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行革時評

選挙の争点:大都市対地方

事務局長 並河 信乃
2003/10/31

 今回の総選挙は、政権選択をかけての戦いであるという。しかし、抽象概念としては理解するものの、それを実感するまでにはまだ至っていないように思われるのは小生だけだろうか。

 2000年6月に行われた前回の総選挙は、小渕首相の死去、森内閣の誕生というやや異常な状況の中で行われた選挙であり、将来の改革についての焦点の定まらない選挙であった。これは1996年10月の橋本政権誕生後の総選挙とかなり趣の異なったものであった。
 96年1月、突如、社会党の村山富市氏は政権を投げ出し、自民党の橋本龍太郎氏が首相に就任した。しかしこの政権は選挙の洗礼を受けないものであり、その年の10月に行われた総選挙では、再び手にした政権を断じて渡すことはしないとの決意のもとに、自民党は改革政権であることを印象付けるために大風呂敷を広げ、中央省庁半減を軸にした改革案を提示した。小沢氏の率いる新進党は中央省庁を10に減らす案を提示、総選挙の直前の9月に結党された民主党も8つの分野に再編するという案を示して、さながらバナナの叩き売りのように中央省庁再編案が飛び交い、当初は及び腰であった自民党も最終的に省庁半減を公約したのである。この省庁半減案が本当の行政改革になったかどうかは疑わしいが、少なくともこの選挙で提示した省庁再編、特殊法人改革などが今日の道路公団民営化や公務員改革論などになっており、総選挙が新規政策の後押しをしたことは間違いない。なによりも政党間に活気がみなぎっていた。

 これに対して2000年6月の総選挙では特に印象に残る論争はない。むしろ、この選挙ではそれまでのなりふりかまわぬ経済刺激策、地方への公共事業のばらまきの反動として、都市部でかなり有力な現役議員が落選し、これを契機として自民党は都市部で受ける政策を打ち出す必要があるとの認識が強まり、これと景気対策とが一緒になって多くの都市再生プロジェクトが打ち出されることになった。選挙後の反省が、翌年の参院選挙のために、地方でなく大都市に顔を向けた新たな政策を編み出したということになる。さらに、1年も経たないうちに森内閣が小泉内閣に交代したことも、選挙対策であったことはいうまでもない。これが功を奏して、かなりメッキがはげてきたとはいえ、小泉内閣の継続にいたっているわけである。野党だけでなく自民党も、表面では都市政党の衣を被ってきたわけである。

 さて、今回の選挙である。選挙のためではないであろうが、10月24日、にわかに地域再生本部が発足した。今年4月から始まった構造改革特区も地域を大事にした政策であるという。9月の内閣改造後、これからは地域経済が重要だとの発言も竹中金融・経済担当大臣がおこなっている。一方、地方経済は疲弊し、さらにWTOにせよメキシコやアジア諸国とのFTAにせよ、農業問題がネックとなっており、小泉首相は農業も構造改革が必要だとの発言も行っている。今後、あれやこれやで大都市と地方との間の利害衝突はさらに今後鋭くなるだろう。顔は大都市に向け、心は地方に残すという芸当はそろそろ限界にきているのではないか。

 全国知事会は10月7日には民主党と、10月15日には自民党と意見交換会を開催し、また、それぞれの公約の評価10月24日に行い、発表している。さらに、30日には高速道路整備についての緊急提言をまとめて発表した。いずれも、地方側からの危機感、懸念を示す動きである。選挙の結果がどうなろうとも、今後の政策は「大都市対地方」をめぐって展開していくのではないか。中央集権的な財政当局の発想だけでこれを乗り切ろうとすれば、さらに混乱が大きくなる。