1 税・財政改革
2 規制改革
3 地方自治
4 政策の見直し
5 民営化
6 機構改革・公務員制度
2001年4月に小泉内閣が誕生してから、丸3年が経過し、4年目に入った。「聖域なき構造改革」を掲げ、颯爽と登場したときには、世間は「なにかやるのではないか」と期待した。しかし、いまやその期待は裏切られ、小泉構造改革は既に失速し、変質してしまった感がある。
この1年間の出来事を振り返ってみても、いくつかの大きな出来事があった。2003年11月の総選挙でも、2004年7月の参院選挙でも、年金問題やイラクへの自衛隊派遣問題が争点となった。
年金問題に対しては、国民の年金不信を払拭するためにも、抜本的な改革が行われるはずであった。たしかに、負担を引き上げて給付を引き下げるという措置は思い切ったものであったが、これで年金制度に対する信頼は回復せず、ほんの一時凌ぎの措置になってしまった。
これとは対照的に、国内にさまざまな議論があるにもかかわらず、イラクへ自衛隊が派遣され、しかも、半年も経たないうちに日米首脳会談で自衛隊の多国籍軍への参加ということが、国内での議論よりも対米配慮が優先され、あっさりと決定した。有事関連7法も制定され、この国はこのままだとどこへ向かうのか、不安に思われるようになった。
小泉内閣の看板の一つは、道路公団の民営化であった。民営化の検討が始まったとき、これまでの高速道路建設に対して国と地方との分担、政治の関与などに創意工夫が行われ、新たな仕組みが生み出されるものと期待した。しかし、その期待は見事に裏切られ、実質的にはこれまでと大差のない仕組みが温存され、計画の見直しも行われなかった。公団を株式会社にすれば、それで民営化が実現したと考えているのであろうか。
道路公団の次に、かねてからの小泉首相の念願であった郵政事業の民営化の議論が始まった。しかし、これもまた、道路公団と同じく、郵政公社を株式会社にするだけの、形だけの民営化が行われるだけに終わりそうな状況である。むしろ、株式会社の形態を取った「官業」がますます力を持つことになる恐れさえ生じている。地域で集めた資金をその地域に還流させるといった、分権的な発想は全く見られない。
三位一体の改革が2003年から進められることになった。しかし、これまでの経緯を見る限り、若干の税源は移譲したとしても、それ以上に国から地方への財政支出を削減し、中央財政の負担を軽減することが優先されている。中央集権体制そのものを見直し、国・地方を通じた財政構造改革を進めるという理念が極めて乏しい。
しかしながら、改革の芽が全て摘み取られているわけではない。三位一体改革でも知事会が自ら補助金削減の作業に乗り出したことは大きい。構造改革特区も、教育や農業の分野などで、これまで進まなかった改革が自治体からの提案によって、少しづつ進み出した。小泉内閣の打ち出す大きな改革スローガンは空振りが多いが、自治体を中心に、現場からの感覚で政策の転換を迫っていく動きに今後の期待をかけたい。
以下、2003年7月から04年6月までの1年間の動きを振り返って見ることにしたい。
1 税・財政改革
1-1 2004年度予算、赤字国債発行は過去最高
2003年12月24日に決定された2004年度政府予算案は、一般会計82兆1109億円と前年度比0.4%増となったが、税収は前年度比0.1%減の41兆7470億円にとどまり、国債発行額は0.4%増の36兆5900億円、そのうち赤字国債は30兆900億円(前年度比0.2%増)と、過去最悪であった2003年度を650億円上回ることになった。国債依存度も44.6%と過去最高となった。2004年度末の国債発行残高は483兆円に上る見込みである。
歳出面では公共事業費(−3.5%)、文教・科学振興費(−5.2%)、防衛費(−1.0%)が軒並み減少したものの、社会保障費が4.2%増となったため、一般歳出は0.1%増となった。また、地方交付税は5.2%減となったが、国債費は4.6%増となった。
財政投融資は12.5%減の20兆4894億円と5年連続して減少し、ピーク時のほぼ半分の規模となった。一方、財投機関債の発行は前年度比18.5%増の4兆46億円が予定されている。
なお、予算案は2004年3月26日、成立した。
1-2 三位一体改革は数合わせに
2004年度予算編成は、国・地方財政の構造を改革する三位一体改革の初年度にあたるが、自治体向けの補助金は1兆円削減したものの税源移譲は行われず、所得譲与税の形で4249億円、また、義務教育費のうち退職手当などが削減された見返りとして税源移譲予定交付金が2309億円手当てされることになった。なお、所得譲与税4249億円のうち2051億円は、2003年度で削減した義務教育関係費(年金積み立て分など)に対して創設した特例交付金を今回、所得譲与税に振り替えたものである。
また、1兆円の補助金削減の内容は、11月末に急遽目標値が引き上げられたこともあって、各省に削減枠の割り当てを行って纏め上げたため、数合わせとなり、教職員の退職金など移譲されても自治体の自由度が増えないものも多く、また、まちづくり交付金に衣替えして生き残ったものもある。(3-4,3-5,3-6参照)
1-3 景気対策予算は組まず
落ち込む一方であった経済状況もようやく安定し、立ち直りの気配を見せてきたため、2004年度予算においては景気刺激的な配慮は後退し、住宅ローン減税の継続などが行われたにとどまった。
また、2003年度補正予算案は2004年度予算案と同時に編成されたが、景気対策的な要素は盛り込まず、イラク復興支援費1000億円、社会保障関係の義務的経費増加分7000億円、災害復旧費などを計上するだけにとどまった。前年度の決算剰余金などを活用し、国債の増発は行わない。景気対策でない補正予算は97年度以来6年ぶりとなる。
1-4 特別会計は207兆円
2004年度の特別会計予算の歳出規模は207兆3511億円、前年度比4.1%増となった。事業の整理合理化を進めて5000億円ほどの削減を行ったものの、財政融資特別会計から郵政公社への預託金の払い戻しなどの特殊要因もあり、前年度より8兆円の増加となった。2004年度の事業見直しでは、労働保険特別会計で雇用安定のための事業費を前年度より647億円、厚生保険特別会計では福祉施設の経費を51億円削減などが挙げられている。
財務省では、2005年度も引き続き特別会計の事業費削減に取り組む予定で、2000億円程度の削減を予定している。
1-5 2003年度は新規国債1兆1000億円減
2003年度の一般会計は、税収が当初見込みより1兆4942億円上回り43兆2803億円となったため、2003年度分の新規国債発行は1兆1000億円減少した。当初予算より国債発行が減ったのはバブル期の1989年以来14年ぶりという。
税収の伸びを支えたのは法人税で、当初予算より1兆11億円増、消費税も2216億円、所得税も1046億円増加した。また、歳出面でも低金利のため国債費が見込みより5383億円減少し、歳出不要額は1兆874億円となった。そのほか、税外収入の増などもあり、剰余金は1兆506億円となった。
1-6 2004年度の税制改正は小幅、ただし個人には増税
2004年度税制改正は、将来に向けての議論はさまざまに行われたものの、結果としては小幅なものとなった。しかし、個人に対する増税がいくつかある。
まず、年金課税については、2005年1月から、老齢者控除50万円が廃止され、また、公的年金控除の最低保障額も140万円から120万円に引き下げられることになった。この結果、65歳以上の年金受給者の課税最低限は285万5000円から205万3000円となった(社会保険料控除も13.1万円から9.4万円に縮小)。
また、住民税の均等割りが、市町村税についてはこれまで人口区分で2000円から3000円までの3段階であったのを3000円に統一した。さらに、妻に対する非課税措置を廃止し、年収100万円を超える妻に対し2005年度から2000円、2006年度から4000円を課税することになった。
住宅ローン減税は2003年末までの入居者までとなっており、2004年からは減税規模を圧縮することが一時検討された。しかし、景気配慮もあり、2004年は10年間、最大500万円の控除という制度を継続することとし、2005年から4年間かけて段階的に縮小することになった。
住宅を売却してもローンを返済できない場合の救済策として、譲渡損失を所得控除する制度も創設された。5年以上住んでいる住宅が対象で、3年以内で損失を繰り越し控除できる。土地建物の譲渡益に対する税率はこれまでの26%(所得税、住民税合計)を20%に軽減、短期譲渡益に対しても52%から39%に引き下げ、不動産取引の活性化を狙う。
企業関係では、すべての企業で、不良債権処理で生じた欠損金を翌年以降の黒字で相殺できる繰越控除制度の適用期間が5年から7年に延長された。金融界が希望していた繰り延べ税金資産一掃のために過去16年分の税金の繰り戻し還付、無税償却の拡大は前年に引き続き認められなかった。必要な財源が巨額になること、金融機関に対する特別扱いに対する反発などが理由とされている。
商業地の固定資産税については、負担水準を70%から60%の範囲内で、条例で決められるようになった。(環境税は4-18参照)
1-7 年金財源の議論は先送り
年金財政を立て直すためには増税やむなしとの気運が一般化してきた。小泉首相は任期中の消費税率引き上げは行わないとの立場を一貫して続けているが、自民党幹部の間では消費税率引き上げが必要との意見が相次いでいる。また、民主党も、年金改革のためには消費税率引き上げが不可欠との立場を鮮明にしている。新聞社による世論調査などでも年金財政の立て直しのためには消費税率引き上げはやむなしとの意見が強くなってきている。小泉内閣では2006年度までを「改革と展望の期間」としているが、それが終了した時点で一挙にすべての問題が噴出してくることになると思われる。
2004年度税制改革では、年金財政建て直しのために与党である公明党は所得税の定率減税の廃止を主張、11月総選挙のマニフェストにも書き込んだ。定率減税は99年から実施されたもので、所得税の25%(上限25万円)、住民税の15%(上限4万円)を税額控除するもので、廃止すると所得税2.5兆円、住民税0.8兆円の増税となる。公明党の案では、初年度は上限額を10万円に引き下げ、3年目からは減税率を10%に引き下げ、5年目に廃止することになる。しかし、自民党や財政当局は、公明党主導で行われることを警戒、また、景気配慮もあり、2004年には実施を見送ったものの、税制改革大綱には年金財源として用いるために2005および2006年度において、定率減税の廃止・縮減を行う方針を書き込んだ。(4-1参照)
1-8 消費税は総額表示に
2004年4月から、消費税は内税となり総額表示が義務づけられることになった。これは2002年末の税制改革決定したものであり、2003年の通常国会で法改正が行われた。
2 規制改革
2-1 総合規制改革会議から規制改革・民間開放推進会議に
総合規制改革会議は2001年4月、それまでの規制改革会議の名称を変更して再出発したが、2004年3月末で任期満了となった。その後継組織のありかたについては一時、閣僚をメンバーとする本部を設置し、その下部機関として民間人による組織を置く案も検討されたが、これでは改革の実が挙がらないとの意見も強く、結局、内閣には首相を本部長として全閣僚がメンバーとなる「規制改革・民間開放推進本部」を置き、それと並存する形で民間人による「規制改革・民間開放推進会議」を内閣府に置き、推進本部には推進会議の幹部も出席することになった。このような2本立ての組織にした理由としては、民間人による会議の意見と実際にとられる措置との間の乖離が大きく、これを調整していくことが必要というものであるが、運営次第によっては推進会議の意見が推進本部で中和される恐れもある。
2-2 規制改革新3ヵ年計画の決定
2004年3月19日、「規制改革・民間開放推進3ヵ年計画」が閣議決定された。2004年度から2006年度までに取り組む規制改革の基本方針を示すもので、重点項目として医療、教育、農業など17項目を掲げ、官製市場の開放として車検制度の見直しなど762項目を盛り込んだ。また、規制の実施や修正に対しそのコストや便益を客観的に分析する「規制影響分析(RIA)」の導入を目指し、その手法の開発や向上を目指すことにもなった。
2-3 総合規制改革会議の成果はあがらず
規制改革推進会議は2003年7月15日、中間答申として「規制改革推進のためのアクションプラン・12の重点検討事項に関する答申 ―消費者・利用者本位の社会を目指して―」を首相に提出、重点項目として12項目を掲げた。しかし、これら12項目のうち、各省との折衝で合意に達したものは4項目に過ぎず、12月22日の最終答申では8項目については具体的施策が書き込まれず、検討課題として残された。
合意に達したものは、医薬品の一般小売店での販売(医薬部外品に移す)、幼保一元化のスケジュール前倒し、高層住宅に対する容積率緩和、職業紹介の自治体・民間事業者への開放であり、合意に達しなかったのは株式会社による病院経営、混合診療、医療分野への労働者派遣、株式会社・NPOによる学校経営、大学・学部設置の自由化、株式会社による農地取得、株式会社による特養経営、株式会社による農業経営である。
