地方主権の提唱

 

1990.11.28

 

(社)行革国民会議

 地方分権研究会


目  次

 

 
T 地方分権から地方主権へ
 1 地方分権から地方主権へ
   【新しい理念】
   【中央集権、画一的政治・行政の弊害】
   【民主主義と地方主権】
   【国際化と地方主権】

  2 これまでの議論 
   【権限の委譲】
   【広域行政】
   【市町村連合、都道府県連合】
   【道州制】
   【地方庁】
   【連邦制】
   【地方主権確立のための条件整備】
   【政策論に裏打ちされた地方主権論】
 

U 地方自治法の抜本改正
  1 戦略目標としての地方自治法改正
   【地方自治法の功罪】

  2 地方自治法の問題点
   【条例の範囲】
   【直接請求権の対象】
   【組織の規制】
   【議会】

  3 新たな「地方主権基本法」の制定
   【主権の担い手】
   【地方自治体の種類】
   【住民の範囲と権利・義務】
   【中央省庁の解体、再編成】

V 新たな財政調整方式 
  1 自主財源と自治
   【自主財源の概念】
   【起債の自由化】

  2 新たな財政調整方式
   【共同税の創設】
   【国税、地方税の抜本的な組替え】
   【共同税の地方と国との配分率について】
   【地方間の配分について】
   【財政調整のための3条機関の設置】

W 連邦国家への展望
   【連邦制への移行】
   【州の権限】
   【州の区割り】
   【東京の取り扱い】
   【国、州、市との関係】
   【まず決断】
   【住民の意識の改革】
 

【地方分権研究会について】


T 地方分権から地方主権へ

1 地方分権から地方主権へ

【新しい理念】

 地方分権の問題とは単に国の権限の一部を地方に移すといった権限争いの問題ではない。地方自治、住民自治を基本に据えて、今後の日本の政治・行政のシステムをいかに民主的かつ公平公正なものにしていくかという問題である。その基本となるのは、明治以来の「追い付き追い越せ」をスローガンとしてとってきた挙国一致の体制を、個人や地方ごとに多様な選択が可能な体制に改めていくことである。こうした発想で、明治維新の廃藩置県にも匹敵する国内の大改革を実行しようというものである。

 今後地方分権を大きく前進させるためには、地方「分権」ではなく地方「主権」という考え方を打ち出す必要がある。「分権」というと、あたかも国に属している権限を地方に分与する意味にとられるおそれがある。地方(むしろ地方の住民)には自分たちの問題を自分たちで解決する権利と義務がもともと存在している、すなわち「地方主権」が存在していることを強く打ち出す必要がある。

【中央集権、画一的政治・行政の弊害】

 地方主権を今日提唱するのは、これまでの中央集権的、画一的な行政・政治を改め、地方ごとに異なったニーズに柔軟に対応出来るシステムが必要であるからである。これまで効率的であったと思われたシステムが、いまや時代の変化に対応できない硬直的なものとなり、かえって効率をも妨げている。

 現在、地方自治体が地域の実情にあった政策を立案し実行しようとしても、国からの制約によって自由に出来ない状況になっている。また一方では、あまりに中央依存が長く続いたために、地方自治体が本来の自治体としての機能を失い、国あるいは都道府県の出先機関になってしまって、住民本位の問題解決を行う意欲も能力を失ってしまっているものも多く見受けられる。力のある自治体が自由にその力を伸ばしていくためにも、また、力の弱い自治体が一歩でも自らの足で歩みだすようになるためにも、自分たちのことは自分たちで決めて実行する、という当たり前の原則を確認しておかなくてはならない。

 現在の状況のもとでは人材は地方に育たず、定着せず、これがさらにこの中央依存傾向を強めている。地域の住民も地元の自治体の政策に関心も示さず協力もせず、この傾向にさらに拍車をかけている。地域活性化をいくら唱えてもこれではほとんど実現不可能である。一刻も早くこうした悪循環を断ち切らなければならない。

【民主主義と地方主権】

 政治改革は議会制民主主義の機能を発揮させるために、是非ともその内容について論議を深め実行していく必要があるが、その際、選挙制度や政治資金の問題だけでなく、政治をいかに国民の身近なものにするかという視点が大切である。そのためには、地方主権の確認によって地元の問題は地元で解決するという大原則をたてなければならない。

