1 構造改革特区制度の導入により、これまで改革が遅れていた教育、農業、医療・福祉などの分野で規制緩和が進んできたことは大いに評価できる。また、地域経済の活性化ばかりでなく自治体運営や組織のあり方などについても、いくつか提案が行われ、その一部が実現したことも大きい。自治体側にも、みずから政策を立案していこうという機運が生じてきた。
2 しかし一方、これまでのところ構造改革や地域再生という言葉から連想されるようなダイナミックで本質的な提案が多いとはいえず、また、認められた特区も小粒で断片的な規制緩和のものが多く、パッケージとしての政策革新にまでは至っていない。しかも、回を重ねるうちに、政策の根幹にかかわるものが先送りされる傾向が強くなり、当初の勢いが弱まってきた感が否めない。
3 こうしたなかで、新たに地域再生計画構想が急浮上し、本年2月末にはプログラムが決定された。この地域再生計画には補助金の運用の改善や金融措置などが含まれ、構造改革特区制度の足らざるところを補い、政策実行手段の範囲を広げたものとして理解されるものであるが、しかし、この両者が重なる部分も多く、両者の関係が判然としないという戸惑いも自治体側に多く見られるところである。
4 構造改革特区や地域再生計画は、地域からの提案を求めることにより、これまでの政策のイノベーションを図るとともに、自治体の意識改革を進め、自治体の政策構想能力を高めるという効果を着実にもたらしており、今後さらに推進する必要がある。とくにいわゆる三位一体改革のもとで自治体の財政は一層逼迫の度合いを強めており、そうしたなかで自治体運営の自由度をさらに高めていくためには、改革をさらに加速化させていかなければならない。しかしながら、各省の対応はまだまだ鈍いといわざるを得ず、推進の旗を振る大臣および内閣府の一層の努力を期待したい。
5 今後、さらに制度を使いやすくするためのいくつかの提案を行いたい。
@ 構造改革特区制度の前提として、「新たな財源措置はとらない」ということになっている。このため、特区提案のうち、少しでも補助金や税制に絡むものは全てとりあげられていない。特に、教育や農業分野に株式会社などの参入を認めたものの、それに対して私学助成や農業の制度金融は使えず、参入効果は大きく減殺されることになる。構造改革特区で扱う問題は規制緩和だけで、カネがらみの問題はすべて地域再生計画に委ねるというのであれば、特区で認められた計画が地域再生計画にスムーズに移行できるような仕組みを設ける必要がある。
A 提案に対する各省庁からの回答内容が果たして妥当なものであるのかどうか、たとえば評価委員会や規制改革・民間開放推進会議など第3者機関が判定して、膠着状態を改善していく必要がある。膠着した案件については、提案者や担当省庁が公開の場で議論する機会を設ける必要もある。
B 各省庁から「D−1:現行制度でも対応可能」との回答を得たものの、実際には実施できないケースがある。とくに権限が都道府県にある場合、都道府県によって対応が異なり、実現可能という結果にならないことも多い。地方分権の時代に都道府県に対して中央省庁からの指導を求めるのは筋違いであるが、現実には都道府県の運用は中央省庁の態度で大きく変わるわけであり、中央省庁としても「現行制度で対応可能」と他人事のようにいうだけでなく、そのような回答を出したということを各都道府県に周知徹底させる努力は払うべきである。また、都道府県だけでなく、各省の実務担当者の理解が得られないため、実際には進展しない場合もある。
C 具体的な申請手続きなどについては、申請書類や実績報告書類が細かすぎるという指摘がある反面、提案書の概略の記載では申請者の意図が推進室や各省庁に伝わりにくいとの指摘もある。また、申請書はすべてメールで出来るようにすべきだとの意見もある。さらに特区提案から実際の特例適用までに時間がかかり過ぎ、この期間を短縮してもらいたいとの意見もある。かなりの申請量を限られた人数で捌くなかで、これらの注文を全て満足させることは難しいが、申請手続きは出来るだけ簡素化しながら、何回申請しても進まない案件などについては、別途、直接の話し合いの機会を設けるなどの対応策を講ずる必要がある。
D 今後、構造改革特区と地域再生計画とが並存して提案の受付、認定申請受付が行われるとなると、実務的には大いに混乱する。この両者を統一するのもひとつの考え方であるし、統一しないならば連携の強化と一体的運用を図ってもらいたい。
6 推進会議としては、今後自治体間の連絡を密にしながら、単独では実現しにくい案件については共同歩調をとるなど、さらに多くの分野での政策実験が実現するよう努力をしていく所存である。現在、横の連携をとりながら重点的に取り組むべき分野としては下記の諸項目が挙がってきているが、さらに検討を続けていきたい。
【教育分野】
・地域住民が学校運営に積極的に関わることのできる住民参加型学校の実現
・株式会社の経営による学校に対する私学助成
【農業分野】
・地域に対応した農業への企業参入の促進(農業ビジネス、都市近郊型農業)
・農地法、都市計画法における権限移譲や、地域性に即した対応
・ 農業振興地域の除外、農地転用許可の権限移譲
・ 国産材の活用を含めた林業の活性化
【まちづくり分野】
・都市計画の線引き権限の市町村への移譲
・三大都市圏における用途地域決定権限の市町村への移譲
・イベント開催時等の道路使用許可の簡素化
・違法駐車・路上駐車の規制に係る権限移譲
・右肩下がりの時代における中心市街地の再生策
・地籍調査の改善、円滑・迅速化
【医療・福祉分野】
・介護保険制度の改正
・国保制度の改革
【産業政策分野】
・自由貿易地域(フリートレートゾーン)の認定
【自治体改革分野】
・市税等滞納整理事務に関する民間参入特区
・組織、権限、職員などについての自治体ごとの自由な設定の容認 |