21世紀型自治体への挑戦

 

三鷹市長 安田 養次郎

以下は、さる10月4日に開催された第2回市町村主権フォーラム首長会議における三鷹市の安田市長の報告を、事務局で取りまとめたものです。

 

 地方分権推進一括法が7月8日に成立し、一部を除いて来年の4月1日から施行ということになりました。財源や国の関与の問題などいろいろ問題があることは事実です。しかし、機関委任事務の廃止という長年の懸案課題が解決したこと−これが今回の分権改革の主眼であったわけですが−このことは高く評価されるべきです。例えば、今までは、議会でいろいろ質問されても、「いやぁ、これは国の機関委任事務ですからなかなか難しいんですよ」とかいって逃げることができたんです。これからはそうはいきませんし、質の高い政策形成能力がないと、権限があってもうまく仕事が出来なくなる。ほとんどの自治体は、私どもも含めて、ぬるま湯に漬かってきたという反省をしなければならない。今まで我々にとって、分権はバラ色に見えたのですが、実は「茨の道」だということです。いずれにせよ、今回の分権改革は、ここで一段落するのではなくこれから本格的に始まる、翻って自治体の首長もそれなりの覚悟をしなければいけない厳しい時代が始まる、と思います。

そういうことも含めて、本日の演題を「21世紀型自治体への挑戦」とさせていただきました。三鷹市が目指す「21世紀型自治体」、それは、「開かれた自治体」であり「効率的な自治体」です。そして、これからは「面白い仕事をする自治体」になるべきだ、とも考えています。「面白い」という表現は適切でないかもしれませんが、面白くなければ市民のみなさんも乗ってこないし活力もでてこない、そういう意味で敢えて「面白い」という表現を使いました。

 

【行政革新度第1位】

 近年、出張旅費を誤魔化すとか、いろんな不祥事がありました。国も都道府県もいろいろありました。そういうことが新聞に出ますと、「三鷹もそうなんですか、やっているんでしょう」と聞かれます。これは市民が行政を信頼していないということなんです。「信なくば立たず」という言葉がありますが、やっぱり信頼のないところに行政はない。ではどうやって信頼を取り戻すかと言えば、市民にとって「開かれた行政」であるべきである。これが「21世紀型自治体」の第一の課題です。

実は、昨年の9月、日経新聞とそのシンクタンク(日経産業消費研究所)が行政革新度の調査をやりました。これは、全国の670市と東京23区を対象に行政の取り組みについて、透明性、効率性、市民参加、利便性の4つの側面から50のデータをとって、偏差値をつけてランキングをつけるというものです。つまり、全国の自治体に1番から約700番まで番号をつけたわけです。幸い、三鷹市は全国670市のなかで全国1位になりました。そんなこともあったので、多少胸を張って「開かれた自治体」ということが言えるんですが、市民のみなさんも喜びましたよ。偏差値が82.7でしたから、ある市民は「市長、これなら東大に入れるよ」といってました。(笑)その後、私は選挙をやりましたが、これ一本槍でやることができました。(笑)

 ところで、この場にもいらっしゃいますが、マスコミのみなさんは、そういうランキングをつける場合は慎重にやって欲しいですね。私のときは、従来から市政の柱にしていたことが調査の切口と同じだったのでいい方に結果がでましたが、違う切口、例えば大型施設があるかとか、そういう切口の調査だったら、点数は低かったでしょう。これからは、今まではさほど考えなくてよかった「評価される」ということを意識して、ある程度のアッピールやパーフォーマンスも考える必要があると思います。

 

【徹底した情報公開】

 少し、話がそれてしまったのですが、その日経の調査でも評価された点、即ち「開かれた自治体」を実現していくために何をしたかといいますと、思い切った情報公開です。

三鷹市では、昭和63年に情報公開条例と個人情報保護条例を一緒に制定しました。これは全国でも早いほうです。それから現在に至るまで1055件の請求がありましたが、非公開としたものは11件だけで、非公開率は1%です。この11件はストレートに個人のプライバシーに関わるもので、あとはすべて出しました。交際費だろうが食糧費だろうが全部出した。はじめは、みんな心配して、これは両刃の剣になるよ、大変だよと言われたのですが、条例のかっこうだけ付けて中身が伴わないとだめだということで極力公開してきました。また、条例で何人にも知る権利を保障していますから、情報公開の請求は誰でもできますし、昨年から市の外郭団体も全て市と同じように情報公開するようにしました。

