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構造改革特区、地域再生計画制度の改善のために(ver.2)
2004年4月30日
構造改革特区推進会議
(2004.5.17一部修正)
 2002年7月に構造改革特区の第1次提案の募集が始まって以来、これまで4次にわたる提案募集と4回にわたる特区認定が行われた。これまで712自治体と360民間企業・団体・個人からのべ1695の提案が行われ、特区として対応する規制緩和項目163件、全国的に対応する規制緩和項目248件が決定され、これまで324の特区が誕生した。この参加の広がりと内容の多様性は過去に行われたパイロット自治体制度をはるかに大きく上回るものであり、この試みはこれまでのところ成功したといえよう。

 しかし、回を重ねるうちに、政策の根幹にかかわるものが先送りされる傾向が強くなり、当初の勢いが弱まってきた感が否めない。第1次提案と第4次提案とを比べると、提案された構想数は第1次が426に対して第4次は338とやや少なめであったのに対し、それへの政府の対応は様変わりで、第1次の提案を受けて特区として実施することにしたものが80項目、全国的に実施することにしたものが107項目であったのに対し、第4次提案に対する対応は、特区としての対応が17項目、全国的に対応が33項目と激減している。特区とはあくまでも政策実験であり、それを重ねることにより政策のイノベーションが実現するということに、中央省庁の一層の理解と協力を強く望みたい。この傾向が続けば、提案側の熱意も次第に冷めていくことは必定である。

 こうしたなかで、昨年10月、地域再生構想が浮上し、年末から年初にかけて提案募集が行われた。自治体299、民間93、合計392の提案者からのべ673の構想が提案されたが、これを必要な支援措置の数に数え直すと1557件の提案になるという。2月末にはそのうち141件(地域対応23件、全国対応118件)がプログラムに採択された。この地域再生計画には補助金の運用改善や金融措置などが含まれ、構造改革特区制度の足らざるところを補い、政策実行手段の範囲を広げたものとして理解されるものであるが、しかし、この両者が重なる部分も多く、両者の関係が判然としないという戸惑いも自治体側に多く見られるところである。

 こうした混乱が生じてきてはいるが、構造改革特区や地域再生計画は、地域からの提案を求めることにより、これまでの政策のイノベーションを図るとともに、自治体の意識改革を進め、自治体の政策構想能力を高めるという効果を着実にもたらしており、今後さらに推進する必要がある。とくにいわゆる三位一体改革のもとで自治体の財政は一層逼迫の度合いを強めており、そうしたなかで自治体運営の自由度をさらに高めていくためには、改革をさらに加速化させていかなければならない。しかしながら、各省の対応はまだまだ鈍いといわざるを得ず、推進の旗を振る内閣府の一層の努力を期待したい。
1 構造改革特区について
@ 全般的評価
 構造改革特区制度の導入により、これまで改革が遅れていた教育、農業、医療・福祉などの分野で規制緩和が進んできたことは大いに評価できる。また、地域経済の活性化ばかりでなく自治体運営や組織のあり方などについても、いくつか提案が行われ、その一部が実現したことも大きい。

 さらに、自治体にとっても、国からのメニューをベースに考えるのではなく、自ら独自の事業を構想し、国に提案してその実現をめざすという流れが生まれたことは大きな変革である。特区提案は自治体内部の意識改革、職員の政策立案能力向上のための格好のトレーニングの場となり、自らの地域特性を見つめなおす良い機会ともなった。今後、地域内の企業やNPOなどとの共同作業が活発になれば、さらに効果が挙がるであろう。また、同じ課題を抱えている自治体間での連携も始まっており、この面での効果も期待される。

 しかし一方、これまでのところ構造改革や地域再生という言葉から連想されるようなダイナミックで本質的な提案が多いとはいえず、また、認められた特区も小粒で断片的な規制緩和のものが多く、パッケージとしての政策革新にまでは至っていない。これは提案するわれわれ自治体側にも大きな責任があり、今後努力していかなければならないが、受け止める中央省庁側にも、もっと柔軟な対応が望まれる。総理や担当大臣をはじめ関係閣僚の理解と協力が是非とも必要である。

