化でも出来たはずなんです。
しかしそれをやると、IPPが入ってきても送電線の敷設に関しては負荷を与えないから国民経済的には望ましいのですが、今の電力会社にとってはIPPが入ってくることになって困る。やはりそれは既得権との調整だったと思うのです。3年後のみなおしでそこのところを改定し、なるべく国民経済的に望ましいかけ方を工夫すべきだと思います。(なお、全面自由化しても送電線の料金というのはある種の規制でどうしても縛るわけですから、全面自由化をするかしないかということと別問題です。)

● 補完電力料金について
植草:先ほど桑原さんから、もうひとつ、補完電力料金が非常に高いという話がありました。これもすこし理解していただく必要があると思うのです。
 今新しい企業が入ってきて発電をして、大口利用家に電気を売る。なにかの形でこの発電所が停止したとすると、すぐに東京電力なら東京電力に替えて供給してもらわなければいけない。ということは東京電力は、いってみれば新規参入企業の発電能力と同じものをもっていなければいけないのです。これにはコストをかけているわけです。いってみれば動かない設備をバックアップするためにいつも持っていなければいけない。今でも自家発企業がやっているときに、自家発が止まっちゃってどっかの電力会社からもらうという契約になっている場合は、その料金はちゃんと払っているわけです。それはどういう料金かといいますと、設備があるわけですから、その設備を動かさないで休止しているもんですから、資本費として、二部料金のうちの基本料金相当分は常に払ってもらいますというわけです。そうでなければ予備電力としてそれを持っていることはできない。それを払ってもらわないと、われわれ家庭にみんなかかってきてしまうわけです。それは大変なことになってしまう。ですから、公平性の観点から、バックアップ料金というのはどうしても高くなってしまう。これが参入のインセンティブを削ぐひとつの要因でもあるんですが、これを下手に安くすると家庭料金が上がっちゃうという可能性を持つので非常に難しい問題なのです。

佐竹:今回の自由化は大口のお客さまに限られるという部分自由化ですから、電力会社がライバルに負けまいとしてダンピングをして、取りはぐれた分を一般のお客さまから取り戻すというような形で消費者にツケが回ることのないよう、自由化部門とそうでない従来の規制部門との間で経理を区分してやることになっています。それで、既に自由化が始まったガスの場合と同じように、仮に大口のお客さまとの関係で赤字がでたら、それはペナルティとして公表するということになっています。その区分経理の状況のチェックは、適正に作成されていることについて公認会計士または監査法人による証明を添えて通産省に提出し、チェックするという仕組みになっています。
 託送料金についてですが、結局ネットワークを共同で、みんなが同じ条件で、イコールフィッティングで使えるようにしようということです。先ほど桑原さんは新規に入られる方にとっては負担になるといわれましたが、実は電力会社からお客さまに対しての負担いただく電力料金と全く同じコストを反映した託送料金です。新規参入者の方が払われるよりも安い託送料金を電力会社がお客さまからいただいているということではなくて、全く同じ料金をいただくことになっています。ですから、イコールフィッティングという観点では、バックアップの問題がありますが、基本的には発電コストの差なんです。発電コストについては、IPPと呼ばれる新規参入発電事業者に対して電力会社は既に入札制度を実施しています。電力会社は、回避可能原価として上限価格を明示していますが、それに比べて平成8年、9年、11年と3回入札させていただいた結果から見ますと、一番安い電源で最初のうちは2割安、次には4割安というものがでてきて、それがまた電力会社の刺激になって、さらに将来の効率化努力あるいはスペックの見直しを進めることにつながっています。
 さきほど新村さんがいわれましたように、誇り高い技術者が質の高さを追求して、場合によってはコストを無視してやっていく、そういう面も正直いってなきにしもあらずかと思います。確かに、万全の供給体制をつくって安定供給を確保するという極めて強い使命感に基づいて仕事をやってきていました。しかしこれも、普通の会社への移行後は、どちらかといえば相当シビアにドラスティックなコスト面の管理をやってきているつもりです。その結果として、重電メーカーさんやゼネコンさん、電力会社との取引をやっていただいていた企業さんにはかなりシビアになっています。発注量が減るということと、それから単価的に厳しいコストダウンの要求をするということが両方生じています。
 バックアップの話は、これは保険なんですね。保険ですから、自社の設備に自信のある供給者はバックアップをまるまる100%する必要はない。例えば5万キロワットの発電設備に対して、5万キロワットのバックアップの契約を義務づけられているわけではないのです。5万キロワットの発電に対して1万キロワットの契約をしておくとか、あるいはそもそもそういうバックアップは要らないということでもいいわけです。ただ、それはあくまでその社がお送りされるお客さまとの間でそういう契約をしておくということが前提となるのでしょう。
 電力会社は、これから先は今までのような肩肘張った「公益的使命の達成」はいいませんが、しかし本音部分で、われわれ電力会社が日本の中でしっかりして、ある種の公益性を担い続けていくということが、ある種の企業の基盤のひとつの要素としてあるのではないかという気持ちでいます。そのためにコストが高くなりすぎてはいけないのは当然ですので、いかに効率化を進めるかということだと思います。

安藤(東海大学教授):八田先生に質問したいのですが。
 さきほどのお話で、新規参入に関連して供給超過の地域と需要超過の地域に触れてお話になりましたが、地球温暖化との関連でいえば、CO2、の発生を抑制するあるいはエネルギー消費を抑制・削減するという方向で考えなければいけない。そうした場合に、需要超過の地域で、その需要に応じていくことが果たして温暖化、あるいは環境対策との関係で妥当かどうか。この問題と、新規参入を促し、競争条件を拡大していくこととの調整をどう考えたらいいか、そのへんをお伺いしたいと思います。

八田:先ほど需要超過地帯では送電側に非常に安い託送料金を課するべきだと申しましたけれども、それと同時に需要側には高い託送料金をかけるというのが、元来は望ましいと思います。日本のシステムでは供給側にだけ課すのですが、これを需要側にも課すということです。そして、需要超過地帯では需要側に高い料金を課し、供給超過の東北では需要側料金を安くする。要するに工場建設にあたっては、将来送電線をあまり新設しなくて済むような立地を促す。既存の工場は、需要超過地帯から追い出して、供給超過地帯に行くのが有利なようにする。それが先ほどの発電側送電料金制度の裏返しの制度です。結果的には、この送料金設計は、全国の平均的な需要に対しては中立的に働きます。ただし東京で発電することは有利になりますから、普通では採算に乗らない自然エネルギーまで採算に乗ってくる可能性があります。

U 地球環境問題との関係

● 電事審での検討
司会:植草先生、電事審では環境問題をどういうふうに考えられたるのか、それから、どういう議論がされているのか、先生ご自身のお考えとして、影響があるとすればどういうシステムでその問題をクリアできるのか、すべきかということについてお願いします。

