そこで必要な調整の大きさについて簡単な機械的計算を行った結果がここに掲げた5つのグラフである。ここでは財政緊縮が成長率や金利に影響を与えないという機械的な計算であるが、現状に比べて債務残高のグロスの比率が140%、財政赤字が9%、うちプライマリーバランスの赤字が6%、この差額の3%とは純金利支払いが3%というようなスタートの条件を想定して、シミュレーションをおこなった。第1は名目成長率3.5%、長期金利3%という良好な状況で、毎年プライマリーバランスを2%づつ改善する、つまり毎年10兆円の財政緊縮を4年連続して行う、そのあとは2%のプライマリーバランスの黒字を維持した場合どうなるかというと、債務残高はゆっくり下がっていく。
第2のケースは、第1の財政緊縮を行うのだが、名目成長率が2%、長期金利が成長率を上回る2.5%というケースである。この場合は、債務残高は横這いで推移する。
第3のケースは、第2のケースよりも財政緊縮の度合いをゆるめて4年目以降プライマリーバランスを均衡させた場合であるが、この場合は債務残高は増えていく。
第4のケースは、第3とおなじ環境下で財政再建をさぼった場合、第5は第1のケースとおなじ環境下で財政再建をさぼった場合で、このいずれも債務はかなり上昇する。
こうしてみると、矢張りプライマリーバランスを黒にするということは一つの目標になるのではないかと考えられる。
つまり10兆円を4年間、計40兆円の調整をいかに行うか。公共投資の総額は30兆円であるので、公共投資を全廃しても間に合わない。となると、景気が良くなったときに自然増収でどこまで調整できるか、足りない分をどこまで裁量的に歳出削減できるのか、また、増税が出来るのかを考えなければならない。
財政構造改革に当たっての視点としては、橋本6大改革そのものは方向としては正しかったが、やり方が財政再建だけを先行させたところに失敗があったのではないか。貯蓄投資バランスを見ると、いまは企業部門でさえ投資をせずに貯蓄をしており、政府だけが借金をしている。日本経済が民間経済中心であるとするならば、これ自体が大きな歪みを表している。財政赤字を減らす場合には、誰かの黒字を減らすか、誰かの赤字を増やすしかない。法人企業というのが投資超過、つまり借金をして投資をしていく経済の体制をつくっていかなければならない。
長期的ににみれば、労働力人口は減っていくので投資は増えていくとおもうが、リスクマネーの供給と言うことを考えても、ベンチャーとか401kなどの改革、あるいは家計の資産を預貯金だけでなく株式でもつ、国債をもつのではなく企業に対する債権として持つということを考えていかないと、財政再建も立ちいかなくなる。
また社会保障の改革も財政再建と平行し一体としてやっていかないと、そこにどれだけ税金を移していくべきかが決まらない。そこに戦略が必要となる。
税についていうと、98年度は32年振りに直接税を間接税が上回った年であって、直接税の比率が下がってきている。消費税の増税と言うことが議論されているが、直接税を今後どう考えていくかということも非常に重要なポイントである。
蜂屋(日本総研):8月3日に発表したレポート「財政赤字問題と高齢化のコスト負担のあり方」について簡単に説明する。このレポートを発表したときは、財政再建の必要性が唱えられてはいたが、どちらかといえば歳出カットでやるのか増税でやるのかというような選択の議論がおこなわれていたときであって、両方やっていかなければならないという問題意識で取り組んだものである。 ここではケースを4つにわけて、シミュレーションを試みた。財政の状況をなにを尺度としてみるかが問題となるが、ここでは名目GDPに対する長期債務残高がどれくらいになるかを判断材料とした。また、どの状況で財政再建にめどがついたかを見るかについては、名目GDPに対する長期債務残高の伸びが止まることをとりあえずのメドとすることとした。
ケースAは何もしないケースである。何もしなければ長期債務残高の比率はどんどん上昇していくので、とりあえず2010年度に増税によってこれを止めることを想定している。
ケースBは、これから歳出削減を続けることによって、2010年度に債務残高の伸びをストップさせるケースである。
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