構造改革特区推進会議は5月17・18日に、第4回ワーキンググループ(WG)を開催した。各WGで出された議論の概要は下記の通り。
【教育分野】
*杉並区では、1次提案から4次提案まで教育改革特区【新しいタイプの学校の創設】を提案してきたが、学校法人以外でも学校を設置できるようにしたいというのが趣旨である。第3次では地方独立行政法人による設置を提案したが、これは「区立の私立学校」のようなものである。こうした提案の結果、新しい学校の概念がでてくればいいと考えている。区としては独自の特色をもった教育を行いたいわけで、人事権や教科書採択など、教育について多様な新しい取り組みができるようにしたい。ただ、これまで多くの提案を行ってきた結果、多少混乱を招いているので、少し提案を整理し分かりやすい形にする予定である。なお、区がすべて単独で負担してやることは財政的に難しいので、県費負担職員の制度のもとで行いたい。都との関係は、事務処理特例の条例をつくればできなくはないが、そうなると23区全体の問題となって身動きが取れなくなるので、特区でやるしかない。なお、企業やNPOから運営などを任せてほしいという話は出ていない。
*市内の英語私塾が、株式会社形態で2005年4月に英語教育を中心とする小学校を開設する計画がある。しかし、施設的な要件などが満たされないため、義務教育とは認められない。その結果、その学校に通う児童は義務教育を受けていないということになり、中学校への進学ができなくなる。また、教員免許を持っていないネイティブの教員を使うことなども考えているため、そうなると文科省はさらに認めてくれないだろう。私塾側は認めてもらえないのは承知の上で、あえて強行する予定で、市としては対応に苦慮しているところだ。もともと、この私塾は英語による幼児園を経営しており、その父兄がさらに小学校でもと希望していることが背景にある。
*教育委員会は、廃止されても問題ない。教育委員会の合議制システムは、もう時代についていけなくなっている。また、なかから改革の動きが出てきにくい。権限が国・都道府県・市町村に分かれており、責任の所在がはっきりしないという問題もあるし、現場との連携がうまくいかないこともある。
*教育委員会を廃止して市町村が教育を担うのを選択制にすることについては、二者択一ということではなくて、人事権などそれぞれについてやれるところはやれるようにしてはどうか。
*最近は学校区を廃止して自由選択制を実施する市町村も増えてきており、学校評価を行うなど市民からの監視の目も厳しくなってきているので、文科省や県が監督する必要はなくなってきている。
*市町村でお金をかけて研修をしたりして教員を養成したとしても、人事権が県にあるために、いずれはその市町村を離れてしまうことがある。こうなると、市町村としてはなかなかお金をかけてまで教員養成を行えない。政令市では教員の人事権が認められているので、同様に市町村にも認めてもらいたい。また、市町村が責任を果たせるのであれば、人事権を認めるというような選択制を取り入れたらどうか。
*分権になれば、市町村にとって膨大な事務量が発生することになる。こう考えると、市町村としては慎重にならざるを得ないが、やれる自信のある市町村は選択制でやらせてみてもいいのではないか。
*不登校問題については、不登校児を学校に戻すというやり方では、不登校児の数も増えてきており、対応しきれなくなっている。NPOなど地域住民の支えにより、学校以外の施設で不登校児を受け入れてもらえるようシステムを構築する必要がある。また、不登校児の親の方にも問題があるケースも多く、児童の前に親を教育しなければならないといった声もある。
*6月の提案では時間的にもゆとりもないので、それぞれ提案してもらい、推進会議としては11月の提案に間に合うようにWGでさらに議論を詰めていくことにしたい。
【医療福祉分野】
*グループホームなどの福祉施設が増えており、すでに予定数を充足しているのに、まだ、開設の申し込みがきている。これをすべて認めていけば保険料負担も増大することになる。正面からお断りとはいえないが、事実上、ご遠慮してもらっている。
*都市計画法では、市街化調整区域にグループホームなどの福祉施設や農業施設、病院などを許可なしで建設できるため、田んぼや畑の真ん中にグループホームが作られてしまい困っている。福祉施設は本来なら賑わいのあるところに建設して、人との交流を大切にしなければならないのに、これでは交通の便なども不便だ。
*老人福祉センターの職員がすぐに駆けつけられるようにするために、センターの周りにばかり福祉施設が建てられている。
*グループホームなどの福祉施設を自前で確保するとなると、コストも考えれば中心街に建設することは難しいのは確かだ。
*福祉施設の乱立は、結果的に市町村の出費が増え、介護保険をあげざるを得なくなる。公設の場合は地元の人のみに限定できるが、民設の場合は地元のみに限定すると、受け入れ数が減ってしまい会社がつぶれてしまうのでなかなか難しい。
*歯止めをかけるという意見もあるが、入りたい人がいる限りはつくらないといけないのが現状だ。
