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行革時評

失速した「小泉構造改革」

事務局長 並河 信乃
2003/12/26

 道路公団民営化問題で、政府・自民党の対応に不満を覚えた田中一昭委員長代理と松田昌士委員が委員を辞任し、また、川本裕子委員も委員会欠席の態度を表明するなど、民営化推進委員会は事実上解体した。自民党の道路族といわれる議員たちは、民営化について「泰山鳴動してねずみ一匹」と高笑いをしているが、小泉内閣の目玉のひとつが、こうしてつぶれたわけである。

 つぶれたのは、道路公団民営化だけではない。構造改革推進への世間の期待が急速にしぼんできた。すでにさまざまな局面で構造改革の推進について出されてきた疑念が、今回の事件で一挙に表面化した。世論の支持を受けない改革が成就するはずがない。

 12月25日の経済財政諮問会議では来年早々には郵貯民営化に取り組む方針が決定された。しかし、道路よりもはるかに難しく大きな問題である郵政事業民営化がすらすらいくとはとても思えない。すでに首相の私的懇談会が首相のバックアップを受けられずに3案併記という惨めな報告を提出し、そのまま店ざらしになっている。経済財政諮問会議ならばダイナミックな結論が出せるかといえば、関係閣僚を加えてのことであるからなおさら難しいだろう。今回の道路の顛末を世間も見ているし、関係議員も見ているから、誰も大きな期待をしないし、また、脅威にも感じないだろう。

 小泉首相が登場したときには、なにか出来るかもしれないとの期待を世間に抱かせた。その後、財政構造改革、三位一体改革、年金改革、規制改革、郵政事業改革、道路公団民営化などメニューだけはずらりと並んだが、そのいずれも中途半端な結果に終わっている。
 国債発行を30兆円に抑える方針は最初の年だけは守られたものの、いまや36兆円以上の発行となった。三位一体の改革も、3年間で4兆円という規模にすぎず、しかもその中身は地方分権の推進とは程遠いつけ回しにすぎない。年金改革も、将来の不安をますます増大させるだけの結果に終わっている。規制改革は重点12項目のうち4項目しか前進せず、しかもその中身はきわめて薄い。
 最近では構造改革特区、さらには地域再生計画、北海道道州制特区など矢継ぎ早に新メニューが出てくるが、新しいメニューを出す前に、これまでの中途半端なものをもっとましなものにする努力もやるべきではないか。

 構造改革とは掛け声だけで進むものではない。攻める方よりも守る方に、切実で具体的な理由があるから、それを切り崩していくのは極めて難しい。結局、世論の後ろ盾がなければあらゆる改革は挫折する。その世論を盛り立てるのが、責任者である首相の役割である。絶えず世論に訴えかけなければその支持は得られない。そのためには首相自身が明確なビジョンを持ち、それに対する国民の同意を取り付けなければならない。

 これまでの首相の言動を見ていると、単なるスローガンは連発するが、これからの社会をどうするのか、そのためには何をなすべきなのかというビジョンが完全に欠落している。ビジョンなき改革は、結局、相互に有機的な関連をもつことができず、新たなシステムを生み出すことにならない。現行制度の中で、単に財政当局の思うがままのものにしかならない。

 外向きの問題ではテロ特措法、有事立法、イラク支援法などを次々と通し、いよいよ自衛隊の海外派遣まで行うことになった。これもビジョンがあってのことなのか、誰かさんにいわれるままにやっているだけなのかに国民は疑いを持っている。キナくさい問題ばかり先行し、肝心の国民生活の安定がなおざりにされるような政権には、誰もが愛想を尽かすだろう。経済は少しもよくならず、しかも、すぐ目の前には大増税が控えているというのでは、国民はたまったものではない。