 国会の一票格差を是正することは議会制民主主義の基本であるが、これを実行すれば、大都市の政治的発言力は今より大幅に増え、政治の分野でも東京一極集中が進むことになりかねない。こうしたことを防ぐためにも、地方主権の原則によって中央政府と地方とが対等の立場になるようにしていかなければならない。

 

【国際化と地方主権】

 あらゆる分野における国際化の一層の進展は必然である。国境は次第にその存在意味をなくしていくであろう。その際、国境の代りに各地方に障壁を設けるという意味ではないが、地方主権を明確にすることによって、問題によっては地域独自の方針が立てられるようにしておくことが、外交交渉を懐深くおこなうためにも国際化を円滑に実行するためにも必要である。すなわち、剛構造の社会から柔構造の社会へと転換させるわけである。

 たとえば、大店法の問題などは地方自治体に任せ、自治体が自分たちの商圏の範囲を広域的ににらみながら自分で考えるほうが問題が解決しやすい。また、逆に国レベルでは一挙に行なえないことも、先駆的に自治体レベルで行なっていくことを可能にしていく必要もあろう。居住外国人に対する社会保障、教育などの施策、あるいは将来的には政治参加などの問題はこの例である。

 

2 これまでの議論

【権限の委譲】

 これまで臨調、行革審と何回か答申が出され、機関委任事務、必置規制などについて若干の改革が行われてきた。しかしその内容は軽微なものが殆どで、実質的に権限の移譲が進んだとはとても言えない。

 国は自治体の能力についての根強い不信感を持っていて、自治体の能力が十分そなわらない限り、国の権限を委譲(移譲ではない!)出来ないというのが基本的な態度である。これまでの政令指定都市という考え方がそうであるし、昨年12月の行革審答申の「地域中核都市(いわゆる第2政令指定都市)」の構想もこの枠を広げたものであり、市町村連合、都道府県連合という構想も、この考え方に沿ったものである。これでは権限の移譲はどうしても部分的にならざるをえないし、能力の判定において国の判断が優先することになるから、結果として殆ど地方分権は進まないことになる。

 なお、遷都論や国会移転の議論もあちこちで行われ、今年11月には国会決議も行われたが、現在の中央集権制度をそのままにしての議論は意味がない。

 

【広域行政】

 一部事務組合、複合的一部事務組合、協議会などの広域的な行政運用の仕組はそれなりに存在理由があるものの、これは与えられた権限の範囲内での共同事業に過ぎず、自治を強化するものではない。むしろ、住民の参加のシステムがあいまいとなり、また市町村と都道府県の間に中間組織を乱立させ、組織をより複雑にするきらいもある。

 

【市町村連合、都道府県連合】

 昨年の行革審答申の「市町村連合、都道府県連合」は、かつての地方制度調査会の構想の復活であり、「連合」の結成に応じてそこに国の権限を委譲することによって、誘導しようというものである。

 この「連合」は、たとえば市町村合併、都道府県合併、道州制、あるいは連邦制への移行にあたって過渡的に存在することは考えられるものの、これをある程度恒久的な制度とすれば、事務組合とおなじく、これまでの地方自治制度をさらに複雑にする結果となる。

 

【道州制】

 道州制についてもいくつかの提案が発表されているが、基本的には広域行政の推進を主張しているに過ぎない。官選知事の考えも出されたことがあるが、たとえ知事公選制を採ったとしても、現在の都道府県が国の出先機関となっている現状を大きく変えるものではない。

 

【地方庁】

 道州制への移行は現実にはなかなか難しいとの判断から、国のブロック機関を一緒にした「地方庁」構想、あるいは「地方府」構想が提案されている。しかし、この構想は北海道開発庁をさらに強大にしたようなものを各所に設けることになり、二重行政をさらに促進させるものである。確かに一見、国の権限が住民の近くまで降りてくるかのようであるが、実際にはさらに国による支配を強化するだけの結果しかもたらさない。また、国の出先機関を集めたとしても、そこで必要なヨコの調整が出来るかどうかも疑わしい。

 

