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行革時評

またも丸投げ?:前途多難な北海道道州制特区の検討

事務局長 並河 信乃
2004/06/01

 5月28日の経済財政諮問会議で、北海道の高橋知事は「北海道道州制特区」についての北海道の取り組みプランを説明した。このプランはすでに4月26日に北海道としては決定し、直ちに内閣府に提出したものであるが、知事からの説明の機会は1ヵ月間宙づりとなっていた。そのため、プランの内容が不十分だからだとか、郵貯改革などの議案が立てこんでいるだけだとか、さまざまな憶測が飛び交っていた。

 たしかに北海道が当初作成したプランは、ダイナミックさにかけ、道州制のもとにおこなう個別の事業の計画は、すでに行われている構造改革特区や地域再生計画でも処理できるものであり、なぜ道州制でなければならないのかという点では説得力に欠けるものであった。そのため、有識者で構成する道州制推進会議(座長・宮脇淳北海道大大学院教授)は、4月5日、国への「道州制特区」申請に当たって、@国の出先機関と道庁との機能統合、A国の政省令の規定を、道の裁量で条例によって変更できる「政省令の上書き権」の付与などを追加して盛り込むべきだと提案。北海道ではこの提案の趣旨を汲んで、国の地方支分部局との機能等統合の検討、道州制先行実施に伴う財源移譲の検討、法令面での地域主権の推進(政省令等の適用範囲を縮小し、条例等によって基準等を設定できる範囲の拡大)、国・道・市町村の新たな一体的予算要求・執行・評価プロセスの構築の検討、生活・産業・防災関係等の情報システムの共有化の検討、郵便局、ハローワーク等の機能を活用した地域ネットワークの形成の検討、道州制北海道モデル事業の対象事業の拡大・補助基準の弾力化、取り組み事項の具体化を図るための推進組織の設置を「総合的な推進事項」として、分野別施策の提案である「道州制推進プラン」とあわせて提案した。

 5月28日の経済財政諮問会議の模様は、朝日新聞以外では報道されなかったようであるが、朝日新聞の記事によれば、席上、「まだ総論にとどまっている」など、かなり厳しい意見が出されたようである。結局、国の出先機関と道との統合案を北海道が6月末までにまとめて、諮問会議に再提案することとなった。また、北海道が要望している推進組織の設置については、まず北海道から、何がしたいのかの具体案を出してもらい、それを受けて、必要に応じて、推進体制を作るということも含めて国としてやるべきことはやる、ということになった。

 こうした経緯をみると、北海道からの提案は経済財政諮問会議から「差し戻し」されたように思われる。たしかに外野席から見る限り、もう少し具体的な提案が出来なかったのかと思う。しかし、これは案をまとめた北海道だけの責任なのであろうか。
 道州制の検討となれば、だれでも北海道と北海道開発局の統合を思い浮かべることになる。それが、提案では「国の地方支分部局との機能統合等の検討」ときわめてあいまいな表現にしかならなかったのは、北海道がだらしないからというよりは、そう書かざるを得ないほど状況は難しいということではないか。北海道開発局では、「開発局がなくなり、北海道特例がなくなって一般の都府県なみの公共事業負担になると、道内の公共事業は1800億円減少し、その結果、2万3974人の失業者が生まれ、完全失業率は6.7%から7.5%へと0.8%上昇するぞ」と牽制している。直轄事業5483億円、補助事業5743億円、あわせて1兆1226億円(いずれも2004年度予算)を抱える開発局は、道と道内市町村の予算をあわせて3兆円程度の北海道にとっては巨大な存在であり、その改革を言い出すにはかなりの覚悟が必要である。

 北海道開発局は国土交通省の出先機関で、その機能を縮小するには、結局、北海道は国土交通省と交渉しなければならない。しかし、国土交通省は国土交通大臣の統括のもとにあり、国土交通大臣は内閣の一員である。となれば、北海道に具体案を提出することを求めると同時に、国土交通大臣に対しても、北海道に協力するようになど、何らかの指示が行われなければ事は進まない。内閣府が事務を担当するだけでは済まないのである。そもそも経済財政諮問会議とは、評論をする場ではなく、内閣の調整機能強化のためにおかれた組織である。そこが、問題点の所在を熟知しておりながら、北海道だけに注文をつけたとなれば、この内閣はきわめて無責任な内閣といわざるを得ない。

 北海道道州制特区の話が持ち上がってから、関西や九州の経済界でも道州制の議論が始まった。また、今年3月に発足した第28次地方制度調査会でも検討課題にあげられている。現在の閉塞状況を打ち破り、財政の自動調節機能を回復させるには道州制あるいは連邦制の導入は有力な手段となる。その先駆的な試みとなるはずの北海道道州制特区を軌道に乗せるためには、北海道の更なる努力が必要であるとともに、内閣としても自らの組織についてはその準備をすすめるように指示すべきだろう。すでに自民党は昨年の選挙で道州制の推進を公約し、小泉首相は今年1月の施政方針演説で北海道特区を支援すると明言しているのである。他人事ではない。

 小泉首相が、北海道特区構想をなぜ昨年8月に言い出したのかはわからないところが多い。しかし、言い出した以上、その実現には最大限努力するのが当然だろう。キャッチフレーズだけ言って、その先は関係者に丸投げして責任をとらないというのは、もうそろそろやめてもらいたい。このままでは、道州制特区の議論の将来があやぶまれてならない。