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八代尚宏評価委員長との懇談記録
2004年9月6日
9月6日に予定しておりました構造改革特区評価委員会の八代委員長との懇談会が延期となりましたので、事務局が委員長を訪問し、いろいろご意見を伺ってまいりました。その概要をご報告いたします。


1 評価委員会報告について
 評価委員会は9月3日に特区の全国展開についての評価意見をまとめた。第1次提案で実現した規制の特例措置のうち38の特例措置についての評価を行い、そのうち26については全国展開すべきとした。残りのうち5措置については、2004年度下半期に結論を出し、また、7措置については2005年度上半期に結論を出す予定である。
 半年後あるいは1年後に結論を延ばしたものは、評価のデータが十分に出揃っていないと判断したものである。しかし、これらも全国展開になる可能性は大きい。
 なおこのほか、特区に限って認める措置(たとえば特区のための外国人の在留資格の特例)などは、それだけ切り離して全国展開するわけには行かないので、今回の評価からは除外した。そうしたものが4措置、また、認定特区の事業自体が行われていないもの(たとえば国立大学教員の勤務時間内の技術移転兼業事業)などが3措置、あわせて7措置を評価対象から除外した。
 9月10日には特区推進本部(本部長小泉首相)が決定することになっているが、各省とのすりあわせが済んでいるので、違った結論になることはないだろう。

 今回の評価では、殆どが全国展開という結果となったが、これには特区の評価に際して、弊害が立証されなければ全国化という基準を定めたことが大きい。他方で、これが次の特区申請に悪影響を及ぼさないかを少し懸念している。つまり、各省には「もう少し評価の時間があるかと思った。半年で全国展開とは早過ぎる」との不満もあり、いったん特区を認めると必ず全国展開されるというならば、出来るだけ特区を作らないようにしよう、との防衛反応が各省から出てくることを懸念している。
 この特区制度をつくるときに、総合規制改革会議のなかには、特区という考え方を認めると、そこで時間を稼がれ、全体の規制改革が遅れるのではないかとの意見があった。そうした経緯もあったので、今回、各委員とも頑張ったわけである。そんなこともあるので、総理には、新しい特区をさらにどんどん認めるようにお願いしたところである。


2 6次提案に対する期待
 10月末から第6次提案募集が行われる。最近、やや提案が小ぶりとなっていることが気になっており、各自治体からは積極的な提案をお願いしたい。
【医療分野】
 これからの分野として、一番期待しているのは医療分野の提案である。株式会社の参入は形式的には一部認められたが、事実上は、条件が厳しすぎるために参入は困難であろう。今後は特区で混合診療などをやりたい。医療改革において、混合診療は株式会社よりも大きなインパクトを持っており、これが認められないのであれば何も改革は進まない、といった一種の目玉としてやりたいと思う。誰が見てもしっかりした病院からの提案があれば、世間は納得するだろう。市町村にも、そうした病院との連携プレーをお願いしたい。

 医療分野への株式会社の参入というと、株式会社が新たに病院をつくるというイメージになるが、より緊急性があるのは、市立病院など公的病院をどこかの株式会社に買ってもらうというパターンである。市立病院はどこも赤字を抱えていて困っているわけで、その解決策として考えられないか。かつて、社会保険病院をある企業にやってもらえないかという打診があり、これは断ったようだが、そういうパターンがひとつの形として考えられないか。今度の規制改革会議では官業の開放のための市場化テストを重要な柱にしているが、これを特区と組み合わせてやってみるというのも、ひとつのやり方だと思う。
 自治体病院をどこかの株式会社に引き受けてもらうとしても、過去の借金の処理は大変だ。それを押し付けられてはたまらないから、過去の借金はある程度自治体が被って、今後は赤字を出さないというやり方でないと難しいだろう。中野サンプラザみたいに今の職員を全部押し付けたらタダでもイヤだといわれる。大企業が従業員を子会社に移すように、半分くらいの職員給与を自治体が負担するということが、公務員法の兼職禁止規定を変えることによりできないだろうか。