なお、規制改革会議では10月に、公物管理、労災保険及び雇用保険事業、高度人材の移入促進、自動車検査制度、借家制度の5項目を重点項目に追加、これらについては今後の方針が最終答申に書き込まれた。
なお、2003年6月と11月に規制緩和に対する要望を広く一般から募集し、その結果、9月には67項目、2004年2月には93項目について、それぞれ緩和方針が決定、これらは3月の「3ヵ年計画」に盛り込まれた。
2-4 WTO交渉は難航、FTA交渉が始まる
2001年11月のドーハ閣僚会議で、2005年1月1日を期限としてWTO新ラウンド交渉を開始することが決定された。しかし、農業問題や投資・競争などの新ルール設定などをめぐって先進国側と途上国側との利害は対立、2003年9月の閣僚理事会は「中間とりまとめ」を行えないまま決裂した。
2004年2月には一般理事会が開かれ、2004年12月に閣僚会議を香港で開催するという米国側からの提案は、開催時期よりもまず交渉を前進すべしとの意見が出され、採択されなかった。3月には7分野での交渉が再開され、8月1日には一般理事会が開催されて、交渉期限を延長し、2005年12月に香港で閣僚会議を開催することが決定した。
WTO交渉が難航している中、このような多角的な貿易交渉方式自体が古いのではないかとの意見が次第に強まっている。各国とも2国間自由貿易協定(FTA)を締結する方向に走り出している。日本では他国に比べて取り組みが遅れていたが、2002年1月にはシンガポールと協定を締結、11月30日に発効した。その後、2002年10月、日墨首脳会談で交渉開始が正式に決定され、1年間をめどとして11月から交渉が開始された。しかし、日本側からは豚肉、オレンジジュースなどについての妥協案を提示したが、メキシコ側からは新たな要求もあり、2003年10月14日から始まった閣僚折衝では16日になっても合意できず、物別れに終わった。しかし、その後も交渉は継続し、2004年3月12日、日本・メキシコ間のFTA交渉は正式に妥結した。批准を済ませ、2005年1月に発効する。
東南アジア諸国については、タイ、フィリピン、マレーシアとは2003年12月のそれぞれの首脳会談で交渉開始に合意、交渉が始まった。また、インドネシアとは2003年9月から予備協議が行われている。韓国とは2003年10月の首脳会議で交渉開始に合意、2005年内に交渉をまとめる予定となっている。
農水省は、2004年6月、これらアジア諸国との交渉で、コメを関税引き下げの例外扱いとする方針を決めたが、交渉は難航することが予想される。(4-16参照)
2-5 銀行の業務範囲の拡大
2004年6月2日、改正証券取引法が成立し、12月から銀行の証券仲介業が解禁され、銀行窓口での株売買が出来るようになった。また、2004年2月には、上場不動産投信の窓口販売を2004年中に解禁する方針も金融庁は明らかにしている。なお、証券取引法改正により、インサイダー取引による不当利得は全額没収、企業が資金調達の際に虚偽の報告を行った場合には課徴金がかけられることになった。これは2005年4月から。
保険商品の窓口販売については、2004年3月31日、金融審議会の部会報告が出され、1年後から段階的に進め、3年後には全面解禁の方針を打ち出した。保険業界からはこれに関しては強い反対もあり、自民党からも異論が出されていたが、段階的に解禁すること、また、銀行に対しては圧力販売防止の措置をとることなどを条件として踏み切った。
2-6 信託業参入に3基準
2004年3月、信託業法改正案が国会に提出された。これは、金融機関だけに限っていた信託業務への参入を一般事業会社にも解禁するもので、幅広い信託業を営む場合は免許制、資産管理だけを行う場合は登録制、企業グループ内でグループ企業だけを相手とする場合は届出制とするとともに、信託の対象として知的財産権も加える内容のものであるが、通常国会では継続審議となった。
2-7 足利銀行の国有化と地域金融機関の再編
2003年11月29日、政府は金融危機対応会議を開き、足利銀行の経営破たんを認定し、預金保険法に基づいて国が全株式を強制的に取得する「一時国有化」を決定した。一時国有化された銀行は長銀、日債銀に次いで3行目で、地銀では初めて。
2004年6月14日には、金融機能強化法(公的資金新法)が成立した。主に地域金融機関を対象としており、2005年4月からのペイオフ全面解禁を控え、自己資本比率が基準を下回る不健全行のほか数字上は問題のない健全行への公的資金注入が出来るようになる。投入枠は2兆円。申請は2008年3月末まで受け付ける。合併行には経営責任を問わないことで、地域金融機関の再編も促す。
2-8 NTT接続料の主張は平行線
2003年7月17日、KDDIなど新電電5社はNTTの接続料を認可した総務省を相手に、認可の取り消しを求める行政訴訟を起こした。コスト構造が違う東西地域会社の接続料を同一にしたのは、適正な原価の反映を求める電気通信事業法38条の2違反、また、同法で規定していない事後清算制度の導入は違法、などが訴訟理由。
2005年度以降の料金体系については、2004年4月20日、総務省は情報通信審議会に対して諮問を行った。固定電話の退潮に伴い接続料が上昇するのを抑えるため、接続料は下げて基本料を上げる案が出されているが、NTT、新電電の主張は平行線を辿っている。審議会は10月にも結論を出す予定。
また、総務省は4月の情報通信審議会に対し、電話加入権料の廃止の是非についての検討も諮問した。
2-9 公取、NTT東に排除勧告。NTT東は拒否
2003年12月4日、公正取引委員会はNTT東日本に対し、光ファイバー回線を使ったインターネット通信サービスをめぐり、他の通信業者の新規参入を妨害したとして、独禁法違反の排除勧告を出した。「Bフレッツ」の戸建て向け月額料金を、通信事業者向け回線貸し出し料金より安くし、他社の新規参入を妨害したというもの。
この件では既に総務省が11月に是正のための行政指導を行っており、公取の排除勧告はそれに重なる形となり、NTT東は応諾しない方針を15日発表した。今後は審判の場で争われることになる。
なお、公正取引委員会は電力・通信などの参入妨害に対して排除命令が迅速に出せるよう独禁法改正案を取りまとめたが、同改正案に含まれる課徴金問題について産業界などの異論が強く、改正法案の国会提出は持ち越しとなっている。
2-10 通信サービスの多様化進む
2003年7月17日、電気通信事業法が改正され、市内通話の通話料など一部を除き、利用料に応じて料金を引き下げるなど顧客別の料金設定が出来るようになった。2004年4月から施行。
2004年4月27日には、「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」の最終報告が公表され、携帯番号の持ち運び制が2006年度にも導入されることになった。
なお、2004年4月から、固定から携帯にかけるときの電話料が各社とも引き下げられた。それぞれ、固有の4桁番号をダイヤルする。
2-11 NPOによる有償運送の是認
NPOや住民組織などが介護輸送を行う場合や、交通空白地域で輸送サービスを行う場合に代金を受け取ることは道路運送法違反にあたるとされ、長らく問題となっていた。しかし、2002年10月にはこれらを構造改革特区として認めることが発表され、2003年5月の第1次特区認定で徳島・上勝町などいくつかの特区において実施されることになった。
その後、2004年3月16日に国土交通省の通達が出され、3月31日から、特区ではなく全国どこでも実施可能となった。なお、福祉移送サービスの場合は、使用する車両は福祉車両に限定されたが、特区申請すればセダン型の自動車でも対応可能となった。
2-12 羽田発着枠見直し始まる
2004年2月20日、国土交通省は「当面の羽田空港の望ましい利用のあり方に関する懇談会」を開き、2005年2月に予定されている羽田空港発着枠の再配分の検討に着手した。発着枠は現在、782枠でそのうち78枠をスカイマークなど新規航空会社が使っている。
スカイマークは2004年1月、羽田・那覇線に参入の方針を発表、発着枠の優遇を申し出たが、3月になって、機材の調達などの関係で当初の就航予定を2004年7月から2005年3月に延期すると発表した。なお、スカイマークは2008年末までに現在の5機を12機に大幅増強し、那覇を新たなハブ空港とする方針も明らかにした。
2-13 酒の販売自由化、薬の販売も緩和
2003年9月から酒類の小売販売免許に人口要件が削除され、小売業の参入が容易になった。しかし、議員立法による「酒類小売業者の経営の改善に関する緊急措置法」が7月に施行され、免許の新規交付や他地域からの移転が1年間認められない「緊急調整地域」が設けられた。全国3383地域(原則として市区町村)のうち、この緊急調整区域に指定されたのは922で、27%になるが、その多くは大都市の地域である。
厚生労働省の「医薬品のうち安全上特に問題がないものの選定に関する検討会」は2003年12月18日、医薬品のうち350品目を選定した。これらについては医薬部外品とし、一般小売店でも販売できるようになる。しかし、要望が強かった、解熱剤や内服用の風邪薬は対象外となった。(厚生労働省は2004年7月16日、関係省令を公布、7月30日から施行。なお、ここでは品目は371品目となっている)。
2003年8月、ディスカウントストアーのドンキホーテが、薬剤師が不在となる深夜などの時間帯に薬剤師によるTV電話販売を行った件について厚生労働省は中止を指導、ドンキホーテ側は販売が駄目ならば翌月から無料配布を行うと表明、規制改革会議も関心を示すなどにわかに論争に火がついた。厚労省では、急遽9月末に、「深夜・早朝における医薬品の供給確保のあり方等に関する有識者会議」を立ち上げ、2004年1月22日に報告を発表した。報告書はTV電話を通じた深夜・早朝の薬品販売を認める一方、その実施にあたっては、常用薬でもTV電話の場合は薬剤師に相談しなければならないこと、薬剤師センターは店舗と同一の都道府県に設置すること、薬剤師は最低週1回各店舗を日中巡回することなどの条件が付されており、2004年4月から解禁されたものの、ドラッグストアーの多数は実施を見送りの方向である。
2-14 500KW以上の電力自由化と中立機関の発足
2004年4月から、500kw以上の需要家にも電力自由化の範囲が拡大した。これは2003年6月11日に成立した改正電気事業法の部分施行で、2005年4月から全面施行される。
経済産業省では総合エネルギー調査会電気事業分科会において、全面施行される際に大手電力会社の送電網を新規参入者にも使わせるルールを定め、参入妨害が生じないように監視する「中立機関(送配電等業務支援機関)」の制度設計や500KWの判定基準などを検討、分科会中間報告は2003年12月に発表された。その後、託送料金など残された課題などの検討が行われ、分科会報告「今後の望ましい電気事業制度の詳細設計について」が2004年5月21日に発表となった。
なお、2004年2月には電力会社、新規参入企業、中立委員などからなる「中間法人電力系統利用協議会」が設立され、経産省の指定を受けて中立機関としての活動を開始した。
2-15 廃棄物処理法の改正
2004年4月21日、改正廃棄物処理法が成立、産業廃棄物の不法投棄の罰則が強化された。改正法では指定有害廃棄物の収集、運搬、保管を禁止したが、具体的には硫酸ピッチを念頭においており、そのための政省令の改正案が8月にパブリックコメントにかけられた。
また、この政省令改正案には、産業廃棄物の不法投棄抑止を狙うため、産廃運搬車のすべてに「産廃」の表示を義務付けることが盛り込まれた。2005年4月から実施の予定。
2-16 温室効果ガスの排出量に報告義務化検討
環境省は2004年6月4日、中央環境審議会地球環境部会に、オフィスビル、商業施設、病院などの事業者が、温室効果ガスの排出量を自ら算定し報告することを義務づける方針を示した。2005年3月にまとめる新しい温暖化対策推進大綱に盛り込むことを狙う。京都議定書の目標達成のためには、2008から12年までに、オフィスや店舗でCO2を90年の6%減少させなければいけないが、2002年度では36.7%増となっているという。(3-27参照)
2-17 独禁法改正案は持ち越し
2003年10月28日、公正取引委員会独占禁止法研究会は報告書をまとめて発表した。報告書は、独禁法改正の柱として、課徴金制度の見直し(算定率の引き上げ、適用範囲の拡大、減免制度の導入)と独占・寡占規制の見直し(不可欠施設のある場合の参入阻止行為の排除)を掲げたものである。公正取引委員会ではこの報告書をもとに独禁法改正案の取りまとめにかかったが、特に課徴金の引き上げなどに関しては産業界からの反対が強く、また、寡占規制についても所管官庁との二重規制になるとの反論も出され調整は難航、結局、2004年春の通常国会に提出は出来ず、先送りとなった。
2-18 消費者保護基本法は消費者基本法に
2004年5月26日、消費者保護基本法の改正法が可決成立した。改正の柱は、これまで保護の対象とされてきた消費者を自立した主体と位置付け、国による企業活動への事前規制から企業の自主的な取り組みを前提とした事後チェックに軸足を移すもの。これに伴い、法律の名称から「保護」をとり、消費者基本法となった。また、内閣府の消費者保護会議も「消費者政策会議」に改めた。さらに、国には「消費者政策の大綱」策定を義務づけ、消費者の苦情処理窓口の市町村に加え、都道府県も施策立案などの役割を担うこととし、中核機関としての国民生活センター活用も盛り込んだ。