A これまでの主な成果と結果
 最近やや足踏み状態になってきたとはいえ、構造改革特区制度の導入以降、いくつかの分野で規制緩和の進展がみられた。主要分野についての進展状況を簡単にレビューすれば次のとおりである。

【教育】
 教育分野で認められた特区は102を数え(幼保一元化を含み、産官学連携を除く)、特区全体の約3分の1を教育関連が占めるにいたっている。
まず、第1次提案を受けて「構造改革特区研究開発学校制度」が導入され、小中高一貫教育などにおけるカリキュラムの円滑な連携、英語教育の重点化など教育課程の弾力化、教科の自由な設定、学習指導要領の弾力化が図られることになり、太田市の外国語教育特区、足利市の英会話教育特区や東京・品川区や奈良県の小中一貫教育特区などが認定された。また、不登校児童生徒を対象とした新しいタイプの学校の設置による教育課程の弾力化も図られ、引きこもり状態にある不登校児童生徒を対象として、IT等を活用した学習活動も可能となった。少人数学級実現のために市町村教育委員会による市町村費負担教職員の任用も容認された。
 学校の運営主体については株式会社による学校設置が第2次提案を受けて認められ、第3回認定(追加認定)として、御津町の教育特区で株式会社による中学校経営が始まることになった。会社による学校運営は、このほか東京・千代田区、大阪市など8特区が認められ、特色のある人材教育に取り組むことになった。しかし、公設民営による学校運営について文科省は慎重な態度を崩さず、2004年3月4日に出された中教審の答申でも、幼稚園と高校に限って公設民営を特区として認めるが、その委託先は「実績ある学校法人」に限るとして、株式会社やNPOを排除している。なお、NPOによる学校設置は、第2次提案に対する対応として、「不登校児等の教育に実績のあるNPOに限って」認められることになった。
 しかし、市町村や地域が主体となって学校を運営していくため、市町村の教育委員会や学校の運営委員会に権限を移譲する提案がいくつも出されてはいるが、いずれも認められていない。また、教育委員会制度は形骸化しているとの観点から、教育委員会制度を廃止し、責任の所在の明確化と迅速な対応を図るために市長に権限を一元化させるとの提案も行われている。
 教育と福祉にまたがる問題として、幼保一元化の提案も数多く出されている。特区としては、幼稚園の3歳未満児の就園容認(22特区)や幼稚園児と保育園児の合同活動(17特区)、保育事務の教育委員会への委任などが認められているが、制度そのものの統一は認められておらず、その両者の完全な統合を求める提案も繰り返し行われている。
 地域再生計画では、学校施設など補助金で建てられた施設を公共的目的で転用する場合には補助金の返還や地方債の繰上げ償還を求めず、また、必要に応じてリニューアル債の発行も認めることになった。これは自治体の提出した地域再生計画が認められた場合に限られており、すべてが自由化されたわけではない。