 医療分野で特区の数が少ないのは、とにかく厚労省は特区が大嫌いで、特区ができそうになると最初から全国展開してしまうからである。特定機能病院についての病床数の規定は、第1次提案があったらすぐに変更した。なぜ、500床以上なければ特定機能病院といえないのかについては説明がつかないので当然である。また、治験として医薬品や医療材料を使用する場合には、特定療養費制度により保険診療と保険外診療の併用が可能となっているが、この治験については、医師が主導でやる治験も薬事法の改正で全国的に可能となった。これも第1次特区提案を受けての対応である。
 このように、特区提案を行うことにより、直ちに全国展開できる例も多いので、細かなことでもどんどん提案してもらいたい。とくに市町村の医師会の中には改革的なところも多いから、そういうところと連携して提案してもらえればありがたい。ただ、県の医師会になるととたんに難しくなり、話を持ち込んでも潰されてしまう。提案は個人、さらには匿名でもできるし、商工会議所等、経済団体の名前でも構わない。医者でも地元の医師会との関係がややこしければ、そうした団体の名前で提案するのも一法かもしれない。いずれにしても、中途半端に出すとその段階で潰されてしまうので、潰さないような形でやってほしい。

 農業分野では、株式会社がリースで土地を使えるようになったことと、農業生産法人に49%まで株式会社が出資できるようになったこと、の両方が実現して随分動き出した。とくに農業生産法人へ出資ができるようになった効果は大きい。
 これと同じ仕組みを医療法人にできないか。医療法人という形は残しておいて、それに株式会社が出資する。これについては、今は認められていないが、法律では何も禁止していない。それを認めると医療の営利性が起こるという単純な法解釈でブロックしているだけである。
 実際には、医療法人自体が危機に瀕している。あれだけ原始的な仕組みだと、出資者が死ぬと個人財産なので大変なことになる。その返還を求めて今は訴訟が随分起こっている。まさに、そういった事態を防ぐために株式会社という制度がある。出資者が死んでも、法人が安定するように、出資者が「出資分を返せ」といえない仕組みにしておけばいい。「これはあなたたちのためだ」といっているが、医師会も厚労省も駄目だという。現場の病院経営者にしてみれば、「自分が死んだらどうなるのか」という深刻な課題となっている。後継ぎがなければ、二束三文で売らないといけない。そこは、限定的な形でも病院市場ができれば、売るほうも安心で、逆に腕のいい開業医が土地担保なしに出資者を募って買うこともできる。そういう形で、医療法人に対する出資の弾力化を考えている。
 銀行が貸してくれないときに、医療法人が株式を発行して多くの出資者から出資金を集める仕組みのどこがいけないのか。むしろ、過疎地域でも住民が神社に寄付するような形で自分たちの病院に寄付したいというようにできないか。これを単なる寄付ではなく配当をあてにしない株式を買う形で、みんなが年に何回か集まって自分たちの病院をどうすればいいのかを、株主総会で議論するというようなイメージも十分に考えられる。

 このように医療分野には改革すべきことが多いのだが、医療は農業に比べて、保険制度に守られていることもあり、危機意識が薄い。問題は、民間病院の力があまりにも小さいことだ。病院の多くは公的病院で、これらは全然経営に無関心で、自治体や国が何とかしてくれるのではないかと思っている。それが最大の原因である。このように、公的病院と開業医に挟まれて民間病院は弱い立場にある。

【教育分野】
 教育分野の初等、中等教育ではカリキュラムの弾力化や不登校についてメスが入っているが、他方で大学にも問題がある。職業大学院というのが出ているが、これの徹底した自由化をやってほしい。こういう職業大学院というのは、お客が子供ではない。大学を出た社会人が行くところに規制が必要なのか、完全な消費者主権でいいのではないかというのだが、そこが通らない。特区で初めて株式会社の学校が認められたと同時に、不動産基準が撤廃された。あれがとても厳しくて、校地校舎の半分以上を自分で買えとなるととても買えない。そこが、事実上の参入規制になっていたので、特区で外した。ところが、規制はタマネギのようなもので、これを外すと新たな規制が出てきた。何かというと、採光基準である。壁の厚さや天井の高さなど、そういうものについての規制は全部廃止してもらわないと、普通の貸しビルを使っての学校はとてもできない。それらを全部パッケージにしてやらないといけない。

 株式会社経営の私学に私学助成が認められないのはひどい話だ。学生の立場から見れば、なぜ経営者が違うだけで私学助成がもらえないのか。そこが文科省の弱い点だ。バウチャーの議論と絡めて、検討していきたいと思っている。諮問会議でも特区を使ってバウチャーをやってみるということを考えている。実際にどういう弊害がでるのか。バウチャーをどこかの自治体にお願いしてやってもらい、どういう問題が起こるのかを検証していきたい。

