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行革時評

郵政事業改革:何のための民営化か

事務局長 並河 信乃
2004/02/20

 郵政事業の民営化の議論が2月18日の経済財政諮問会議で始まった。今後、4月までに中間報告を取りまとめ、秋までに結論を出すという。

 小泉内閣が発足した直後のことであれば、こうした動きは大きな反響を呼んだことだろう。民営化に賛成の立場の者は大きな期待を寄せたであろうし、反対の立場の人は警戒したに違いない。しかし、小泉内閣のこれまでの実績、とくに三位一体改革や道路公団改革などの顛末を見てきたものにとっては、今回の郵政事業改革にはあまり大きな期待をかけられない。これもまた、せいぜい形だけちょっと変えたものに終わるに違いない。道路公団に比べれば、郵政事業改革ははるかに大きな問題であるし、難しい問題だからである。

 なによりも気になるのは、小泉首相はなんのために郵政事業の民営化を進めようとしているのかがはっきりしないことである。1月19日の首相の施政方針演説では、

 「民間にできることは民間に」との方針の下、最大の課題は郵貯・年金を財源とする財政投融資を通じて特殊法人が事業を行う公的部門の改革であるとの認識で、行財政改革を進めてまいりました。
 改革の本丸とも言うべき郵政事業の民営化については、現在、経済財政諮問会議において具体的な検討を進めています。本年秋ごろまでに国民にとってより良いサービスが可能となる民営化案をまとめ、平成17年に改革法案を提出します。


 と述べているが、これだけでは民営化の意味が具体的に示されているとはいえない。特殊法人改革の仕上げとして郵政事業改革、とくに郵貯の民営化を行うといわれても、一般国民にはなんの興味も湧かないだろう。

 いま、郵貯改革で一番必要なことは、地域で集まった郵貯資金をその地域のために活用する仕組みをつくることだろう。地域の郵貯資金はすべて中央に吸い上げられ、その一部が政策投資銀行や中小企業金融公庫、国民生活金融公庫の貸し出しとして還元されるのではなく、地域独自にそうした機関を設けて地域のニーズに応じた地域金融の仕組みをつくりあげることである。地方経済の沈滞は著しいが、それを回復させるためには自治体による地域産業政策が必要であり、その有力な手段がこの地域版政策金融機関である。地域の資金循環を回復させ加速することを、郵貯改革の目的に掲げるべきではないか。

 こうした仕組みを設けるためには、郵政公社の仕組みを思い切って分権化しなくてはならず、最終的には郵政公社の地域分割が必要となるだろう。また、分割された地域ごとの郵政公社の経営を効率化させるためには、民営化の手法が必要となるだろう。つまり、まず民営化ありきではなく、まず、郵貯資金の地域での活用という目的があり、そのためには地域分割、最後に民営化が要請されることになる。

 構造改革とは民営化と同義語ではない。株式会社にすれば構造改革が実現するわけではない。道路公団の民営化ではおびただしいほどの時間と労力が費やされ、その結果が惨憺たるものに終わった。郵政事業改革でも、もしまともに取り組むとすれば、やはり多くの時間とエネルギーが費やされるに違いない。その結果が空しいものとならないためには、最初から、なんのための改革かをはっきりさせておくことが必要だと考える。