1995年12月14日
地方分権推進委員会

委員長 諸井  虔 様

                             パイロット自治体会議
代表世話人 榛村 純一
「地方分権推進委員会の審議に望む」提出の件

 地方分権推進委員会の審議が具体的に進められようとしてる段階にあたり、パイロット自治体会議といたしましては、別紙のごとく、意見をとりまとめました。

 どうか、私どもの意のあるところを斟酌され、分権の推進にご尽力いただきますよう、心からお願い申し上げます。



 
 

地方分権推進委員会の審議に望む

                          1995年12月14日
                             パイロット自治体会議
 私どもパイロット自治体会議は、1993年から実施された地方分権特例制度に応募し、あるいは応募しなくともこの制度の趣旨に共鳴し地方分権の推進に強い関心を抱いている市町村長によって組織されたものである。
 これまでの経験から私どもは地方分権の必要性を切実に感じており、地方分権推進委員会の検討に対する期待も大きい。そうした立場から、今後の推進委員会の審議について以下のとおり希望を申し述べたい。意のあるところを斟酌され、分権の推進にご尽力いただくようお願いいしたい。
 議論の進展にしたがい、さらに具体的な意見も改めて申上げる予定である。

 
 

1 腰を据えた分権論議を望む

 現在の地方分権推進委員会の検討スケジュールによれば、来年の3月に中間報告、夏から秋にかけて指針を作成するとのことである。しかしながら、部会設置から半年では充分内容のある中間報告をつくることはなかなか難しいと思われる。

 したがってまず第1に願いたいことは、中間報告においてはそれまでの審議の経過をそのまま公表するにとどめ、無理に結論を急がないでもらいたいことである。行政改革委員会の規制緩和小委員会が行ったような、論点公開によって賛否両論を明らかにするという手法も一つのやり方である。少なくとも、来年3月までにメドがつきそうな事項のみを選んで審議するということにならないよう、切に希望したい。

 第2に希望したいことは、来年の秋ごろに予定されている指針作成はあくまで第1次の指針として位置づけ、推進委員会としては任期である5年間をフルに活用して根本的な問題に取り組み、長期的な指針を策定していってもらいたいということである。

 推進委員会は任期の前半を指針策定にあて、後半は指針の実行状況を監視するというスケジュールであるといわれているが、本格的な地方分権を進めるためには5年間の審議期間でも足りないくらいである。推進委員会として、どの程度の深さと広がりのある分権論を展開するつもりであるのか、中間報告の際にでも明らかにしてもらいたい。

 たとえば、ほとんどの自治体が交付税と補助金に頼らなければ自治体運営ができないという事態は、国をあげて単一の目的に邁進する時代であればともかく、今日のように右肩上がりの高度成長が終わり、各自治体が地域の実情に応じた政策をとろうとする時代においては、極めて不合理である。したがって、税財政面の抜本的な改革を行なうことは地方分権論の要であり、これを税制調査会などほかの審議会の審議に任せるわけにいかない。となれば、これを扱うだけでいまから長期的な検討体制を組む必要があるであろう。10月に出された「基本的考え方」にあるように、今回の分権の作業は「憲政史上画期的な事業」であり、これが中途半端な結果に終わることのないよう、切に希望したい。
 
 

2 新たな政策体系を構築するために

 地方分権論は理念や漠然とした方向性を語っていれば済んだ段階は終り、具体的な内容をもった提案を行うべき段階に入っている。すでに地方6団体から網羅的で詳細な改善意見が提出されており、それをもとに検討が行われていくことを期待している。

 その際、具体的な検討とはこれら提案された具体的事項のなかからいくつか選んでその是非を検討することではなく、こうしたもろもろの改善要望が出されている根本的な原因をいくつか摘出し、都道府県、市町村間の役割分担も含め、その改革を具体的に進めるということでなければならない。

 たとえば、いまの土地利用に関する基本法規である都市計画法や農振法・農地法そのものの存在意義を今日的視点から問い直す、あるいは福祉に関しては福祉8法そのもののあり方、教育では学校教育法や地教行法を問い直すといった根本的な問題提起を行い、それに代る政策体系の構築を提案することが、推進委員会に期待されている任務であると考える。

 新たな政策体系を構築するにあたっては、これまでの考え方を根本的に改めていく必要がある。

 まず第1に、自治体についてもいわゆる護送船団方式の考え方を払拭すべきである。いたずらに自治体間の格差を拡大することは避けなければならないとしても、自治体間の競争を否定するところに進歩はない。あまねく公平・平等にという見地から国が自治体を管理するのではなく、自治体間の競争を通じて国全体の水準の向上を図る考え方に転換すべきである。その場合、全国の自治体のなかには、そうした事態に急には対応し切れないところもでてくるであろう。それに対しては都道府県などが必要に応じて協力するような体制を組み、全体としての分権の足どりが遅れないようにしてもらいたい。

 なお、人口規模の大きな自治体よりもむしろ小さな自治体から、さまざまな行政のイノベーションの試みが行なわれてきたことに留意し、分権論が単なる自治体の規模拡大論にならないように願いたい。