内閣府の国民生活審議会消費者政策部会は2003年5月28日に「21世紀型の消費者政策の在り方について」を取りまとめたが、今回の法改正はこの報告書に沿ったもの。ただし、消費者保護基本法が1968年に自社公民による議員立法で制定されたこともあってか、今回の改正も議員立法で行われ、与野党調整のうえ内閣委員長が法案を提出、委員会審議を行わず直ちに可決成立した。
2-19 景観緑3法の成立
2004年6月11日、景観緑3法(景観法、景観法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律、都市緑地保全法一部改正法)が可決成立した。自治体に一定区域内での建築物の色彩やデザインを規制する権限を付与、また、大規模開発の際には敷地面積に25%を上限に緑化を義務付けるもの。
2-20 建築基準法の改正
2004年5月14日、建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律が可決成立した。耐震性の劣るビルなどの自治体が補修や建て替えを勧告できる制度を導入し、危険なビルを放置した法人への罰則を50万円から最高1億円に引き上げた。
2-21 65歳までの雇用の確保
2004年6月5日、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部改正法が可決、成立した。65歳までの雇用を確保するため、段階的定年の引き上げ、再雇用制度の導入、定年廃止のいずれかを2006年度から企業に義務づけるもの。再雇用者は労使協定で定めれば全員を対象としなくてもよい。大企業では3年間、中小企業では5年間、労使協定ではなく就業規則で再雇用制度を決められる。また、募集にあたって65歳以下の年齢制限を加える場合には、その理由を開示しなければならない。
2-22 改正労働者派遣法の施行
2004年3月1日から、改正労働者派遣法が施行された。一定期間を派遣労働者として働き、その後に正社員として採用される「紹介予定派遣」の派遣期間は最長6ヵ月となった。
2-23 外国人労働者の部分解禁へ
フィリピン、タイなどの諸国とFTA交渉を続けていく中で、これらの諸国からの労働者受け入れ問題が浮上してきた。介護と看護の分野で、日本の国家資格を持ったものを一定の枠内で受け入れる案が出てきているが、反対論も強い。
こうしたなかで、日本経団連は2004年4月14日、外国人雇用法を制定して受け入れ体制を整備し、外国人受け入れを促進すべきだとの提言をまとめて発表した。
2-24 地域運営学校の是認
中央教育審議会は2004年3月4日、「今後の学校の管理運営の在り方について」をまとめて発表した。この中で、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校(地域運営学校)は、学校運営の在り方の選択肢を拡大する一つの手段として、教育委員会の判断により設置することを是認、保護者や地域住民の参画を制度的に保障するための学校運営協議会を設置し、運営協議会は、教育計画、予算計画の方針などの学校運営の基本的事項について承認、また、教員人事についても教育委員会に意見を申し述べることができることとした。
また、公設民営の学校については、当面、幼稚園と高等学校を対象とし、特区制度の中で承認していくことが望ましいとして、初等教育への適用や全国展開には否定的な見解を示した。
この答申により、学校運営協議会の設置規定を盛り込んだ「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正案」が3月12日に国会に提出され、6月2日に可決成立した。
2-25 教育委員会の見直し論議始まる
教育委員会のあり方についてはかねてより議論があったが、2003年6月には志木市が特区構想として教育委員会の廃止を提案したため、にわかに議論が盛んに行われるようになった。特区提案については文科省は拒否したが、2004年3月4日、文科省は中央教育審議会に地方分権時代における教育委員会の在り方についての検討を諮問した。
なお、地方分権改革推進会議は2004年5月12日の最終答申において、教育委員会設置の選択制を提言している。
2-26 大学入学資格の緩和
文科省は2003年8月6日、大学入学資格(受験資格)を2004年春から大幅に見直す方針を発表した。これによれば、高卒でない人も志願先の大学が認めれば大検を経ないでも受験できるようになる。高校中退者やフリースクールの生徒、さらには朝鮮学校の卒業生がこの対象となる。また、英米の教育評価団体の認定を受けた16校と、教育内容を大使館ルートで確認できる韓国、台湾、インドネシア、フランス、ドイツ、カナダなどの12校は学校ごとに大検を免除、ブラジルとペルーの学校は日本語学校などで1年間の準備教育課程を修了することが条件となった。
朝鮮学校卒業生については、10月初めの朝日新聞調査によれば、全国83の国立大学のうち56大学が受験資格を認め、残り27大学のほとんども認める方向だという。また、高校中退者やフリースクール出身者についても、多くが大検なしでも受験資格を認めている。
2-27 へき地病院の配置医師数基準緩和
2004年2月26日、地方の医師不足問題を協議している厚生労働、文部科学、総務3省連絡会議は、へき地の病院については医師の確保が難しい場合には配置医師数の基準を緩和し、診療報酬の減額も行わない方向で制度を見直すことで一致した。
2-28 保健所長の医師資格の条件付免除
厚生労働省は2004年4月23日、保健所長に医師以外のものでも就任を認める方針を発表した。ただし、自治体の努力にもかかわらず医師を確保できない場合だけに限ることとし、医師と同等の公衆衛生分野の医学的知識を持ち、1年間の養成訓練課程の修了者に限っている。
2-29 救急救命士の気管挿管と薬注射
2004年3月に厚生省令が改正され、7月から救急救命士の気管挿管が認められるようになった。しかし、そのためには救急救命士は病院で講習を受け、30例以上の経験をつむことが条件。6月27日に発表された総務省消防庁の調査結果によると、気管内挿管の実習を始めたところは16都道府県にとどまり、しかもたとえば1000人の救急救命士がいる東京都で2004年度の養成目標はわずか50人だという。
また、厚生労働省と消防庁は、2003年12月25日、心肺停止状態の患者蘇生のために薬剤注射を救急救命士に認める方針を決めた。そのためには約250単位(1単位50分)の追加講習が必要で、実際に実行されるのは2006年度以降になる見通し。
2-30 構造改革特区は一応軌道に
構造改革特区の提案募集は2003年6月に第3次募集、10月に第4次募集が行われ、それぞれ280件、338件の提案が行われた。これらの提案に対して、9月には特区として認めるもの19項目、全国対応として緩和するもの29項目、翌年2月には特区対応17項目、全国対応33項目が決定した。
実際の特区申請は2003年7月に第2回受付、10月に第3回受付、2004年1月に第4回受付、5月に第5回受付が行われ、それぞれ1ヵ月ほどの間に47件、72件、88件、70件の特区が認定された(既認定特区の範囲拡大も含む)。
2003年10月には地域再生計画構想が打ち出され、2003年12月から翌2004年1月にかけて第1次提案募集が行われた。提案は673件となったが、2月27日、この中から地域再生計画として認めるもの23項目、全国対応とするもの118項目が決定した。
2004年6月には構想改革特区第5次提案募集と地域再生計画第2次提案募集とが一緒に行われ、あわせて652件の提案が出された。
構造改革特区は、実施後評価委員会が評価し、問題がないものは全国的実施に移すことになっているが、評価委員会は2003年10月に発足、2004年4月から本格的な評価作業に入った。評価委員会は8月に結果を発表し、9月に正式決定する運びとなる。
3 地方自治
3-1 期待はずれの地方分権改革推進会議
2004年5月12日、地方分権改革推進会議は最終意見「地方公共団体の行財政改革の推進等行政体制の整備についての意見」を小泉首相に提出し、活動を終了した。この最終意見では、今後の分権の課題を網羅的に取り上げてはいるが、特に注目すべき主張は見当たらず、話題にもならなかった。
分権改革推進会議は地方分権推進会議の後を受けて2001年7月に発足、積み残しの課題となっていた税財源移譲について推進力となることが期待されたが、その期待は裏切られ、特に2003年6月の「三位一体改革に関する意見」の取りまとめの過程で、意見案に対し11名の委員のうち5名が反対ないし署名拒否という騒動になり、そのあとは急速に影響力を失っていた。
3-2 道州制の検討始まる
2003年8月26日、小泉首相は高橋北海道知事に北海道を先行事例として道州制の検討を始める提案を行い、高橋知事もこれを了承し、北海道道州制の検討が急遽開始された。北海道は2004年4月26日、構想案を内閣府に提出したが、経済財政諮問会議で取り上げられたのは1ヵ月後の5月28日で、席上、北海道開発局など国の出先機関の整理についての取り組みが不十分などの注文がつけられた。北海道ではこの指摘を受けて1ヵ月後に構想を再提出することになったが、参院選などの関係で締め切りが延長され、実際に再提出されたのは8月9日となった。
こうした動きの中で、青森・岩手・秋田3県は2003年9月、道州制移行も視野に入れた3県合体の検討会を立ち上げ、12月24日には東北6県で東北州を目指すことで合意した。また、2003年11月13日の首都圏サミットで神奈川県松沢知事は首都圏連合構想を提案、構想自体は先送りされたが、都県の枠を超えて広域的に連携を強化していくことでは意見が一致した。
2004年3月1日には第28次地方制度調査会が発足し、小泉首相から「道州制のあり方、大都市制度のあり方、その他、最近の社会経済情勢の変化に対応した地方行財政制度の構造改革について」の諮問が行われた。調査会では2004年秋にも中間報告を行う方向で検討を開始した。
3-3 市町村合併は引き続き推進
読売新聞が2004年4月30日に発表した調査によれば、2005年4月1日までに市町村数は3100から約7割の2100に再編される見通しだという。しかし、この数字は当初掲げていた1000自治体への再編という目標値には届かない結果となる。
こうした中で、地方制度調査会は2003年11月13日、「地方自治のあり方に関する答申」をまとめ、首相に提出した。答申では、市町村合併特例法が失効する2005年4月以降は、新法を制定して一定期間さらに自主的な合併を促すこと、2005年3月末までに合併申請を終えて2006年3月末までに合併する場合には特例法を適用すること、新法では知事は合併構想を策定することとし、その際の小規模市町村はおおむね人口1万人未満とすること、知事は合併協議会の設置を勧告した場合、市町村は議会に付議するか住民投票を行う制度を検討することなどを盛り込んだ。また、合併後の住民自治を保障するため、新たに地域自治組織を設けることとし、一般的にはこれに法人格を認めないが、合併市町村に限って一定期間法人格を持った地域自治組織(特別地方公共団体)を置くことが出来るようにした。また、この地域自治組織におかれる長と協議会は無報酬で、任命は基礎自治体の長とした。
2004年3月9日、合併新法案(市町村合併特例法案、市町村合併特例法改正案、地方自治法改正案)が閣議決定され国会に提出、5月20日可決成立した。なお、国会審議の過程で、3万人で市とする特例が追加された。
3-4 税源移譲の代わりに所得譲与税
2003年6月の経済財政諮問会議は、2006年度までにおおむね4兆円の補助金を削減し、そのうち義務的なものは全額、その他はおおむね8割の額を税源移譲すること、交付税の総額は抑制することなどの三位一体改革の基本方針を決定した。
2004年度予算編成はその改革初年度にあたるが、予算編成も中盤に差しかかった11月18日の経済財政諮問会議で、2004年度予算における補助金削減は1兆円とすることが決定した。具体的検討は、各省に削減目標額を設定することで進められたが、最後までもつれて閣僚折衝に持ち込まれたのは、義務教育費国庫負担金と生活保護費の取り扱いであった。結局、義務教育費については退職手当など2300億円が盛り込まれることになったが、生活保護の国庫負担割合の引き下げについては2005年度に遅らせることになり、12月10日の政府・与党合意で決着した。
税源移譲については、当初、たばこ税の移譲案などが検討されたが、地方分権推進の意図を明確にするためには基幹税の移譲が必要だとの認識が高まり、たばこ税案は土壇場になって撤回。しかし時間的余裕もなく、結局、将来の本格的税源移譲を実施するまでの暫定的な措置として所得譲与税を創設、4249億円を譲与することになった。また、義務教育費分の2300億円は、将来、退職手当が増加することもあるので特例交付金とし、これも将来の税源移譲の対象となる。なお、2004年度の4349億円の所得譲与税の対象には、前年度の義務教育費削減(年金積み立て分など)2243億円が含まれている。(4-9参照)