植草:正直いいまして、私は環境問題にはあまり詳しくはないのです。ただ、今回の審議の過程を少しだけお話ししますと、京都会議の影響はものすごく大きかったですね。その京都会議の後、各官庁でどう対応するかということで、官庁ベースと、さらにその傘下にある産業ベースでどのくらい削減するかという議論が進んで参りまして、そのための審議会というのを各官庁でやってきているわけです。電力は先ほど申し上げましたように需給部会でやってきています。目標値まで一定程度決めたとしても、本当にどういう手法でやるかというのは未だにはっきりしていないのです。そこへ大蔵省が環境税を入れるという考え方を表明しまして、ここで環境税かそれとも一定程度の総量規制かという議論の段階に来ていると思います。ご指摘のようにこの問題は大変重要な問題でして、どういう方式でいくのがいいか軽々には論じられませんが、理論的な観点、あるいは実際的な観点から、これから議論する段階です。電事審の基本政策部会では、さきほど八田さんがご指摘の通り、そんなに長くはやっていない。かなり長く時間をかけてやったのは、基本政策部会の下にある基本政策小委員会で、そこで火力発電の自由化を検討しました。私は火力の全面入札制という言葉を使いましたが、全面入札制をしたら、やはり一番安いのは石油残滓なのですね。石油残滓ですとキロワット当たり4円かそんな程度で発電出来る。原子力は8円前後、火力は10円プラスアルファぐらいのところです。4円ぐらいでできたら、これはものすごく使うだろう。ところが、通産省の需給部会では、原子力を今後増やしていくというのがひとつの方策である以外に、火力については一定程度の総量規制をしていくということで指摘しているわけです。
 それと同時に、各地方自治体でもいろいろなチェックポイントがあるわけです。最近、アメリカ系の石油会社が東京電力で入札で受かって発電する予定のものが急遽計画をとりやめるという事件があったのですが、あれは川崎市の条例で非常に厳しい水準を出されて、これはやっていけないというので撤退してしまったのです。アメリカでも最近いろいろなアイディアがずいぶんでてきて、三菱グループがアメリカでやった大変有名なのがあります。それは、山林で木を育てるのに間引きをするのですが、その間引きした木をそのまま置いておいたのでは土壌に悪影響を与えるので一定程度とらなければならない。これをとるのにコストがかかるのですが、それを使って発電するという計画をアメリカの環境庁や自治体が評価をしているんです。そういうような工夫が今どんどんでてきています。そういうのとあわせて、環境税でいくのか、産業毎の総量規制で行くのかを検討する必要があります。総量規制にしても環境税にしても10電力それぞれ立場が皆違いまして、例えば沖縄電力は石油と石炭の火力だけでやっているのです。これからどうするのかというと、風力を今すこしやっているんですけど、風力じゃとても足りない。それでは、コスト的にも、環境にもある程度いいというものになってきた天然ガスのコンバインドサイクルでやると、これは100万キロワットという規模になる。そうなると、1基で沖縄全部が賄える大きさです。もし、原子力だったらとても供給過剰になってしまう。結局、かなりいいものができていますから、燃料電池がいいのではないかと思っていますけれども、私が申し上げたいのは、環境税でいくか総量規制でいくかという大きな議論と、もうひとつは新しい技術をどう活用していくか、それに新エネルギーというものをどう組み込んでいくか、いろいろな問題をあわせて議論されなければいけないと思います。審議会でもここら辺の議論は一応はしたのですが、本当にどういう方向性を出すかということは、あの時点では出せませんでした。

● 自由化政策と環境政策の矛盾
須田(市民運動全国センター代表):私は元来市民運動をやっている人間ですが、京都会議の後に気候ネットワークという市民団体が出来まして、そこの副代表もしております。また、ここには自然エネルギー促進法推進ネットワーク事務局長の朝野さんもきておられますが、自然エネルギーを推進するための仕事にも多少携わっております。そのうえで、環境庁が全国地球温暖化防止活動推進センターというのをつくりまして、これはNGOと民間の企業と自治体の3者で運営するということで、私がたまたまそこの責任者をさせていただいているということもあります。
 そこで、今日のテーマでありますけれども、普通の市民の立場ですと、安定的で環境にいいものを、安価でしかも自由に選択できる、そういうエネルギー源があることが一番ありがたいことですけれども、なかなか日本ではそういうふうにはなっていない。北海道の市民グループは、グリーンファンドといって、電気料金のうえにわざわざ料金をのせて、自然エネルギーを開発するための料金をとろうとする市民運動をやっています。片一方では、料金を安くしてくるという流れが当然ございます。そうしますと、例えば自由化が進んでいって企業の方が大口をかなり自分たちで賄っていくようになりますと、電力会社からすると、供給能力があるのにほかの供給が参入してくることになる。また、市民団体も、今のところはまだ小さな規模ですが、風力であるとかあるいはソーラーであるとかバイオであるとかメタンであるとかいろいろな発電の実験を始めています。そうすると、そこでもいろんなところがでてくる。そうなりますと、電力会社としては供給過剰になりますから、だんだん安くしてたくさん売らないとやっていけなくなる。これはごく常識的に考えるとそういうふうになるわけです。そうすると、片一方で需要をなんとか管理するといっておきながら、実をいうと今あるものをしっかり売らなければいけないという話になって、そこで矛盾がうまれるのではないか。
 先ほど植草先生から総量規制かあるいは環境税かという話がありました。総量規制というのは大変難しいと思います。どうやって総量規制するのか。また、環境税についても、私たちがいろいろ調べているなかでみますと、環境税を課したからといってどうもエネルギー消費が減っているようにはみえないわけです。むしろ環境税をとって税金が増えているだけでして、エネルギー消費を押さえる役割にはなかなかなっていない。それでは、果たしてこの問題はどういうふうに考えたらいいのか。
 現実に今日政府のいろんな審議会にNGOも参加していろんな議論をしておりますが、この議論をしている人たちが極めて限られているわけです。通産省であるとだれ、どこどこであるとだれ、NGOであるとだれ、いつもどこでも決った人が出てきて、お互いに拮抗状態が大体出来上がっていて、あの人はこういう意見をいうだろう、この人はこういう意見をいうだろうとしばらく様子を見て、それでおしまい。こういう話になっています。それではいけないので、少し違う分野の人たちに是非ともご議論いただけると大変ありがたいと思っているところです。

司会:問題意識はそういうことなのですが、新村さんのところでは地球環境とライフスタイルの研究会とか、いろいろご議論の積み重ねもあると思いますので、今のような問題意識をふまえて、どういうふうに問題の道筋を考えたらいいのか、お考えをお聞かせいただきたい。