 

【オンブズマン制度の導入】

 次が、平成9年10月から福祉分野を対象としたオンブズマンの設置です。

導入のきっかけは、介護保険でした。これから介護保険が導入されるけれども、その円滑な実施については市民の苦情や意見を積極的にフィードバックする仕組みが必要だ。そういうことで、オンブズマン制度を導入することにしました。全国で10市程度、三多摩では三鷹市だけですね。23区では中野区がやっています。実績ですが、平成9年10月から平成11年3月までに苦情申し立てが15件ありました。3件が継続中ですが、7件についてオンブズマンから勧告や意見の提出がありましたので、事務の見直しなどの改善につながりました。実は、これも、設置にあたってみんな心配しました。しかし、情報公開するだけでなく、さらに進んで市民の立場にたった市政を進める必要がある、そんなことで設置しました。先ほど申しましたように、現在は福祉という領域に限定されていますが、平成12年度中には全行政領域を対象とした総合オンブズマンに切り替えていきます。

 

【外部評価・バランスシート】

 3つめは、行政の外部評価です。

行政評価については、私は、基本的に自分たちだけで行政評価を行うというのはよくないと考えていました。自分たちのやったことを自分で業績評価するというのは、いかに厳しく評価したつもりでも、第三者、外部、市民からみれば甘い評価になってしまうだろう。そういうことでいろいろ研究しようとしていたところ、たまたま(財)社会経済生産性本部から昨年の12月に行政評価に関する共同研究をしませんかと申し入れがありました。そこで、なぜ三鷹市でと聞いたら、行政の規模や組織、職員数、それから委託などの経営状況も含めてちょうどいいモデルになるんじゃないかというのです。それでは、どういうことをやるのかと聞いたら、80年代からアメリカでマルコムボルトリッジ賞(経営品質賞)というのがある。これは企業を対象とした経営評価の手法なんだけれども、その日本の自治体版を確立したい、というんです。私はよろしいでしょうと答えまして共同研究することになりました。

今年の7月に三鷹市行政経営評価基準が出来上がりまして、現在は実際の経営評価に向けた作業に入っています。もうすぐ評価が出ますが、その結果は市民に公開しますし、評価基準は、これからの三鷹市の行革の大きな柱になります。

 ところで、バランスシートのことが話題になってますが、自治体独自のもの、その自治体しか通用しないものをつくることには賛成しかねます。というのは、同じ基準のバランスシートがあれば別ですが、比較対象がなかったらあまり意味がありませんから。しかし、そういう点も含めて勉強して、バランスシートについても来年度中に議会に資料として提出するつもりです。

 

【市民参加の新展開】

 「開かれた自治体」の最後の、そして最大の取組みは、市民参加です。

行政が計画の原案を作って、自治会とかコミュニティの組織などの人たちにどうですかと意見を出してもらってチェックするという従来の市民参加があります。いろんな意見が出ても、行政側の計画とか考え方を抜本的に手直しするようなことにはならないわけですから、ガス抜きのためにやっているとか、行政の隠れ蓑だ、行政に都合のいい市民参加だと言われたりします。それだけでなく、市民にとっても、要求することが市民参加の目的となり、要求してなにか文句を言うけれども責任はもたないという悪いサイクルに入ることになりかねません。文句を言ってすっきりするかもしれないけれども、それは実は「保護型」の市民参加なんです。この言葉は並河さん達の出した『論点・地方分権』という本の中にあるんですが、そこでは、従来の「保護型の市民参加」から「協働型の市民参加」にならなければならないと、なかなかいいことが書いてある。(笑)

