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シリーズ討論

規制改革委員会の最近の活動について

、宮内義彦規制改革委員会委員長、田中一昭拓殖大学教授
国民会議ニュース1999年08月号所収
 ここにご紹介するのは、さる8月6日の総会における規制改革委員会宮内義彦委員長と田中一昭委員の報告要旨である。


1 田中一昭 拓殖大学教授説明要旨
 今回の論点公開
 委員会の名称変更
 「答申」というもののあり方
 論点公開「はしがき」のポイント
 委員会の位置づけ
2 宮内委員長説明要旨
 委員会の名称変更
 スケジュール
 委員たちの苦労
 本年度の論点公開の特徴
 規制改革についての所感
3 質疑応答



1 田中一昭 拓殖大学教授説明要旨
 宮内委員長が来られるまで、代役として簡単に概要を説明いたします。

今回の論点公開
 7月30日に、規制改革委員会は「規制改革に関する論点公開」を発表しました。これは249ページという分厚いものですが、総務庁の規制改革委員会事務室に行きますと無料で配布しております。
 これは非常に面白い資料です。面白いといいますのは、それを見ますと、取り上げている事項について、制度の仕組み、それから政府はその仕組みをどうしようとしているのか、今まで何をやってきたのかということがまず書いてあって、そのあとに論点が整理してあります。つまり、委員会が今度改革しようとする改革案とそれに対する各省の反対理由や若干のコメント、言い訳が書いてあります。さらに参考資料として、当該制度の沿革や各国(主に先進国ですが)の状況、その他参考資料となるデータが載っております。
 例えば、薬は薬局で売っているわけですが、私たちはコンビニでも売れるようにしたらどうかと長年言い続けてきている。これに対して厚生省は頑強に反対していて、ただドリンク剤みたいなものは医薬部外品として医薬品から離して売らせるという方法を採ってきて、言ってみれば委員会の方は騙されているわけです。ところが諸外国、特にイギリスなんかでは一般大衆薬というのは薬局でないところで売れるようになっているのです。日本の薬ではどういうものがそれに当たるのかということを検討して、日本ではそれが何故できないのかというのをアプローチしていけば、出来ない話ではない。富山の薬売りの薬も、考えてみればなにも薬剤師がいるわけでなくて各家庭においてあるわけですから、その発想でいけば出来ないことではない。そうしたことを考えるときに、諸外国との比較が表になって載っており、規制緩和に関心のある人には面白いペーパーだと思います。
 そこで、若干、その内容について説明をしたいと思います。ただ、私は今はもう委員会の事務局長ではありませんので、一委員として見ている話を申し上げます。

委員会の名称変更
 まず、規制改革委員会というのはもともと規制緩和委員会という名称であったのですが、これが今年の4月6日に規制改革委員会に名称変更になった。なぜこのように名前が変わったかといいますと、ひとつには私たちも従来からただ規制をやめればいいといっているわけではなくて、やめるにあたってセフティネットなどの条件整備というのを当然考えているわけです。今後の規制改革というのは撤廃・緩和一本槍ではなくて、周辺の条件整備をする必要がある。もう一つは、規制といわれるものを撤廃・緩和していくにあたって、税制とか補助金制度が関係するときがある。こうした制度が規制をより促進している場合がある。そこで、規制に関係する場合には、税制も補助金制度も取り扱うことにしたいということもあって、規制緩和委員会から規制改革委員会に変えたわけです。
 以前からそういう考え方はあったのですが、経済戦略会議が出した答申のなかに規制緩和委員会について、「制度改革委員会」とするとともにもう少し体制を強化しなければならない、扱う対象も単に規制の問題だけではなくて範囲を広げてやる必要がある、事務局も独立したものをおくべきであるなどの提言があったわけです。それに対して、いわゆる官僚的な措置として、まず名称を変えることにしたわけです。戦略会議は抜本的な強化といっているのですが、抜本的な強化になったかどうかはわかりません。確かに委員の数や参与の数が増え、事務局も体制が強化されましたけれども、人数が増えればそれでいいというものではない。中身はそれでどうなったということは俄にはいえないと思います。ただ、人数が増えたおかげで、ワーキンググループを作ったりすることが非常に楽になりました。かなり融通が利くということと、自分が居眠りしているときでもちゃんと他の人がやってくれるのでその点は非常に楽になりました。このように、経済戦略会議の提言がひとつの契機になったということです。
 ただ、この戦略会議の答申は閣議決定されたわけではなく、ご存じのように小渕総理ご自身が出来るものからやってくださいと閣議でおっしゃったそうです。それから、樋口議長自体も、新聞報道によりますと、各省と議論するといいたいことがいえなくなってしまう、だから提言は政府がやろうとやるまいと構わず出すというようなことだったようです。これに対して総理は出来るものからやれということで、この規制改革委員会への名称変更は、その出来るもののひとつとして政府が対応したということになるのだと思います。

「答申」というもののあり方
 たしかに、審議会のような場で理想的なことを言おうとしても、各省と議論してあるいは業界と議論しているとなかなか纏まらない。さりとて纏まる話だけを拾えば、どうでもいいような問題しかあがってこない。だからといって理想図を描けば、各省はどこ吹く風という顔をして、結局は棚上げされてしまうということであります。こういう問題をどういうふうに考えていくかというのは、審議会一般の問題としてもあるわけです。
 ただ、小渕流を評価される人もおられます。出来るものからやれといわれると、いかにもいい加減なように思われますけれども、それを何回でもおっしゃるわけですから、そのうちに各省も仕方がないというわけで少しずつ少しずつ、若干官僚的対応であっても進むと評価する人もおられます。しかし私は、各省と議論しても、すぐ妥協して足して2で割るという必要はないのであって、徹底的に議論して、こちらが負けていないということになれば、堂々と言っていけばいい。それが1回で実現できなくとも、引き続き何回でも審議会として押していけばいいというふうに思っています。
 私たちの出す報告書は「見解」と称していますが、答申ではありません。なにもこうやって下さいと頼まれてやっているのではなくて、当方が勝手に意見をいうわけです。意見書ですけれども、理想的な図、あるジャンルのことについてどういう規制緩和を基本的には図るべきかというのは当然書き方の問題としてあります。私たちが年末に出す報告書でも、理想的な絵は書きながら、少なくとも当面こういうスケジュールでこれだけはやれという風な言い方もあるのではないかと、委員会でも申し上げております。
 「論点公開」というやり方についてでありますが、これは前の行政改革委員会の規制緩和小委員会の伝統を引き継いでいるわけです。竹中一雄先生とご相談してやり出したことでありまして、ある課題について、わが委員会はこういう方向で緩和すべきだ、撤廃すべきだと考えるのに対して、業界なり担当省庁が反対するわけですから、その反対の理由を書かせる。向こうが書けば、またこっちもそのつけ加えられた理屈に対して反論し、これを何回も行って論点を整理する。論点公開とは、そういう風に、緩和案と現状維持案を対照させて書くというのが本来の姿であったわけですが、最近は真っ向から反対というのではなくて、こっちがこうやりたい、こうすべきだということに対して、出来ないことの言い訳とか、もうちょっと時間をくださいとか、今調査中だとか、あるいは当方の審議会でも議論してもらうので待ってくれとか、そういうたぐいの意見が載せられております。本当は反対論、現状維持論をちゃんと書いてくれればいいんですけれども、そういうふうには必ずしもなっていないという状況です。