新村:すごく難しい問題なので、どう考えたらいいかまだ結論が出ていない部分がたくさんあります。私の考え方は基本的には先ほどの延長線上ですけれども、電力事業の自由化は直接地球温暖化対策とは関係はない。これはむしろ経済全体の効率性を高めるためにやるものである。ひとつの政策目的のためにはひとつの手段が対応するわけで、この自由化というのは電力事業の効率化のためにやるのであって、地球環境問題にはまた別の対応が必要ではないかと思っています。
 とはいえ、電力の自由化の効果として経済の効率化ということがありましたけれども、もうひとつ、さきほど、これまでで電力の設備投資がかなりゆがんでいたのではないかということをちょっと申し上げました。同様に、私は新エネルギーとかクリーンエネルギー開発に対する投資も、9電力体制のもとではかなり矮小化されていたと思います。原発中心で温暖化に対応するという国の大きな方針が出たこともありますし、これまでの既存電源を使った方が安い、新たに技術開発をする必要がない、どっちみち経済性はあわないよというような感じで、最初から捨ててきたような感じがするのです。ところが、現実には北欧3国ではバイオマスとか太陽光、風力等がもう有意であるぐらいの量まで実用化されている。なぜ日本でそうならなかったのかということを考えますと、私はやはり電力事業が公益事業であるという非常に高いプライドと、通産省中心のエネルギー政策のもとでひとつの大きなワクを決めてきたことによってそうなったのではないかと思っているわけです。従って、投資の面でかなり自由になってくるということが、環境問題への、新エネルギーへの投資に関しても大きな環境変化を与えるのではないかということを期待しています。
 しかし、実際には、自由化のもとではおそらく電力料金は安くなるし、それから一番安い電源、現在一番安い電源を使うようになるだろう。だからそれと別に、例えば電源のベストミックスというようなものが、これは国民的に議論されなくてはいけないと思うのです。なんか知らないけれども、COP3の後に原発20基というようなことが、かなり私としてはフォローしていたつもりですが、どういうかたちで決まったのかあまりピンと来ないままに決まってしまったというようなことではなくて、やはり、まずどういうミックスが必要なのかというようなことを考えいくべきだと思います。
 また、折角電力料金がマーケットメカニズムに従うようになったのだから、炭素税がものすごく効く環境が出てきたのだと思います。炭素の含有量の多い電源に余分に税金がかかれば、それは相対コストが必ず高くなって、先ほど残渣油利用が一番安いのだとおっしゃいましたけれども、これはCO2の面からいったら決していいことではございませんから、税金がかかるという仕組みになって、それがうまく動く。少なくとも現在コマーシャルベースにのっているような電源間ではより炭素税が低いものの方が安く使えるようになりますので、うまくいくのではないか。しかし、新エネルギーと原子力はちょっと別の話かなという気がします。これはマーケットでできるかということはずいぶん電事審でも議論されてきたことだと思いますし、現実に4割くらいの電力を原子力に頼っている。それから新エネルギーというのはほんのコンマ以下というような状況の中で、これに対してどうするかについては矢張り国民的合意がいるのではないか。そして、それにはきちっと公的支出をするべきではないか。これまで公益という名のもとに電力事業にみんな押し込んできて、あなたやって下さいというかたちでやってきたものを、機能を分化して、マーケットで決まるもの、決まらないものは公的資金を使ってでも支援するというような体制をとらない限り、解決は難しいかなと思います。
 その中でも原子力については、たぶんこのなかでも異論がいっぱいあると思います。世界的に脱原発という動きが起きてきて、しかも北欧なんかでは、小国だからだといえばそれまでですけれども、少なくとも増やさない方向になってきているというようなときに、日本でそういう国民的な議論がなされたかということを提起したいと思います。要するにそれをきちっと、本当は政治的プロセスできめるべきだと思います。ただ日本で政治というとまた色がついているので、なんといっていいのかわからないのですけれども、みんなが納得する姿で議論されて、それに基づいてマーケットは道具ですから、環境税を用いて、環境税と補助金とをミックスをうまく実現していかなければいけないのではないかというふうに思っています。
 ドイツとか北欧の例をみますと、最初に脱原子力をかかげたから、あれだけ新エネルギー開発に力を投入出来たのではないか。今まで原子力というのが、私どもは日本のは安全だ、チェルノブイリについてはあれはあの国だからそうなったのだというように、いろいろな神話で安心してきたわけですが、やはりそうではなくなって、日本の安全管理はシステム的に必ずしも十分ではないのではないかということで、もう一度考え直さなくてはいけないのではないかと思います。ああいうことが起こりうるということを考えたうえで原子力のコストをきちっと考える必要があって、そのうえでもやはりそれを採とらざるを得ないのかどうかを判断する、そのへんの議論が遅れていると思っています。

● 具体的な方策
岡田:自由化と地球温暖化とは直接関係ない、効率化と地球温暖化とは全く別の対策を講じるべきだという意見でしたが、それはある意味では正しいんだけれども、少なくとも効率化を議論するときに同時に環境の問題をきちっと議論するのが審議会の役割であって、そういうことを全く議論しなかった今度の審議会のこの3人の委員の責任は非常に重いと思いますね。

植草:全く議論しなかったとはいっていないですよ。

岡田:いや、非常に少なくて、結論として対策はなにもでていないというのは全く片手落ちの非常に問題のある答申だったと思いますね。自由化が環境にどういうふうに影響を与えるかをわかりやすく考えると、ひとつは安い電源の発電が増えるということと、もうひとつは値段が安くなると需要をなるべく抑制しようという努力がなくなる、こういうふたつの問題がでてくるわけですね。例えば私が聞いているところでは、イギリスが自由化をしたときに、化石燃料に課徴金をかけた。それを当初は原子力エネルギーにもまわしておりましたが、最近では自然エネルギーの補助に使うというような制度を同時に導入しているわけですね。あるいは、これもイギリスなんかでは課徴金を電気料金に課して、そのお金を電気の使用を効率的にするようなそういうようなものに回すトラストというような制度を作った。そういう工夫を同時に行わなければ、ただ安くして、それは地球温暖化とは関係ないのだといっているのは非常に問題じゃないでしょうか。

佐竹:今度の自由化によって、例えば従来の電力会社がやってきた環境対策が減るかというと、そんなことにはならない。ただし、岡田さんがいわれたように、例えば石炭を活用するあるいは化石燃料の中でも重質的な油を活用するという面では確かに部分的には環境悪化の方向があり得ると思うんですね。「悪化」というのは、電力会社の行う集中型の発電であれば熱効率が低いといっても50何%かは見込めますが、それを個別の10万キロワットかせいぜい50万キロワットの発電所であれば、効率はそこまで上がらないので、効率に差が出るということもあります。
 使う燃料、例えば硫黄分等の含有率については、その地域の環境規制のなかで許される範囲が、相対的には電力会社よりも新規参入者に対して若干は緩い面があり得ると思いますから、そのうえでも、環境が相対的に悪くなる可能性はあります。しかし、そういうSOx対策、NOx対策は地域の環境規制として本当に必要ならば、その規制を課せばいいわけで、これは許される社会規制のひとつではないかと私は思います。その規制に対して経済性があわないということならば、撤退するということになるわけですね。そこは決してさじ加減ではなく、きちんとした経済性、環境問題への対応をビルトインした事業をやらないと日本の中では生きていけない。
 ですから、岡田さんがご指摘のように、電事審でどういう方向を出せばよかったのかについてはまた別のご意見があるかもしれませんけれども、私は今回の自由化論議の中で、公益的な課題と効率性とのバランスがどうであったかを検証するということが3年目の課題として掲げられていますから、従来型の環境問題についていえば、私はそんなに心配することはないんじゃないかといえます。
 従来型の環境問題というのは、SOx、NOxのような大気汚染、水質汚濁の問題です。ただしCO2の問題は、これはちょっと性格の違う環境問題だと思っています。目の前で患者が多発するなどということではないので、なかなか全世界的に、あるいは主要な国がコンセンサスを作るのは難しい状況にありますから、今はいろんな仕組みを研究し、あるいはモデルを作って実験してみるという段階ではないかと思います。短期的にいえば排出権の市場取引も研究するとか、あるいはCDM(クリーン開発メカニズム)について研究するとか、いろんなやり方があると思うのですけれども、それはこれからかなり大きいな仕事として取り組まなければいけない面だと思っています。