3-5 三位一体改革第2幕は知事会が主役
2004年6月4日に閣議決定された「基本方針2004」では、2004年秋に三位一体改革の全体像を明らかにするとともに、税源移譲額は概ね3兆円とすること、その前提として整理する補助金については知事会など地方6団体が案を作ることになった。
3-6 三位一体改革が地方財政を直撃
2004年度予算において取られた措置は地方財政を直撃した。補助金1兆円削減に対して所得譲与税と特例交付金あわせて6500億円しか地方に財源は回らないだけでなく、地方交付税は1.2兆円削減、臨時財政対策債も1.7兆円削減されたためである。都道府県も市町村も財政調整基金のとり崩しでなんとか2004年度予算を編成したが、もうこれ以上は限界という状況になっている。
3-7 独自課税とミニ公募債発行は盛ん
2004年7月15日、滋賀県と奈良県が導入の産廃税について、総務省は同意した。また、10月16日には新潟・山口県の産廃税についても同意した。
九州知事会は2004年5月19日、九州7県が2005年度から一斉に産廃税を導入することで合意した。熊本県をのぞく6県は最終処分場への搬入だけでなく焼却施設への搬入も課税対象とする共同の課税方式を採用するが、熊本県だけは中間施設である焼却場への搬入には課税しない。今回の合意を受け、福岡、佐賀、長崎、大分、鹿児島の5県は6月定例県議会で税条例案を提案、熊本、宮崎両県は9月議会での提案を目指す。
東京豊島区は2003年12月9日、ワンルームマンション税と放置自転車税の条例をそれぞれ可決した。ワンルームマンション税は1戸あたり50万円を建設事業者に課税するもの。総務省は2004年3月20日に同意し、6月から施行されることになった。一方の放置自転車税は区内に乗り入れている鉄道会社5社に対し、駅利用者1人あたり0.74円の割合で課税するもので、駅周辺の駐輪場整備の貢献度により税控除が受けられる。このため、駐輪場などを整備した西武鉄道はほとんど無税に対し、JR東日本には年間1億円ほどの税がかかることになる。これに対して、総務省は2004年5月26日、豊島区に対して鉄道5社と話し合いを尽くすべきだとの要請を行った。
東京都が2000年4月から導入した銀行新税に対し銀行側は10月に提訴、2002年3月、銀行側勝利の1審判決が出され、2003年1月30日の控訴審判決でも課税は無効とされた。その後最高裁まで持ち込まれたが、2003年7月に和解の動きが始まり、9月17日、双方が和解に合意した。これにより、税率を3%から0.9%に引き下げ、銀行側が収めた3年度分の税金の差額に年率4%強の還付加算金を加えた2300億円を返還する。東京都議会は10月6日、改正銀行税条例を可決、10月8日、正式に和解が成立した。これに追随し、大阪府議会も2004年3月に税率を3%から0.9%に引き下げる条例を可決したため、大阪でも銀行側は訴訟を取り下げることになった。
横浜市が導入を求めていた「馬券新税(勝ち馬投票券発売税)」は総務省の反対で事態が進まず、市議会は2004年2月25日、廃止条例案を可決した。これに伴い、横浜市は3月5日、自治省との間で2000年12月から始まった協議を取り下げた。
神奈川県は2001年8月に導入した「臨時特例企業税」の税率を3%から2%に引き下げ、課税対象となる欠損金については、2004年3月31日以前に開始する課税期間において生じたものに限定して5年間延長することとし、2004年3月、条例は可決された。もともとこの税は、国が外形標準課税を行うまでの措置としてとられたものであるが、2004年度から導入される外形標準課税は法人事業税の4分の1にしか適用されず、対象も資本金1億円超の企業のみであるため、一部修正したうえで延長に踏み切った。
いわゆるミニ公募債の発行は、総務省の発表によれば、2002年度が1635.5億円であったのに対し2003年度は2682億円と大幅に増加した。2004年度は既に4−6月で545億円が発行され、7−9月でも762億円が予定されている。
3-8 住基ネットが本格稼動
2003年8月25日、住基ネットが本格稼動し、専用回線による市町村同士の情報交換が始まった。今回の本格稼動により、希望者にはICチップ内臓の住基カードを交付、条例により市立病院などの予約や各種証明書の自動交付が可能となる。
本格稼動の時点で参加しなかった自治体は、ネットから離脱している福島・矢祭町と東京・国立市、住民選択制導入を表明したまま不参加の東京・杉並区、離脱から参加を表明したものの準備が間に合わなかった東京・国分寺市と中野区の5市区町。また、選択制を導入した横浜市では住民348万人のうち85万人が不参加。その後、中野区は10月31日に、国分寺市は2004年2月18日から参加し、運用を開始した。杉並区は横浜市が行っている住民選択制を採用しようとしても、これを認めない東京都と国を相手取り訴訟を起こす方針を決め、8月に提訴に踏み切った。
なお、2004年1月29日から、公的個人認証サービスが開始された。本人確認に必要な電子証明書などを住基カードに組み込む。長野県は個人情報保護が不十分との観点からこれへの参加を見送っていたが、7月をめどに参加する方針を4月に発表した。
3-9 地方税の電子申告開始
岐阜、大阪、兵庫、和歌山、岡山、佐賀の6府県は2005年1月から地方税の電子申告を始めることを2003年10月に明らかにした。対象となるのは法人事業税と法人住民税で、納税企業はインターネットで申告書類を提出できるようになる。今後は対象を個人にまで広げ、2006年度からは電子納税にも対応する。
また、都道府県と政令市は2003年8月に地方税電子化協議会を設置、法人関連税や固定資産税の電子申告、納税の検討を始めた。6府県の先行実施を踏まえ、2005年度中に全都道府県での電子申告システム導入を目指すとのこと。
総務省の「地域における情報化の推進に関する検討会」は2004年4月27日、自治体の情報システムをインターネット技術で統合し、大量のデータを共同運用できる新システム(次世代地域情報プラットフォーム)の構築を提言した中間報告を発表した。
3-10 9割の自治体が情報公開条例
総務省が2003年7月22日に発表したところによると、2003年4月1日現在、都道府県、市町村に東京23区を加えた3260団体のうち、2937団体が情報公開条例や要綱を制定しており、前年に比べ268団体増加した。市では調査時点では新潟・加茂市、岐阜・山県市、香川・東かがわ市の3市が未制定であったが、山県、東かがわ市はその後の6月議会で制定した。なお、すべての都道府県では警察、議会までを情報公開の対象としており、北海道、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、大阪、兵庫、鳥取、岡山、広島、香川、宮崎の17都道府県では議会を対象とした独自の条例を制定している。市区町村では2890団体のうち2837団体が議会を情報公開の対象としている。そのうち、議会を情報公開の対象とした独自の条例(要綱等)を定めているものは49団体。
3-11 4分の3の自治体が個人情報保護条例
2003年4月1日現在、都道府県及び市区町村においては、全3260団体中74%に当たる2413団体が個人情報の保護に関する条例を制定しており、制定団体数は前年度と比較し252団体増加した。都道府県、指定都市及び特別区においては、全ての団体が個人情報の保護に関する条例を制定している。
このほか、条例ではなく規則や規程等により個人情報保護対策を講じている市町村が415団体あり、条例を制定している団体と併せて、全団体数の86.7%に当たる2828団体が何らかの形で個人情報保護対策を講じていることになる。
2003年5月に個人情報保護関連5法が成立したことを受けて、総務省は自治体に対して都道府県警も対象にした条例の見直しを通知し、朝日新聞の調査では2004年2月現在39都道府県が警察も含めた見直しを始めている。しかし、2004年3月に改正された宮城県の条例では公安委員会と警察本部長が実施機関に加えられた(2005年4月から)ものの、犯罪予防等の関連情報は非開示となった。
3-12 自治体サービスの民間委託は進行
日本経済新聞社が2004年4月に発表したところによると、2月1日時点で全国の市および東京23区で民間委託が最も進んでいる施設は公園・児童遊園で62%の自治体が民間委託していた。次いで、コミュニティセンター43%、市区民会館・公会堂38%、病院・診療所35%。委託費用は施設管理で1000億円を超え、5年後には6000億円に達するという。施設以外では、本庁舎清掃(98%)、可燃ごみ収集(78%)で進んでいる一方、バス事業は19%、地下鉄など電車事業は0.3%にとどまった。
一方、民間委託により職員が減ったところは45%どまりで、しかも少人数の削減が多く、50人以上の減少と答えたのは14%に限られた。委託の障害として挙げられている理由の73%(複数回答)が、職員の処遇を挙げている。
また、総務省が2004年3月に発表した調査(全自治体、2003年4月現在)によると、事業の委託率が特に高いのは下水処理施設の92%、都市公園管理91%、病院90%であった。また、委託の広がっていない分野は学校用務員事務(20%)、庁舎の案内・受付業務(20%)、公用車の運転(29%)であった。
3-13 名誉昇給制度の見直し始まる
2003年7月31日、東京・世田谷区は退職時に基本給を引き上げて退職金を増額する「名誉昇給」制度を見直し、10月からは勧奨退職者への適用を廃止し、定年退職者も一律ではなく功労審査を行い、対象者を1割程度とする方針を打ち出した(10月から実施)。その後、都内の自治体では見直しが相次ぎ、12月31日に読売新聞が発表した調査によれば、18区1市が見直しを決定した。この結果、2003年度末に支給される退職金は全体で5億3000万円削減されるという。
また、読売新聞が2003年8月4日に発表した調査によると、廃止した香川県をのぞく46都道府県で退職時の特別昇給が実施されているという。国家公務員は20年勤続で1号俸引き上げを行っているが、国と同じ引き上げを行っているのは2003年度から引き下げた京都、鳥取、山口を含め19府県。27都道県では定年退職のとき、さらに1号俸アップさせて2号俸昇給させていた。対象者も東京では15年以上、島根は10年と緩く、また、14都県は全退職者の8割以上に適用している。
なお、香川県は2001年の外部監査の指摘を受け2003年1月から廃止したもので、東京都も2004年度から廃止した。
3-14 介護保険、170団体が赤字
2003年度の介護保険の赤字団体は163市町村と7団体であることが厚労省などの調査でわかった。自治体は3年ごとに需要見通しなどを改定しているが、2003年度は第2期(2003−05年度)の初年度。第1期の初年度である2000年度の赤字団体は78団体であったから、倍以上の増加となる。第1期は給付額の増加で、最終的に4分の1の自治体・団体が赤字となった。
厚労省が2004年2月25日に発表した2002年度介護保険事業報告によると、要介護認定を受けた人は2003年3月末日現在で347万人、1年間で15.5%の伸びとなった。特に、要支援が28%、要介護1が20%の増となり、この2つの軽度介護で全体の45%を占めている。介護サービスにかかった費用は前年度比13%増の5兆1929億円で、予算編成時の見込みを約1000億円上回っている。
3-15 グループホームに民間参入加速、一部では参入制限も
厚労省の調査によると、グループホームの経営主体は株式会社など民間企業が42.8%、3700ヵ所(2003年10月時点)と最多で、1年前に比べて8.7%増加した。社会福祉法人の経営は27.3%にとどまる。
2004年4月5日に発表された朝日新聞の調査によれば、2004年3月末現在、グループホームの数は4774ヵ所で、介護保険制度導入直前の2000年3月に比べて18倍の増加となった。2003年度1年間でも1900ヵ所増えており、8割の自治体で介護保険開始時に見込んだ2005年3月末の入所者数を超えている。こうした急増ぶりに、青森、栃木、群馬、兵庫、山口、香川、熊本、沖縄の8県と福岡市など3指定都市が整備抑制や地域的偏在を調整する規制を実施している。栃木では要綱を策定し、市町村が公募し審査委員会が選んだ事業者だけを県が指定、青森や山口では、市町村保険計画の整備数を超えている場合、指定を申請した事業者に自粛を求める。この他、三重、長崎、京都府など4府県2市が規制を検討中、それ以外の自治体でも7割が将来は抑制策が必要と答えている。
2003年11月の特区提案において、稲城市など15市町村が共同で、グループホームや有料老人ホームなどの指定にあたり、市町村の計画を超えた場合は都道府県は新たな指定を行わない、希望する自治体には都道府県は指定権限を移譲することを提案した。この提案は特区としては認められなかったが、厚労省は制度全体の見直しの中で対応する方針である。
3-16 保育所への企業参入、10市が拒否