論点公開「はしがき」のポイント
 「規制改革に関する論点公開」の冒頭に「はじめに」というはしがきがありますが、その内容をちょっと説明しておきたいと思います。
 論点公開の形で夏休みに入る前に示すのは、改革論なら改革論に対して、お前たちが示している理屈のほかにこういう現実があるとか、こういう論理もあるとか改革案をなお強化するような意見を言っていただく。また、現状維持論については、そんな現状維持論ではだめで、本当はこういう事実があるから現状でなければだめなのだというような意見を言ってもらうために、国民にオープンにするということです。こうやってオープンにしますと、ある特定の業界から同じ文面で反対反対とくるのが大部分ですけれども、なかには本当にこちらが期待したような意見を言ってくれる人たちも随分ありました。
 こうした論点として取り上げた項目自体は、原則として、国民の意見、要望のあったものです。そういうものから片づけていくというのが現実的で効率的なので、学問的、抽象的なことで理屈をたててやるというのは後回しにしようということです。ところが、今回のこの「はじめに」というところで書いてあることのひとつに、行政分野を横断的に見直しをしようというのがあります。
 それは主にふたつあります。ひとつは自主保安とか自己確認化の推進を目指した検査検定制度の見直しです。つまり、検査検定は中立公正でなければいけない、だから国の機関でやらなければいけない、あるいは国が指定した機関でやらなくてはいけないということになっている制度が非常にたくさん(66制度)あります。しかし、外国をみると第三者機関に検査をさせる、あるいは、そもそも検査検定という商品の品質のチェックはつくった業者自体が責任をもつべきであって、本当はそのような検査検定をしないでも、自己検査、自己認定でいいじゃないかという議論もあるわけです。そうしたシステムをチェックするなどいろいろな制度が外国では行われている。すべて国がやらないとだめだ、指定検査機関がやらないとだめだということを見直す。そのためには、制度全体を横断的にみて、今まで要望があろうとあるまいと見ていくということをひとつ取り上げております。
 もうひとつは、公的な業務の独占資格の問題です。これは弁護士から始まって行政書士まで101制度あります。業務独占ですから、たとえば弁護士でなければ弁護士の仕事をやってはいけないということです。これについて、業務独占そのものの問題から試験制度、あるいは報酬の決め方等々16項目の見直しの観点を各省に示して、ずっとヒアリングをやっております。
 この資格というのは、本来社会経済活動にとって有用なものであり、とくに多民族社会であったりすると雇用の流動化のために非常に有用なのですが、下手をすると壁を作って、ギルドのようなものになる。早い話が司法試験の結果をご覧になれば、なぜ毎年一定の人数だけ合格するのか。これは公認会計士だろうとなんだろうと、毎年一人として合格者の数が違わないものがあります。これは、調整しているに違いない。本来、私たちの他の分野で見ますと、豊作の年と不作の年というのはあるわけで、ある年に1000人受かることがあっても、ある年には500人しか受からないことがあったっていいわけです。ところが毎年同じ人数が受かるということはおかしいわけで、こういうのをみますと、壁があるにちがいないと思うわけです。
 最近医療福祉関係で非常に資格が増えてきています。こういう資格は、ある資格を取ると近隣のほかの資格もすぐ取れれば問題はないわけです。大病院であればいろいろな資格毎に人をそろえることができますが、中小の病院では一人がいくつかの資格を持っていたほうが経営上いろいろ楽なわけですね。あるいは、たくさん資格を持っている人については給料を高くすればいいわけです。ところが、そういうことがなかなか出来ない仕組みになっている。こうしたことを問題にしているわけです。
 検査検定の見直し、あるいは業務独占資格などの問題は、今までも個別に取り上げてきましたけれども、今度は今まで問題にされていなくても、全部を横断的に俎上に乗せて調べてみようというふうなやり方を取る。これは今までのやり方、伝統的な規制改革とは違うやり方であるということが、このはしがきに書いてあります。
 もうひとつは、「規制改革は積み重なる上に花咲く」と書いてあるんですが、要するに出来なくても何回も繰り返し繰り返しフォローアップしていく。「古い革袋に『新しい酒』を入れる」というようなことで進めていくということが規制改革には大事であるということが書いてあります。
 3つ目は「規制は細部に宿る」ということが書いてあります。標語的なことがいっぱい書いてあるんですけれども、規制というのは大向こうをうならせるような大きな課題を取り上げることも大事ですが、実際は基準認証等にかかる意見要望など小さな問題がいっぱいある。私たちの目にゴミが入るといかに小さいゴミでも痛いんですが、どんなに小さな問題でも、各業界にとっては本当に大変らしいんです。「規制は細部に宿る」というのはそういう意味でして、小さな規制でもどんどんチェックしていくということです。
 規制改革に関する意見要望は、わが委員会は常にオープンな姿勢で受け付けておりますし、また今回ホームページも開設してインターネットによる意見要望受付窓口も開いていますということを論点公開の冒頭に書き、規制改革をこれからも一生懸命にやっていきますからよろしくというようなことであります。
 個別の事柄は、「論点公開」をお読みになれば解りますので、省略いたします。

委員会の位置づけ
 ところで、かつての行革委員会の規制緩和小委員会は法律に基づいた委員会でした。いまの規制改革委員会は内閣にある行政改革推進本部のいわば内部機関としておかれているわけで、通常の審議会ではありません。内閣に直接ぶら下がっているというか、いわば内部機関であります。こういうもののメリット・デメリットをどう考えるか。宮内委員長は、法律に基づいた委員会の方が権限が強いんではないかというお気持ちのようですし、また経済界からもそういう意見が多いのですが、内閣にいわせれば、外にある審議会ではどうしても「尊重する」ということが最大限ぎりぎりの線だが、今度は中にいておっしゃったことを盛り込むのだから、こっちが強いんだという意見です。私もそう思っていますが、果たしてそうかどうかというのが最近ちょっと気になっています。
 それから、もうひとつは、行革委員会規制緩和小委員会時代から年月が経ち、規制改革委員会もずっと歳をとってきました。私たち委員のマンネリもあるかもわかりませんが、みんな大人になったのではないか。もうすこし若々しい勢いをつけるのはどうしたらいいかというようなことを、委員長と雑談で話したことがあります。
 いろいろ反省すべき点はありますが、宮内委員長がおみえになったので、本来の話をしてもらって、ご質疑は併せてやってもらったらいいかと思います。