それをうちではやろうとしています。具体的にいうと、今、2000年に向けて基本構想の見直しと基本計画の策定を行っています。その素案を作る前から、市民参加の組織作りを進めています。この組織は、行政が市民会議をつくって市民に参加してもらうのではなくて、市民自らがいわばNPO的な組織を作ることから始めるというものです。そこで市民組織をつくるための準備組織を公募しましたら、59人の市民のみなさんが応募されました。この準備組織で議論されているのは、どういう分科会をつくってどういう会議の進め方をやっていこうかということで、来るべき市民参加組織の骨格についてです。その結果も一定程度まとまりまして、本格的なプランをつくるための市民組織についての募集も始まっています。現在、200人以上の市民が応募されているようですが、市民団体にも呼びかけていますから、最終的には300人を超えるんじゃないでしょうか。いずれにしても、相当な規模の市民参加になります。今月(10月)の9日に市と市民組織の間でパートナーシップ協定を結んで、お互いの役割を明確にした協働型で計画づくりを行うことになります。

 

【企業とのパートナーシップ】

 「21世紀型自治体」が目指すべき方向性のもう一つは、「効率的な自治体」であるということです。

いわゆる行革なんですが、ただ職員の数を減らせばいいというものではない。行政の質をあげて、なおかつ数を減らす、こうでないと駄目なんですが、そのための方法として「企業とのパートナーシップ」ということと「職員の抜擢人事」という二点を挙げてみたいと思います。

先ず、「企業とのパートナーシップ」ということですが、介護保険制度の導入により、福祉という公共サービスの領域に一般企業やNPOなどが参入できるようになりました。逆に言えば、これまで行政が独占的にサービス提供をしてきた時代が終ったということです。これには二つの側面、即ち、行政と企業のパートナーシップによる事業展開という側面と公共サービスの領域における競争原理の成立という側面があります。独立行政法人やPFIなどの手法もこの二つの側面から見る必要があると思いますが、特に、企業とのパートナーシップによる事業展開ということで、「太宰治賞の復活」を取り上げてみたいと思います。

 

【太宰治文学賞の復活】

 太宰治は三鷹に長く住んでいて、いろんな作品を書いています。山本有三、武者小路実篤、森鴎外と三鷹に住んだ人はいっぱいいますが、やっぱり、一番人気があるのは太宰治です。今でも桜桃忌にはたくさんの太宰ファンが三鷹を訪れます。そこで、たまたま太宰治没後50年ということもあって、何かやろうということになりました。記念パーティなどの案もあったのですが、そんな一過性のものには金は使わないで、まとまった何かをやろうということになりました。そこで、昭和54年から中断している太宰治文学賞を復活しようということになって、それまで主催していた筑摩書房さんに一緒にやりませんかともちかけました。筑摩書房は出版会社でいろいろとノウハウをもっているし、三鷹も出来るだけのことはするから協働でやりましょう、と。この復活は相当反響がありまして、全国から1623人の応募がありましたし、市民にも喜ばれました。三鷹にお住まいで、かつ太宰治文学賞の最初の受賞者である吉村昭さんに選考委員長になってもらって5月10日に選考会を開きました。復活第一回の受賞者は北海道大学の大学院生である冴桐 由さんが受賞されました。

 

【職員の抜擢人事】

以上が、言わば外側に目を向けた時の「行政の効率化」であるとすれば、内側に目を向けたときの次が「職員の抜擢人事」、或いは「年功序列型人事の打破」ということです。

国はキャリア、ノンキャリアがあって、職務職階給がしっかりしている。ですから、40代で本省の課長ですね。都道府県にも国ほどではないけれどもあります。しかし市町村は大体が年功序列型です。60歳定年であるにもかかわらず、55歳以上にならないと部長になれない、50過ぎないと課長になれないという状態です。私の知ってる市はだいたいそうです。自分のところで育てて、一番大事にしなくちゃならない職員が、50台の後半でやっと部長ということはどういうことか。だいたい55・6歳になると、自分の退職金や年金の計算をします。間違いなくします。(笑い)ところが、そんな計算をするような年齢になったら、迫力は出ません。無我夢中で仕事をするから、そこに迫力がでる。私はそう思っていますので、10人部長にするならば45歳くらいのやる気のある職員を3人か4人部長にします。優秀な職員は40すぎたら課長にする。そういう抜擢人事をします。そうすれば職員もやる気が起きますし、必死ですから迫力もでる、仕事はどんどん進むから市長は楽になる。こんないいことはないわけです。(笑い)しかし、私のところも残念ながら通し号俸の色彩が残っている給与体系なので、今年度中に思い切って職務職階給にします。そうして、責任と給与をうまくドッキングさせて、さらにやる気を引き出していこうと思っています。