新村:ちょっと言葉が足りなかったのかもしれませんが、あとから申し上げたのが私のいいたいことです。要するにそういうのと関係なく、今回は自由化による効率化を議論しました。電事審はそういう場でありました。そのときには、例えばベストミックスであるとか、そういう話は出来ないわけですね。出来ないというか、そこへの議論が出来ていないんだと思うんです。だから、それは一審議会という場ではなくて、もうちょっと大きな立場で、環境に関しての国の方向を決めるようなものがない限りは、私はここで環境を議論してもしょうがないと思いました。確かになにかいいたかったことはありますけれども、その前提として、マーケットメカニズムが動くような部分をつくるということの方が重要だというのが私の感じでありまして、決してそんなことを気にせずにやっていいんだよということをいったわけではございません。
 もうちょっと上の部分で、おそらく電力だけではなく、国全体のエネルギーをどう考えるかというのがないから、なかなかうまくいかない。今回は電力の場でそれがうまく機能するような装置ができたのではないかと思っています。

賀来(大和総研副理事長):自由化、効率化という問題と、それから環境問題というかその他の効率化以外の社会的要請の矛盾ですが、私は自由化万能論者ではありませんけれども、やり方によってはむしろそういう社会的要請にあわない企業が排除するような競争を作っていくことも可能なのではないかという気がします。
 それで、ふたつお尋ねしたいのですが、ひとつは環境税というのはワークしないと須田さんはおっしゃいました。素人なりに考えて、それは単に税率が低かっただけなのではないかという気がするんですが。ワークしなかった環境税というのはどれくらいの税金だったのか、もしご存じでしたら教えていただきたい。
 それから、もうひとつ、植草先生が総量規制というのをおっしゃった。なにごとによらず総量規制というのはだいたいうまくいかないと思いますけれども、どういう形で具体的に総量規制なるものを導入しようと検討されたのか、お聞きしたいと思います。

須田:私、ただいま調べている最中です。既に90年代初頭に導入したところが5つほどありますが、それぞれちょっと違いますので、あとで資料を差し上げたいと思います。

植草:電力における環境問題について、基本政策部会では確かにそんなには議論はしてないのです。これも何回も申し上げていますけれども、電気に関する審議会、エネルギーに関する審議会というのはありすぎるくらいたくさんありますけれども、この環境問題に関しては茅さんが座長の需給部会で集中的に議論していまして、そちらの仕事をこっちでとるということはなかなか出来なかったのです。そこのところは今後直さなければいけないのです。
 ちょっと話が横に逸れますけれども、先ほど従来の審議会と変わりましたということを申し上げた。それは、「開かれた審議会」ないしは「開かれた政策形成」というものでして、事前に相談がない。事前に相談がないから、審議会で議論をしながら政策を決めていく。そして全部公開であります。そしてその資料はインターネット等でだれでもみられる。中間報告のようなものが出れば、その度にパブリックコメントを求める。これは海外を含めて、今回は毎回アメリカ政府が3省庁一緒になってコメントをくれているというような状況で、情報公開、行政手続法、パブリックコメントというものは、政策を考え策定するやり方を、実行する段階でもそうですが、変えたんです。いろいろな審議会もそういう方向に動いていますが、今回の基本政策部会は日本の審議会の中で一番早くそれを実現したと私は自負しています。私の教え子はいろんな官庁にたくさん行っていますけれども、それらが集まったときに今度はこういうことをしたのだと話をしたら、「先生そういうことをやりたかったのだ」ということを言っておりまして、確かに先進的なことをやったと思うのです。
 そこで次の段階は、今このような自由化と環境、もうひとつ先ほど触れられました安全という問題が新しく浮上してきていると思うのですが、そういうものを総合的に議論し、そして具体的な政策が出来るというような場に審議会を変えていかなければならない。来年度になったら、審議会を相当数減らすようですけれども、減らすと同時に審議会の守備範囲を変えていかなければならない。そこで環境問題をもう一度考えていかなければいけない。
 もうひとつだけ申し上げれば、総量規制にしても、いろいろな制度は既に出来ているのです。それから、グリーン料金というのをご存じですか?今家庭で原子力はいやだと、風力ないしは地熱、そういうもので発電したものを東京電力から私は買いたいですといったら、「家庭用ですと今24円ですが、風力だと40円ですけれどよろしいですか、地熱ですと64円ぐらいになると思いますがよろしいですか。はい、結構です」という料金を今検討中です。これは北欧ではやっているのですけれども、日本でも導入することを決めておりまして、東京電力が先にやる予定と聞いております。
 そういうようなシステムを作っていきますと、たとえばソーラーというのは、自分のところでないとなかなか出来ませんが、ソーラーで発電したものと、それから最近の一番新しい技術の燃料電池、被膜型の燃料電池、高分子型の燃料電池など、すばらしい技術があります。 環境問題など一挙に解決する、CO2なんか3割削減するというもので、メタノールであるとか水素であるとか、まあいろいろですが、ガソリンだってできる。化石燃料は嫌いです、そのかわり今の倍でも3倍でもいいですといって、電力会社に払う。電力会社がやらないのならEパワーがやってくれたらそこから買いますという制度も組み合わせて、今作っているのです。
 環境問題について、本当に正直なところを言うと、環境問題、環境問題というけれども、本当に政策議論が出来るような段階、意識の段階にきていないと思うのです。それが一番だと思うのです。ですから、官庁でいろんなところで議論していても、本当の具体政策が出てこない。そこが一番痛感するところです。

