「税源の移譲と新たな財政調整」(試案)について
2000年12月11日
市町村主権フォーラム
 市町村主権フォーラム(代表榛村純一掛川市長)では、このたび、 「税源の移譲と新たな財政調整」についての試案を公表することにいたしました。試案はフォーラム参加の自治体の財政担当者による地方財政研究会が昨年8月から検討してきた結果を纏めたものです。

 この試案は、今後国から自治体への税源移譲の議論を進める場合に、税源移譲をどの程度の規模で行うと各市町村や都道府県の財政状況はどうなるか、また、そのうえで必要な財政調整はどの程度の規模となりその財源の手当はどうすべきかを単純な計算式によって試算したものです。

  この作業の特徴は、税源移譲の見返りとして交付税、譲与税、交付金、補助金などを完全に廃止する前提を置いたことです。 現在の交付税や補助金等の制度を温存したまま、それに上乗せする形で国から地方への税源移譲を求める考え方は現在の厳しい財政事情では許されないし、仮に認められたとしても、それは自治の確立に役立つ規模と内容にはならないと考えたからです。

 試算によれば、交付税・交付金、補助金などの全廃と見返りに、都道府県へ現在の消費税全額と法人税収の4分の1を移譲すると、移譲される財源は17.2兆円となるが、都道府県全体ではなお3.6兆円の財源不足となり、また、市町村へは所得税の根幹部分の3%分と法人税収の4分の1を移譲するならば、移譲額は5.3兆円であり、市町村全体で13兆円の財源不足となる結果になります(いずれも98年度決算にもとづく数字。ただし、東京都の特別区については制度が違うので、今回の作業からは除外してあります)。

 試案では、この都道府県、市町村の財源不足を補うために、移譲されずに残った法人税と所得税を国と地方の共同税とし、そこから調整ファンドを設けることを提言しております。共同税の総額は24.3兆円ですから、その約7割をこの調整ファンドに回すことになります。

 なお、交付税や補助金などの返上と見返りに消費税と法人税の4分の1を都道府県に移譲しますと、東京都では5兆5000億円、愛知で6700億円、大阪で1兆3000億円の財源超過が生じますが、この超過分は調整ファンドへ組み入れることになります(したがって、都道府県の調整ファンド総額は11.1兆円になります)。

 市町村でも、不交付団体を中心に同様なケースが生じますので、同じく、超過分は市町村向けの調整ファンドへの繰り入れます。しかし、その額は1200億円程度です。

 この試算では市町村への税源移譲額が都道府県に比べて少なくなっていますが、その最大の理由は、市町村間の財政力の格差が大きく、税源移譲を大幅に行うと財政力の強いところでは大幅な財源超過となり、その超過分を調整ファンドに繰り入れる作業が面倒になるため、税源移譲額を少なくしたためです。(調整ファンド繰り入れそのものが課税自主権の下では住民の拒否にあうと成り立たなくなる。都道府県でも同様のことは起こるが、数は極めて限られており、理解は得やすい。)

 この試算のもうひとつの特徴は、税源移譲後の財政調整について、現在の交付税のような複雑な制度を廃止し、単純な枠配分方式を採用し、しかも、その枠を固定することにより、今後の地方財政再建のインセンティブを導入したことです。 つまり、新しく制度を発足させる時点では財源不足を補填するために必要な財政調整を行いますが、その後の財政調整額は各自治体の財政状況の変化に関係なく当初の配分率を固定する方式です。これにより、財政再建に努力した自治体はその努力の成果が実際の収入増となり、努力を怠った自治体は財政が逼迫することになります。配分率は5年に1回程度見直して、微調整を行います。

 今回の試算は、国から都道府県・市町村へ交付税や補助などの形で流れている約39兆円の財源を、約22.5兆円の税源移譲と約16.5兆円の調整ファンドからの機械的配分に置き換えようというものです。これによって、地方財政の自立と自律をもたらし、地方分権の財政的基礎を作ることが狙いです。

 なお、この試算は現在の財政運営を前提としており、国の財政再建論議の状況によって地方に回す財源の総額について再検討されることが考えられます。しかし、それは、共同税収を国と地方でいかに分配するかという問題になり、仕組み自体を変える必要はありません。試案では地方への分配率は約7割ですが、この率が下がれば、各自治体への配分率も自動的に下がることになります。

 この試案をそのまま実行すれば、現在市町村や都道府県が行っている事務事業はすべて市町村や都道府県の固有の事務となります。交付税や補助金等を全廃して、すべてを固有の事務とするという考え方はあまりに過激であり非現実的との意見もあります。この試案は、そうすべきだと主張しているのではなく、そうした一番極端な場合でも簡単な財政調整を行うことによってそれが実現可能になることを示したものです。個別具体的な政策遂行のあり方については、別途、検討するのは当然です。

 また、移譲する税の種類についても、さまざまな考え方があります。ここでは市町村には所得税と法人税の一部、都道府県には法人税の一部と消費税を移譲する計算としましたが、これが唯一無二の方法ではないかも知れません。しかし、いかなる税目を移譲するにしても、それでも発生する財源不足を計算し、財政調整の新しい仕組みを考えざるを得ません。本試案はそうした際の議論のたたき台を提供するものです。

 したがって、ここに提示した数字そのものは絶対的なものではありません。何よりもこの試算自体がわずか11市の例をもとに組み立てられており、改善すべき点が多くのこされています。われわれもさらにデータを増やして精度と信頼性を高める努力を続けるつもりですが、考え方等についても各方面からのご批判をいただければ幸いです。こうして今後の税源移譲と財政調整についての具体的な議論が進むならば、この試案の目的は達せられたことになります。

市町村主権フォーラムの事務局は(社)行革国民会議事務局が引き受けております。試案及びその基礎データは、行革国民会議のホームページ  http:www.mmjp.ne.jp/gyoukaku に掲載されています。

本件についてのお問い合わせは、(社)行革国民会議事務局長 並河 信乃までお願いいたします。

                電話  03-3230-1853   FAX03-3230-1852