【農業】
 農業および農業関連分野での特区もこれまで84を数え、自治体の関心の高いことを示している。
 農業への株式会社の参入については、担い手不足で農地の荒廃が深刻な地域に限り、農地を賃貸できるようになった。これにより第4回認定までに39件の特区が認められた。その後も賃貸だけでなく取得も認めてもらいたいとの提案が行われているが、農水省はまずは賃貸の結果を見定めてからと、慎重な態度を崩していない。
 農地取得下限面積の10aまでの引き下げは第2次提案に対する対応として認められることになり、第3回認定において7件の新設および4件の追加認定が行われた。
 市民農園の開設者の範囲を自治体や農協だけでなくNPOその他に広げることも認められるようになり、第4回認定までに32件が認定された。なお、市民農園での農作物は一般への販売は認められていないが、どの程度ならば容認するかを2003年度中に明確にすることになり、この方針は地域再生計画にも盛り込まれた。しかし、実際に出されたガイドラインはあいまいなもので、問題の解決にはなっていない。
 コメの生産調整を免除するなど農政の根幹に触れる提案もいくつかの自治体から行われたが、これについては認められず、また、よく指摘される牛舎などの建築基準法の適用除外も、現行でも許可を得れば対応可能であるという回答に終わっている。
 都市と農村の交流促進の手段としてのどぶろくの醸造・提供や農家民宿の旅館業法適用除外などの提案は認められることになり、第4回認定までに19の自治体がグリーンツーリズムやスロータウン関連の特区として認められた。ただし、その後、どぶろくだけでなくワインなどその他の酒についても同様な提案が行われたが、どぶろく以外は認められていない。また、どぶろくも自家醸造のものを提供する場合に限定され、近くの直売所で販売することなどは認められていない。
 その他、農振地域内での直売店や農産品加工場などの建設のために農地をこれらのために転用することについても多くの提案が行われたが、農地から除外することは現行でも可能であり、農地のまま転用することは不可との態度である。なお、農地転用の権限移譲を求める提案も多く出されているが、これについては4haを超える農地転用許可申請手続きは、自治法により都道府県から市町村に移譲可能であることを周知徹底することが地域再生計画(全国対応)に盛り込まれ、申請手続きの円滑化が多少図られることになった。

【まちづくり】
 まちづくり、都市再生関連の特区については300件を超える提案が行われてきたが、実際に認められた特区はこれまで22と、あまり多くない。地域再生計画構想でも400件以上の提案が行われ、自治体からの提案の3分の1以上を占め、この分野への自治体の関心の高さが示されている。
 都市計画法関係のものとしては、市街化調整区域における開発、線引きの見直しなどが市町村から提案されたが、その多くはそれぞれの都道府県内の問題であるとされ、「地域の実情に応じた弾力的な運用が可能である旨周知徹底する」というのが国交省の対応であった。しかし、第4次提案に対する対応として、国交省は都市計画決定・変更に係る要請制度の2004年度内創設の方針を打ち出した。さらに、地域再生計画の中に、まちづくり権限の一本化の方針を盛り込み、都道府県が市町村の意見を斟酌するような制度を設ける方向に動き出した。
 土地開発公社が先行取得して抱え込んでいる塩漬け土地については、第4次提案に対する対応として、公社が直接賃貸に出すやり方ではなく、自治体が地方債を発行してその土地を引き取って有効活用する方針を打ち出した。2004年度中に全国措置として導入することになる。
 屋外広告物の撤去についても多くの提案が行われ、第3回の認定で高山市ほか5ヵ所が特区として簡易除去が認められた。なお、国交省は第4次提案に対する対応として、景観行政を行う市町村が条例を制定することを認める方針を明らかにし、2004年2月、「景観法案」および屋外広告物法の改正などを含む「景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」を国会に提出した。
 高齢化と過疎が進む中で、交通空白地帯への対策がどこの自治体でも課題となっているが、これを有償ボランティアの活用でしのごうとする提案もいくつか出されている。これに対して国交省は、交通空白地帯にかぎって認める方針を打ち出し、上勝町(徳島)や河合・宮川村(岐阜、2004年2月からは飛騨市)、豊根村(愛知)が特区として認定された。
 中心商店街の活性化などについてはなかなか妙案がないのが現状であるが、大店立地法の運用にあたり新設・変更の手続き緩和、あるいは駐車場要件の緩和の要望が出されたが、手続きの簡素化については、特区として認める方針が出された。なお、経産省では2004年度中に指針の見直しを行う方針を明らかにした。また、地域再生計画ではTMOの主体としてNPOも認められることになった(全国対応)。
 イベント等の実施のための道路占用許可の円滑化については、第2次提案に対する対応措置として、警察庁は特区ではなく全国的に実施する方針を打ち出した。さらに地域再生計画でも、弾力的な透明度の高い運用を図るとしている。また、国交省は河川・道路の占用許可の弾力化、指定管理者制度の道路、河川、公営住宅、港湾施設などへの導入、イベント開催など道路占用における「市町村推奨ルール」の導入などを地域再生計画の中に盛り込んだ。
 そのほか、国際交流・観光の分野でもあわせて128の提案が行われたが、認定されたのは第3回の4特区(短期滞在ビザの発給手続きの簡素化など)を数えるだけである。韓国人修学旅行生に対するビザ免除は第3次提案を受けて全国的に対応することになったが、要望の多い中国人観光客へのビザ免除などは実現していない。