毎日新聞が2004年1月4日に報じた調査によると、保育所設置の認可権を持つ都道府県と13政令市35中核市のなかで、さいたま、名古屋、京都、大阪、北九州の5政令市と相模原、姫路、倉敷、大分、宮崎の5中核市が企業参入を完全拒否または事実上拒否していた。小泉内閣は2001年7月に「待機児童ゼロ作戦」として新設保育所については社会福祉法人、企業、NPO等をはじめ民営で行うことを基本とする、との閣議決定を行ったが、名古屋市は2001年10月に要綱を定め、設置主体は社会福祉法人を基本とすることとした。宮崎市は2003年5月、要綱に「社会福祉法人でなければならない」と企業排除を明確にしている。
厚労省によると、2003年4月時点での待機児童は2万6383人、最多は大阪市の1355人。また、2003年7月時点での保育所数は2万2371ヵ所で、このうち企業の設立は28ヵ所にとどまる。
3-17 自治体からの教育改革提案相次ぐ
構造改革特区の提案制度を使って、教育制度に関する改革提案が自治体から数多く行われ、そのなかから改革の動きが出てきた。
既に2002年において英語教育中心の教育などカリキュラムの弾力化、あるいは不登校対策のためのコミュニティスクール、市町村負担教職員任用などが提案されて実現したが、2003年度には教育委員会廃止論や地域運営学校の設立などが提案された。これらの提案は中央教育審議会の検討課題となり、地域運営学校は2004年6月の地方教育行政法改正で実現することになり、また、教育委員会のあり方の議論も2004年3月の中教審への諮問が行われて始まった。(2-24,2-25参照)
3-18 PFIは都市の大規模自治体が中心
2004年3月に内閣府が発表した「PFIに関する全国自治体アンケート調査結果」によると、PFI導入に向けて既に検討中あるいは既に導入事例がある自治体は、大都市圏では14%、地方圏では5%であった。大都市圏、地方圏とも人口規模が大きい自治体ほど導入済みの自治体の割合が高く、人口30 万人以上ではそれぞれ59%、41%となっている。2年前の調査結果との比較では、大都市圏では7%から14%と7 ポイント増加、特に、人口30 万人以上の自治体では37%から59%に増加し、過半を占めた。人口10 万以上の自治体でも11%から20%に9ポイント増加している。地方圏においても、人口30万以上の自治体では39.7%が41.0%に微増にとどまったが、人口10万人以上の自治体では12%から20%に8ポイント増加した。しかし、地方圏全体では3%から5%に増えたにとどまっている。
最も多くPFIを導入したいと考えている分野は、文教・文化関係(43%)、観光関係(34%)、公営住宅関係(33%)、社会福祉関係(31%)、廃棄物処理(25%)という順に多く、逆に、PFIを導入したいと考えている割合が少ない分野は、空港関係、警察関係、河川関係、海岸保全・港湾関係、更生保護関係、宿舎関係などであった。
3-19 羽田再拡張で合意
2003年12月12日、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市は羽田空港の再拡張のために、国に1300億円の無利子融資を行うことで合意、再拡張工事の2004年度着工が決定した。沖合に2500メートルの滑走路を整備、完成は2009年。国は5700億円(うち財投資金3500億)拠出し、合わせて7000億円で整備する。また、ターミナルや駐機場などはPFIで2000億円かけて整備する。この完成で、発着便数は1.4倍となる。国交省では、年間12万2000回の増加分のうち約3万回を近距離国際便に充てる方針。なお、国に対し自治体が無利子貸付を行えるよう、2004年2月3日、羽田空港再拡張特別措置法案(東京国際空港における緊急整備事業の円滑な推進に関する特別措置法案)が閣議決定され、3月31日、可決成立した。
また、自民党税制調査会は2003年12月16日、羽田空港の再拡張事業に伴い、国が東京都に払う「国有資産等所在市町村交付金」の一部を減額する方針を決めた。同交付金は現在国(空港整備特別会計)から都に年間約40億円支払われているが、新たに滑走路が出来れば年間で50億円増えることになる。今回の措置は、この増額分の半分25億円を減額するもので、減額によって、実質上、都がその分事業費を負担することになる。措置は新設滑走路供用開始後10年間適用される。
なお、飛行ルートについては、浦安市の上空を通過することなどから千葉県は変更を求めていたが、国交省は滑走路の向きを7.5度海側に向けるなどの設計変更を行い、5月25日、千葉県はこれを了承した。
3-20 静岡空港への補助は継続
2004年2月29日、国交省は2006年度開港を目指す静岡空港の整備事業は公共事業として妥当と判断し、2004年度以降も引き続き補助金を交付する方針を決定した。国交省の公共事業評価システム検討委員会は、北海道などの遠隔地との高速交通体系の利便性が向上し、需要予測も適切に実施されているとして、事業採算性を認めた。
同空港は事業開始から2003年度で10年目を迎えたため、国の再評価の対象となった。2003年7月、県の事業評価監視委員会は「事業継続は適当」との結論を出し、その後、国交省が県や航空会社へのヒアリングなどを実施、審議を続けていた。
静岡空港は、同県が設置する第三種空港(県営)で、島田市と榛原町にまたがる牧ノ原台地に建設。総事業費は約1900億円で、本体整備費490億円の2分の1が国庫補助金の対象となる。
3-21 ダム建設中止相次ぐ
2003年7月30日、栃木県の福田知事は県が鹿沼市で計画していた東大芦川ダムの建設を中止すると発表した。このダムは1973年に計画が発表され、総事業費310億円のうち用地買収や調査費で32億円費やされている。福田知事は2000年11月に建設見直しを公約にして初当選、2001年に計画を中断し学識経験者らによる検討協議会を設置、同協議会は2003年5月、建設推進・中止の両論併記の答申を知事に提出していた。知事は、河川改修などの代替策で十分対応できると述べている。河川改修費は約70億円かかるが、その他の費用を考慮しても総事業費を削減できるという。
2003年12月3日、群馬県の小寺知事は県が倉渕村で計画中の倉渕ダムについて、本体工事などの着工は当面見合わせる方針を明らかにした。同ダムは1990年に事業採択されて建設工事が着工、付け替え道路などは完成し本体工事の段階になっていた。建設費は当初275億円の予算であったが、すでに130億円近くまで使われていて、完成までには当初予算の約2倍の550億円程度が必要といわれている。ダム建設費は、国庫補助事業としての多目的ダムということで、全体の87.9%を国と県が半分ずつ負担し、残りの12.1%を高崎市が水利権を得るために負担することになっていた。
2003年12月8日、埼玉県の上田知事は、水資源機構が1992年から建設を進めている戸倉ダムから撤退する方針を正式に表明、東京都石原知事も、翌9日、撤退を正式に表明した。大口利水者の埼玉・東京が撤退したことを受け、国交省は12月25日、戸倉ダムの建設中止を正式に決定した。同ダムは2008年完成予定で、総事業費1230億円、東京・埼玉など4団体が事業費の51%を負担することになっていた。ダム本体の工事は未着工だが、付け替え道路などで2002年度までに271億円支出済み。埼玉県の試算では、撤退の費用は既に支出した工事費など20億円に地元対策など新たにかかる約69億円の合計89億円。これに対し、撤退しなかった場合の負担は約380億円に上るという。東京都でも、既に工事が進行中の八ツ場ダムや滝沢ダムが完成すれば水の需要は賄えるという。(4-14参照)
3-22 八ツ場、湯西川、滝沢ダムの工事費アップ
また、2004年5月25日、国交省関東地方整備局は茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京の6都県などで構成する連絡協議会を開催、建設中の八ツ場ダムと湯西川ダムのコスト削減問題について協議していくことになった。この2つのダムについては、2003年11月、国交省がダムの基本設計を変更、建設事業費も八ツ場ダムでは2110億円から約4600億円に、湯西川ダムでは880億円から1840億円に増額し、関係都県負担を求めていた。
また、水資源機構が建設中の滝沢ダムについても、2100億円から2320億円に事業費の増額を埼玉県などに要請した。
埼玉県の「八ツ場ダム等の建設に関する基本設計変更に係る懇話会」は2004年2月4日、これらの増額要求に対して、国の負担割合を増やすことを条件に承認する報告書を提出、県は東京都などとともに国に協議を申し入れていた。
3-23 横浜市の地下鉄民営化
2003年9月3日、中田横浜市長の私的諮問機関「市営交通事業のあり方検討委員会」は経営不振の横浜市営地下鉄について、完全民営化が望ましいとの最終答申を市長に提出した。答申を受けて、市では2006年度までに第3セクターや独立行政法人などに移行し、経営状況が改善しなければ民営化を検討する。市の地下鉄は利用者数が当初の計画を大幅に下回り、2002年度末で2100億円の累積赤字を抱え、建設資金調達のために発行した企業債の債務残高は4868億円にふくらみ、運賃収入だけでは返済できる状況にはない。10月23日には、横浜市は市営地下鉄や土地開発公社などの抱える借入金が3兆9000億円にのぼり、このうち市が肩代わりせざるをえないものが1兆8000億円あることを明らかにした。地下鉄事業の市の肩代わり分は1500億円と見られている。処理方法としては、企業債から一般の市債に切り替え、一般会計で処理する。
東京都は2004年3月9日、都営交通事業についての2004年度からの3ヵ年経営計画をまとめた。これによると、職員数を地下鉄では350人、バスで100人、路面電車で20人削減し、一方、知識や経験のある高齢者を170人再雇用し、300人程度の削減とする。昇給基準や退職金を見直し、給料水準も引き下げる。地下鉄車両については設計段階から費用対効果を検証、発注・契約方法も見直す等の対策をとる。この結果、地下鉄事業では2005年度にも51億円の黒字(2003年度は30億円の赤字)となる見通し。バスは赤字幅の縮小を狙う。
総務省は2004年2月20日、名古屋市を「地下鉄事業経営健全化対策」の対象自治体に第1次指定、3月31日、札幌、横浜、京都の3市を第2次指定した(最終指定)。経費節減や料金値上げなどの財務体質改善を求める一方、過剰債務を解消する市債発行を特例として認める。
3-24 土地住宅公社の経営破綻相次ぐ
2004年2月27日、北海道住宅供給公社の特定調停が成立した。同公社は2003年6月、1300億円の借金、660億円の債務超過を抱え札幌地裁に特定調停を申し出ていた。特定調停の成立を受け、公社は15金融機関に対して3月末までに734億円の借金のうち282億円を一括返済、金融機関側は残り452億円の債権を放棄する。住宅金融公庫からの借り入れ244億円に対しては、国交省の認可が出たため、最高6.75%だった金利を0.15%へと大幅減免し、償還期間を30年に延ばして返済する。道など自治体からの借金450億円は47年かけて返済する。道も指導監督と新たな財政負担の責任をとり、高橋知事の給与10%を3ヵ月減額、副知事も給与の一部を辞退する。今後公社は賃貸住宅などの管理業務や分譲資産の処分に業務を限定し、返済を続けていくことになる。
2004年1月19日、長崎県住宅供給公社は長崎地方裁判所に特定調停の申し立てを行った。相手方は、公社に対して金融債権を有する金融機関等14機関(住宅金融公庫、銀行8 行、保険会社4社、県)。公社の負債総額は2003年3月末で371億3100万円、債務超過は129億6800万円。債務の内訳は、2003年10月末現在、住宅金融公庫 約 53 億2900 万円、銀行(8行) 約107 億4900万円、保険会社(4社) 約 97 億5800万円、地方公共団体(5団体) 約 57億 200万円、合計 約315億4000万円。
2004年2月4日、千葉県住宅供給公社は東京地裁に特定調停を申し立てた。公社の負債総額は970億円、債務超過は570億円で、調停の相手方は貸出残高が1月末の時点で計714億円の民間金融機関11行、154億円の住宅金融公庫、約40億円の千葉県の計13機関。国も3億円を貸し出しているが、長期無利子の契約のため、調停対象からは外した。千葉県内の地銀で一番貸出額の多いのは千葉銀行で、178億7000万円、次いで千葉興業銀行の97億7500万円、京葉銀行の63億1700万円。
2004年6月26日、国交省が明らかにしたところによれば、全国57の住宅供給公社のうち7公社を運営する自治体が「使命を終えた」として解散の意向を示しているという。現在の地方住宅供給公社法では公社の解散を認めていないので、国交省では2005年の通常国会で法改正を行う方針である。改正が行われれば、青森、岩手、福島の3県が2008年度までに解散させる方針を表明、群馬、香川、高知と神戸市も解散の意向を示している。また、山梨も検討を始めた。これらの公社の多くは財務内容が比較的健全であるが、岩手の場合は年に1億以上の赤字を記録しており早期の解散が必要と判断した。2002年度の決算で、和歌山が5000億円、沖縄が9億円、千葉市が11億円の債務超過となっている。
3-25 マンション規制相次ぐ
