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多くの自治体で合併前に駆け込み事業を実施

2003/09/24

 石川・中島町は9月17日の定例議会で、七尾市、田鶴浜町、能登島町との合併(2004年10月予定)までに、同町出身者が寄付して創設した1億円基金「老人福祉基金」を、使い切る方針を明らかにした。合併協議が進む中で、基金の取り扱いについて、町が寄付者に確認したところ、合併前に基金を使い切ってほしいとのことで、同町はその趣旨に沿った格好。
 また、同じ寄付者から1億円の寄付を受けた鹿島町でも「社会福祉基金」を創設しているが、鳥屋町・鹿西町との合併(2005年予定)を控えており、町は基金の取り扱いについて、寄付者と相談するとしている。

 市町村合併を進めるうえで、大きな市に吸収される形となる周辺自治体や、財政状況の豊かな自治体にとっては、合併後の予算の使い方は深刻な問題。「合併で中心都市から離れて寂れる」「多額の借金を抱える自治体との合併にメリットはない」などの意見も出ており、新市の主要事業や財政計画について本格的な調整が始まる前に「駆け込み事業」を行うケースが増えている。

 広島・三原市、本郷町、久井町はそれぞれ文化施設の建設計画を進めている。三原市は文化会館の建て替えを計画しており、総事業費は30億円程度。本郷町は10月に生涯学習センターの着工を予定しており、総事業費は21億円。久井町は総合文化センターを建設中で、総事業費は8億7000万円。三原市は財源に民間資金を活用する社会資本整備(PFI)方式か合併特例債を見込み、本郷町は14億円を、久井町は4億円を起債でまかなう。元利償還金のうち45〜75%が国からの交付税措置で戻ってくるが、残りは自治体の借金。10年程度続く億単位の返済や年間1億円以上の維持・管理費は新市に引き継がれることになる。

 広島・呉市と合併を予定している周辺自治体では、駆け込み事業を進めている。倉橋町は5月、屋内温水プール「ウィングくらはし」をオープン。町内小中学校が授業で利用しているが、総工費6億2000万円のうち起債は3億円。音戸町は2004年春の開館予定の「観光文化会館」(仮称)を建設中。総工費10億5000万円のうち6億円の起債は15年かけて返済する予定で、合併後は呉市が引き継ぐ。4月に合併した旧下蒲刈町は、江戸時代の参勤交代や朝鮮通信使の宿「三之瀬御本陣」を合併前に復元する予定だったが、8月にずれ込み、市が総工費4億7000万円のうち3億2500万円を市債で補っている。

 千葉・館山市との合併協議を進めている周辺町村では、億単位の公共事業が実施されている。丸山町は総事業費21億円の中学校舎新築事業を実施し、2004年度までに7億8800万円を起債し、2004年末の完成を目指している。富浦町は保健福祉センター建設を進めており、事業費3億円のうち国や県の補助の上限は1億5000万円、残りは起債で財源を補う。三芳村は3億7000万円の基金を活用して役場庁舎の新築を計画している。

 山梨・芦川村は甲府市、中道町、上九一色村と合併協議を行っているが、2000年度末に5億円以上あった地域振興基金から、高齢者向け施設「ふれあいプラザ」の整備事業に1億6000万円、温泉掘削工事やトンネル残土処理用地取得などに1億9000万円を取り崩し、残額が1億9000万円に減るのが確実となっている。「今のうちに必要なものを整備しておかないと、合併後には予算が回ってこなくなる可能性もある」(村総務課)とのこと。

 このような駆け込み事業が原因で、合併協議が紛糾しているケースもある。

 熊本・新和町は9月18日の町議会臨時会で、天草合併協(本渡市、牛深市、有明町、御所浦町、倉岳町、栖本町、新和町、五和町、天草町、河浦町)からの離脱案を可決した。有明町が4日、栖本町も8日に相次ぎ離脱を決定、五和町でも離脱の意向が強まっている。有明町は「各自治体の標準財政規模(税収などと地方交付税の合計)の20%を、貯金である財政調整基金として持ち寄る」「1億円以上の大型投資事業は事前の了解を要する」などに各市町で取り組むことを提案してきたが、河浦町の新庁舎建設をはじめとする、一部自治体による駆け込みの大型投資事業が明らかとなったことで、離脱に踏み切り、栖本町、新和町も後に続いた格好。

 熊本・竜北町は9月9日の八代地域市町村合併協(八代市、坂本村、千丁町、鏡町、宮原町、東陽村、泉村)で、財産と債務の取り扱いについて、「他市町村の借金まで負担することはない」と主張し、合意には至らなかった。同町は8月、「合併を前に(各市町村の)起債に基準がなければ駆け込み投資が増えるのは必至で、町民の負担が増大する。起債基準の設置を望む」などの要望書を合併協に提出していた。

 佐賀・玄海町は7月30日の町議会臨時会で、唐津・東松浦合併協(唐津市、浜玉町、厳木町、相知町、肥前町、鎮西町、呼子町、七山村、北波多村)からの離脱案を可決した。「基金を町発展のために活用し後世に引き継ぎたい」「上下水道などの整備を計画通り推進したい」などが離脱の理由。同町は原発を受け入れ、その迷惑料ともいえる交付金などを受けていて、税収が予測より落ち込んだ時に備える財政調整基金、九電から協力金として入った地域振興基金などの合計額が150億円ある。

 合併によって取り残される恐れのある周辺自治体に考慮し、合併後に予算を割り当てようとする動きもある。

 佐賀・鹿島市・太良町合併協は9月9日、財産について「基本的に新市に持ち寄る」としながらも、太良町限定の振興基金の創設を決めた。振興基金の原資は、同町が設けている下水道、簡易水道、土地改良の基金15億円と、積立額の差が大きいふるさと創生基金と公共施設整備建設基金の一定額。(田中潤)