2 宮内委員長説明要旨

委員会の名称変更
 今年から「規制緩和」から「規制改革」という新しい言葉になったわけです。DE-REGULATIONという言葉を日本語に翻訳いたしますと規制緩和ということになるわけですけれども、本当はREGULATIONを外すということですから、規制を外すということがDE-REGULATIONの神髄だったと思のです。ところが、日本という国はなかなかそうはいきませんで、規制緩和、規制を弛める委員会ということで活躍しろということでございますから、田中事務局長のもとでやってきたのでありますが、今年になって規制改革委員会ということになりまして、言葉は変わったわけです。
 この規制改革委員会は今度は政府のほうで英訳をいたしまして、どういうふうに訳すのかなあと思っていますと、REGULATORY REFORM COMMITTEEという訳になっております。これは英語のほうでみるとすごい委員会なんですね。なんか何でも出来るような感じが致します。まあ、日本語の方も規制改革ですから、これまでの非常に狭い意味の規制緩和という観点ではなく、もうすこし広いところを取り扱ってもよろしいという、若干のゴーサインが出たのかなというふうにとらえております。
 名前だけでなくこんなふうに変わったひとつの理由は、経済戦略会議の最後の答申で規制緩和委員会をさらに制度改革委員会といった形に改組して、制度そのものの改革にも取り組むようにすべきだという答申があったわけであります。この制度改革委員会をつくるべしという経済戦略会議の英訳が出来ておりまして、それはREGULATORY REFORM COMMITTEEとなっているわけです。日本語では別の言葉があって、英語に訳すと同じ言葉になる。日本はいよいよ制度改革にとりかかったのかと思われるわけです。そこまでひがんで考えるといけないかもしれませんが、日本の言葉と英訳とを比べてみると、非常に面白い。日本国政府の有能さがでているのではないかという気がするのです。
 ただ、今回名前を変えると同時に、どういうことが許されるようになったかといいますと、今までは非常に狭い意味の規制に検討範囲が限定されていたのですけれども、名前を変えると同時に、例えば規制的に動いている税制とか補助金など、規制改革と密接に関連するものについてはこの委員会で扱ってもいいと、その程度の幅がひろがったというわけであります。かつては、この税制は規制的に働いている、あるいはこの補助金は競争制限的なものであるというふうなことをわれわれの委員会が申し上げましても、税制に関しては規制緩和委員会のすることではない、税制には税調というきちんと検討するところがある。補助金、これは政策的に出来たものであり、この委員会でやることはない、ということで、全部オミットされる傾向にありました。それに対してはかなり抵抗したんですけれども、この度名称変更と同時にもう少しそういうものも取り扱ってもいいとことになったのは、後退ではないことは事実でありますから、ひとつの前進であるといえると思います。

スケジュール
 さて、われわれの委員会は行政改革委員会規制緩和小委員会というところから始まりまして、ちょうど5年目になります。この間、ずっと同じようなことを叫んできたわけですけれども、この規制緩和小委員会になったときに、はじめてすべての委員が民間人になりました。いわゆる各省庁のOBが参加されていつも議論が相打ちになり、両論併記となって何も起こらないという状況から、はじめてそういう方々が入らないことになりました。委員会としましては、言うならば規制改革推進派ばかりが集まりまして、内部は極めて風通しのいい、方向性の統一がとれた活動になって本年で5年目だということになります。したがいまして、この5年間はほぼおなじようなスケジュールでやってきました。
 どういうスケジュールかと申しますと、4月に始まりまして、夏までに本年度に取り扱うべき問題の規制を内部で検討しまして、われわれ委員会としましてはこの規制を変えていきたいというふうに思うということを夏に発表します。これは、本年でいいますと、規制改革に関する論点公開というものであります。ひとつひとつの課題の論点を出しまして、その規制を維持する理由、なぜその規制が存在するかということと、その規制を変えないといけないという考え方、われわれ委員会は当然変えなければいけないという考え方でありますけれども、いずれにしましても、その両方を公平に並べる。それによってその利害関係者が浮かび上がってくるということになるわけであります。そして公開することによりまして議論を巻き起こすというなかで、夏休みが終わりました9月から12月までの間にその論点をつぶしていくという作業をいたします。
 どういうふうにつぶすかといいますと、規制維持派の方々と議論を重ねるということであります。中に担当官庁が入っていただくということでございますけれども、官庁を相手にいたしまして、そのうしろにいる利害関係のあるところと議論を重ねていって、われわれがこのひとつひとつの案件について、どこまで改革を迫られるかという瀬踏みをいたします。反対が強い後退させられる場面もあるということですから、このやり方では「強きに弱く、弱きに強い」ということになりかねないわけでありますけれども、実体はやはり反対の強い場合はいくら規制改革委員会が良い提言を書いても、政治勢力に結びつきまして実現しないということであります。ですから、われわれがこの論点を、とにかく言放しはいやだ、言った限りは一歩でも進めたいということですから、各論点につきましてどこまで踏み込めるかということを、12月ぎりぎりまでひとつひとつの案件につきまして作業するということです。
 本年ですと、ここに57、案件として150項目、これを利害関係の方とひとつずつ潰していって、最後の提言とりまとめでは句読点も含めまして、ぎりぎりの文言をどこまで書き込めるかということを、やり合いをいたします。全面勝利もありますし、ほとんど動かないのもありますけれども、なんらかの形で12月に決着をつけまして、これを当委員会の意見、「見解」という名前をつけていますけれども、そういう意見という形で政府に提出する。これでひとつの作業が終わるわけであります。
 政府は年末にそれを受け取りまして、年度末までのあいだにこれを政府決定に盛り込むということであります。委員会の意見を政府の政策に変えていくという作業を各省庁にしていただきますから、ここでもう一度同じような綱引きがございます。政府が受け取りまして、本当の政策に変えていく過程で、句読点がひとつ動くだけでも意味が全然違うというような場合がありますから、最後のぎりぎりの詰めを官庁といたしまして、3月末に政府の政策としてきめていただく。これによって、ワンラウンドが終わりということです。これは過去4回やっていまして、今5ラウンド目です。
 過去4ラウンドやったものについては、今度はその次の年に過去のものがどのように動いているかという監視をしなければいけないわけです。政府の政策になったから、放っておくというのでは十分ではありません。大部分、日本の行政庁は政策ができますとそれを忠実にやっていただけるということはおおむねいえることでありますが、そのやり方を監視をするということをやりながら、また新しいものに取り組むということです。本年度で言いますと、あたらしいものを纏め、そして、過去4年間の監視をするというのが、われわれの委員会の作業です。
 通常、政府の政策になったものは各省庁が持ち帰りまして、そこで、実行方法につきまして協議をするわけですけれども、もっとも大がかりなものは、その関係省庁の審議会にご審議いただきたいということになりますから、またそれから実施方法を決めてもらうのにもう1年かかる。さらに1年かかってでてきたものが、激変緩和のために3年間必要とかなんとかいうようなものになって、実行がさらにずれるというようなものです。
 一例ですが、今年の10月1日から証券の株式売買手数料の自由化ということが行われますが、これは確か初年度、4年前に取りあげたものです。大蔵省の審議会で激変緩和の議論がいろいろありまして、やっと実現が今頃になる。大きな問題ほど時間がかかる。それを、監視というかたちで、できるだけスピードをあげる。それから、内容を大きなものにするということが、われわれの仕事でございます。