*在宅と介護住宅の場合では、費用の面で異なっているのが問題だろう。介護する側の家族としても施設に入れて面倒を見てもらったほうが楽だということもある。雇用を生むために介護のヘルパーを養成しても、自分の親の面倒を見る場合はお金にならないが、他人の親を見れば金になるという堂々巡りが起こる。本来ならば、自分の親は面倒を見るようにするのがいちばんいいが、共働きの場合はそれも難しく、結局施設に入れてしまう。
*介護保険については、使わないと損だという認識がある。逆に、使っていない人は保険を払いたくないという。
*介護制度と支援費制度の統一については賛否両論ある。
*医療福祉分野の特区については、全体的に現行制度の微調整が多く、制度の根幹を変えるような提案は少ないのが実情。所詮特区とは隙間狙いのもので、医療制度や介護制度は問題点が大きすぎて、隙間だけ変えてもどうにもならない。
*努力した保険者が報われるようなシステムをつくることは大切。4次提案で事業者が介護を行って状況が改善した場合に、事業者にアメを還元するようなシステムも提案されたが、実現していない。
*次回のWGは問題を絞って、直接の担当者にも参加してもらい、議論を続けたい。
【農業分野】
*農地転用を認めると、その場所がごみ捨て場になってしまうという意見もあるが、実際には農地のまま、ごみ捨て場になっているケースもある。この場合、市町村や農業委員会が指導し、場合によっては県が罰則を適用しなければならないのだが、実際には放置されている。
*違反転用を是正するのはいいが、その後の処理が難しい。
*実際に農地に復活させる試みも行っているが、費用が大変で、とてもこれは地主には負担できない。また、復活させたあとも、産廃置き場の後では使いようがない。
*市民農園での農作物の販売については、3月末の農水省のガイドラインに即して書いた計画が書き直しになったことがある。そもそも市民農園での農作物の販売量自体は極めて少量であり、個人的なお遊びに過ぎないわけで、この程度の販売は認めてもらいたい。
*市民農園について農業委員会では総スカンで、話にならない。
*市農業委員会は市民農園についてニュートラルで、土地活性化されるのであればオッケーの立場だ。ただし、組合員が反対するようならば困るようだが。
*市街化調整区域にある遊休農地を活用して市民農園を始めたいと思っているが、土地を提供すると手をあげるところが少なく、市としても腰が引けてしまい、提案にまではいたらなかった。
*市民農園についての住民からの希望は強いが、販売までの話はない。
*市民団体がいずれは転用する予定の農地を借りて市民農園的なものを始め、マスコミなどにもアピールして地元では話題になっている。契約で農園を利用してもらうというもので、地元スーパーとも取り引きして農作物を少量販売して、組織の活動資金に充てている。幸いにも地元農家とも話し合いを行って理解してもらっているようだが。
*地元スーパーが農業に参入して、これからも規模を増やす予定だが、高齢者である地元の農業者にとっては農地を借りてもらえるのはありがたいようだ。
*市民農園は農業地ではやらないほうがいいとは思うが、実際に農業に新規参入するケースが極めて少ない。認定農業者にならないと金融面でも厳しいので、企業参入などもほとんど例がない。
*賃借での農業参入はちまちましたものになってしまう。ハウス加工場をやっているところがあるが、ハウス要件などの基準が厳しいため、施設・面積など規模の点でも折り合いがつかない。農地の所有が認められないと苦しい。
*農家と株式会社の間に市や農協が入って、賃借の橋渡しをしているが、これを形式的に薄めてもらった方がやりやすいという地域もある。市が入ることにより、貸した後で被害を被る恐れが減るため、不安が解消されるという利点もあるが、そのあたりは地域により選択制にすればいいのではないか。
*農転により物流センターを建設する構想があるが、県の対応が厳しく農転では話が進まない。
*国としての農業を考えた場合、自給率をあげることは大切だが、実際には農業に参入しても儲からないため、農業振興は難しい。都市近郊と地方でも、農業に対するニーズは異なっているだろう。
*農業全体を盛り上げていくためには、その取り掛かりとして、遊休地をどうするのかについて考えていくしかないのではないか。そこから、市民に関心を持ってもらい、盛り上げるしかない。
*農振や農転などの手続きが面倒だから特区で対応しようとするが、現行法で対応可能と回答される。
*農業分野でさらに掘り下げていくべき課題は再検討したい。また、農業そのものを考えるのであれば、農業地帯の自治体の参加も必要だ。
【都市再生分野】
*線引きの見直しについては、県が理解を示しており、住民の合意形成があるならば、やってもいいといっている。飛び地要件にもあまりこだわらないようだ。
*うちの県は非常に渋い。
*合併によって、未線引き地域が市街化調整区域になってしまい、工場などが移転されてしまうなどの問題がある。