竹中(元国民経済研究協会会長):効率化して価格が安くなれば環境破壊が進むというのは、これは価格に社会的コストが十分反映されていないというだけのことであって、さっきお話のあったように、炭素税なりあるいは社会的規制なりをちゃんとすれば、これは問題はないことですから、これを分けて議論するというのは、これは当然だと思います。
 私も少しばかり規制緩和に関与して興味深かったのは、たいてい規制緩和をやると業界が反対されるのですね。そして反対なさるときに関係ないことを挙げて反対なさる。例えば電力業界だったら、自由化すると環境破壊が進むというように反対なさるはずなんですけれども、それをおっしゃらなかった。これは非常に立派な見識だと思う。私の経験では、例えば新聞再販をやめると言論の自由がなくなる、それから酒屋さんの免許をやめたら青少年の酒飲みが増えるとか、全く関係ない理由を挙げて反対してきました。ところが、さすがに電気事業連合会は立派な業界だし、委員の方も立派だと感銘を受けたのがまず最初に申し上げたいことです。
 規制緩和というのは確かに効率化とかコストダウンという効果があるのですが、基本的には人々に試行錯誤の自由を与えるんだということだと思いますね。したがって、風力なり水力なり、いろんなことをやってうまくいくかも知れないし、いかないかも知れないけれども、だれでもやってみて、小さな会社を作って、小売りしていく自由がある、試行錯誤の自由を与えるというのが規制緩和の大きなメリットであって、そういう意味で、家庭用を自由化の対象から除いているのは、道半ばだと思います。さっき植草さんからこういう話もあるという紹介があったので少しは安心をしたのですが、そういう意味でこれは中間段階であって、やっぱり家庭用の小売り段階までの自由化が、いろいろ技術的な制約、解決すべき問題があるでしょうけれども、進んでいく方向ではないかと思います。試行錯誤ということがないといけない。
 原子力の問題は私自身もよくわからないのですが、確かにドイツや北欧のようにどんどん自然エネルギーのほうへ傾斜していく国もあれば、フランスのように原子力のウエイトが非常に高く維持していく国もある。そういうことを何年か進めていくうちに、やっぱりこういうことがいいんだという結論がでてくるのであって、最低限のルールを尊重した上でいろいろな試行錯誤をやっていくことが大事なことだと思います。
 申し上げたかったのはそれだけですが、佐竹さんに質問したいのですが、ある製紙会社のトップの人がおっしゃったことなんですが、本当でしょうか。つまり、紙パルプ業界はしばしば公害産業のようにいわれるんだけれども、そうではない。紙パルプ産業ほど原料製造段階で森林を作って、即自然環境に貢献している産業はない。あれは確かに熱帯雨林は使わないで殆ど植林ですから、11年かかって森林を作って、空気をきれいにして、2分の1伐採して、くるくる回している。これは非常に役立っているのだけれども、問題は再生紙、紙の再利用である。紙の再利用をやると、非常に化石エネルギーを食う。ああいうことをやらないで、紙は全部燃やした方がいい。東京のど真ん中に、なにかちょっと添加物が要るかもしれないけれども、紙だけで発電所を作れば、ダイオキシンは出ない、東京のすぐそばで送電コストは安いはで、一番環境保全になると。それを今のように再生紙でやると、非常に化石エネルギーも使うし、よろしくない。こう、ある紙の会社のトップの人がおっしゃるんだけど、本当でしょうか。

佐竹:実は私どもが数年前、オフィス町内会というものを作りました。ご家庭にも最近複写機がはいってきていますけれども、オフィスの場合、とにかく会議をするために資料を作成・コピーし、その会議が終わればそれで終わりよいうことが多くあります。パソコンの利用が進むと紙は使わなくなるのではないかといわれていたけれども、まだまだワープロ的利用が多いので結果的には紙を使う。その紙の役目が終わったとき、永久に大事に保存しておくということはないから、必ずこの紙は廃棄する。オフィスで使っている複写用紙はワンウェイで使い捨ての状態です。新聞の古紙回収率は50%を超えているそうですけれども、オフィスでもそういう意味ではもともとの木を伐らないですむような環境対応として、その紙のリサイクルをやれないだろうかということが発想の原点です。事業系のゴミは、自治体にお金を払って廃棄物処理をしなければいけないし、事業者としてはその紙をストックしておくスペースも要ります。一方で、紙の製造会社は手間がかかかるんです。脱墨という技術が必要になって、まっさらのパルプから紙を漉くのと比べると、工程がその分だけ増えまして、したがって廃棄物対策が必要になるのでコストがかかる。生産者がコストが嵩むということと、需要者が廃棄物を捨てるためにまたコストがかかる。これをなんとか組み合わせられないかということで、オフィス町内会という仕組みを作りました。コピー用紙は再生紙にしているという会社が相当数出てきています。それとあわせて、紙の白色度が通常80%程度のものでないと満足されていないような世界だったものを、日本青年会議所に賛同していただいて、白色度70%運動を起こそうということをやっています。われわれは紙をリサイクルするということは基本的にいいことだと思ってやってきているのですが、私は先日ある方に脱墨が必要なので、かえってエネルギー的には高くなるということもいえるから、紙のリサイクルなんかは止めるべきだというお話を伺ったことがあります。
 発電所で紙を燃やしたらどうかというお話については、圧倒的にカロリーが不足しています。まあ小型の焼却炉とか大型の焼却炉と考えればいいのかも知れませんけれども、紙だけだと
カロリー不足だと思います。むしろ最近問題になっているのは、プラスティック系のゴミですね。これはカロリーは高いのですが、塩素、ダイオキシンが問題になる。ですから、自治体によっては、RDF発電、つまりいろんな生ゴミも含めまして、再生可能なゴミを外したあとで、ゴミを固形燃料にしてそれで発電することが場所によっては事業としてでてきております。
 それから、紙パルプ業界で黒液というのがでてきますが、これによる発電があります。自然エネルギーあるいは新エネルギー、言葉の付け方はいろいろありますけれども、日本では相当量が実は黒液による発電です。世界的にはアメリカ、ヨーロッパではバイオマスといわれるもの、最近になってデンマーク、オランダ、ドイツでは風力も相当に大きくなってきています。
 それから、炭素税的な形でそれを促進するかどうかという問題があります。あるいはデンマークとかオランダなどは、電気の消費者にある一定比率以上の新エネルギーによる電気を使いなさいと、消費者に義務づけるというような仕組みをとっているところもあります。アメリカでは新しいエネルギー法の検討のなかではリニューアル・ポートフォリオという考え方があります。これはある一定比率以上のエネルギーを新エネルギーで賄うようにという考え方です。もっとも、新エネといっても、ある一定規模以下の水力発電も含んでおります。