委員たちの苦労
 そんなことをやっているわけですが、実は規制というのは殆どの場合1件ずつの問題なのです。1件ずつですから、束にして全部バッサリというのはなかなかできない。したがいまして、私たちは委員会を5つのワーキンググループに分けまして、その5つのワーキンググループに分担を決めていただきます。そして、その委員会活動ではなくて、ワーキンググループで各関係団体との丁々発止の議論をするわけです。私どもにとりましては、例えば今年は150項目ですけれども、相手にとりましては1項目であり、これが改革されると自分たちの既得権益が消えてしまうという話でありますし、自分たちが殆ど一生かけてやってきた事業ですから何でもよく知っている。なぜ規制が必要かというようなことなんかについては、ものすごくよく知っているわけです。それに対して、それを潰していこうとする立場のワーキングループの委員たちはそれに対抗するわけですから、向こうの総力戦とこちらのか細い数人の委員とが対抗して議論していくということですから、実際にはひとつひとつを担当される委員はものすごいエネルギーとものすごい時間を投入する。政府の審議会レベルの会合でこれほど委員の皆さんの時間を奪うものはおそらく無いだろうと思っています。したがいまして、委員長というのは楽だと思いますが、その他の委員は本当に滅私奉公、しかも各項目について常に強烈な反対を受けるという立場であります。
 われわれの論点について、そのとおりだ、一緒にやりましょうといってくれるのはひとつもありません。論点を出したとたんに、下手をするとデモ隊がくるというようなことにもなります。誰ひとりとして、この改革について、規制改革委員会がんばれというデモをやってもらったことは一度もございません。これはなぜかといいますと、もしある特定の、この150項目のひとつでも改革され、自由化されるというようなことになった場合、そのメリットというのはユーザーあるいは国民ひとりひとりのレベルでいいますと、紙1枚だけのメリットなのです。個人生活にとってはなんのことはない、よくわからない。そよ風が吹いたというだけの話なのです。ところが関係する諸団体にとっては命がけのことで、既得権益がなくなる、生きる基盤が無くなるということで、生死をかけて大反対ということです。そういう状況の中で委員の皆様方も事務局(各官庁の方々、民間からもでておりますが)も、非常によくやっていただいているということを特に申し上げさせていただきます。

本年度の論点公開の特徴
 本年度、特徴的なことといたしましては、横断的な改革ということを取りあげました。かつて取りあげた横断的改革の例として、法律の中に需給調整条項を持っている法律を横断的にみて、需給調整というのは規制の最たるものだから、需給調整条項を全部外そうじゃないかということで、見直しをおこないました。確か17の法律に需給調整条項が入っているということでした。このひとつひとつの法律を相手方と折衝しますと、これは需給調整ではないんだ、そうではない別の目的でこういう条項があるんだということで、極めて難航した経緯があります。本年度はさらに2つの横断的見直しを本格的にやろうということで取りあげました。
 ひとつは業務独占資格。横断的に各法律で業務独占資格を与えているもの、例えば弁護士、行政書士、司法書士、そういう業務独占資格を与えられているその資格というものが、本当に業務独占に値する内容になっているかどうか。まあ、いうならばギルドにの世界を公認しているようなことであります。そういうところで、独占している内容をみていこうということです。101の業務独占資格があります。これは、101の団体からの強烈な反対運動を巻き起こす可能性があるわけです。
 もうひとつは検査検定制度。国のいろいろな基準に対する検査検定というものが、例えば国が検査検定をする、あるいは国の委託を受けた公益法人がやるというようなことで、独占的にやっている。それの意味合いというものが果たして本当にあるのだろうかというようなことで、これは66項目あります。そういうものはひとつひとつ大変なハードコアでありますけれども、これを取り扱っていくというのが、今年の非常に重たいテーマでございます。
 それからもうひとつ特徴を申しますと、規制改革という視点から見ますと、規制というものを取り払ったらいいというばかりではなく、もう少し新たな形の、なにか制度的なものを組み込むことによって、市場というものがより完全なものになるのではないかという問題です。ひとつはかねてから言っておりますけれども、競争政策を強化すべきだということです。独禁法のまだまだ欠陥があるところについての見直し。あるいは社会的なセーフティネット、社会保険だとか、罰則だとかのセーフティネットの面で抜けているところがあるんではないか。市場経済がもし発展した場合には、非常に社会的な欠陥になる可能性があるということで、そういうような規制改革という視点で新しい取り組みをしてきているつもりです。これはこの9月からどのように議論されるか楽しみなところです。
 それからもうひとつ、第5ラウンドであると申し上げましたが、過去の4ラウンドの積み残しの監視ということがますます重要になっております。過去、積み上げてきたものが山のようにある。そして、具体的にそれをどのように変えていくかということを各省庁が詰めております。その詰め方のぎりぎりのところをよく見ておきませんと、意味がなかったということになります。
 例えばひとつの例ですが、有料職業紹介業というのがありまして、これは、これまでの規制ではある業種に限ってやってもいいというかたちであったものを、大変苦労いたしましてネガティブリスト化ということについて、やっと合意に達したわけです。したがいまして、ネガティブリストに載っていないものについては自由になります。では、そのネガティブリストにいったいなにを載せるのか。私どもは港湾労働だとか非常にそれを自由化すれば問題になるようなものがネガティブリストに載るという前提で議論して、やっとネガティブリスト化というものを勝ち取ったつもりなんですけれども、聞くところによりますと、そのネガティブリストの内容が、いままでポジティブリストだったものを全部裏返して、残りを全部ネガティブリストに入れるようなことになっているのではないかというようなニュースも入って参りました。これではなにをしたのかわからない。このネガティブリストの意味合いを基本から問い直して、監視をしなければならないというような問題です。本当に最後に、政令とか省令とか、文章になってピリオドが打たれるまで、監視の目を離せない。この監視というものがかなり重要になってきたということです。