【福祉・医療】
 株式会社などが特別養護老人ホームを設置できるようにとの提案が第1次提案として行われ、これに対しては、公設民営またはPFI方式の場合に限って容認することになった。これを利用して、一戸町(岩手)の公設民営型小規模多機能福祉特区が認定された。自治体が設置する養護老人ホームの管理を株式会社等が行うことについては、2003年6月に地方自治法が改正され、「公の施設」の管理を第3セクターだけでなく民間事業者まで拡大することが、特区ではなく全国どこでもできるようになった。
 高齢者、身障者、知的障害者、障害児のデイサービス施設の相互利用は特区として容認され、第1回から第4回までに千葉県をはじめとして14の特区が認定された。さらに、第4次提案をうけて、相互利用の範囲はショートステイにも拡大された。肢体不自由児施設や児童養護施設などいくつかの児童福祉施設で給食の外部委託が段階的に特区として解禁され、岐阜市などが特区として認定された。保育所の給食の外部搬入については、公立保育所に限って特区として容認されることになった。
 かねてから問題となっていたNPOなどによる有償移送サービスも第1次提案を受けて特区として容認され、これまで13の特区が認定された。しかし、使用する車両は特別の装置をつけた福祉車両に限るなど厳しい条件がつけられていた。その後、第4次提案に対する対応として、この車両制限は特区内では外されることになった。また、地域再生計画には運営主体についての制限も緩和する方針が盛り込まれ、NPOや商工会議所、商工会、医療法人、公益法人などが運輸支局長の許可を得て運行できるようにはなったが、特区以外での福祉有償移送の場合は使用する車両は福祉車両に限られる。
 痴呆性高齢者のグループホームや有料老人ホームの立地が集中することはその地域の自治体財政にとって由々しきしきことになるため、その設置をその地域の計画の範囲内に抑えるとの提案が東京周辺の15自治体連名で出されたものの、厚労省は事業者の自由参入原則に反すると拒否の姿勢である。また、在宅介護やグループホームに住所地特例の導入を求める提案も行われたが、これも認められていない。しかし、この問題は社会保障制度審議会での検討対象となっており、今後の検討に期待したい。なお、介護認定の有効期間は第4次提案の結果、6ヵ月から12ヵ月(最大24ヵ月)に延長された。
 医療関係では、株式会社の医療参入が大きな話題となったが、結局、いくつかの高度医療分野における自由診療に限って認められたに過ぎず、まだ、入口はほとんど閉ざされている。地域医療計画における病床規制の廃止や混合治療の実施も提案されたが、いずれも拒否されている。医療分野で特区として認められたのは、小田原市の地方公務員の臨時的任用期間の延長による臨床研修実施だけである。特区でなく全国で実施するものとしては、遠隔医療が対面診療が困難な場合以外にも認めること、特定機能病院の病床数基準の緩和、あるいは当該国民の診療に限定した外国人医師の診療容認などいくつかある。