● 自然エネルギーの活用策
 自然エネルギー、新エネルギーへの取り組みについて、今日本でかなり熱い議論が行われているのは、風に非常に恵まれている北海道あるいは東北地域で盛んに興っている風力発電事業の話です。東北電力さんの話ですと、割高な料金で買い取る仕組みになっているのですが、近々、数年のうちに70万キロワットぐらいの風力発電がでてくるだろう。そうすると、東北電力さんとしての負担が100億円ぐらいになってしまうそうです。これでは経営的にもたないので、何とか風力のような地域偏存の自然エネルギーを全国ベースでバックアップするような仕組みを考えてもらえないだろうか、という切実な意見がでています。
 植草先生が紹介されたように、グリーン電力の仕組みとして風力だったらキロワットあたり40円だけどそれでいいですか? というやり方も確かにありますけれども、ファンドのような形で拠出いただいてやるというやりかたもあります。私どもは3年前からNGOの方あるいは生協の方と、太陽光発電の補助事業というものを始めさせていただいておりまして、一応3年間やったところで中間総括をしました。その市民フォーラムで、いわゆるグリーンファンドのような仕組みに賛同される方に年間3000円の会費を払っていただくという仕組みをつくっていただきました。しかし、これをひろげるのはなかなかそう簡単ではありません。先ほど話が出ているドイツでも、やはりグリーン電力制度を導入したのですが、最初はあまり加入者がいなかった。ダイレクトメールを送って一生懸命PRしたということですが、今はお客さまのなかの1%弱の方がそういうグリーン電力制度に加入しているということだそうです。

岡田:今東北電力で風力が70万キロワットぐらいに増えると100億円ぐらい持ち出しになるとおっしゃったけれど、確かにそうかもしれません。ただ僕らは電源開発促進税というのを知らん間に電気料金のうえに上乗せされてとられているわけですね。それは大体原発の促進とか地域振興に使われている。それを風力とか自然エネルギーの促進に回してくれれば、解決するのではないかと思います。

桑原:私の方からは、新しく発電所を建てる立場で、どうなるかということで話してみたいと思います。発電所を建てるには相当なコストがかかります。一朝一夕には建たないものですから、時間的にも5年ぐらいかけての話でして、例えば何百億円をかけて建てるという話になりますと、将来、どういう燃料を使って、どのくらいの環境的なコストがかかっていくのかという予想をしないと、どうしてもそういう投資なんて出来ないというところがあります。実際問題、海外などを見てみると、ある意味では、われわれはレギュラトリーリスクと呼んでいるのですけれども、エンバイロメンタリーリスクとはかなりレギュラトリーな話と非常に係わってまいりまして、日本の政府、あるいは日本の国民がどういう方向に向かって、どういう燃料を今後買い取って、CO2をどういう形で減らしていくのかという国民的コンセンサスが出来たうえで、そういう形が出来て来ると思うんです。いろいろなシュミレーションをやったうえで、じゃあ日本はどういう燃料をこれから選択していくのだというところの見極めががつかないと、なかなかわれわれも新しく発電所をどんどん建てていくという決断は出来ません。そうなるとわれわれは、今まで既存のとおりの形が進んでいくという前提の話になっていきます。
 将来の見込みというのは、原子力が出来れば一番良かったんでしょうけれども、いろいろな兼ね合いで出来なくなった。では次は風力かといいますと、風力だけではなかなか電力は賄いきれません。それでは大きな方向として、ガスなのか、石炭なのか、あるいは残滓油なのか。こういう大きな方向付けというのは、これはもう選択肢はかぎられているわけですから、かなりコンセンサスは出来やすいのではないかという気はしています。そうだとすれば、環境税という形にするのか総量規制にするのかについては議論があるんでしょうが、自由化を進めるにあたっても、自由化に伴う弊害をなくするためにも社会的コストが見えているわけですから、それを取り込んだ形で電力制度というものをきちっと見直していかなければいけないのじゃないかという気がしています。

司会:自然エネルギー法促進ネットワークの朝野さんが見えてますので、朝野さんに一言。

朝野:自然エネルギー法促進ネットワーク事務局長の朝野です。今日はたぶん一番若いと思うので元気な意見をいいたいと思います。
 われわれは自然エネルギー法を実現させようという政策提言型のNGOです。佐竹さんが先ほど東北電力が買い取れない、東北電力の自己負担が大きいという話をされました。その100億円を、新村さんが先ほどおっしゃったように、国民的合意によって公的資金でどう賄うメカニズムを作るか、そういうことをやっています。
 具体的にいうと、自然エネルギー促進法というのは、電力会社と自然エネルギーで発電する事業者との間でルールをつくる。それは買い取り義務だとか合意だとかいろんな形があると思うのですけれども、そういうルールをつくる。そしてそのルールの中に、自然エネルギーからの電気を優遇的な条件で接続して価格も優遇する、ということをやろうと考えております。そして財源自体は電力会社に求めていくのではなくて、税金を使おうと考えている。それはどういうことかといいますと、先ほど岡田さんがおっしゃいましたけれども、電源開発促進税というのは今1キロワットあたり約40銭かかっているわけですが、それが日本全国集めてくると、だいたい4000億〜5000億になるのです。その中のだいたい9割か8割は原子力に使われているのですが、それをシフトさせようということです。要するに、電力会社の持ち出し部分というのを、電源開発促進税を使うことによってルールしようということです。
 なぜこういうことをやるかというと、現在電力会社が自主的に購入メニューを持っているわけです。太陽光発電と風力発電に対して持っているわけですけれども、例えば風力発電についてはキロワットあたり11円の購入メニューを持っている。それで、その結果、どういうことがおこったかというと、採算に乗るということで、例えば北海道だけで55万キロワットの風力発電というのが建設計画に上がったのです。55万キロワットというのはどのくらいの数字かというと、例えば一昨年に発表された長期エネルギー需給見通しでは政府の導入目標というのは2010年で30万キロワットだったんです。それをはるかにうわまる規模です。先ほど佐竹さんほうからお話があったように、東北電力だけでも何十万キロワットの計画がある。だけど、例えば北海道電力でどういうことが起こったかというと、55万キロワットが出た後に、これではとてもじゃないけれども周波数やそういう変動があるから、そういう15万キロワットにさせてくれ、限度を設けさせてくれ、そういう動きがあったのです。それは勿論経済的な負担もあるからなのです。それで、そうではなくて、そのルールをつくることによってやろうじゃないか。それで、15万キロワットに限度を設けてどうなったかというと、入札制度というのが導入されて、それが1キロワットあたりだいたい8円で入札されたのですね。ただ、8円で入札されたけれども、それが実際に建つかどうかというのは非常に問題で、もしかしたら建たないかも知れないですね。ただ、そういうのではなくて、今までは電力会社に頼り切りだったのだけれども、そうではなくて、公共政策と位置づけて、そういう法律を国民的合意のもとで作ろうじゃないかということです。
 先ほど佐竹さんのほうからドイツで自然エネルギーが伸びている、その中でグリーン電力制度を使って伸びているという話がありました。しかし、そこにはドイツの促進法の話が全くなかったのですけれども、そのわれわれの目指している法律というのはそのドイツの法律をモデルにしたものです。ドイツは1991年現在で風力発電がが3万キロワット、殆ど日本と同じだったんです。それが現在われわれが目指しているような法律を導入した結果、現在、1999年末時点で444万キロワットまでに伸びたんです。それに比べて、わが日本はわずか6万キロワットですね。そういう意味で、それまでのように電力会社に頼りっきりとかそういう政策ではなくて、公共政策として位置づけて、そういう法律を作ろうではないかという考え方です。そういう動きがあることをご認識いただいて、よろしくお願いします。