 

【三鷹の森ジブリ美術館(仮称)の建設】

冒頭、これからの自治体は、面白い仕事をするべきだ、と申し上げました。その例として、「隣のトトロ」とか「もののけ姫」で有名なアニメーション作家の宮崎駿と組んでやっている、仮称ですが「三鷹の森ジブリ美術館」のことについてお話しします。

 宮崎さんのところで、美術館を作ろうという話があったらしくて、いろいろ候補地を調査されていたようです。その中にたまたま三鷹市も入っていた。一方、三鷹市は、井の頭公園の拡張予定地なので東京都の土地なんですが、利用権をもっているところがあったのです。三鷹の中では一番いいところですし、たぶんトトロも住みたい思うところでしょう。それで、そこに美術館をお建てになったらどうですか、ということになりました。ただし、市はその土地の利用権を提供するから、建物は自分で作って下さい。(これは総事業費50億円、建物だけで25億円かかります。)そして、作った美術館を市に寄付して下さい。その代わり、市は将来ずっと美術館を「公の施設」として継承しましょう。こういう条件を付けまして、地方自治法の言葉で言えば「負担附き寄附」なんですが、議会の議決もいただきましたし、着々と事業が進んでいるところです。ところで、出来上がったらどうするか。美術館の運営は財団法人で行いますが、その基本財産として最低5億円が必要です。東京都は高いですね。そこで、そのうちの3千万円は市から出しますが、あとの4億7千万は宮崎さんのところで出して下さい。それから、特別の補助金なんかは出しませんが、入場料は条例に範囲で自分達で決めていいし、全て財団の収入にしていいですよ、自治法の「利用料金制」でいきましょう、ということになっています。美術館は、平成13年の10月にオープンしますが、大勢の人が来ると思います。こうお話すると順風満帆というように聞こえるかもしれませんが、法制度上のこともありますし、先様の考えもあるということで綱渡りでやってるときもありました。しかし、それでも、ここまできたのは、市民の皆さんが、「それは面白そうだ。ぜひ成功させてくれ。」と言ってくれたからです。そして、職員もその声に一生懸命応えようとしたからですし、或いは、職員も面白いことをやろうとした結果であると思います。

 

【SOHO支援事業】

 もうひとつは「面白い」ということでは、SOHO支援事業があります。

あちこちの自治体や民間の方々からも大変反響があって、たくさん視察に来ておられますが、よく聞かれることの一つに、三鷹で何故SOHOかということがあります。そのことからお話しますと、三鷹市は16.5平方キロに16万5千人の人口で、都市計画の用途地域としては住居系が9割、市域の2/3が既成市街地に入っています。また、納税者の80%が給与生活者であり、住民税の個人分と固定資産税・都市計画税で税収の90%、法人税は7%くらいなんです。従って、在来型の製造業の入り込む余地はまずないけれども、一方で不況や高齢化社会の進行による担税力の低下が直接市財政に影響するということを克服するために地域産業を振興しなければならないという都市なのです。そういう地域特性と将来展望を考えてSOHO支援事業をやろうと決断しました。具体的な事業の内容としては、先ず、5年間の実験、サンセット方式で、駅前のビルの1フロアを借り切ってに9つのSOHO実験オフィスを確保しました。入居者を募集したら57件の応募がありましたので面接試験で決めて、今1年半くらいになりましたが業績も順調に伸びているようです。また、中心市街地活性化法に基づく事業として、来年、駅前に産業プラザをつくるんですが、そこにSOHO支援センターを置くことにしました。そんなことで、SOHO、SOHOと言っていましたら、市民の方からSOHOに使ってくれということで、寄附の申し出がありました。有難く使わせていただくということで、来年には市内に3個所のSOHOオフィスがあることになります。今後もSOHOについては、本格的に取り組むつもりですが、実は、万全の自信があるわけではないのです。なにせ初めてのことですから。それでも全国の人たちから面白そうなことをやっていると注目されていますし、何とかものにしたいと思っています。ところで、先日、関西の方からある市長さんがみえまして、面白いことをやっているそうだが、おれのところもやってみようかといって帰られました。ところが、帰って始めたら総スカンを食ってやめてしまった。聞いてみたら、そこは広大な土地があるという。そんなところでSOHOだといっても、やっぱり在来のいろんなものを持ってくる方がいいということになったようです。その土地の実情にあわせて仕事をしないとまずいという典型ですね。