 私学助成の問題は文科省は憲法上の問題といって逃げている。法制局は文科省に引きずられるのは必ずしも本意ではないようだ。つまり、公の支配とは何か。我々は学校教育法に支配されていればそれでいいと考えており、学校法人の形態は必要ないと考えている。すでに既存の大学でも潰れるところが出てきており、不祥事を起こした学校法人でも潰せるのなら、同じような形で株式会社学校でも潰せるようにしておけば問題はないはずだ。

【税の代理徴収】
 今回の規制改革の柱は市場化テストだが、その目玉と思っているのが、滞納されている市町村税を民間の会社に代行で徴収してもらうことだ。税金を徴収するのは公権力行使の最たるものだが、公務員だから恣意的に取っていいというわけでなく、一定のルールのもとで取っているわけで、それならば民間人が同じルールでなぜ取ってはいけないのか。駐車違反取締りの民間委託と同じ考え方で、みなし公務員の規定をつければいい。地方自治法の改正が必要だが、特区提案として地方自治法の特例措置みたいなものを出してほしい。総務省が何をいうかは分からないが、総務省自身が困る話ではないので、税金が少しでも取れれば公平な観点になる。それも特区での実験でやってみたい。
 実際には、任意でお願いベースで取るものと、強制ベースで取るものがあるが、まずは任意でやってみて、何回かやってみて駄目なら強制ベースで徴収する。一種のサービサー、料金取立業者みたいなものに市町村税の取立てをお願いして、例えば、成功報酬で非常に難しい場合は5割くらい手数料を払ってもいいとする。市からすれば全く入ってこなかったはずのものが、5割入るだけでもいいということだ。そういう税金特区のようなものが出来ないか。

 これが出来るようになれば、社会保険庁にも適用できる。できれば、同時にやってもいい。仮にそういうことをやると、やる気のあるサービサーは社会保険庁からも市町村からも、あるいは電気、ガス、水道、NHKにまで全部まとめて代行業務することになる。どうせ払っていないのは同じ人なので、バラバラで行くよりは集中的に行ったほうが効果的だ。少々手間がかかっても、ある意味でひとつの手間で取れるので、十分にビジネスとして成り立つのではないか。今は、電力会社でもガス会社でもバラバラにやっているが、業者に一括して任せればいい。場合によっては、生命保険会社などはセールスマンをうまく活用してやるやり方もある。社会保険料をセールスのおばさんに委託したら、うまく取れたという話もある。

 このように、今でも似ているような仕事をしている人を活用すれば、追加的なコストがほとんどかからずに、できる面があるのではないか。新しいビジネスが可能になるひとつのいい例で、結果的に公務員は本来の仕事に専念できる。こういうものを、特区提案してまず市町村から始めたらどうか。提案としては、最初は強権発動もパッケージにして提案して、妥協案で落とし所としてお願いベースでとりあえずやれるようにすればいい。既にコンビニでの納税が出来るようになっており、私人への委託の道が開かれている。コンビニが各家庭を回るだけのことで、お願いベースでの徴収は全く問題ないと思う。社会保険庁は社会保険労務士などの団体に委託している。社会保険労務士がよくて、株式会社はなぜ駄目なのかというと、知識が足りないというのだが、それならば社会保険労務士をひとり雇えばいい話だ。問題は強制手続きだが、これも形式的にひとり公務員がいればいい。

【公務員社宅の管理】
 公務員宿舎の管理をなぜ国がやるのか。財務省は借りるよりも建てたほうが安いという。20年くらいで考えれば、自分で建てたほうが安いという試算を持ってきたが、減価償却費を一切考慮していなかった。それと、容積率を全然使っていない。目一杯容積率を使って、タダで公務員宿舎を新しく作ってもらって、余ったスペースを民間会社が活用して、運用も任せるという方式でやれるのではないか。一定期間経ったら賃貸料を払うなどの方法がある。PFI方式にすれば、資金は全部業者が出すわけで、余計な金もかからない。どこかに集中して立てて等価交換にしてもいい。公務員宿舎は国の事例だが、自治体でも応用が効くのではないか。

 同じような発想だが、自治体の地下駐車場を一般に使ってもらおうとしても、料金がやたらに高い。地元の駐車業者に遠慮していると思うのだが、それならば、市役所の駐車場を全部どこかに任せて、平日は通う人だけが使い、土日だけ地元の業者が好きなように利益を最大限にできるような料金設定にすればいいのではないか。市役所がやるから業者から文句をいわれるのであって、民間がやればいい。このような例は多いと思う。