【産業活性化】
 構造改革特区制度がスタートしたときは、国際物流、産学連携、産業活性化、IT、環境・新エネルギーなどの分野で多くの提案が行われ、第1回には一挙に53の特区が認定された。第1回の認定数が117であるから、約半数がこれらの分野が占めたことになる。しかし、その後第2回が14、第3回は10、第4回は4とこの分野での特区認定数は激減した。
 自治体からの提案そのものも、第1次は138、第2次は92であったものが第3次は28、第4次は21構想となっている。このように提案が急減した原因は、提案側のアイデアが出尽くしたというより、規制緩和だけの提案では所期の目的が達成できないと考えたからではないかと思われる。これは、規制緩和だけでなく、税制や補助金、金融措置までも対象となった地域再生計画では、自治体から再び230以上の提案が行われたことからもわかる。
 しかしながら、これまでの特区提案を受けて、通関業務の24時間・365日化への対応、時間外手数料の見直し、民間企業による総合保税地域の運営、民間企業による公共コンテナーターミナルの運営、公有水面埋立地の利用などが可能となり、また、国立大学の教官や研究施設と企業との連携も図られるようになった。また、輸出入・港湾関連手続の合理化(ワンストップサービス・シングルウィンドウ化)など、特区ではなく全国対応となった事項がこの分野ではかなり多い。

【自治体革新】
 特区提案では、政策だけでなく自治体の組織、運営、公務員制度に関するものも出されており、これまでに115件の提案が行われてきている。しかし、認められた特区は3と、ごく少ない。
 地方公務員制度については、地方公務員の臨時的任用期間の延長が特区として、また、地方公務員の常勤職員の勤務時間の短縮を可能とする制度導入が全国的対応として認められることになり、第3回認定において川口市や志木市、小田原市、堺市が、第4回認定においては羽合町(鳥取)が、それぞれ臨時職員の任用期間の延長の特区として認定された(なお、川口市、小田原市、羽合町の場合は、手話通訳者、臨床研修医、保育士といった専門職を臨時職員として採用するケースであるので、福祉医療の項目にカウントした)。
 コンビニで納税を可能とする提案が戸田市や草加市から第1次提案として提案され、これは全国的に実施可能となった。また、住民票や印鑑登録の自動交付機の設置基準も緩和され、三条市の「街なか行政サービス拡大特区」が認定された。公金である保育料の徴収を私人に委託することも第4次提案への全国対応として認められるようになった。
 現業執行部門の地方独立行政法人化については第1次の全国的対応として実施することになり、地方独立行政法人法案は2003年7月に可決成立した。また、公の施設管理を民間に委託する提案についても第1次の全国措置に盛り込まれ、2003年6月の地方自治法の改正で指定管理者制度として実現することになった。
 一方、選挙権を20歳から18歳までに引き下げる提案とか外国人にも参政権を認める提案も行われたが、いずれも実現していない。なお、地方議会の開催回数の制限撤廃が第4次提案への対応で認められることになり、また、市町村合併後、旧市町村名を「区」として残すことも地域再生計画に盛り込まれている。
 このほか、教育委員会、農業委員会の廃止にとどまらず市長の廃止の提案も行われ、また、過去の債務の繰り上げ償還、宝くじの発行の自由化などの提案も行われている。なお、市町村によるパスポートの発行については、外務省は第4次提案に対する回答として、現時点では対応困難としながら、2004年の通常国会に議員立法が予定されており、それが成立すれば実現可能と回答した(3月13日、与党は法案提出方針決定との報道があるが、まだ提出されていない)。

B 改善すべき点
 構造改革特区制度の前提として、「新たな財源措置はとらない」ということになっている。このため、特区提案のうち、少しでも補助金や税制に絡むものは全てとりあげられていない。特に、教育や農業分野に株式会社などの参入を認めたものの、それに対して私学助成や農業の制度金融は使えず、参入効果は大きく減殺されることになる。構造改革特区で扱う問題は規制緩和だけで、カネがらみの問題はすべて地域再生計画に委ねるというのであれば、特区で認められた計画が地域再生計画にスムーズに移行できるような仕組みを設ける必要がある。