*香川県では線引き制度が廃止されるが、その場合は農転の縛りがでてくるのだろうか。もしそうならば、線引きの廃止を行うのも厳しい。
*三大都市圏における用途指定地域の決定権限をぜひとも市町村に移譲してもらいたい。現状では時間もかかり、事業者が建設を進めているので待っていられない。あまりにも対応が遅いため、市としても地元に具体説明ができず、困っている。指定基準も非常に厳しく、県は書かれているものを守ろうとするので、弾力性のないものになってしまう。
*都市計画については民間などからの提案制度が導入されたが、市で用途指定地域を決定できるのであれば、市で提案を受け付ける形にしたいと考えている。
*用途指定地域の決定権限の移譲については、同時多発にしろ、共同提案にしろ、まとまって提案したほうがいいのではないか。そのためには、この問題で困っている市長同士で連絡を取り合ってやっていくのがいい。
*市街化区域にあった市立病院が調整区域に場所を移したのだが、これによって農地の真ん中に建ってしまった。市がこういうことをやっているので、民間事業者に説明がつかない。
*立て看板の撤去などについては、特区で認められることによって、対応しやすくなった。財産権もあって難しいところだが、違法駐車の撤去についても、同様に認めてもらいたい。
*違法駐車については、監視カメラを設置したことでかなり効果が上がっている。15台設置して、スピーカーもついているため、違法駐車したらすぐに警告できる。警察も活用したいといってきたくらいだ。
*フェーン現象などの対策で都市緑化に取り組みたいと考えているのだが、市街化区域内の緑地について固定資産税の減免ができないなど、助成制度に実効性がなくて困っている。このような都市熱は近隣自治体から来ているので、近隣自治体にも負担してもらいたいくらいだ。
*未着工の都市計画道路廃止については岐阜県が先鞭をつけたが、実際にやろうとすると損害賠償などの議論も出てきて、なかなかやっかいな面もある。
*都市再生については、特区、地域再生に加えて、国交省のまちづくり交付金などもあり、メニューが多すぎて複雑になっている。
【自治制度分野・企画委員会幹事会合同】
*国直接・国間接補助(県補助)事業の申請手続きなどの簡素化を考えている。補助金改革を進めても、事務だけはそのまま手つかずで残るのでは意味がない。ひとつの分野でも国から直接くる補助金、県を経由する国の補助金、県単独の補助金があり、それぞれ手続きに多くの時間と労力が割かれている。この部分は市民からは見えない部分で、公務員の不信にも結びつく。これを解消するために、国と県と特定の市でチームをつくって、補助金交付の事務上の手続きを検討するように、特区提案できないか考えている。
*一方で補助金をなくそうとする取り組みを行い、他方で補助金手続きの簡素化に取り組んで、補助金改革をサンドしていきたい。
*国から県を経由してくる補助金については県を省いて直接市に持ってくるようにしたい。国から直接くるものと県経由のものとでは、同じ分野の補助金でも細かさが違うので、それを統一したい。県単独補助金の部分は別枠で考えるのがいい。
*地方債については、協議承認制になったとはいえ、1件審査には変わりはない。ある程度の枠配分を行い、各自治体の実情に合わせて地方債のメニューを自由に使えるようにすべきだ。
*外国人参政権については、それぞれの議会の了承が取れるのか問題がある。これから分権を進めて行こうとするときに、地方の参政権を認めていくというのは当然の動きだ。地方参政権の付与について中央の政治家が反対するということはあまり聞かない。霞が関の問題だろう。
*公務員の短時間勤務については、図書館などの管理では有効だろう。外部に全面委託してしまうと、行政の目が届かなくなる恐れがある。若干の職員と非正規職員、それにボランティアが参加すれば運営はうまくいく。
*病院ボランティアでも、市が募集するとパブリックサービスであるので、ボランティアが集まりやすい。ボランティアをする人は社会貢献だと思って応募する面があるだろう。完全に民間委託すると、なかなかそうしたひとはこない。
*徴税では、差し押さえをやろうとしても、既に国や県に先手を打たれてしまう。国・県・市で共同での取り組みができないか。情報を持っている国とフットワークのいい市町村が連携することで、収納率を上げられるのではないか。
*分権によって県の仕事も受け持つことで、事務方の仕事が増えている。しかも、人件費などはもらえない。浮いたお金は一体どこに行ったのか。統計の仕事など、中央省庁は外部に委託するが、それがみな市町村にくる。市町村が持っている数字ならやむをえないが、調べなければならないものならば、委託を受けたものが自分で調べるべきだ。
*特区推進会議の担当者同士で直接連絡を取り合えるように、メールアドレスの一覧表を会員自治体に配布してほしい。
*WGでは細かい話が多くなると、担当でないと話がしずらい面がある。議題を決めてもらって、担当が出席した方がいいのかもしれない。
*理論武装のためには議論に研究者の参加が必要だ。全体的なことがわかるものとそれぞれの分野ごとに個別の問題に詳しいものが必要だ。 |