【新たな発想】
 民間からの提案がなかなか出てこないというが、民間の人は今の制度を前提として考えるので、制度を変えるのは夢物語だと諦めているのかもしれない。しかし、今回のカブトムシ特区(家畜排泄物の管理基準の適用除外)というのは、規模が小さいが非常に素朴なアイデアで、なぜ昔やっていたことが今できないのかという単純な発想でやっており、貴重なアイデアだ。今の環境規制は画一的で、神社で落ち葉を燃やすのもいけないようだ。ダイオキシンの問題があるのだが、神社で落ち葉を燃やすのは古来からやっていることなので、古来からやっていることは免除するなど、伝統的にやっていることで規制に引っかかるのは全部特区で外してもらうようにできないか。そういう既存の規制をリーズナブルにしていくのも特区のひとつの使い方だ。


3 特区制度の改善に向けて
【現行制度で可能という回答について】
 特区の回答で、現行法で可能というのは、国の法律では可能ということで、都道府県の条例などで駄目な場合もある。都道府県にも特区室があればいいのだが、そうはいかない場合、国から特区として認めてもらい、その結果を都道府県に持っていって、国がいいといっているのになぜ都道府県はやれないのかというようにもちかけ、都道府県の規制を抜いていくやり方も考えられる。国の特区室が都道府県の特区室を代行してもいいのではないか。また、いわゆる「技術的助言」には法的拘束力はないということを行政手続法で共通的に明らかにして、支障があるのならばきちっとした規制にしろということを国に対して注文をつけていくことも必要だ。

【ボツ案件のサルベージ】
 ボツとなった案件の中から重要なものを拾い出して、なぜボツになったのかを明らかにし、次の改革につなげていく作業は大切だ。しかし、われわれの評価委員会でボツ案件のサルベージをやれるかというと、事務方は設置法に反するから無理だという。設置法を改正してもいいが、むしろ、規制改革会議の方で分野を絞ってやる方が手っ取り早い。秋の「もみじ月間」では規制改革のテーマを一般から募集することになるが、そのとき、前に提案したもののコピーで結構なので、再度提案してもらいたい。そのときに、できればテーマがばらつかないように、医療、教育、官製事務の3テーマに絞ってもらえればありがたい。

【地域限定の緩和】
 構造改革特区は必ずしも一律の全国展開を将来の姿とするものではなく、地域限定のテーマがあってもいい。たとえば、全国市長会で稚内の市長さんが述べていたような、稚内のFM特区のようにあくまでも最終的に地域限定でやるというのもいいのではないか。しかし、同じことを東京でやろうとしても無理だが、それが出来るような条件のところではほかにも認めていくということになれば、帯広でも出来るようになる。全国展開といっても、いろいろなパターンがあるわけだ。

【市場化テストについて】
 市場化テストの制度設計は12月までに作る予定だ。とりあえずはモデル事業から始める。ただ、モデル事業をやるにしても、自治体の協力が必要だ。
 ひとつの例として、ハローワークをやりたいのだが、先進的な自治体にお願いして、そこの地域でのハローワークに近いものを民間にやらせることを、特区として提案してもらうということもひとつのやり方である。コストを徹底的に開示させて、国のハローワークのパフォーマンスと民間のハローワークのパフォーマンスがどう違うかを明らかにするのがひとつのイメージだ。モデル事業の場合は、同時並行的に実施していくが、そうした検証が進めば、その成果を踏まえて次の段階として競争入札となる。
 問題は、今のハローワークがやっていることと全く同じことを民間がやることに意味があるのかという意見がある。今のハローワークのやっていることは職業紹介ではなく、単に企業の文書募集の紙を置いているだけだという見方もある。確かに規模の利益はあるかもしれないが、民間が同じように文書募集の紙を置いても仕方がない。
 民間がやるとなれば、就業困難者、長期失業者を集中的に扱うべきではないか。官庁のやっていることはどんぶり勘定で、就職の難しい人も易しい人も来た順に処理する。なんとなく漠然とやって、パフォーマンスは測らない。それでは困るわけで、何をターゲットにするかを明確にして、今の文書募集は徹底的にネット化すればいい。本当の職業紹介というのは就業困難者に重点を置く必要がある。いわば介護保険と同じイメージで、要介護認定をする。その要介護度に応じた報酬を払うと同じ発想で、ハローワークでは失業者について考えなければいけない。

【最後に】
 全体としてハードコアが残ってきて、提案もしにくくなってきているようにも思われるが、身の回りには国の規制によって市町村の行政が支障を受けているものが多いはずなので、今後ともあきらめずに提案をどんどん出してもらいたい。
 市町村長さんの生のご意見・ご注文を伺うことは大事なので、そのような機会を今後も設けてもらえればありがたい。
以上