 

【これからの首長】 こんなことをやってみてつくづく思うのは、遠い将来を考えることも必要ですが、これからの首長には、特に、近い将来を予見するというか見通すことが重要だということです。この不透明な時代では、5年先でいいんですが、そこまでは絶対見ないといけない。そして、そういう全体状況を見渡した上で、個々の事業について判断する必要があって、特に、事業の見直しをする勇気と決断がないといけない。私自身の例で言いますと、昨年、実施設計まで終わっていた総合スポーツセンターの建設事業を延期しました。市制施行50周年記念事業で、建設費85億円、多摩地域ではトップランクの施設となりますし、私の選挙公約の一つでもありました。しかし、先ほど申し上げました三鷹市の個人市民税依存型の財政構造や安定的な市政運営ということを総合的に判断しまして、見直すことにしました。そう決断しましたから、次は、議会や体育関係者をはじめ市民の皆さんを説得する必要がある。私は「今、立派な体育館ができることと、将来的に安定した市政を運営することと、どちらを選択しますか。私は後者を選びます。」と言いつづけました。びっくりしたことに、ほとんど反対がありませんでした。それどころか、野党の議員さんからは誉められました。事業を止めて誉められたのは市長になって初めてのことです。やれやれといわれて、やらなくて文句いわれたことはありますけれども。(笑い)体育関係者から若干ありましたが、それでもきちんと説明をすると、「止むを得ないだろう。しかし、できるだけ早く作って下さい。」と納得してくれました。

 駆け足でいろんなことを話させていただきました。説明不足の点もあったかと思いますが、この後の質疑応答の中で補足したいと思いますので、よろしくお願いします。ご静聴ありがとうございました。

 

質疑応答

松本(日経):SOHOというのは施設だけ整えればいいのですか。なにか、コンサルタント的なひとのバックアップ機能はなにか用意されているんですか。

 

安田:ハードだけじゃどうしてもやりきれませんが、少なくとも情報通信機器はしっかりしていないと駄目ですね。SOHOは情報通信機器、インターネットが仕事の前提ですから、いわゆる情報インフラが整備されてる必要があります。三鷹は昭和59年にINS(高度情報通信システム)の実験都市だったので、光ファイバーが入っているんです。それから市が出資しているCATV会社が、CATV会社としては初めて、平成8年8月に第1種通信事業者の認可を取っていますから、プロバイダーもやれるんです。そういうものがあって初めてSOHOなんですよ。

 それから、SOHOを支えるようなソフトが重要です。これは、うちでやってる支援事業の大きなテーマで、現在実験しながら何が必要とされているかについて研究しています。例えば、いわゆる経営相談とか営業支援とかあるんですが、SOHOシティみたか推進協議会という組織をつくってそこでも検討してもらっています。

 さっきもお話しましたが、こういうことは面白いから職員も一生懸命になってやりますし、市民もこれはなかなかいいよといってくれます。そうするとおのずと活力が出ます。先例踏襲型の仕事だけやっているのでは、面白くないし、多少創造性や投機的なことも加味された仕事のほうが面白いんです。繰り返しになりますが、面白いからやる気になるんです。