規制改革についての所感
 そのようなことで本年の作業を進めているわけですが、もう少しおおざっぱに現在の規制改革というもののありようについて、これは私の個人的な意見ですが、感想を最後に述べさせていただきます。
 規制というものは、現在1万1117件あるといわれておりますけれども、数を減らすのが目標とは決して思っておりません。これまでやってきましたなかで、どういうことが感じられるかといいますと、省庁別でいいますと、かなり温度差があるということがひとつの特徴ではないかと思います。どのような温度差があるかといいますと、例えば経済を司る部分、ビジネス活動という部分につきましては、やはり日本は確かに統制経済だった、統制経済というのは結局のところ効率が落ちるからやはり市場経済にしていく必要がある。そういう過程にあるのだから、規制をなくしていくということは自分の業界では困ることではあるけれども、少なくとも一般的にはいいことだという思いが、そういう経済活動に関する官庁では強く出てきているということは事実であります。それに反しまして、温度の非常に低いところは、自分たちは経済活動だとは思っていない。社会活動だと考えている。福祉、医療、教育だとか農業、労働問題というのは経済活動だと思っていない訳であります。規制緩和、規制改革は関係ないよ。これは社会のためにやっているのだから、もちろん公が取り仕切らないといけない。社会のためのことは公がやるのは当たり前で、私企業の活動とはなにも関係がない。こういう意識ですから、なかなか動かない。一番大きな問題になると思うのは、おそらく医療だとか福祉だとか介護だとかという、今社会問題になっているところへ、規制改革というものをどう当てはめていくかということであります。
 一例ですが、たとえば病院というものの経営につきましては、病院経営は医療法人でなくてはいけないということに対して、われわれは、病院経営は企業がやってもいいじゃないか、企業の病院経営を解禁すべきだというようなことをいいますと、医師会、看護婦会などの団体から営利目的の企業に人の命を預ける医療行為をさせるなどとはなにを考えているかと、ずいぶんお説教を受けるわけでありまして、全く動かない。これは一つの例です。もっとも、薬は株式会社で出来るわけですけれども、それについてはあまり議論はございません。そういう面がたくさんございます。あとは農業、教育。この部分も、自分たちには関係ないのだというふうな考え方で、なかなか受け付けてくれないということです。
 日本に色濃く出ているのは、公共の仕事というものは官がやるもので民には触れさせないという非常に不思議な哲学があるんではないかということであります。ここをなんとか破っていかないといけない。官のやる経済活動というのは社会主義経済活動であり、それが駄目なことはもうとうの昔に答えが出ていると思うんですけれども、なにか企業、株式会社というものを忌み嫌う雰囲気がたいへんあるわけです。企業活動の恩恵を最も蒙っていると思われる農業でさえ、農業に企業が参入することには大反対であります。その辺の温度差といいますか、考え方をどのようにブレイクすることが出来るのか、というのが一つの問題ではなかろうかと思います。
 それから、やはり、こうして規制ということで1万何千件の中から、これはなんとかしたいというものを拾ってきたつもりですけれども、結局力の強いものにはなかなか勝てない。その相手に対して、この委員会はなにが出来るかといいますと武器がないわけです。この委員会の上部組織というのは行政改革推進本部でありまして、本部長が総理大臣で、副本部長が総務庁長官と官房長官であり、本部員は全閣僚であるというから、本部が受け取ってくれたら、もうそれでピリオドだというのが素人考えでありますけれども、ぜんぜんそうではありませんで、受け取ったままじっと握っておりましたら動きませんし、法律改正の問題となって政党の手に渡りますと、そこには早くも手が回っていて潰される。
 わたしが大変懸念しているのは、過去に負けましたものはやっぱり大きいなという思いがいっぱいです。具体的にはNTTの分割の問題です。NTTにつきまして、委員会は分離分割すべきだという意見を申し上げまして、それを受け取っていただきました。その結果、答えは分離分割するけれども、持株会社で統括するということで、これは答えになっているとはとうてい思えないのですけれども、これが答えだ、おっしゃるとおりにやったといわれますとなんともいえません。これによりまして、日本の情報通信というのが何年遅れるだろうか。アメリカに比べて通信料金が何倍というままでいってしまうということは日本にとってどれだけマイナスになるだろうかという思いがいっぱいです。郵政省によりますと、情報通信の世界の規制緩和は世界一進んでいるとおっしゃるわけですけれども、金魚鉢の中に鯨を入れておいて、ほかの金魚に自由に泳げといっているのが、果たして規制緩和が行き着いたのかと思いますと、誠にこれは詭弁でありまして、そういう意味で日本の競争政策というものの弱さを痛切に感じる次第です。
 もうひとつ残念なのは再販問題ですが、釣り損なった魚は大きいということであります。決してわれわれのざるの中は雑魚ばかりだとはいいませんけれども、大きな魚を釣り残しているということも事実であります。それは委員会が悪いのだ、委員長がぼんやりしているのだということかもわかりませんけれども、一方では国民もぼんやりしていると思わざるを得ない面があります。とはいいましても、この委員会は叫ぶだけではだめで、なにかを実現する、一歩でも三歩でも動くということを使命としています。私は、日本は今、全力で走らないといけないのですけれども、現在、構造改革のなかの重要なひとつである規制というものにつきましては、正しい方向にゆっくりと歩き始めたということをご報告させていただきまして、この辺で話を終わらせていただきます。

3 質疑応答
小島:宮内さん、ご苦労さんでございます。特に再販問題につきましては、相手が非常に悪いですからこれまた大変だったろうと思います。NTTの問題については、これからも進んでいく問題だと思います。
 一番問題なのは再販問題だろうと思います。僕個人としては、再販問題は宮内さんと意見を異にしまして擁護論の方でありますけれども、ただこの問題につきましてはきちんと議論だけはしておかないといけない。いまのような曖昧なことでは、これは両方ともおかしくなってしまうと思います。
 医療の問題については、おっしゃるようにいろいろ問題があるわけですけれども、そのためには現在の医療制度自身を全部、根底から見直して考えないとなかなか進まない問題で、万人が同じような医療をミニマムではなくてマキシマムまで受けられるのが今の健康保険制度になっているわけです。
 これからまた、医療と介護の接点といいますか分岐点というのは非常に難しいわけです。現状では、実際問題として、介護を本当にやっていこうと思うと、現在の民間病院をきちんと利用する制度自身を考えないと、今までの救急病院的なやつをいかに地域的に配置し直すかということを考えないといけない。単に、参入をどうのこうのとか、あるいは規制をどうのこうのといういう問題ではなくて、そちらの方からいかないと、ここ2〜30年の間は過渡的に非常に問題が起こってくるのではないかという気がします。そういう点では、現状における医療サービスとか介護サービスがどうなっているかということを、是非もう一度検討していただきたい。
 3番目の農業の問題につきましては、これこそ、私は最初から宮内さんと意見が違っているのは分かっているのですが、ただ、農業につきましても、現在農業法人が1万程度あるわけですし、現実にどんどん増えているわけです。農業側におきましても「株式会社」的な経営が最も効率的であり、今後の後継者育成という面につきましても、それ以外にはないということがだんだん分かってきておりますので、株式会社の参入という問題よりも、自分自身が「株式会社」化するようなことが現在進んでおります。農業法人協会というようなものも5月に発足いたしましたので、現実がどんどん変わってきているんではないかという感じが致しますので、是非そういう点からも、農業問題を単に農業は保護ばかりをするんじゃなくて、そういう新しい芽を育成する、助成するような形で進んでいくべきではないかと思っています。
 最後に、政治制度の問題についても、ぜひ委員会で考えていただきたいという感じがします。基本的にはその問題だと思います。医療の問題でも、医師会が強いということは政治が強いというだけの問題ですから。