植草:ひとことだけ。皆さんは風力発電の何千基、何万基とあるところをごらんになったことがありますか?カリフォルニアからあっちのほうに行ったことがあるんですが、従来の植物はそうでもないけれど、動物が殆どいなくなっちゃうんですね。すごい音と景観の悪さ。私は自然エネルギー、新エネルギーを大いに促進するという立場ですが、ひとつひとつ総合評価を厳しくしないといけない。もっとも動物というのは進化が意外に早い動物がいて、高周波数のところでも生きていける動物がまたどっと来るそうですからいいのかもしれませんが。ただ、環境を論ずるのであったならば、あれは本当に環境にいいのか。総合評価をもう一度して欲しいんです。

朝野:その点に関しては、例えば鳥なんかはまず動いているものには近づかない。それが突然動いたりすると当たってしまうということがあるかも知れないけれども、基本的にはそれはまず少ない。景観については個人差が非常にあるので、それは何ともいえない。例えばデンマークなんかではどういうことがとられているかというと、ゾーンニングをするのです。風力を建てていいゾーンと駄目なゾーンをくっきり分けすることにより、例えば海岸線から500メートル以内は建ててだめとか、そういうふうにゾーンニングするんです。そのことによってある程度合意がとられるような土壌を作っておく。それで、ゾーンニングによっって送電網に近い位置は建てられるとか、そういうふうにすることによって社会的コストも抑えようという政策もとられている。そういう政策も一緒に考えていけば、それは十分可能なんですね。景観自体は本当に個人差がありますので、僕は美しいと思うんですけど、それはいろいろあると思うんで、難しい。

● 自由化こそ環境対策の基礎
八田:対策のためには、基本的に企業が環境負荷に対する社会的コストを負担する仕組みを作る必要があります。それに尽きると思います。
 大事なことは、自由化することがそのような制度づくりに貢献するということです。言い換えると、自由化なしには企業にうまく社会的コストを負担させされないということです。
 第一に、炭素税は自由化の下でのみ効果を発揮します。これまでは、電力会社は今まで全部総括原価主義で、かかっているコストは全部に上乗せして料金に乗っけていたんですから、炭素税がかけられてもびくともしなかったわけですね。排出量を抑制する動機がなかった。
 今度競争要件が入って初めてちょっとでも安いものをつかわなければいけなくなる。そうなると、炭素排出するようなものは使っていられないということになる。それで、初めて炭素税が効いてくる。ですから、この環境に対しての社会的コストを企業に負担させる方法というのは炭素税で、それを効かせるためには自由化が必要だということです。
 二番目に、自由化は炭素排出量の多い夏のピーク時の発電を抑制します。日本では、夏のピークに合わせてかなり古い発電所も動かしている。電力の自由化も完全自由化に近いものになると、電気料金が需給にあわせて決まりますから、ピーク時の値段が非常に高くなる。そうすると、工場は、ぼうっとしていられないわけで、大幅に夏のピークは需要が切り下げるということになる。そうすると炭素排出の多い発電機は止めざるを得なくなる。
それから三番目に、もし自由化に伴って送電料金が、送電ロスを反映するよう設定されると、需要超過地では、自然エネルギーがペイするようになる可能性があります。先ほど申し上げたような送電ロスに対応した送電料金をかけるとすると、東京では基本料金は先ほど申し上げたように東北より20分の1。そうして発電会社が負担する変動料金の部分はスカンディナビア方式ならば補助金を出すということになる。(東京で発電すればするほど東北から送電しなくて済むから、その分国民経済的には送電ロスが減っているわけだから、補助金を出す。)そのくらいにやる。そのかわり東京での電力需要に対しては非常に高い送電料金をかける。こういうことをやる。そうなると、今までは採算に乗らなかった自然エネルギーが、東京ではバタバタと採算にのっていく。
これを、風があるからといって風があるところで風力発電するのでは駄目で、国民経済的に一番資源を節約するような場所で自然エネルギーが採算に乗るような仕組みにしなければいけない。そのためには送電料金制度をきちっと設計することによって、今まで予想もしないような場所で、そういうものが採算に乗ってくる。それが自然エネルギーの生きる王道だと思うのです。
最後に、炭素税や送電料金など、料金によって炭素排出を抑制すえう方法は、炭素排出を削減する技術開発を促進するという特徴があります。今までのやり方だと、国がああやれこうやれということだった。政治家がこういう、あるいは市民団体がこういうからこっちの方に予算をつけようということだった。そうじゃなくて、料金にインセンティブがつけられる場合には、技術進歩が進む。ちょっとでも炭素排出削減するような技術をやれば儲かるんだから、技術進歩が進む。
したがって、私は電源開発促進税を改組して、炭素税にすることで賛成です。また、地方のレベルではNOxとかSOxにあわせた税をかけるということが必要だと思うんです。
しかし、これらの環境税からあがってくる税収を、自然エネルギーとか原子力とか特定目的の財源に使うというのは私は反対です。むしろ一般財源に入れた方がいいと思うのです。今の道路税のように目的税化すると、税収を無理矢理道路に使わなければいけないというわけで地方でがんがんがんがん土建屋につくらせているわけですね。だから、私は税はインセンティブを与えたら、あとは今の日本は非常に貧乏な財政状況ですから、財政一般のために使う。それで済むと思うんです。
 今回の3割の自由化の後で3年後に抜本的な環境問題を含めた見直し、議論が起きると思います。私は自由化をやることが、環境負荷に対する社会的コストを企業に負担させる必要不可欠の手段でると思います。自由化をやらずに社会的コストを企業に負担させることは出来ないと思います。
 例えばパルプの問題でも、いちいち国がこれを東電に頼んで建設してもらう必要はないんですね。もしきちっと炭素排出に比例して税がかかっていれば、勝手に東電が判断すればいいんです。儲けるか儲けないかです。本当に炭素排出が多ければ、そのぶん再生紙を使うことが非常に値段が高いものになるはずですから、むしろ燃やした方がいいということになる。企業にとっては、いちいち社会のためにどうのこうのということなどを考えなくとも、儲けることだけを考えていれば社会にとって望ましい行動をさせるように、企業に社会的な費用をちゃんと負担させるということです。
 炭素税がエネルギー消費の抑制に効くかどうかということは、需要の弾力性に依存することですから、国によっても場所によってもいろいろ違うことです。しかし、エネルギー源の選択にはこの税は効きます。例えば先ほど植草先生がおっしゃったように残滓油が炭素の排出が多い、しかし値段がうんと安い、という場合に炭素に税金をかけられたら、当然もっと炭素の排出量の少ないか、もともとの値段は高いもののほうが値段が逆転して安くなるわけです。これはもう実証研究を待つまでもなく、当然のこととしてそこにシフトしてしまう。その手段としては、私は排出量取引だとか、炭素税のようなものしか基本的にはないと思うのです。
企業に社会的コストを負担させる方法による環境対策の重要なメリットは、役所や業界の利益を奪うことができるという点です。これまでは、結局規制に頼ろうとしたわけですよ。おまえああやれこうやれというわけです。それで、原子力は環境ために必要だというようなことをいう。実際は、環境改善のために原子力が最適だからではなく、原子力発電のための官僚組織を温存するために必要だといっているのだと思います。
私は自然エネルギーも全く同じだと思うんですね。これもいろんな組織、それから今度は政治家もおそらくついてくる。そういうものが、最初のうちは純粋な気持ちでやっている人たちの周りにどんどんついてきて、自然エネルギーに補助金を出せ出せということになる。
環境対策としては、そういう鉛筆舐め舐めのそういう官僚組織に任せるようなことは駄目で、やはり基本的に社会的コストを企業に負担させて、あとは事業者に判断させるということが、まず必要だと思います。

