全国各地で市町村合併に関する議論が盛んだ。行政サービスを効率的に提供するためには、市町村規模をある程度大きくする必要がある一方、合併によって規模が拡大すると、きめ細かな住民サービスが受けられなくなる恐れもある。また、住民自治が形骸化するとの指摘もある。
そこで、合併後の自治体内の旧市町村に、ある程度の自治を認めようとする動きも出てきた。そうした事例をいくつか紹介する。
長野県木曽町など木曽郡北部の7町村でつくる木曽町任意合併協議会は12月9日、旧町村ごとに一定の権限を与える「総合支所方式」の採用を決めた。木曽町本庁では総務、財務、人事などの総括的な事務、国や県から移譲された業務などを担当。各総合支所は戸籍などの窓口業務、道路や下水道の維持、管理などの住民生活に密着した事務を担う。支所の権限は、地方自治法で首長から支所長に委任が認められた範囲とする。
12月10日には静岡県浜松市など県西部14市町村で構成する「環浜名湖政令指定都市構想研究会」が、旧市町村固有の制度を容認する「1市多制度」の導入を提示した。従来の通学区の容認、高齢者配食サービスや伝統文化の助成制度の存続、旧市町村単位の運営を一定期間認める「タッチゾーン方式」などを挙げた。
北海道網走支庁管内町村会では今年4月、管内26市町村を1市に統合して市議会を設置し、市町村を自治機能を持つ「区」として残す「自治区制」(仮称)構想が浮上。区議会のほか、首長も給与が半額程度の区長を非常勤で置き、行政コストの削減を目指す。その後特に進展はないが、町村会によると、これは今後の課題であり、将来的な理想として考えているとのこと。
なお、財団法人日本都市センターは今年3月、身近な地域での住民自治拡充を目指す「近隣政府」の創設を提言した。議会、事務局を置き、議員は原則無給で、住民の直接選挙で選ばれる。財産管理、窓口業務、土地利用規制などの権限を持つ。
こうした「近隣政府」構想は、地方制度調査会でも検討されており、11月に発表された「西尾試案」には、合併後も旧市町村単位で新たな自治組織を設けるべきだ、と盛り込まれている。しかしこれに対しては、自治を大切にするのであるならば、強制的な合併そのものが疑問だという意見も強い。(田中潤) |
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