宮内:おっしゃるとおりです。小島さんと議論して勝てるとは思いませんから。(笑い)

松原:おっしゃるご苦労も全部わかりまして、基本的に賛成です。最近私が感じているのは、規制緩和はそれなりに進んできていると思います。例えば、お話になった情報通信に関してはもう10年以上前に公社の独占から競争になりました。今私は電事審の専門委員をやっていまして、電力の小売りがもうすぐ実現して、今その宅送の料金をいくらにするかという規制緩和の真っ最中ですが、これも競争が入るのです。
 そういう競争的になってきた分野に対する監督が、従来と同じように郵政とか通産でいいのかというのを痛烈に感じようになりました。それは、例えば審議会のワーキンググループは東京電力と新日鐵の利害調整なのですね。そのときに通産がその行司役というのはおかしいのではないか、公取的なところでやるべきではないかという意見を申し上げました。それから郵政も全く同じでして、おっしゃるように鯨と金魚のバトルを郵政がコントロールしていて、たまに届出を拒否して問題になっている。競争的な話になってきたら、それは監督官庁の話ではないのではないかという気がしてきたのです。公取などは、電力のことなんかは難しくてわからなくて、もってこられても困るという話になってしまう。じゃあ、やっぱり専門的知識がある通産なのかという話になってしまうそうすると、私は委員長のご感想を聞いてみたいと思うのは、公取はだいぶ組織改革をしましたけれども、もっと思い切って強化して、電気通信も電力も競争的だったらうちに来いというぐらいのことをやらないと、結局規制緩和をして競争を入れても、結局なんかごちゃごちゃしたとこで終わってしまうのではないか。そのへんをどうお考えか伺いたい。

宮内:私も同意見です。かつて公取組織を強化したいというご意見については、委員会は賛成を致しまして、公取は一番トップが事務局長から事務総長に格上げになりました。大いに期待したのですが、ただ今のところそれだけでして、そういう意味では、例えば電力のことがよく分からないと取り扱えないということでないと思うのですね。公正で有効な競争が行われているかどうかという点だけで公取が判断すればいいのですから、今でも出来るはずなのです。そういう意味では、公取がそこに決定的な意志を示したり、産業界の考え方をただしたりということについての機能は、われわれからみましても、なにしているのだという気が非常にあるんです。アメリカとくらべるわけにはいきませんが、アメリカでは公取と司法省が一緒になっているという実に厳しい制度になっているのに比べて、日本は制度的には一応形はできているけれども、機能しているかどうか問題です。独禁法もありますけれども、それを本当に法律に基づいてきっちりと施行しているかどうか、非常にアドホックに時々法律を使うというのは、スピード違反でたまに捕まって不運だったというのと同じような恣意的な法律の発動というのが多いのではないか。公取について、大きな問題は置いておいて小さなところを問題にするという悪口がいわれていますが、その悪口が事実であるとすれば、ゆゆしき問題であると思います。

田中:どの組織でもそうだと思うのですが、委員長がおっしゃるように電力のことを知らないからという問題ではなくて、公正な競争であるかどうかという判断をすればいいわけです。ただその判断をするときに、大きいのは逃して小さいのばかり捕まえているというのは、蟹が甲羅に合わせて穴を掘っているというのと同じです。今までの公取ですと、歴史的に痛めつけられてきて、そういう行動パターン、思考形式になっているのですね。だから、本当に強くしようと思ったら、人を入れ替えなければいけない。入れ替えるということは、例えば通産省とか運輸省とかから公取に人を持っていくんです、中堅クラスを。そうやって血を入れ替えないとなかなかうまくいかないだろうと思います。あるいは民間から持っていくとかいうようなことを考えないといけない。公務員制度にも少し関係してきますけれども、そうした運用面を考えないと機能は強化されないのではないかと思います。長年横で見ていて、私も公取を担当していたことがあるのですが、じれったいことがあります、非常に。むしろ防御的に働いたりして、特に再販の問題なんかはもうすこししっかりしてと言いたいことがあるんですけれども、なかなか機能してくれないですね。非常にじれったい。

松原:公正取引委員会を強化するというのはそのとおりで、特にアメリカの例だとそれでいいのですが、もう少しその制度的なところで私がおかしいと思ったのは、NTTの問題の時に、その監視役は郵政省ですから、有効で公正な競争ということをずっと審議会で言ってきているのです。その郵政省に有効で公正な競争という資格はきっとないと思うのです。一方では、郵便の国家独占をやっていて、なにかやろうとするとしたらめちゃくちゃに参入障壁とか意地悪をしている。その郵政省が有効な公正、競争ということで、そのマーケットをコントロールしようとすること自体がおかしい。私はある程度競争が入ったら、それはもう官庁のマターではなくしたらいいのではないか。同じような意味で、通産の例も、有効で公正という言葉ではなくて、確か公平で公正という言葉を使っているんですけれども、そもそも通産省とはそういうことをやっていない官庁ですよね。競争がはいったのに、そこにそういう権限を残して、そうやらせていること自体がおかしいんじゃないかという気がしています。だから、いったん規制が大分緩んでコンペティティブな状況になったら、もうそれは競争の監視役に制度的に任すぐらいな感じでないと、なんかおかしいなという気がしているのです。

田中:すぐにはなかなかむずかしい。仮に郵政省が制度改革をするようなことをやってもいいんですよ、所管官庁だから。ただ、それに対して公取が、これは有効な競争にならないよという発言をどんどんしていくべきだと思うのです。そのために5人の委員がいるわけです。だから、なぜ公取がものを言わないかというのが問題なのです。そういうことは、やっぱりマスコミ、あるいは学識経験者もそういうことを指摘しなければいけないなと思うのです。

得本:いろんな面でご苦労いただきながら、前進しているという点でいつも評価しています。特に需給調整事項についての横断的な見直し、それから今回も業務独占的なこととか検査検定等々、そういう視点で横断的に見直すというのは、非常な前進だと素直に思います。ただ、特に今雇用問題等が非常に深刻化していますから、何とか次の新しいステージのためには経済改革をしなければならない。新しい雇用を生み出していく分野は、まさに経済的規制の緩和や改革によって新しい産業分野、雇用の場を生み出すのだと、財界の経営トップがいろいろ語られるのですが、では具体的に委員会で、新しい産業分野を満たすという視点の議論はどういう具合にされているのか、またはどんな具合にしていけばいいのか、委員長のお考えをお聞きしたい。
 それから、もう1点は、今1万1117件といわれたが、カウントの仕方がなかなか難しいのは、質の問題はどうなっているのかなかなかよく分からない面があるのですね。そういう面で、質的な前進というあたりは、なにかこれを量的に図ることは、どのように考えればいいのでしょうか。