 提案に対する各省庁からの回答内容が果たして妥当なものであるのかどうか、たとえば評価委員会や総合規制改革会議など第3者機関が判定して、膠着状態を改善していく必要がある。また、推進室と各省庁とのやりとりが提案者や一般にわかるように、情報の整理や提供の仕方を工夫する必要がある。さらに、膠着した案件については、提案者や担当省庁が公開の場で議論する機会を設ける必要もある。推進室の強化充実も必要である。

 また、推進室と各省庁との文書のやり取りは特区推進室のホームページで明らかにされており、これについては評価するものであるが、そのデータは極めて利用・閲覧しにくい。幸い、4月初めに第4次提案に対する回答からExelファイルでも閲覧できるようになったが、できることならば第1次から3次の分についてもExelファイルで掲載してもらいたい。

 各省庁から「D−1:現行制度でも対応可能」との回答を得たものの、実際には実施できないケースがある。とくに権限が都道府県にある場合、都道府県によって対応が異なり、実現可能という結果にならないことも多い。地方分権の時代に都道府県に対して中央省庁からの指導を求めるのは筋違いであるが、現実には都道府県の運用は中央省庁の態度で大きく変わるわけであり、中央省庁としても「現行制度で対応可能」と他人事のようにいうだけでなく、そのような回答を出したということを各都道府県に周知徹底させる努力は払うべきである。また、都道府県だけでなく、各省の実務担当者の理解が得られないため、実際には進展しない場合もある。

 なお、具体的な申請手続きなどについては、申請書類や実績報告書類が細かすぎるという指摘がある反面、提案書の概略の記載では申請者の意図が推進室や各省庁に伝わりにくいとの指摘もある。また、申請書はすべてメールで出来るようにすべきだとの意見もある。さらに特区提案から実際の特例適用までに時間がかかり過ぎ、この期間を短縮してもらいたいとの意見もある。かなりの申請量を限られた人数で捌くなかで、これらの注文を全て満足させることは難しいが、申請手続きは出来るだけ簡素化しながら、何回申請しても進まない案件などについては、別途、直接の話し合いの機会を設けるなどの対応策を講ずる必要がある。

 今後、我々として横の連携をとりながら重点的に取り組むべき分野と思われるものは次のとおりである。

【教育分野】
・地域住民が学校運営に積極的に関わることのできる住民参加型学校の実現
・株式会社の経営による学校に対する私学助成
【農業分野】
・地域に対応した農業への企業参入の促進(農業ビジネス、都市近郊型農業)
・農地法、都市計画法における権限移譲や、地域性に即した対応
・農業振興地域の除外、農地転用許可の権限移譲
・国産材の活用を含めた林業の活性化
【まちづくり分野】
・都市計画の線引き権限の市町村への移譲
・三大都市圏における用途地域決定権限の市町村への移譲
・イベント開催時等の道路使用許可の簡素化
・違法駐車・路上駐車の規制に係る権限移譲
・右肩下がりの時代における中心市街地の再生策
・地籍調査の改善、円滑・迅速化
【医療・福祉分野】
・介護保険制度の改正
・国保制度の改革
【産業政策分野】
・自由貿易地域(フリートレートゾーン)の認定
【自治体改革分野】
・市税等滞納整理事務に関する民間参入特区
・組織、権限、職員などについての自治体ごとの自由な設定の容認

2 地域再生計画について
 2月末に採択された地域再生計画のメニューにより、国庫補助施設の目的外利活用が補助金の返還や地方債の繰上げ償還を行わずとも可能となったこと、道路・河川の占用許可の弾力化が図られるようになったこと、TMOにNPO法人が参加できるようになったことなど、構造改革特区では進展しなかったことのいくつかが進展した。補助金だけでなく、政府系金融機関の弾力的運用に途が開けたことも重要である。