東京都内ではワンルームマンションが急増しているが、2002年4月に世田谷区が専用面積を25u以上とするとの条例制定したのを初めとして、中央区は2003年7月に10戸以上の建物は家族向け住宅を全体の3分の1以上とする条例を施行、さらに新宿区は2004年4月の条例で30戸以上の場合は1割以上を手すりなどを設置した高齢者向けにすること、文京区は4月の要綱改正で駐輪場の設置台数を総戸数以上とし、管理人室の設置も義務付け、目黒区も6月改正の要綱で文京区と同じ規制を、葛飾区は6月の要綱改正で住戸数に応じて一定数家族向けの住戸を併設するよう指導、千代田区は一定規模以上のマンションでは家族向けの面積を3分の1以上とするとの要綱に加えて、6月の条例改正で地区計画を持つ8地区についてはそれをさらに上回る規制をかけた。大田区も7月には要綱改正で、家族向けの住戸の併設などを求めていく。また、葛飾区はワンルームマンション税を2004年6月から導入している。
傾斜地に立ついわゆる地下室マンションの規制については、横浜市が2004年3月に「斜面地における地下室建築物の建築及び開発の制限等に関する条例」を制定、6月から施行した。また、横須賀市も「斜面地建築物の構造の制限に関する条例」を6月に制定、7月から施行した。さらに、川崎市も「斜面地建築物の建築の制限等に関する条例」を6月に制定、9月から施行する。この他、東京・世田谷区でも検討が進められている。
3-26 首都圏でディーゼル車規制スタート
2004年10月、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県で一斉にディーゼル車規制が施行された。新車登録から7年間過ぎたトラックやバスなどのディーゼル車は、排ガス浄化装置を装着しないで走行することが禁じられた。
11月4日の東京都の発表によると、都内34ヵ所の全観測地点の平均で、粒子状物質が前年の記録より30%減少したという。
また、1ヵ月間で東京都が検査した1002台のトラック、バスのうち、19台の違反者が発見され各事業所に違反通知書を送付した。内訳は都内が4台、3県が6台、1都3県外が9台であった。このうち既に聴聞を済ませた東北、中部地方のトラック4台については運行禁止令が出され、この4台が再び対策を講ぜずに都内を走行すれば、事業所名の公表や50万円以下の罰金となる。なお、東京都のHPによれば、2004年6月までに東京都が運行禁止命令を出したのは35者、39台であった。
3-27 東京都の温暖化対策強化
東京都環境審議会は2004年5月10日、「東京都における実効性ある温暖化対策について」を取りまとめて答申した。その内容は、既存の大規模な工場・事業所等のCO2排出削減をより高い水準で推進するために、各事業者は、都作成の評価基準、削減対策ガイドラインに基づいて削減目標を設定し、成果を自己評価し公表する。これに対して、都も個々の事業者を評価、公表し、特に優秀な取組みには表彰するというもの。当初、都が一律に削減目標を設定し、未達成の事業所には罰則を適用する案も出されたが、事業者の自主的努力を助長するものになった。東京都は2005年度からの実施を目指す。
3-28 地域再生計画第1次認定214件
2004年6月15日、地域再生計画214件が認定された。認定申請は5月に受け付けられ、申請した214件すべてが認定された。
地域再生計画は、2003年10月20日、内閣に地域再生本部が設置され、2003年12月から2004年1月にかけて地域再生計画についての第1次提案が募集された。提出された提案数は299自治体と93の民間から673件であった。地域再生本部では、この中から地域再生計画を認定して実施するもの23件と、全国的に実施するもの118件を2004年2月27日に決定。第1次認定募集はこの23件についての実施を募集するものであった。
その後、2004年6月には第2次提案募集が、構造改革特区第5次提案募集と重ねて行われ、地域再生計画および構造改革特区あわせて652の提案が寄せられた。この決定は9月に行われる予定。
4 政策の見直し
4-1 抜本改革に程遠い年金改革
2004年6月5日、年金改革法が参院本会議で民・社欠席の中で可決成立した。今回の改革により、年金保険料は2017年までに厚生年金では2004年10月から毎年0.354%づつ引き上げて18.30%とする、国民年金では2005年4月から毎年280円づつ引き上げて1万6900円とすることになった。ただし、この金額は2004年価格に換算してのことである。
給付水準は2004年10月から「マクロ経済スライド制」を導入し、物価上昇率から平均0.9%を差し引いて年金額を改定することとし、これを2023年まで継続する。在職老齢年金は、2005年4月から、60歳から64歳について2割削減の措置を廃止し、年金と収入の合計が基準(現行は月28万円)を超えた場合に、その超過分の半額を削減する措置だけ残す。70歳以上の在職者に対しては、2007年4月から、現在の65歳から70歳までと同じく、厚生年金の報酬比例部分と収入の合計が基準(現行月48万円)を超えた場合、その超過分の半額が削減されることになる。
離婚した場合、2007年4月からは裁判などで厚生年金の分割に同意すれば2分の1まで分割することが出来る。2008年4月からは話し合いなしでも自動的に分割される。
遺族年金の受け取りは2007年4月から、夫の死亡時に妻が30歳未満の場合は受給期間がこれまでの無制限から5年に短縮される。
育児休業のうち勤務時間の短縮などの措置については、2002年4月から子供が1歳までから3歳未満までに対象年齢が引き上げられたが、年金制度もこれに呼応して、厚生年金の支払いは育児休業期間中は企業も会社員も免除され、将来の受け取りの時には休業前と同じ保険料を支払っていたとみなす。また、3歳までの子育て期間中、勤務時間の短縮等により収入が低下した場合には、年金額の計算上、低下前の収入とみなすことにした。
基礎年金の国庫負担割合は、現行の3分の1から2分の1へ2009年度までに段階的に引き上げる。その財源としては、公明党が主張していた定率減税の廃止は2004年度は見送り、2005年度以降の検討課題とし、2004年度は、年金課税の強化を行う。また、年金財源として消費税の引き上げの意見は与党の幹部からも幾度となく出されたが、今後の課題に先送りされた。
2004年4月8日、民主党は対案として年金改革推進法案を国会に提出した。その内容は、国民年金、厚生年金、共済年金を一元化すること、税率3%程度の年金目的消費税により最低保証年金を創設し、所得比例の年金(保険料率は現行の13.58%)の2階建てとする。消費税率の引き上げは2007年度から行い、新年金制度は2009年度から導入するというものである。
民主党の対案提出に先立って、3月27日、小泉首相は民主党に年金一元化のための協議を呼びかけ、5月6日、年金一元化も含め、社会保障制度全般のあり方を見直し、2007年3月をめどに結論を出し、逐次実施するとの「3党合意」が成立した。年金法案をなんとか円満に国会を通過させたい与党側の思惑と、4月下旬から発覚した年金未払い問題が閣僚だけでなく菅代表にも降りかかり、民主党の立場も弱くなったことなどが、3党合意成立の背景にある。この3党合意の結果、法案は10日に通院を通過したが、しかし、菅代表は5月10日に辞任、そのあとを継ぐ予定の小沢氏も未払い問題が発覚して17日に代表を辞退、新代表に岡田氏が就任した。岡田氏はこれまでの方針を一転、政府案の廃案を目指し、3党合意も事実上撤回する戦法に出た。これは7月の参院選挙を意識してのことである。
年金改革法が成立した後、6月17日、小泉首相は経済界、労働界も参加した社会保障のあり方を協議する機関の創設を表明した(「社会保障の在り方に関する懇談会」は官房長官、関係大臣に有識者を加えて7月30日に発足した)。
なお、改革法成立後、出生率が1.29と大幅に落ち込んだことが明らかにされたが、意図的に情報を遅らせたのではないかとの疑惑がもたれている。さらに、改革法には条文ミスが40ヵ所発見され、これは官報で修正することになった。
4-2 社会保険庁の改革論議が始まる
年金保険料の徴収実績の上がらないことに加えて、年金未納情報の漏洩、窓口の対応の悪さなどの諸問題が一気に噴出し、坂口厚生労働大臣は5月19日、長官に民間人の就任を要請するとともに機構改革の方針を表明、さらに6月15日には、民間有識者の会議を設け、民営化や独立行政法人化も含めた組織の抜本的見直しを行う私案を発表した。6月18日には官房長官も有識者会議での検討に賛意を示し、方針が決定した(社会保険庁長官には7月23日、損保ジャパンの副社長村瀬清司氏が就任した。また、民間有識者8名に官房長官、厚生労働大臣が加わった「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」は8月4日に発足、11日に初会合を開いた)。
なお、社会保険庁の事務費を年金保険料から支出していることに対しては、6月26日、厚生労働省は一般財源からの支出を検討する方針を示した。ただし、これには財務省は反対している。
4-3 介護保険の見直し始まる
介護保険制度は2000年4月に導入されたが、5年後に見直しを行うこととなっている。法では、施行後5年を目途として制度全般に関して検討を加え、その結果に基づき必要な見直しを行うことになっている。厚生労働省では2003年5月に介護保険部会を立ち上げて検討を開始、2004年1月8日には事務次官をトップとする「介護保険改革本部」を発足させ、大幅な改正作業を始めることになった。利用者が予想以上に増え、年金制度のように給付と負担のバランスが崩れてきているため、予防策の強化や自己負担の拡大、さらには保険料徴収年齢を40歳から20歳に引き下げることや障害者支援費制度と介護保険制度の統合などが検討課題とされた。
5月から6月初めにかけて、障害者も介護保険の給付対象とし、保険料徴収を20歳にまで引き下げる案が報道されたが、介護保険制度に統合することに対しては障害者側からも賛否両論あり、議論は平行線を辿っている。
4-4 医療保険制度改革も議論前倒し
2003年3月28日、医療保険制度改革の基本方針が閣議決定され、2008年度までに実現を目指すことになった。2003年7月16日、社会保障審議会医療保険部会は初会合を開き、検討に着手したが、厚生労働省は2004年6月23日に開かれた第8回部会に論点整理案を提出し、議論を前倒しする姿勢を見せた。これは先行する介護保険の見直しとも絡む部分があるため、議論を早める必要があると判断したものといわれている。
2003年3月に決定された基本方針では、75歳以上の高齢者を対象とした独立した新たな保険制度を創設し、国庫が2分の1を負担するが、残りの半分は現役世代だけではなく高齢者も保険料を負担することになっているが細目は決まっていない。また、運営主体については、都道府県単位で作ることから都道府県という案があったが、都道府県の反対で今は宙に浮いている。
4-5 次世代育成支援対策推進法と少子化社会対策基本法
2003年7月9日、次世代育成支援対策推進法が成立、7月23日には少子化社会対策基本法が成立した。
次世代育成支援対策推進法は、自治体と従業員300人を超える企業に対して、2005年度から10年間の少子化対策の行動計画づくりを義務づけるもの。推進法にもとづき8月21日には関係7大臣連名で行動計画策定指針が策定されたが、その中身はこれまでの各省の取り組みを羅列したものである。なお、都道府県向けには「不妊治療に経済的支援を行う」などが盛り込まれている。
少子化社会対策基本法は議員立法で提案されたもので、もともと1999年12月10日に超党派で衆議院に提出され、継続審議になったものの2000年の国会解散に伴い廃案になった。しかし、2001年通常国会終了間際の6月19日に、衆議院に再び少子化社会対策議員連盟の議員立法として提出され、しばらく店晒しになっていたが、2003年通常国会会期末間近に突如として審議入りとなり、成立した。
この基本法は、第6条に「国民は、家庭や子育てに夢を持ち、かつ、安心して子どもを生み育てることができる社会の実現に資するよう努めるものとする」と国民の責務を定めたほか、不妊治療などにも踏み込んでおり、子供を産むことだけを優先させ、個人の選択の自由を阻むものだとの批判が高まり、「もとより結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが」という文章を全文に付け加える修正が行われた。このほか、保育サービスの充実の項目(第11条)には、「国及び地方公共団体は、保育において幼稚園の果たしている役割に配慮し、その充実を図るとともに、前項の保育等に係る体制の整備に必要な施策を講ずるに当たっては、幼稚園と保育所との連携の強化及びこれらに係る施設の総合化に配慮するものとする。」と、幼稚園の役割をことさら強調したものとなっている。
基本法は9月に施行され、首相を会長とし全閣僚がメンバーとなった「少子化社会対策会議」が2003年9月10日に発足、2004年6月3日に「少子化社会対策大綱」を決定、翌日閣議決定した。
4-6 児童手当は増額、育児休業法案は継続審議、
公明党が強く求めていた児童手当の対象範囲拡大については、2004年度の予算編成過程で小学校3年まで拡大することで政府与党が合意し、2004年6月から支給することになった。そのための法案は6月14日に成立した。