宮内:お答えできるかどうか分かりませんが、二つ目の問題につきましては、量的には1万1117件といいますけれども、それがどの程度影響があるかというのは一番測りにくいのです。われわれも経済企画庁に規制改革緩和撤廃の経済的効果を何とか計算してくれと言うようなことを申しまして、やっと企画庁から、例えばコスト削減という意味ではGDP比なん%だとか、需要喚起という意味ではなん%だったと、非常におおざっぱな数字は出てきております。まさにそれを見る限りでは、規制というものはなくなって、マーケットというものに移り、活性化する事によってそこにいろいろなコスト削減があるし、そこに新しい需要が生まれるというようなものは事実なんだということがわかるわけなんですが、そういう意味ではまだ本当に説得力のあるものはできていないです。
 初めの雇用の問題ですが、私は電話の世界が一例だとおもうんですが、結局電話というものは通信手段としては世界に冠たるものだというのが当時の電電公社のレベルだったわけです。ですから、当時通信手段として電話をかけるようなことがあったら、世界のどこにも負けない設備がしてあるということだったんですけれども、これが自由化し、携帯というものが出てくると、電話は通信手段ではないということがはじめてわかったわけです。女の子が暇だから、なにもすることがないから、電話でもしようかという、まさにお遊びの道具になってしまっている。考えも及ばない需要というものが出てくるというのが、規制というものをなくした社会だと思います。ですから、よく、この規制を撤廃したらどういうことになるのか教えろ、結果も分からないのに規制撤廃をいうのはおかしいじゃないかという議論がよくあるのですが、それはまさに計画経済の社会であって、それが分からないのが市場経済ですよと申し上げているのです。なにが起こるか分からないのが市場経済だということが分かってもらわないと困ると私どもは言うのです。実際上、われわれの参考になるのはアメリカでありまして、アメリカでカーター、レーガンが規制緩和を進めた1982年から88年の間に新たに1500万人の雇用が生まれた。中小零細のサービス業、今まで聞いたこともない事業が生まれて、それがアメリカの雇用を吸収していったというのがひとつの歴史的事実としてあるようでして、そういう意味で、日本も同じようなことをすれば、なにが起こってくるか分からないけれども、新しい事業が生まれ、そこに新しい雇用が生まれるはずだと考えます。ですから、マクロの世界におきましては、雇用数という数という意味では、おそらく規制というものを緩和することで十分だということになりますが、ただ現実にはミスマッチが起こると思うのです。いらないという方は中高年で、いるという方は若い、時給いくらの人だという、このミスマッチを社会的にどう手当するかというのが問題だと思います。私は端的にいって、これはもう規制改革委員会の仕事を超えている。政治の仕事だと思います。

田中:1万1117件の話ですが、実はそれを大分詳しく分類しています。例えば非常に規制的な側面が強いもの弱いもの、許認可みたいな強いものから、報告とか届出みたいな弱いものがあります。強いものから弱いものへ移っていけば、本当は緩和されたといえるんですが、現状はなかなかそうもいえない。また、増えているのはなにが増えているかといえば、環境関係が非常に増えております。それから、安全の問題。ただ、環境とか安全といっても技術革新とともに本当にその規制が合理的なのかどうか。時代遅れの規制であったら役に立たない。安全の名のもとに役に立たない規制がいっぱいあるのではないかという気がするんです。ですから、その点は見直していかなければいけない。
 ただ、毎年毎年件数が増えていくのは、我が国の原則は規制で、規制の上に立って緩和していくということになりますから、とにかく増えるわけです。これこれをしてはいけない、ただしこの場合は許すというと、規制緩和をすることによってかえって増えてしまう。したがって、根っこのところを変えていかないと、この許認可の数はなかなか減らないとい特徴を持っています。
 もう一つは、日頃皆さんが何でこんなに強い規制が要るのかと声に出して言って、ひとつずつつぶしていかなければいけないと思います。経済企画庁の計算では、情報通信やエネルギーなど主なものだけについて計算しても、規制緩和の経済効果は年間数兆円あるわけです。さらに間接的にどういう効果があったというところまでは、なかなか経企庁が把握していない。それをどう測るかというところまで、我が国のミクロの経済の計算の仕方が進んでいない。どういう風に効果を測っていくか、これからの研究課題だろうと思います。

司会:金融分野はそれなりに垣根が無くなって、規制緩和が進んでいる分野の一つだと思います。ただ、今金融再生委員会あるいは監督庁のもとでやっていることをみると、まさに国有化があり経営介入があり、さらにはこれからは地銀は県に2行程度でいいといった、かつての通産行政の極めて古典的なものと同じような状況が今出ている。確かに今は非常事態かもしれませんが、しかし、どうも見ていて、これでいいのか、あるいはいつ平常状態に戻すのか疑問に思うのです。金融の安定化というのはおそらく来年再来年ではなくてもうちょっと延びるかもしれない。そういったときに、今行われている金融の緊急的なことが恒常化するときに、規制改革委員会はそういうことに対してコメントをいう必要があるのかないのか、そこらへんをちょっと教えていただきたい。

宮内:おっしゃっているとおりですね。ですから、従来の非常にコントロールされた金融というものはビッグバンと称してかなり相当程度自由化された。しかし、ここに壁があって、郵貯、簡保、政府系機関という流れはいささかも触れられていない。自由化したところへこのバブルの始末がきた。そうするとこっちの方はぐじゃぐじゃしてきたから、政府が今介入している。もう一つ今なにが起こっているかと言えば、その弱くなった金融機関がものすごい勢いで今出てきているわけです。考えられないような金を考えられないような判断で出している。特に弱い企業にものすごく金をだしている。そういう意味では日本の金融はいったいどうなっているんだろうか、ひとりの経済人として、どうなっているんだろうかと思い悩むことは非常に多いですね。そういう思いと、しかし、それでは他の解はあるかと言えば、どうすればいいのか。もうひとつは日銀の今のゼロ金利政策、それからものすごくエクイティを高めているということも、ある意味では富の再配分をやっている。懸命にこの金融危機を支えているという姿にも映るんです。さて、それをわれわれの規制改革委員会の場で料理するには身に余る事態ではないかと思います。ただ、今は金融は異様な雰囲気ですよね。
 ただ、グッドニュースは大銀行の中のいくつかは、やはりこれはならじということでやっているのではなかろうかという動きはないでもないですね。しかし、おそらくもう一段怖い場面が出るかも分かりませんね。