 第2に、推進委員会の部会は「地域づくり」と「くらしづくり」に分れて検討をはじめるとのことであるが、このような住民に密着した政策にかかわるものは、法律・政令・省令・通達などの下に自治体の条例が拘束される現在の法体系から、法律があるにしてもその具体的運用は政省令ではなく自治体の条例にまかされるという体系に改めていくべきである。この際、法律はもちろん都道府県条例も大綱的なものにとどめ、基礎自治体である市町村の自主的取り組みを保障する制度にすべきである。

 現在、多くの自治体ではまちづくり条例が法律の制約によって地域の希望をかなえるようには制定できず苦慮しているが、こうした実情は一刻も早く改めるべきである。私権の制限は法律でしか行なえないという考え方を改め、まちづくりのような分野においては、住民の合意を得て自治体が条例で制限できるようにすべきである。

 パイロット自治体としては、農振法の指定解除や農地転用の許可権限の移譲、区画整理事業の計画内容などについて特例を認めてもらいたいと多くの申請を出したものの、認められなかった。これらについては、かりに国が関与するにしても基本方針を提示するにとどめ、市町村がそれぞれの地域政策に照らしあわせながら、住民合意などの手続きを経て具体的決定が下せるようにすべきである。

 第3は、地方自治体の計画策定の自由を保障することである。現在、土地利用計画、都市計画など、ほとんどの重要な市町村の計画は都道府県の計画との整合性を要求され、都道府県の計画は国の計画との整合性を要求される。これを改め、国は国の立場から全体計画を策定するとしても、自治体はそれとは別に独自の計画を策定し実施できるようにすべきである。福祉や医療、環境に関する計画にも同じことが指摘できる。

 問題は、こうした計画策定が補助金や起債など国からの財源配分計画とリンクしていることである。本来、自治体の事業計画策定と国からの財源配分とは切り離して考えるべきものであり、たとえば、「計画策定にあたって参酌すべき標準」といった国による計画の画一化は行うべきではない。
 たとえば、下水道事業、上水道事業、公営住宅建設、道路整備、河川整備あるいは児童館建設など具体的な事業について、パイロット自治体として地域の実情に応じた独自性を盛り込んだ計画を実施できるよう、許可権限の移譲や補助金支給の弾力化など多くの申請を行なったが、いずれも不十分な成果しか収めていない。こうしたプロジェクトについては、国からは細部にわたる干渉を行なわず、自治体の創意を最大限に活かすことを考えるべきである。

 第4は、地方自治体に対する国からの財政的援助は、補助金制度ではなく一般財源保障制度によるとの原則を確立すべきである。国が政策を立案し自治体を誘導する時代は終わり、地域の住民がそれぞれの地域にあった政策を立案する時代になった。省庁間のタテ割りや細部にわたる補助基準、箇所付けなど補助金の問題点はすでになんども指摘されておりながら一向に改まらない。最終的には補助金という政策誘導装置そのものの是非を問い直すとともに、さしあたり補助金制度の大幅な簡素化、弾力化、総合化を図るべきである。

 また、過去の補助事業による施設等の目的外使用については、補助金適正化法によって厳しい制約が課せられている。今年4月から空き教室の活用についてのパイロット自治体の提案が一般制度化されたことは歓迎しているが、このほかにも地域で活用すべき公的施設は多い。補助金適正化法を改正し、一定期間(たとえば5年)経過後は、自治体の創意工夫が活かせるような制度を導入すべきである。

 なお、補助金の一般財源化という美名の下に補助金の単純な削減を図ったりすることがあってはならないし、交付税の補助金化をさらに助長したりすることもあってはならない。また、現在の交付税制度には、地方財政健全化へのインセンティヴが働きにくいなど、改革すべき点がきわめて多いことを申し添えたい。

3 おわりに

 地方分権特例制度(パイロット自治体制度)は第3次指定も終わり、合計42の市町村が参加することになった。この制度は、国に対して市町村が直接政策提案を行えるという点で極めて重要な制度である。

 しかし、実際に申請してみると、政令改正にかかわるものは全て却下され、また、特例制度といいながら、申請した自治体にのみ認めるわけにはいかないとの理由で拒否されるなど、本来のこの制度の趣旨が十分に生かされていないケースが多い。また、各省庁間のタテ割り体制がそのまま都道府県に持込まれ、県の同意が得がたいことを痛感した。

 われわれとしては、パイロット自治体制度の運用改善を引き続き訴えていきたいが、地方分権推進委員会としても、実現できなかった事例などわれわれの経験を精査して、一般制度改革の材料としてとりあげられるよう、心から希望したい。

 われわれもパイロット自治体であるなしにかかわらず、今後とも積極的な政策提案を続けていくつもりである。

以上
     パイロット自治体会議

           安宅 敬祐  岡山市長    葉山  峻  藤沢市長

           岩川  徹  鷹巣町長    増田 昌三  高松市長

           小倉  満  大垣市長    増山 道保  宇都宮市長

           西川 正純  柏崎市長    松尾 徹人  高知市長

           斎藤  博  所沢市長    三木 邦之  真鶴町長

     代表世話人 榛村 純一  掛川市長    宮岡 寿雄  松江市長

           鈴木 雅廣  天童市長    安田養次郎  三鷹市長

           滝井 義高  田川市長    山本 清治  三原市長

           竹内  謙  鎌倉市長    吉尾 勝征  調布市長

           恒松 制治  前獨協大学学長 鰐淵 俊之  釧路市長