SOHOに戻りますと、資料がいっぱいありますから、必要であれば全部この会議で担当に説明させます。率直にいって私も分からないところもありますから。(笑)

 

長野(産経):市民参加のことでちょっと聞きたいのです。町内会とか自治会の活用でいいますと、私も町内自治会の役員になったのですが、市の下請けなのです。市の回覧板を配ったり、草取りをやらせられたり。もう少し自治会というものを市民参加に活用出来ないかと思うのです。というのは役員はリーダーが全くいなくて、なにしていいかわからない。とにかく抽選で決まるものですから。自治会、住民のリーダー育成ということについてなにか機会を設けていただいて、新たに市民参加の組織を作るのでもいいんですけれども、既存の町内会なり自治会を活用することが考えられないかと思いますが。

 

安田:今活用ということをお話しされましたね。この「活用」というのは非常にいいことですが、町内会とか自治会とかコミュニティ組織を活用しすぎて、市の末端組織の一つとして使うのは絶対タブーです。これをやっては大変なことになります。三鷹は金は出すけれども口は絶対出さないですよ、コミュニティには。それから、そこで三鷹市が目指している「協働型市民参加」というのは、住民と行政が対等な立場で、お互いに対立ではなく、協力しあうというとともに、一種の緊張関係がいつもある、そんなイメージの市民参加です。緊張関係というのは、もたれあうような関係でないということと、従来の行政サービスの領域における責任が住民と行政の両方に出てこざるを得ないだろうという意味です。

 

長野:住民側もなんでもかんでも行政に依存するのではなくて、自分の地域でやることは地域住民でやろうと、役割分担が明確になれば・・・そういうふうになれば・・・。

 

安田:それが私たちが目指す「協働型市民参加」なんですよ。

 

長野:今はただ市の回覧を配っているだけですからね。(笑)

 

安田:でもね、その回覧を配るのだって、市の方から回覧を配ってくださいといういいかたではまずいんですよ。それを自分のものとして消化をして、回覧を配るのはコミュニティ活動ですよという評価を改めてする。そうでなければ、こんなものは市の末端組織ではないので配りませんよといってもらった方がいいんですよね。一番大事なのは、市民を信頼することです。例えば、三鷹市では住区ごとにコミュニティセンターが7つあるんですが、その運営は全部住民協議会にまかせているわけです。市は光熱費とかメンテナンス費を助成していますが、絶対口は出さない。最初の頃は、議会も「全部任しちゃったらどうなんだと。政党に独占されたり、あちこちの団体もある。宗教もある」と心配したんです。しかし、やってみたら、ちゃんと物事が進む。行政の方がかえって駄目なんです。有力な議員さんに頼まれると、いやでもなんでもちょっとこうしてね。しかしコミュニティの運営委員はいろんな運営委員がいるから、ある特定のものが来ても、それは駄目ですと断れる。

 

恒松:コミュニティにはどのぐらい補助金を出されるのですか。

 

安田:1住区あたりおよそ8000万円です。コミュニティセンターには、図書館もあれば体育館もありますし、光熱費だけでも3000万円くらいかかります。まさかボランティアだけで運営というわけにはいきませんから、事務局の人の人件費も必要になる。トータルすればそんなもんです。

 

滝井(田川市長):私は安田市長さんの話を聞いて、われわれの行政のところと全然質が違う。あなたのところは90%はサラリーマンですからね、非常に質が揃っています。僕は昭和10年ぐらいに、学生の時に三鷹に下宿しておったのですが、水道道路の横で当時1円50銭でした。今はそれどころではない、何十万円するんでしょうけれども。いずれにしても、非常に市民の質がいい。我々のところは炭鉱の跡地で失業者や生活保護も多いし中小企業も空洞化している。農業も衰退している。いうなれば市民としてバラエティに富んでいるから、なかなか簡単に今のような具合にいかんですね。それぞれの政策をもっていかなければいかん。そういう点では、三鷹は非常に高い行政がやれるし、土俵を一緒に話をしても、話が合うのですね。なかなかうらやましい。

 