育児休業制度で休業が出来るのは子供が1歳児までであるが、保育所など入れないなどの事情がある場合にはこれを半年間延長し、また、契約社員やパートタイマーにも、一定の勤務実績がある場合には対象とする改正案が2004年2月10日に閣議決定され、国会に送られた。しかし、年金法案などの審議を優先するために継続審議となった。
4-7 教育基本法改正で自公譲らず
中央教育審議会は2003年3月20日に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」の答申を行い、新たな理念として「国を愛する心」を前文か条文に盛り込むことを求めた。しかし、この「愛国心」の扱いについては与党内で自民党と公明党で意見が分かれ、調整がつかないまま2004年の通常国会には法案提出は行われなかった。
4-8 教育改革は特区があと押し
地域運営学校、公設民営による幼稚園・高校が2004年6月の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正案」の成立により実現することになった。また、3月からは中教審で教育委員会のあり方についての検討も開始された。これらはいずれも構造改革特区で自治体から提案されていたものである。特区で提案されたものはほかにも、学習指導要領の弾力化、市町村負担教職員の採用、市町村による教員免許状の発行などがあり、教育改革は自治体からの提案が推し進めていく体制が出来てきた。(2-24,2-25参照)
4-9 義務教育費国庫負担金の問題が焦点に
三位一体改革の中で、削減すべき補助金として、3兆円と額の大きい義務教育費国庫負担金が脚光を浴びることになった。既に2003年度予算編成において、そのうちの年金積み立て分などの経費2051億円が一般財源化され、2004年度予算編成では退職手当など2300億円が一般財源化された。さらに、2005年度及び2006年度で一般財源化すべき補助金として、知事会は激論の末義務教育費国庫負担金のうち中学校教職員給与分8000億円をリストの中に加えた。こうしたやり方について、教育のあり方の議論を抜きにした、金額だけの数合わせであるとの批判もあがっている。(3-4参照)
なお、文科省は2004年度から義務教育費国庫負担金については「総額裁量制」を導入し、標準定数などをもとに都道府県に対する負担総額を決めたあと、都道府県はその範囲内で給与や手当の水準、正規教職員と非常勤講師の配置の割合などを自由に決められるようにするとの方針を2003年9月2日発表し、実施に移している。
4-10 国立大学は法人化
2004年4月から89の国立大学は法人格が与えられ、国立大学法人となった。また、国立大学の教育研究活動を評価する国立大学法人評価委員会は2003年10月31日に発足した。評価委員会は各大学が提出した今後6年間の中期目標と中期計画を審査し、その結果を運営費交付金に反映させることになる。
評価委員会は2004年5月11日、各大学の中期目標、計画を了承し公表したが、審査の過程で具体性を持たせるように要求し、数値目標や達成時期を盛り込んだものが多い。文科省は6月3日にこれらの計画を認可した。
また、国立大学法人の効率化のため、財務省は他の独立行政法人と同じく、事務職員の給与などを含む一般管理費を3%、教員給与を1%削減する方針を示したが、大学側が反発、2004年1月28日、教育研究費は毎年1%づつ削減することとするが、専任教員の給与など対象外とする。また、新たに特別教育研究経費の枠を設け、削減分を補う形とした。
4-11 法科大学院の開校
2003年11月21日、法科大学院66校が認可された。阪大と専大は留保となり、4私大が不認可となった。その後、2004年1月26日には阪大、専大も認可され、4月に法科大学院68校が一斉に開校した。国立20校、公立2校、私立46校で定員5590人であるが、志願者は7万2800人と平均13倍の競争率となった。しかし、国立1校、公立2校、私立11校の計14校は入学者が他校に入学したため、定員割れとなった。入学者のうち48.4%が現役の学生でない社会人であった。
なお、私立の法科大学院に対して、財務省は当初助成しない方針を示していたが、2003年12月22日の復活折衝で、25億円が認められた。このうち20億円を国立と私立の授業料格差約80万円を埋めるために充てる。さらに法科大学院の学生向けの有利子奨学金(月最高20万円)も認められているので、これで格差はほぼ解消するという。
4-12 国幹審、27区間699キロを新直轄方式で建設決定
2004年12月25日、国土開発幹線自動車道建設会議は整備計画のうち完成していない71区間のうち27区間、699キロを道路財源を原資として建設する新直轄方式に切り替えて建設することを決定した。地元の希望はすべてかなえられた。今後15年かけて、国が4分の3、地方が4分の1の負担で建設するが、地方負担分については揮発油税を税源移譲するので、実質負担はゼロ。事業費は19.7兆円となっていたが、規格や工法を見直し15.9兆円に圧縮する。2003年度の予算額は1300億円、2004年度は1700億円。(5-4参照)
4-13 九州新幹線の部分開業と3区間財源先食い着工問題
2004年3月13日、九州新幹線のうち鹿児島・新八代間(127キロ)が開業した。91年に着工して以来13年かかった。残りの新八代・博多間(約130キロ)は6〜8年後に開通する見込み。事業費は鹿児島・新八代間が6400億円であったが、残りの部分は7900億円と見込まれている。
自民党は7月の参院選挙を前に6月2日、新青森・函館間、富山・松任間、武雄温泉・諫早間の3区間を2005年度に同時着工する方針を決定した。また、福井駅は新幹線事業として高架化する。工事費は1兆1600億円。財源は、既着工工事の完成時期が2017年度から2012年度に5年間早まることを前提に、この5年間分の譲渡収入分(約3300億円)を担保として借入を行い、財源を先食いして捻出する計画。
4-14 水資源開発基本計画で新規ダム見送りの方針
国土交通省は利根川など全国7水系について新たな水資源開発基本計画を策定中であるが、2004年1月10日、基本計画には新たなダム建設計画を盛り込まない方針を固めた。これまでの基本計画では69事業が盛り込まれているが、2002年度末で半数の38事業が完成している。水需要が伸び悩んでいて既存施設の供給量が需要を上回る状況となっていることに加え、国や自治体の財政難に配慮した。基本計画は2004年度中に策定の予定(目標年度は2015年度)。(3-21,3-22参照)
4-15 2005年3月までに農政改革案を策定
2000年3月に食料・農業・農村基本計画が策定され、おおむね5年ごとに見直すことになっている。2003年11月21日、首相を本部長とする「食料・農業・農村政策推進本部」の会合が3年半ぶりに開かれ、2005年3月に閣議決定をめざし計画の改定を行うことを決定した。席上、亀井農相は護送船団方式を脱してプロ農家に支援を集中する方針を表明、また、農業改革を国民が実感できるように、物流・資材費などの削減を進め、小売価格の引き下げも目指す。また、WTO、FTA交渉に耐えられるように国際競争力もつけ、輸出も促進することも表明した。
2004年5月24日に開催された「推進本部」の会合では、補助金を選別し、生産性の高い農家に集中、また、農業参入を促進するよう農地法の規制も見直すことなどを内容とした基本構想をまとめた。これを踏まえ、6月3日に経済財政諮問会議が決定した「基本方針2004」には、「2004年夏までに新たな「食料・農業・農村基本計画」の中間論点整理を行い、可能な施策から2005年度概算要求等に反映し速やかに実施する。その際、市場原理に基づく価格形成による競争の一層の促進、担い手を対象とした品目横断的な政策への移行、農業環境・資源の保全政策、農業生産法人の要件や構造改革特区における株式会社等の農業への参入の全国展開等参入規制の在り方について検討を行い、規模拡大や多様な担い手の育成に重点をおく」などの方針が盛り込まれた。
4-16 WTO交渉でコメは例外扱い要求
WTO新ラウンド交渉は2003年9月の閣僚理事会が決裂したが、2004年6月23日、農業交渉が再開した。日本にとって焦点となるのはコメの扱い。日本は従来からコメの例外扱いを主張、途上国側やEUも重要品目についての例外扱いに柔軟な姿勢を示しており、現在の関税率490%、最低義務輸入量77万トンが、関税率は350%、最低輸入量は100万トンといった線になるとの予想もある。一方、コメを守る代償として、こんにゃくやバター、牛肉、豚肉についての一層の譲歩が迫られることにもなる。(2-4参照)
4-17 BSE問題で米国牛肉の輸入禁止
2003年12月24日、米国でBSE感染牛が発見され、12月26日、米国産牛肉の輸入は禁止となった。日本側は、輸入再開のためには米国の検査体制を全頭検査に改めるように主張、日米間の議論は平行線を辿っている。2004年6月28日には、米国で2例目のBSE感染の疑いのある牛が簡易検査で発見されたが、確認検査の結果シロとなった。
4-18 環境税の議論始まる
2003年8月27日、中央環境審議会の地球温暖化対策税制専門委員会は「温暖化対策税制の具体的な制度の案〜国民による検討・議論のための提案〜」をとりまとめて発表した。税率は含有炭素1トンあたり3400円(ガソリン1リットルあたり2円)程度とし、税収は約9500億円。これをすべて温暖化対策に回せば、2012年に2.4%の排出削減が出来るという。
環境省ではこれをもとに各界との意見交換を始めたが、環境税の導入については産業界は強く反発しており、経産省の産業構造審議会では反対の態度を固めている。政府では地球温暖化対策大綱を2005年3月に改定の予定であるが、そこに環境税が対策として盛り込まれるかどうかは不明である。
4-19 国益重視のODA大綱
2003年8月29日、新たな政府開発援助大綱(ODA大綱)が閣議決定された。1992年6月に決定されて以来、11年ぶりの改定となった。
新ODA大綱の特徴は、ODAの目的として「わが国の安全と繁栄の確保に資する」ことを明記し、国益重視の観点を打ち出したことである。また、紛争後の復興支援や国づくりなど平和の構築も、重点項目として盛り込んだ。
4-20 自衛隊のイラク派遣
自衛隊をイラクでの復興支援活動のために派遣する「イラク特措法」が2003年7月26日、成立した。2003年12月19日には航空自衛隊先遣隊に派遣命令が出され、2004年1月9日には陸上自衛隊先遣隊にも派遣命令が出された。陸上自衛隊本体に派遣命令が出されたのは1月26日である。なお、1月31日には衆議院が、2月9日には参議院がそれぞれイラク派遣を承認、また、1188億円のイラク復興支援経費を盛り込んだ2003年度補正予算も同時に成立した。
さらに6月9日の日米首脳会談で、小泉首相は自衛隊の多国籍軍への参加を表明、6月18日、多国籍軍への参加を正式に閣議決定した。イラクの暫定政権への主権移譲は28日に完了し、多国籍軍が発足したことに伴い、自衛隊は多国籍軍に参加することになった。ただし、自衛隊は日本の主体的な判断、指揮に従い、武力行使にあたる活動は行わない。
4-21 有事関連7法の制定
国民保護法案など有事関連7法案が2004年3月9日、閣議決定された。7法案は国民保護法案のほか、米軍行動円滑化法案、外国軍用品等海上輸送規制法案、自衛隊法改正法案、交通・通信利用法案、捕虜等取り扱い法案、非人道的行為処罰法案である。また、同時に,改定日米物品役務相互提供協定締結案、ジュネーブ条約第1追加議定書締結案、ジュネーブ条約第2追加議定書締結案も決定された。
6月14日、これらの法律はすべて成立した。
4-22 新防衛大綱の策定へ
2003年12月19日、安全保障会議及び閣議において、「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」が決定された。この決定は弾道ミサイル防衛(BMD)システムの導入の考え方を明らかにしたもので、これに基づき、2004年末までに新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を策定することとなった。
新防衛大綱策定のために、2004年4月20日、首相の私的諮問機関として「安全保障と防衛力に関する懇談会」が発足、27日に初会合を開いた。
4-23 憲法改正をめぐる論議は次第に盛んに
2003年11月の衆院選挙の自民党公約には「自民党立党50年を迎える2005年に憲法草案をまとめる」との文章が盛り込まれた。また、憲法改正にあたって必要な国民投票法案の制定や国会発議のやり方を定める国会法改正案については、自民党は2004年の通常国会に提出する方向で検討を進めたが、公明党との間で意見が合致せず、見送りとなった。
2004年秋から2005年初めにかけて、各政党はそれぞれの素案を発表する予定であり、これに伴い、憲法をめぐる論議も次第に煮詰まり、論点が明確になってくると思われる。
5 民営化
5-1 JR西日本の完全民営化
2004年2月20日、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、保有するJR西日本の全株式63万4344株(発行済み株式の31.7%)を3月に市場で売却すると発表、3月12日に手続きは完了した。売却収入は2607億円で、旧国鉄退職者の年金支払いに充てられる。
