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全国に広がるレジオネラ菌対策

2003/03/24

 死者7人を含む300人近い被害者を出した日向市「日向サンパーク温泉」をはじめ全国に拡大した公衆浴場でのレジオネラ菌感染問題に対処する予防対策の動きが盛んになっている。兵庫県など8道県では条例を整備。指導に従わない施設名の公表、検査のための助成金を交付する市もある。自治体のレジオネラ菌対策を紹介する。

【条例】
・広島県は、公衆浴場法と旅館業法の施行条例の改正案を2月県議会で可決。4月1日に施行する改正条例では、浴槽水の完全換水を原則毎日として、循環ろ過器の構造基準などが詳細に設けられている。

・鹿児島県は3月県議会で公衆浴場法と旅館業法の施行条例案を可決(4月1日施行)。

レジオネラ肺炎で死亡した新生児の肺(肺に小豆状の結節が見られる)
国立感染症研究所のホームページより
3月7日からは、レジオネラ症防止対策に関するホームページを開設。営業者に施設管理の方法などを紹介、県民には入浴マナーなどの注意を呼びかけている。

・新潟県は2月26日、これまで施設の自主性に任されていた浴場の水交換、消毒、自主検査についての実施基準を検討し、安全の徹底を図るよう条例を改正する方針を明らかにした。現在準備中。

・秋田県内の温泉や銭湯は、県公衆浴場法施行条例に基づいて、1日ごとに湯を変える循環式浴槽以外は気泡発生装置を止め、塩素濃度管理や自主検査を徹底するなどのレジオネラ菌対策に力を入れている。
秋田県分析化学センターが1月6日から、レジオネラ菌検査に合格した入浴施設に独自の検査済みステッカーを発行している。水質基準をクリアしたことを利用者に周知して、安心して入浴を楽しんでもらうのが狙い。

・長野県は12月11日、条例案の骨子を発表。水質検査と結果の施設内への掲示義務付けなどが柱。検査や掲示を怠り、保健所の改善指示に従わない場合は、知事が施設名を公表できるなどとしている。議会には未提案。

・奈良県は、2003年度中にも定期的な水質検査、安全性の高い浴槽の構造などを義務付ける条例化を検討中。

【施設名公表】 
・金沢市は3月18日の市議会で、2003年度からレジオネラ菌が検出された入浴施設に改善の努力が見られない場合、施設名の公表を検討するという意向を示した。

・熊本市は12月市議会で、レジオネラ菌防止策として市の指導や勧告に従わなかった施設名を公表する要綱を定め、施行した。公表基準は以下の通り。
(1)レジオネラ症患者の原因施設と特定され、市が営業停止などの処分をした。
(2)同症患者の原因施設の疑いと感染拡大のおそれがありながら、衛生管理の徹底や使用自粛の勧告に従わない。
(3)患者は出ていないが、市の立ち入り検査で国の基準値(100ミリリットル当たり10個)以上の菌が確認されながら、施設が指導や勧告に従わない。

【助成金】
・神奈川・箱根町は12月町議会で、レジオネラ菌の検査を実施した施設について、1施設4000円を限度に、検査補助金を支給する補正予算案を可決した。

・静岡・熱海市は9月議会で、レジオネラ菌の検査を実施した市内温泉施設に対して、1施設3000円まで助成する制度を設けた。行政によるレジオネラ菌検査の助成は全国初。

 日向サンパーク温泉事件、その後の全国の死亡例、全国調査の結果、レジオネラ菌については、次の注参照。

 <日向サンパーク温泉事件>昨年7月1日にオープンした日向市の第3セクター、日向サンパーク温泉の「お舟出の湯」の利用者の中から、死者7人を含めて295人のレジオネラ菌の感染、擬似感染者を出した。7月19日に日向保健所が営業自粛を指導したが、営業中止になった7月24日まで、集団感染発生を回避するための措置を講じなかった。このため 最高責任者である山本孫春・日向市長ら5人が、施設の衛生管理を怠った疑いで書類送検された(今年2月28日)。

 <その後の死亡例>昨年8月、鹿児島県・東郷町の温泉施設「東郷温泉ゆったり館」で1人死亡(9人感染)。11月には広島県・呉市で1人死亡(感染源は特定できていない)。今年1月には石川県・山中町の温泉施設「ゆーゆー館」で1人死亡。今年3月には温泉ではないが岡山市の岡山大医学部付属病院で1人が死亡している。

 <全国調査>厚生労働省は昨年9月、全国3万1700施設に緊急点検を実施するよう都道府県に指示。1月30日、その調査結果を公表した。それによると、同省はレジオネラ菌の水質基準を100ミリリットル中10個未満と定められているが、循環式ろ過装置やジェット噴射装置などを使用している約1万7400の大型入浴施設のうち、基準値を超えているのが約2900施設(約17%)。施設別でみると、公衆浴場で約15%、旅館では約20%。
 また、循環式でない浴場も含めて、浴槽水の消毒が不十分など「衛生管理に問題がある」として都道府県に指導を受けたのは約1万7600施設(約55%)。

 <レジオネラ菌>肺炎の病原菌。菌を直接吸い込むと肺炎になる。25〜43度が菌の発育可能温度で増殖しやすい。菌は水気を好み、きちんと衛生管理されていない循環式浴槽の水などが感染源となることが多い。人から人へは感染しないが、幼児や高齢者、入院患者など免疫力が低下している人に感染しやすく、とくに身体が弱っている場合などは死に至ることがある。(田中潤)