朝野:八田先生がおっしゃるとおりで、われわれもちょっと言葉足らずだったんですけれども、電促税はとりあえずの措置というか、導入するための措置として考えています。電促税自体が歪んだ税制ですから、それ自体は改組した方がいいと思います。ただ、導入するときの抵抗、バリアの度合いでいうとその電促税を使った方がいいという主張です。

● 消費者の意識と行動のギャップ
司会:新村さん、消費者の行動をいろいろ調査されておられるようですが、消費者行動を、日独の比較の問題も含めてコメントを。

新村:その前に、八田先生には新エネルギーがマーケットでペイするまで炭素税がかけられるのかどうかということだけ、今度教えて下さい。ちょっとそこのところは難しいかなと、今伺っていて思いました。
 消費者の話ですが、わが社で6年ばかり消費者と企業の意識調査を、あいだを置きつつやっております。これまでに消費者調査2度、企業調査2度、それから、ドイツの消費者調査を1回やりました。その結果、こういう国民を相手にしたら、環境問題などは直ちに合意が出来て、原発は止めて、自然エネルギーのようなものはどんどん出てくるような、驚くほどの結果は出ています。しかも3年の間隔をおいてやった調査でいくと、ものすごく環境に対する意識は高くなっています。これは私は本物だと思います。ドイツと比較しても、比較が正確にできるかどうかわからないのですけれども、意識という面ではもう日本人はものすごく環境というものに対してコンシャスになってきて、それこそリサイクルなんかを一生懸命やろうとか、やらなくちゃいけないとか考えている。ただ、あなたは何をやっていますかというと、あまりやっていないのですよね。3年前よりリサイクルにまわしている人がものすごく増えたと思ったら、東京都でいえば23区が回収を始めたということが背景にあったとかですね。そのような形で必ずしも行動に移していないんだけども、意識だけは高くなった。
 そのなかで、例えば環境に優しい商品を高くても買うかといえば、多くの人は買うといっているのです。手間がかかっても買うかというと買うと答えているのです。これがこの3年ですごく増えている。ところが企業の方に聞くと、そんなことをいったって、ちょっと高いと買ってくれませんよとよくおっしゃるんですけど、どちらも真理のようです。そうして、今年企業の調査をいたしましたら、企業の環境に対する熱中度がまたものすごく上がっていまして、もう消費者は遅れている、あいつらは駄目だから、私たちが先に立って日本の環境問題を解決するんだみたいな感じの結果が出ています。そういう意味では、環境はみんなの意識になっている。
 昔、地球環境よりも成長の方が大切だよといっていた、そういうのが議論になっていた時代とは全く変わっているということはよくわかるんですけれども、消費者調査を見て、個々の個人がどうしていいか分からないというのが問題だと思いました。例えば電気を消すとか、そういう身近なことならわかりますよね。しかし、先ほど竹中先生がおっしゃったように、本当に紙をリサイクルした方がいいのかというようなことを、大変教養のある今の消費者は迷っているのですね。トレイを水をいっぱい使って洗って、干して、乾かして、リサイクルして本当にいいのだろうかというようなことで、結局行動に移れない。結果として行動率は極めて低いんです。ドイツは逆にいうと、たぶん合意がどっかで出来ているんだと思うのですけども、意識は日本ほど格好のいいことは言っていないんですけども、非常にやっているんです。毎日買い物かごはもっていきますか?はい、持っていきます。自動車は使いませんか?なるべく自転車を使っています。で、実際にそういうものに対応したお店のほうの対応もあるっていうこともあるんですけども、これは一体何が原因であるかということが今ちょっとよくわからないでいるところです。よくわからないというところが結構大きな問題ではないかなとよく思います。そういうところがやっぱりきちっとみんなで議論されていく、そういうまあプロセスなんですけれども、地球環境問題が既に問題になってかなり経っているんだけども、なかなか本質に迫る議論がなされていないような気が致しました。
 さっきのエネルギー源のミックスの話もそうですし、それから、これは仕方がないとおもいますけれども、最初にとにかくリサイクルしましょうというようなかたちで、リサイクルするとなにが起きるかということまであまり議論せずにやってしまったのかと思います。少しづつそういう情報がでてきていますが、もっともっとそれを議論して、なにか合意を作っていくようにしないと、いつまでも意識は高いが何もやってない日本という感じになっていくのかなあというような気が、アンケート調査をした結果であります。

● これからの課題
須田:賀来さんのお話にもありましたが、炭素税をどのぐらいの比率でかけるのか、これが大きな論点になるのは事実です。私が心配をしているというのは、実をいうと非常に浅くかける可能性が今確率としては非常に高いと感じていることですから、そうすると先ほどおっしゃるようなことは効かなくなります。竹中先生もおっしゃっているように、社会的費用を内部化することは非常に苦手な経営風土でありますから、僕らはずうっとそういう問題と格闘していますので、それをどうやったら内部化することが出来るのかについて、ご議論をつづけていってもらえたらありがたいと思います。

植草:電力のこの改革に2年半かかったのですが、ようやく終わったと思ったら今度は東海村の事故が起こりました。その後始末に学術会議の会長からいくようにいわれて、3か月間安全に関する問題について大変な苦労をしました。
 私は環境問題と同時に安全の問題が極めて大事だと考えております。最近、あまりにも事故が多い。トンネル事故から医療ミス、それから、この間の地下鉄、原子力等々、挙げれば数限りないくらいの、しかも大きな事故ですね。日本は安全神話が非常に浸透しているんですけれども、こういう規制緩和をやって効率を追求すると、二律背反するものが非常にたくさんあるんです。その中でやっぱり環境と安全について、出来ればそれを両方総合的に考えるような新しい政策体系を作らなければならない時代だと私は認識しておりまして、環境と安全の両方含めたものを、今後考えていただきたいと思います。

司会:ありがとうございました。もともとこの会はまず議論してみよう、そしてまた少し経ったところで議論しようという趣旨で開催いたしました。いずれにしろ、3年後の見直しの問題がございますので、そのときのシステム設計を、いまお話のように全体を総合的に考えてということで、また議論を引き続きやってみようと考えております。
以上