イノシシが全国で出没している。
1月19日、長野・坂城町でイノシシが民家の庭先に現れ、畑仕事をしていた4人が重軽傷。
2月2日には上田市でイノシシが出現、4人が重軽傷。
2月18日、香川・国分寺町の県営団地内にイノシシが出現、幸いにもケガ人は出なかったが大騒ぎとなった。
3月2日、静岡・沼津市の市街地でイノシシが住民にかみつくなど6人が重軽傷。16日にも再び出没、「御用邸記念公園」駐車場にいた通行人に体当たりするなどして6人が軽症。
このように、住民がイノシシに襲われるという事件が全国でいくつか起きている。
イノシシは本来、臆病でおとなしい動物。だが、人に餌付けなどされたためか、人慣れしているものも出てきている。しかも、イノシシは雑食で生命力旺盛のうえ多産。最近は苦手の雪が少なく、活動範囲の広がりが目立ち、人との境界バランスが変化しているという。
さらに言えば、イノシシによる被害は人のみではない。それ以上に、農作物など食害の被害のほうが深刻な問題となっている。
熊本市ではイノシシの急増で食害が多発。推定被害額も1998年度に1000万円程度だったのが、2001年度には過去最悪の1500万円にまで。
イノシシの有害駆除数も急増。1998年度に7頭だったのが、1999年度に12頭、2000年度に64頭、01年度に66頭、02年度には74頭と増え続けている。
県内の天草地域では、95年度に120頭だった駆除数が01年度には2000頭と18倍にまで増加している。
石川・小松市の山間部にある打木町の水田が、昨年末からイノシシによる深刻な被害を受けている。ミミズやサワガニなどを捕食するため、農道を掘り返したり、泥を体に擦りつけるなどで水田を破壊。この対策として、田植えの前に泥にセメントを混ぜて強化し、ミミズの発生を抑える石灰をまくことなどを検討している。小松市では、2002年度の被害面積が21万平方メートルと過去最大。
さらに、同市布橋町のミズバショウの自生地も、イノシシによる被害を受けた。ここは1969年から市指定文化財となっており、毎年3月末にはミズバショウのかれんな白い花が咲いている。布橋町内会によれば、今後何らかの対応を検討するとのこと。
鹿児島・知名町では、2002年度のイノシシの捕獲状況は、3月1日時点で67頭と昨年度の47頭を大きく上回り、昨年度の農産物などの被害額3000万円を超える見通し。現在、1頭あたり5万円の報奨金を出しているが、2002年度はあまりの多さに予算が足りなくなり、補正予算を組んだほど。もともとは1994年に民家で飼っていたイノシシ13頭が逃走。そのうち捕獲できなかった6頭が繁殖を続けて、現在に至っている。
長野県内の2001年度における農産物・森林被害総額は1億6700万円で、1991年度の3.3倍。捕獲頭数は4802頭で、4.8倍となっている。
中国地方5県の277市町村(87%)では、イノシシの対策費が総額7億6489万円にも上っている。県別では広島県が2億2300万円、市町村別では島根・仁多町が1603万円と最も多い。対策の内訳は、田畑をさくで囲う「防護」と、銃やわなで頭数を減らす「駆除」が柱となっている。
ゴルフ場が被害を受けている例もある。
山口・徳山市の徳山国際カントリー倶楽部は2001年12月に、芝の掘り返しなどイノシシによる被害で9ホールが閉鎖。現在営業中のホールも被害を受けており、計1000平方メートルを修復、被害総額は年間で1000万円を超えるとのこと。
自治体も黙っているわけではなく、何かしらの対応を行っているところもいくつかある。
農林水産省は、イノシシやサルなどの鳥獣害防止事業に補助金を出しており、2000年度と01年度の補助実績は計2億8000万円。さらに03年度からは、花火や空砲などでイノシシやサルを威嚇して追い払う自衛団の活動資金も補助金の対象にする。
島根・宍道町では12月から、イノシシ対策に「消費拡大対策支援事業」を実施。猟友会員が捕まえたイノシシを解体して、その肉を町内の飲食店に市価の半額で販売。残り半額については町が補助する。さらに、町内で捕まえたイノシシの場合は、1頭に1万円の報奨金を出す。初年度に100万円を予算として計上した。
広島・倉橋町は今月、イノシシ加工施設を開設。建設費は1350万円。町が100%出資の「倉橋まちづくり公社」に管理運営を委託。捕獲したイノシシを解体、精肉にして、公社が経営しているレストランの料理にしたり、肉が余れば町内の旅館などでも使ってもらう。町は農家に1頭1万円の報奨金を出してイノシシの提供を受け、年間60頭の処理を見込む。
神戸市では昨年5月1日から「神戸市いのししの出没およびいのししからの危害の防止に関する条例」を施行。サルの餌付け禁止などは栃木・日光市などで条例化されているが、イノシシに関する条例は全国初。
イノシシの被害が多い大きな住宅街などを規制区域に指定。規制区域内では、イノシシに餌をやることを禁止、餌になりそうなごみをみだりに捨てるのも禁止する。違反者に対しては、書面で指導、勧告する。
神戸市では2000年度にイノシシによる事故が20件あった。市は「餌付けが被害を生む最大の要因」と判断して、「かわいいから」と善意でえさを与えることがイノシシによる事故の原因であることを分かってもらうため、条例化に踏み切ったようだ。(田中潤)
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