 しかし、当初いわれていた権限移譲や補助金の統合などはさまざまな提案が行われたにもかかわらず殆どメニューには含まれていない。まちづくり交付金制度の創設は、これまでの細切れの補助金を統合する試みであり評価できるが、これは地域再生計画とは別の仕組みであり、地域再生計画が認められたとしても自動的にまちづくり交付金が受けられるわけではない。また、コミュニティファンドの形成支援やコミュニティサービス事業の活性化支援としての交付税措置は不交付団体にはメリットはなく、交付税算入ではなく補助金拡充で対応すべきである。

 今回の再生計画のメニュー決定においては、要望の半数以上が現行制度でも対応可能という答えとなった。これについては、すべてが提案側の錯覚や不勉強のせいではなく、提案者側には提案するだけの実態があるはずで、今後、その詳細を検討していく必要がある。また、採択されたメニューの中には既に各省庁が実施する予定を発表済みのものも多い。たとえば、まちづくり交付金制度やコミュニティファンド創設計画などはすでに昨年11月の経済財政諮問会議で国交大臣や総務大臣が次年度計画として説明済みのものであり、地域再生計画の提案を受けて取り上げたものではないことに留意する必要がある。次回からは、地域からの提案を真摯に受けたものになることを望みたい。

 今後、地域再生計画は5月には実際の申請が受け付けられ、さらに第2次提案の受付は6月に行われる。また、構造改革特区についても認定申請の受付は5月に、第5次提案受付も6月と、同時期に2つの制度が進行することになる。これは両制度を連携させていくためにはいいかもしれないが、提案あるいは申請側としては、どちらを選択すべきか迷うことになる。一つの政策目標を達成するための手段とすれば、規制緩和だけというよりは権限移譲、補助金制度の改善や金融措置なども含めたパッケージが望ましいことは当然であり、特区制度よりは地域再生計画を選択することになる。しかし、この地域再生計画が地域で実験した結果をもとに全国展開するという構造改革特区の特徴をもっているかどうかは明らかでない。政府としては、この両者を並存させるのであれば、実務的に混乱の生じないよう、両制度の連携強化と一体的運用を心がけていただきたい。
以上
【付属資料】

第1表 特区構想の提案
第1次 第2次 第3次 第4次 合計
総数 426 651 280 338 1695
  民間からの提案 17 191 91 122 421
  自治体からの提案 419 460 189 216 1284
出所:構造改革特区推進室発表資料


第2表 自治体による特区提案
第1次 第2次 第3次 第4次 合計
教育 44 64 30 29 167
農業 101 81 25 24 231
都市再生 76 128 45 63 312
医療・福祉 34 50 31 29 144
自治制度 14 37 21 43 115
小計 269 360 152 188 969
その他産業関連 150 100 37 28 315
419 460 189 216 1284
出所:構造改革特区推進室発表資料を推進会議事務局で集計。幼保一元化は教育に、観光関係は都市再生に含めた。具体的な提案内容は推進会議事務局編「これまで出された提案と認定された特区」を参照のこと。


第3表 特区提案に対する政府の対応状況
別表1 特区として対応 第1次 第2次 第3次 第4次 合計
教育 12 7 9 3 31
農業 7 3 0 1 11
都市再生 5 10 1 2 18
医療・福祉 6 9 7 1 23
自治制度 4 1 0 0 5
小計 34 30 17 7 88
その他産業関連 46 17 2 10 75
80 47 19 17 163

別表2 全国的に対応 第1次 第2次 第3次 第4次 合計
教育 9 10 0 4 23
農業 5 2 3 1 11
都市再生 7 11 11 6 35
医療・福祉 15 13 3 4 35
自治制度 8 4 7 3 22
小計 44 40 24 18 126
その他産業関連 63 39 5 15 122
107 79 29 33 248
出所:推進会議事務局で集計。幼保一元化は教育に、観光関係は都市再生に含めた。
   具体的な内容は推進会議事務局編「特区提案に対してこれまで認められた規制緩和項目(別表1,2)」を参照のこと。