【連邦制】

 連邦制についてもすでにいくつかの提案が行われている。道州制との基本的な相違は、州に独立した主権を認めるところにある。われわれも、将来は「連邦制」に移行することが「地方主権」を明確な形で示すことになると考える。

 

【地方主権確立のための条件整備】

 地方主権を確立するためには、いくつかの条件を整備しておかねばならない。連邦制への移行はそのあとで行うべきものである。

 地方主権の確立のためには、まず、制度的には現在の地方自治法を「地方主権基本法」とでもいうべきものに根本的に書き換える必要がある。また、財政面では、現在の税源配分を改め、地方自治体に本当の意味での自主財源を確保し、財政面のフリーハンドを保証する必要がある。経済力の不均衡からくる財政面の不均衡を是正するため、自治体間での財政調整は必要になるが、その調整方式は現行の地方交付税の算定方式のごとく複雑なものでなく、簡単で、中央政府の恣意性が排除できるものにしなければならない。

 

【政策論に裏打ちされた地方主権論】

 地方主権あるいは地方分権を実現させるためには、政策論の裏付が是非とも必要である。いかなる政策を実行するのかを明確にしないで、ただ地方主権や地方分権を唱えていても、国民や住民の共感を呼ぶことは出来ない。

 しかし、既にいくつかの政策分野で、地方分権とまではいかずとも地方を重視した政策要請されるに至っている。この傾向をさらに強めていくことが大切である。

 いくつか例をあげるならば、社会保障の分野では、90年6月に老人福祉法などが改正され、これ迄都道府県と市が行なってきた老人福祉の運営を市町村に一元化することとなった。今後予防医療が医療政策の重要な柱になるとすれば、医療と福祉との一体的な運用はますます必要になるし、住宅政策と医療政策の組合せも現実に多くの自治体で行われだしている。さらに進んで、体育・保健との連係も必要になろう。これを今の各省のタテ割り行政のもとで柔軟に実施していくことはほとんど不可能であり、ますます地方自治体の働きが重要になってくる。

 さらに、農政では国による食管制度や減反政策は破綻をきたしており、地域間競争と地域農政の展開が今後の課題となっている。農地法、農振法の運用などについても地域からの苦情が絶えない。

 文教の分野でも、1986年4月の臨教審第2次答申においては「地方分権の推進」という節をわざわざ設け、「21世紀に向けての今後の教育行政においては、各地方公共団体がそれぞれの地域の多様で個別的な特性、地域住民の意思をきめ細かく反映させながら、自主的判断と責任において教育行政を推進し得るようにしていく必要がある」と今後の方向を示し、出来る限りの権限委譲をすべきだと述べている。国立大学をもっと地域に密着した存在にするために県立にすべきだとの議論も行われているし、教育委員の準公選など教育行政を地域主体で運営すべきだとの意見も強まりつつある。

 このほか、通産行政でも地域産業政策とはなにかをめぐって議論がおこなわれているし、都市計画や公共事業の分野でも、国による画一的な行政にかえて地方自治体が独自にウエイトづけを行ったほうが効率的な社会資本整備がはかれることは既に多く指摘されているところである。日米構造協議の結果、生活関連事業に比重を移していくならば尚更のことである。

 これまで中央省庁間の総合調整機能の強化は何度も指摘されながら、少しも改善されていない。タテ割り行政の弊害を是正するためにも、それぞれの地方自治体ごとに内部でヨコの調整を行っていけるよう、総合的な権限を固有のものとして持つことが是非とも必要である。

 



 

U 地方自治法の抜本改正 

1 戦略目標としての地方自治法改正

【地方自治法の功罪】

 戦後、憲法で初めて保障された地方自治を確立し定着させた面で、地方自治法の果した役割は大きい。この点はまず評価しておかなければならない。しかし、その後の社会の発展にともない、この自治法の事細かに定められた規定が制定当初の精神から逸脱して、自治体の創意工夫の余地を大きく狭め、また、さらに伸びようとする自治体にとって制約となってきている。

 こうした観点から、これまでの地方自治法の功績は高く評価するが、地方自治体およびその住民が自由と責任を大幅にもつこと、すなわち地方自治体に主権があることを明確にした「地方主権基本法」の制定を提唱したい。

 

 

