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高齢者に筋力トレーニングのすすめ

2003/04/14

 厚生労働省は2003年度予算に「高齢者筋力向上トレーニング」を補助事業として計上した。老人保健福祉関係予算の介護予防対策等の充実に450億円が計上されているが、そのひとつのメニューとして「高齢者筋力向上トレーニング」が組み込まれた。

 2003年度から、札幌市、北海道・奈井江町、横浜市、愛知・高浜市、福岡・大牟田市などに補助されるとのこと。補助率は、国が2分の1、都道府県が4分の1で、市町村が4分の1を負担する(政令指定都市・中核市の場合は、国が2分の1、市が2分の1)。

 高齢者が要介護状態になる主な原因は筋力低下による転倒や骨折。要介護状態になる高齢者が増えると、老人医療費や介護サービス給付費の増額となってしまう。これを防ぐためには、足腰や背中の筋力をつけるのが有効だとして、以前から高齢者に筋力トレーニングをしてもらうプロジェクトをいくつかの自治体が取り組んでいた。

 茨城・大洋村では96年から、筑波大学の久野譜也講師らのグループと協力して、大腰筋を鍛えるトレーニングとその効果を調べる研究を始めた(2002年7月末時点の65歳以上の高齢者率は約23%、全国平均は約18%)。研究を始めた当時から老人医療費負担などが問題になっていた。参加者を募ったところ、村の60歳以上の46人(約1.3%)が応募。参加者は週1・2回基本的な筋トレと,踏み台昇降運動を行ってきた。

 1年後、週に2回、筋力トレーニングを続けた12人の高齢者は大腰筋の量が約9%増。他方、運動しなかった16人の高齢者の筋量は約8%も減となった。
 参加者の2年後の医療費増加率は不参加者の2分の1に。また、高齢者1人あたりの通院医療費(歯科を除く)を、90年から94年、95年から99年のそれぞれ5年間平均額で比べてみると、その伸び率は約1%となり、県全体の約8%を大きく下回る結果となった。

 この反響は予想以上で、自治体からの問い合わせもいくつかあったという。それを受けて久野講師は2002年7月、「つくばウエルネスリサーチ」(TWR)を設立。熊本・新和町、和歌山・湯浅町、富山・新湊市、新潟・見附市、埼玉・小鹿野町、沖縄・名護市、愛媛・川内町、山形・櫛引町などもTWRの指導で、高齢者の筋力トレーニング事業を始めている。

 その他に独自で筋トレ事業を行っている自治体もある。長崎・大村市は昨年6月から、介護保険の「自立」判定者を対象に筋トレの受講費を削減する「シルバーパワーアップ事業」を始めており、現在登録者は283名。

 鳥取・米子市では昨年10月から、要介護認定の高齢者を対象に筋力トレーニング事業を開始している。3ヶ月で1回の単位で行っており、現在は3回目。

 高齢者と筋力トレーニングという組み合わせは、相容れないように思われるかもしれないが、専門スタッフが高齢者の体力を測定し個別の運動メニューを作り、メニューに沿ってトレーニングを実践するもの。

 高齢者の医療費などが問題になっているなかで、まずは高齢者自身に怪我や病気をしないよう予防してもらう必要があるということだろう。(田中潤)