安田:いやいやそうでもない。市民にもいろいろな方がいらっしゃいますよ。普段は我関せずの人が多いんですが、土地が道路に引っかかるなんて自分の利害関係と絡むと、それは大変ですから。そういう意味では、市長さんのところの市民のみなさんの方が「おらがまち」思想、コミュニティ思想をしっかりもっていらっしゃるんじゃないでしょうか。

 

中島(彦根市長):私のところは城下町なんです。それから農業振興地域があって、その間に新興住宅地がある。この3つに本当にぴったり分かれるんですよ。そうしますとね、城下町の人たちは先祖代々ずーっと同じ思想で伝承します。農振地域はもうこれ以上は何もできない、俺たちの町はちっとも発展しない。京都や名古屋、大阪から住んでくる新興住宅地へいきますとね、そりゃあ。そりゃあ、バランスを取るのがなかなか難しい。

 

安田:今お話を聞いて、大変だろうなと思います。三鷹でも新旧の争いはありますけれども、コミュニティがしっかりしてきているから、大きな問題ということにはなってません。

しかし、都市づくりっていうのは、そういう個々の地域の特性を活かしながらそこに根ざした個性的なものを作り上げていくという一つのロマンでしょう。その意味では、あそこでやっているからといってこれやるといったら絶対駄目ですね。

 

中島:私は長いこと大学のシティプランニングとかランドスケープの専攻で研究してきましたが、6年前に市長の出ろ出ろといわれて就任しましたが、大きな差がありますね。ところが議会では、市長さんは町づくりの専門家だ。どこどこの論文でこういわれてますが、今どうお考えですか、と来るわけです。以前、市会議員さんの研修で、もっと市会議員さんはもっと勉強してもらわなくては困る、といったんです。それが未だに尾を引いている。非常に難しい時代になりましたね。

 ただ、先ほど5年以上未来を予測するのは非常に困難だといわれましたが、5年ぐらいだったらいいか。非常にこれは難しいわけですね。確かに5年というのは意味があると思うんですが、しかし町づくりの大きなマスタープランというのは、もう少し長く見ないといけませんね。

 

安田:それはそうです。先ほどは、財政問題を中心にお話しましたから5年と言いましたけれども、まちづくりの原点はロマンですからね、短期的な視点だけでは駄目です。

 

中島:しかし、そうだといいましてもね、市民が辛抱してくれない。その説得には大変時間と労力がかかる。

 

安田:話はそれるかもしれませんが、これからは市長なんかやり手がいないじゃあないかな。疲れるしね。面白いなんていっているが、本当は面白い仕事ほど疲れるんだから。ただ、職員が支えてくれるからできてるようなものです。うちの職員は大変優秀です。一生懸命私が育てて、おまえよく勉強するなといっていた職員が、最近、長崎の県立大学から要請があって今度教授になりました。

 

中島:ぼくとは逆ですよ。

 

安田:ですから、あんまりいい職員を作り上げると出ていっちゃう。今でもICUの講師とかは私もやっていますけれどもね。

 

中島:面白いですね、楽しいですね。苦労しながら楽しいですね。

 

榛村(掛川市長):今日お話を伺っていて、地域によって大分違う。掛川などは真ん中よりも田川よりだと思ったんですが、どの市町村長も共通の関心事は、従来型のところも三鷹のような先進的なところも含めて、住民参加、市民参加とはなんだということです。住民参加、市民参加がものすごく盛んだと言うところも、意地悪く見れば、行政の下請け機関として上手に使っているに過ぎないところもある。よそから掛川に引っ越してきた人なんかは、掛川というところは本当によく住民を使いますねえという。そういう人たちは、いうなれば根無し草とでもいわれる人たちだが、そういう根無し草的な人たちを、どう愛着を持って市民参加させるかが問題だと思う。それが草の根民主主義なのだろうが、その草の根民主主義によるまちづくりとはどういうものかが基本問題だ。この市町村主権フォーラムの主権の主権たるところはなにかということについて、毎回、20分でも30分でもいいから議論していくべきだろう。このグループの特徴を、そこに発揮させることがいいのではないか。

以上