なお、JR東海については224万株のうち88万6000株がまだ未売却である。
5-2 NTT株、2004年度の市場での売却見送り
2004年5月17日、財務省は2004年度のNTT株の市場での売却を見送る方針を固めた。NTTが2004年度に自社株の買い枠を大幅に増やすため、これに応ずる売却を行う。2004年度の自社株買いは80万〜90万株の予定で、その残りは2005年度に一括して売り出す方針。政府は5月現在、722万株を保有しており(持ち株比率約45%)、最低3分の1の保有が義務づけられているため、これを超える192万株が売却の対象となる。
5-3 JT株の売却完了
2004年6月7日、財務省は日本たばこ(JT)株を28万9334株、一株あたり84万3000円で売り出すことを発表した。経費を除いた収入は2410億円となり、国債の償還財源に充てる。政府はJT株の50%にあたる100万株の保有を義務づけられており、今回の売却で処分は完了する。
5-4 道路公団、形だけの民営化
2004年6月2日、道路4公団の民営化法が可決成立した。公団が保有する高速道路資産と約44兆円の債務は独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」に引き継がれ、債務は45年かけて返済する。今後の道路建設や管理、サービスエリア経営は、日本道路公団を3分割した東日本、中日本、西日本3社と首都高速、阪神高速、本州四国連絡の道路会社が行う。これらの道路会社は株式会社とし、政府(首都高速及び阪神高速は国と自治体の合計)が3分の1以上の株式を保有する。本四は経営が安定したところで西日本と合併する。機構と各会社は2005年秋に設立される予定。
高速道路整備計画(9342キロ)の未整備区間約2000キロのうち、採算性の低い約700キロは「新直轄方式」として、全額税金を投入して建設する。それ以外の道路は新会社が借入金により建設する。借入には当面政府保証をつける。建設にあたり、新会社は建設の可否を国交相と協議するが、正当な理由がない限り拒否できない。道路完成後、道路資産と借入金債務を機構に移し、会社は機構から道路を賃借、その賃借料が機構の借入金債務返済に充てられる。
この民営化法の枠組みは、2003年12月22日の政府・与党申し合わせで決定し、法案は2004年3月9日に閣議決定された。12月22日の政府・与党申し合わせに対して、これまで政府の作業を監視する役割を担ってきた「道路関係四公団民営化推進委員会」の田中委員長代理と松田委員は、2002年12月に推進委員会が出した最終報告書の意見が反映されておらず、これ以上監視を行うことは無意味であるとして同日辞任した。また、川本委員も委員会には欠席する以降を表明した。推進委員会は2002年12月の最終報告取りまとめにあたっても内部で議論が紛糾、今井委員長が委員長を辞任、中村委員も委員会をその後欠席という分裂騒ぎがあり、今回が2度目の分裂となった。民営化によって、政治的に進められてきた高速道路建設に歯止めがかけられるかどうかが議論の焦点であり、機構が最終的に債務を引き受けるというような「民営化案」ではなんの歯止めにもならない。推進委員会の報告には、当面上下分離方式を採用するとしても、10年後には各社が資産と債務を引き取るということが盛り込まれており、これが一応の歯止めになっていたが、政府・与党申し合わせでは、45年間、上下分離方式で、料金プール制も継続する。このような仕組みで、果たして45年後にすべての債務が返済し終わり、道路が無料開放になるかは疑問である。(4-12参照)
なお、日本道路公団がすでに債務超過であるかどうかを巡る議論の中で、債務超過を示すような試算を行ったことがないと主張した藤井総裁が、2003年10月に更迭される騒ぎもあった。この解任騒ぎは1ヵ月以上も手間取り、石原国交相の非力さを明らかにした。
また、民主党は2003年11月の総選挙に、高速道路の無料開放を公約として掲げた。
5-5 独立行政法人の見直し
2003年10月1日、34の特殊法人が32の独立行政法人に衣替えして再出発した(厳密にいえば、10月に設立されたのは30法人で、あと2法人は既に設立された独立法人が特殊法人の業務をも継承し、組織変更した)。
2004年6月30日、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は、独立行政法人の中期目標期間(3年〜5年)が終了する法人については、民間・地方への移管、公務員の身分の見直しなどを検討する方針を決めた。経済財政諮問会議が6月に決定した「基本方針2004」では、2004年度に見直し期限を迎える3法人だけでなく、2005年度中に見直し予定の53法人の見直しを前倒しで実施することになった。検討にあたっては、2002年7月に発足し、特殊法人の組織改革を監視してきた「特殊法人等改革推進本部参与会議」も参画することが6月25日に決定されている。
5-6 住宅金融公庫の融資半減
2003年7月30日に財務省が発表した財投の資金運用報告書によれば、2002年度に計画した財政投融資のうち、使い残しが7兆2600億円となった。使い残しの最も多いのが、住宅金融公庫で、当初計画の98%にあたる4兆8700億円があまった。民間金融機関の変動金利型住宅ローンが好調で、公庫の新規契約戸数は当初予定の半分弱の19万戸に止まり、また、繰り上げ償還も増えた。
2004年3月29日に明らかになったところによれば、2003年度の住宅金融公庫の融資戸数は計画の38万戸の半分の約20万戸に止まり、融資額も半減する見込みだという。
なお、住宅金融公庫は民間金融機関の住宅ローン債権を買い取る形で個人に資金を融通する新型ローンの取り扱いを2003年10月から始めたが、これも2003年度は計画の1万戸を大幅に下回る800戸弱に止まる見込み。
5-7 成田空港、営団地下鉄の株式会社化
2003年7月11日、成田国際空港株式会社法が成立し、2004年4月1日、新国際空港公団は株式会社に組織替えを行った。資本金1000億円、空港整備特別会計が全株を保有する。
また、帝都高速度交通営団も2004年4月1日、東京地下鉄株式会社に組織変更した(東京地下鉄株式会社法の可決は2002年12月)。当面は特殊会社(国が53.4%、東京都が46.6%を出資)として出発するが、2010年度の株式上場を目指すという。
5-8 年金福祉施設、勤労者福祉施設の売却
2003年12月28日に厚労省が明らかにしたところによれば、旧年金福祉事業団(現在は年金資金運用基金)が全国に13ヵ所に建設したグリーンピアは、建設費、利子、維持管理費など2944億円が年金会計から支出され、さらに今後854億円が必要となる。仮に資産価値がゼロとした場合、合計3798億円が年金財政から支出されることになる。グリーンピアは2005年度までに売却・廃止が閣議決定されているが、まだ2ヵ所(岩沼、二本松)しか売却が決定しておらず、その売却額は簿価の10分の1の8億円に止まっている。(その後、恵那、指宿の譲渡が2004年7月初めに決定、既に2000年8月に一部が譲渡された土佐横浪は2004年6月に破産したが、須崎市は施設購入費として1億円を補正予算に計上した。)
また、年金加入者向けの住宅融資事業も、利子補給などで2002年度までに1兆4249億円支出、今後の返済や利子収入などを差し引いても9320億円の損失となる。
さらに、2004年2月24日、小泉首相は厚生年金病院などの年金福祉施設についての抜本的な見直しを厚労省次官に指示、これを受けて厚労省は2004年度中に全265施設の整理合理化計画を作成し、譲渡売却を検討する方針を決めた。社会保険庁の試算によると、これら265施設に民間並みの基準を当てはめると、2002年度は97%の256施設が赤字となる。これらの建設に投じられた年金積立金は1兆5000億円以上となるが、既に資産価値は1兆円余に下落している。売却すれば、この含み損に加えて数千億円の損失が発生する見込み。
2004年1月10日に厚労省が明らかにしたところによれば、雇用・能力開発機構が雇用保険で建設した勤労者福祉施設の売却総額を128億円と試算している。簿価は725億円であるが、建設費は4413億円に上っており、投売りによる損失は膨大である。政府は1999年に全施設の売却を決定、1824施設は既に売却、75施設が売却手続き中、76施設が交渉中で、2070施設のうち1975施設に買い手がつく見込み。なお、施設の大半は自治体の土地に建てられており、売れ残った場合は解体して更地で返却することとなっている。厚労省はこの1975施設が売れなかった場合の解体費は599億円と試算、値引き販売のほうが得だとの計算をしている。
5-9 郵政事業民営化の議論が本格化
2003年7月29日、小泉首相は9月の自民党総裁選に立候補する際の公約に郵政事業の2007年4月民営化を盛り込む方針を明らかにし、再選されればそれが秋の総選挙の自民党公約になるとの認識も示した。10月9日に決定した自民党のマニフェスト(政権公約)においては、「2007年4月から民営化するとの政府方針を踏まえ、日本郵政公社の経営改善の状況を見つつ、国民的議論を行い、2004年秋頃までに結論を得る」との表現に落ち着いた。
総選挙後の11月18日の経済財政諮問会議で竹中担当相は10の論点を提示、また、20日の第2次内閣初閣議で小泉首相は郵政民営化などの取り組みを指示した。
2004年2月17日の経済財政諮問会議に竹中担当相は、これまでの3事業のほか窓口サービスのネットワークを新たな機能として加え、その自立を図る考え方を提示した。4月7日の経済財政諮問会議に出された素案では、民営化を2007年とし、その後10年かけて最終的な民営化に移行する、2007年以降は新規預金・保険への政府保証はつけない、全国一律のユニバーサルサービスを維持し、郵便局の窓口で扱う商品を増やし、郵便局網を積極活用する、などの方針を打ちだすとともに、経営形態論については先送りして、自民党内での反対論に気配りを見せた。その後、2007年から最終的な民営化への移行期間を5〜10年とやや短縮し、4月26日の経済財政諮問会議は中間報告を決定した。
7月の参院選挙を控え、その後の議論は表面から消えていったが、6月27日のTVでの党首討論番組で、民営化案の取りまとめは8〜9月に行い、9月中に案をまとめる方針を明らかにした。
6 機構改革・公務員制度
6-1 防衛省への昇格法案提出見送り
防衛庁を防衛省とする「防衛省設置法案」が自民党の国防部会、安全保障調査会、基地対策特別委員会の合同会議で2004年3月4日了承された。しかし、3月9日、公明党の反対もあり国会提出を先送りした。
防衛省昇格問題については2001年に保守系議員から議員立法で法案が提出されたが、2003年秋の衆院解散で廃案となっていた。
6-2 公務員制度改革は出直し
2003年7月17日、自民党は公務員制度改革法案の国会提出見送りを正式に決定した。公務員に能力・業績評価制度を導入すること、民間への天下りについては人事院による事前審査・承認制度を各省大臣の承認制度に改めること、労働基本権の制約を継続し、人事院勧告による給与水準の決定方式を存続させることなどが主な内容であったが,能力評価制度の導入には組合が反発、また、天下りについては規制緩和になるとの反対が強く、又、人事院の権限縮小には人事院が猛反発していた。
その後、2004年3月5日、自民党の公務員制度改革委員会が、天下りは内閣が承認する、11段階に分かれていた能力評価制度を簡素化しわかりやすくする、民間や他省庁との人事交流の促進などを柱とする新たな基本方針を作成、政府も同日、これらに沿った新法案作成の方針を固め、作業は再開された。6月4日には、自民党は天下りの内閣承認制、5段階の能力等級の導入などの改革案をまとめており、法案は秋の国会にも提出される見込みである。
こうした議論の中で、小泉首相からは特殊法人への次官の天下りを禁止する意見も出されたが、3月13日、政府は、特殊法人や独立行政法人のトップや常勤役員への官僚出身者の就任を半数に抑える方針を決め、15日の事務次官会議で二橋官房副長官が指示した。
3月30日に閣議決定された17独立法人のトップ人事では8人が官僚OBで、ギリギリ基準をクリアした。
6-3 裁判員制度の導入決定
2004年5月21日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が可決成立した。これにより、2009年4月から裁判員制度が実施されることになる。法案は3月2日に閣議決定され国会に提出されたが、裁判員の守秘義務違反に対し、政府案では「懲役1年以下または50万円以下の罰金」が科せられることについては国民の負担が重すぎるとの意見が民主党などから出され、4月20日、自民・公明・民主3党は「懲役6月以下または20万円以下の罰金」に改めるとともに、任務終了後の元裁判員に関しては原則として罰金刑を適用することで合意、法案を修正した。
2004年6月2日、改正行政事件訴訟法が可決成立した。改正法では原告適格の範囲を拡大し、また、仮の救済制度を創設し、裁判所が判決前でも行政処分の執行を停止出来る要件を緩和した。
なお、2004年4月から法科大学院68校が一斉に開校した。(4-11参照) |