斉藤:さっき宮内さんがおっしゃった、だいたいこの国の国民がぼやぼやしているから規制改革が進まないのだというのは、私もそのとおりだと思います。ひょっとすると、おっしゃったように非常に規制の好きな国民であり、やっぱり公が一番安心出来ると思っている人たちの集まりだと思う。しかし、考えてみるとそれではいけないし、これからたぶんやっていけないだろう。だとすると規制改革委員会はもうちょっと国民に直に訴えるようなアクションがいるのではないか。さっきから伺っていて感じるのは、論点についてもますます専門性が高くなって、それだけ委員の皆さんは時間をかけて専門的な次元で議論をなさる。それはいいんだけれども、マスコミをみても、それを伝える新聞記者もあまり理解していないのではないかと思うぐらいで、ましてその人たちの書いた毎日の新聞をみてもなにが行われたのかよくわかないというのが実態だと思うんです。その当たりをなにかクリアする、委員長としてのアイディアはございませんか。

宮内:非常にそこは悩むところでして、規制改革という観点からいくと、今回の論点公開は田中さんが事務局長をやっておられて、こういうやり方しかないという貴重な発明なのですね。これで少しづつ動かしていく。もう一つのやり方は、たとえば経済審議会のようにあるべき姿を発表する。経済戦略会議のように日本の未来を語る。平岩リポートもしかり。そういうことはほかでたくさんやっておられる。しかし、結果はどうだったかというと、新聞に華々しく書かれて、それでピリオドなのです。結局、政治ショーに利用されただけで終わってしまう可能性が高いというのが、悲しいかな現実ではなかろうか。そういうことを見聞きして、われわれはとにかく一歩でも二歩でもいこうではないかということになる。弁解的になりますが、これしかない。そこまでしかなかなか思いがいかないんです。
 例えば、かつて行政改革委員会があったときには、政府が言うことを聞いてくれなければ勧告するという権限がその委員長にあったわけです。その勧告権というのは同時にその裏腹に委員長以下辞任ということです。これは政府にとりまして、ものすごいショックですから、この勧告権を後ろ盾にしてものがいえたのです。しかし、今の委員会は政府の下請けなのです。小渕総理からはあなた方のリポートは出来るだけ尊重してやっていくつもりだからしっかりやりなさいよと言われているわけですから、しっかりやってもっていくしか仕方がないのですね。
 ですから、この委員会を、華々しいけれども、新聞で話題になってお終いという風に無力化することは、果たしてそれでいいのか。おまえ、委員長をやっているのが好きだからそんなことをいっているのじゃないのかといわれたら、私は全然そうじゃないということを申し上げておきますけれども。
 どうも、これだけの力しか与えられていない、これ以上やると自爆する。自爆しないでなにかやりたい、そういうところなんですけれども。

得本:たとえば運輸関係の許認可がこれだけ進みましたというのを聞いていますと、確かにユーザーの方、国民にはそれなりのメリットがあったでしょうが、業界団体でも一生懸命、免許制度を届出制にするといっても、要求される資料は前とちっとも変わらない。そこら当たりは業界の中からもう少し声を出していかなければいけないのですが、形は変わったけれども中身はかわらないというあたりは、どうチェックされるんでしょうか。

宮内:それは非常に問題でしてね。届けを持っていけば受け付けなければいけないと言うことになっているし、イエス、ノーはもうちょっとはっきりしなければならない。法律的には手当が出来ているにもかかわらず、依然として受け付けないと言う手法がまだまかり通っているというようなことを聞くわけです。これはやっぱり国民側というか、業界側にも問題がある。もう変わったということは分かるけれども、そこのところで従来通りやっておかないと、そこで突っ張るとほかでなにをされるかわからないとか、おっしゃるわけなんです。それは事実かどうかわからないけれども、業界側ももっと毅然たる態度、行政との対応ということをやらなければいけませんね。おっしゃるとおりですよ。

司会:今各省庁は、通産にしても大蔵にしても、パブリックコメントのコーナーをインターネットのホームページに設けているのですが、この論点公開というのと、パブリックコメントとはもちろんちょっと違うのですが、実際にこの論点公開についての意見提出をやるとすると、どれぐらい参考にしていただけるんでしょうか。

宮内:事務局で担当ごとに非常に真剣にレビューさせていただいているはずです。ただ、団体なんかから、わっーと同じ文言で来るものもございますし、そこはいろいろです。ただ、極めてまじめなものですから、一生懸命みさせていただいています。
 それから、パプリックコメントというのは、要は規制の新設だとか訂正の時に前もってこういうものを作りたいというときにするものですから、今の時点でパブリックコメントそのものは入らないと思うんです。

松原:パブリックコメントについてですが、私が今出ている審議会で電力の自由化について、ちょうど6月の1ヶ月間やりました。それで出ましたコメントを全部集めたものが398ページという大量のものになりました。私はもちろん全部読みました。米国政府とかからきちんと来るのですね。英語になっていて、抄訳がついていたりとか。公平な中立的な立場から言いますと、これは非常にいい制度です。ただ、通産の方はあまりそれを考慮するつもりはないですね。今のところは、アリバイ的な制度のような感じを受けましたけれども、出てきたものを見ますと、米国政府からアメリカの企業から、新日鐵から、大学院生とか、ともかく400ページぐらいの分厚い報告書がでていて、中身は非常に充実して、もしそれを本当に生かせば、それはすばらしいですね。残念ながらあまりその気はないみたいで、私は一生懸命読み上げてやっているのですが。それがパブリックコメントの現状です。

司会:それは公開されていますか?

松原:公開資料です。

田中:パブリックコメント制度は、出された意見に対して、採用しない場合は理由を付けて、こういう意見がありましたというのをつけて、こういう理由で採用できませんということを公開しなければいけないのです。そういうルールにしているのです。採用するものは黙っていてもいいのです。黙っていてもアメリカやEUやら、コメントつけたほうは無視されるとどうして無視したんだと言いますけれども、本当は制度上は行政手続法に書く話なんですよ。ただそれを今は政府措置として閣議決定で決めているんですけれどもね。この3月23日にわが規制改革委員会でちゃんとオーケーをして、閣議決定をしてもらった。それによると今のお話のように最低30日間オープンにして、それに対する意見を集めて、それを聞けないものについてはその理由をオープンにするという制度になっておりますから、まあまあ相当進んだのではないかと思います。

宮内:パブリックコメントではないですが、有力団体とか国が規制改革について要望書を作ってくるわけです。経団連だとか、アメリカ政府だとか、EUだとか、いろんな国から、じつは外務省を通じてもきますし、直接委員会に要望書を持って来ることもあります。例えばアメリカですと、フォーリー大使が出てきて説明するというようなことで、それを圧力と感じるかどうかということですけれども、相当インパクトのあることです。

司会:ありがとうございました。そのような制度がちゃんとあるならば、横でぶつぶついっていないで、ちゃんとしたところでものを言っていくことも考えていかなければいけないと思います。
以上