第4表 これまでに認められた特区
第1回 第2回 第3回 第4回 合計
教育 23 21 21 37 102
農業 28 9 17 30 84
都市再生 0 1 13 8 22
医療・福祉 13 5 11 7 36
自治制度 0 1 2 0 3
小計 64 33 62 84 247
その他産業関連 53 14 10 4 77
117 47 72 88 324
出所:推進会議事務局で集計。幼保一元化は教育に、観光関係は都市再生に含めた。
   具体的な提案内容は推進会議事務局編「これまで出された提案と認定された特区」を参照のこと。


第5表 地域再生計画の提案

@ 提案された構想数と提案者
構想数 提案者数
 地方公共団体から提案された地域再生構想 563 299
 民間事業者等から提案された地域再生プロジェクト 110 93
673 392

A 提案内容
分  野 構想数
自然、伝統、地場産業など、個性ある資源を活かした地域づくり 175 16.9
観光、イベント、文化・スポーツ、交流 162 15.6
農林水産業の振興、農村交流 164 15.8
産業振興、産学連携 188 18.1
商業、中心市街地活性化 100 9.7
物流の促進 47 4.5
都市再開発 43 4.2
環境 78 7.5
教育、福祉、医療など国民生活 67 6.5
その他 12 1.2
1,036 100
 (注)提案主体が記述した分類にしたがいカウントした。1つの地域再生構想で複数の分野にまたがるとされたものは、それぞれカウントしたため、その分野の合計数(1,036)は提案数(673)よりも多くなる。  
(出所)地域再生本部発表資料


第6表 自治体が提案した地域再生計画構想の分野と内容
権限移譲 規制緩和 民間委託 補助金適化法運用改善 補助金の統合など制度改善 税制 その他の財政支援 金融 国による事業推進 新たな制度
教育 2 24 5 25 13 2 1 1 3 4 80 6.70%
農業 37 97 6 40 75 16 9 11 16 12 319 26.70%
都市再生 40 121 12 34 97 17 20 12 28 29 410 34.30%
医療福祉 3 30 7 18 40 2 4 4 4 9 121 10.10%
自治制度 2 15 10 4 14 4 4 2 3 8 66 5.50%
産業 9 50 2 14 45 14 15 11 23 16 199 16.70%
93 337 42 135 284 55 53 41 77 78 1195 100.00%
7.80% 28.20% 3.50% 11.30% 23.80% 4.60% 4.40% 3.40% 6.40% 6.50% 100.00%
注:それぞれ項目に該当する構想を推進会議事務局でカウントしたもの。いくつもの項目にまたがるものは重複してカウントした。また、構想の中にいくつもの提案が含まれていても、それがひとつの項目に関するものである場合はひとつとカウントした(たとえば、90の権限移譲提案も1構想とカウントした)。なお、カウントは地域再生本部発表の構想の概要によったため、厳密なものではない。
具体的な提案内容は推進会議事務局編「自治体の地域再生構想」を参照のこと。



第7表 地域再生プログラムの内容
別表1 別表2
教育 1 1
農業 15
都市 5 54
福祉 2
産業 7 30
自治 7
補助金施設の転用 10 9
23 118
   注: 別表1に掲げられた項目は、自治体の地域再生計画が認定されて実施できるもの。
      別表2は全国的に実施できるもの。
      補助金施設の転用は各分野から独立させて掲示した。
出所:地域再生本部決定「地域再生推進のためのプログラム(2004年2月27日)」より作成


さらに詳しいデータは下記の資料を参照のこと。資料は行革国民会議のホームページ「構造改革特区推進会議」のコーナーに掲載してあるので、適宜ダウンロードしてお使いください。ホームページのアドレスは http://www.mmjp.or.jp/gyoukaku  である。

 1 「これまで出された提案と認定された特区」 構造改革特区推進会議事務局編 
 2 「特区提案に対してこれまで認められた規制緩和項目(別表1,2)」
 3 「自治体の地域再生構想」構造改革特区推進会議編
 4 「地域再生推進のためのプログラム 別表1,2」