2 地方自治法の問題点

【条例の範囲】

 まず取り上げるべき問題は、自治体の制定する条例の範囲について国からの制約が大きく設けられていることである。地方自治体は、住民の生活に関連するものであるかぎり、原則的にすべての事柄について条例を定める権限をもつようにすべきである。法律は基本的事項についてのみ定め、地方自治体の自由な選択余地を大きく確保することが必要である。

 

【直接請求権の対象】

 自治法では条例制定、改廃に関する住民の直接請求権が定められているが、この請求権にも制約が多い。たとえば地方税、分担金、手数料に関しては除外規定が設けられており、住民の手が届かないようになっている。自分たちの払う税の問題について住民が発言権を封じられている状況は自治とはいえない。

 

【組織の規制】

 地方自治法は、都道府県の局、部について極めて細かく規定している。しかもそれに加えて、都道府県の組織は「国の行政組織および他の都道府県の局部の組織との間に権衡を失しないよう」にするべきであり、市町村の組織は「他の市町村の部課との間に権衡を失しないよう」にすべきだと定めている。まさにこの規定は国の省庁のタテ割りを都道府県、市町村にまでもちこむものである。

 

【議会】

 自治体の条例制定権を強めるということは、議会の機能を強めるということである。現在、各自治体にはそれぞれ議会がおかれているが、その機能は必ずしも十分ではない。

地方の議会は国の議会とならぶ立法機関であることを明確にし、それに相応しい人材が参集するような存在にしていくことが必要である。

 議員定数についても自治法には細かで具体的な規定がおかれている。定数はそれぞれの自治体の自由裁量に任せるべきである。

 自治法では地方議員が他の議員を兼職することを禁止しているが、この規定も問題である。市町村の議員が都道府県の議員を兼ねてもいいし、国会議員になってもなんら問題はない。むしろ、自治体を強化することになる。

 

 

3 新たな「地方主権基本法」の制定

【主権の担い手】

 「主権」をもつ地方とはまず、市町村である。都道府県はこうした市町村のもつ主権に基礎をおいて「主権」をもつことになる。

 

【地方自治体の種類】

 新たに設ける「基本法」においては、この都・道・府・県、市・町・村という区別をなくし、単純に県と市にする。都・道・府・県という名称の区別はあえて地方自治体間でつける必要はない。市町村の区別については、自治法に資格要件が定められており、これが村よりは町、町よりは市の方が格が上であるかのごとき風潮を生みだしている。

 さらに政令指定都市という存在も大いに疑問である。自治を標榜するものが、「政令」による指定を有難がるという考え方は間違っている。新たにつくる「基本法」においては、個別の権限配分は県と市の間の協議にまかせ(すなわち県の条例にまかせ)、国が資格を認定するような、現在の「政令」指定都市制度は廃止する。

 あとで述べるように、連邦制に移行する段階になれば、県を州と呼び変えることになろう。

 

【住民の範囲と権利・義務】

 「基本法」で新たに書加えなければならない問題は、住民の範囲とその権利・義務である。

 現在そこに居住しているものは国籍を問わず住民であり、条例で定める権利と義務を等しくもつことは当然であるが、現在そこに居住していなくても住民(市民)になる途を拓くことが必要である。これによって地域も活性化し、また、いわゆる過疎の問題も幾分かは軽減されるだろう。

 納税者になれば市民となることができるようにする一方、現在納税者でありながら、市民としての資格を十分受けられない外国人居住者などについても、等しく市民として扱うようにしなければならない。

 

【中央省庁の解体、再編成】

 地方主権基本法を制定するということは、単に今のシステムのなかで国の権限の一部を地方に移すことではない。地方と名のつく法律(地方財政法、地方税法、地方公務員法など)を全面的に書換えることは勿論、自治省のみならず各中央省庁の所管する法律ならびに所管省の存在自体を根本的に問い直すことである。あとで示すような共同税を採用して補助金、地方交付税が廃止されると、国の行政事務、組織は大幅に縮小することになる。結論的にいえば、国の行政組織は外交、防衛などの外政にかかわる組織と内政上のごく基本的なことがらを与る組織からなる、極めて簡素なものになるであろう。
 



 

V 新たな財政調整方式 

1 自主財源と自治

【自主財源の概念】

 いかに「地方主権」を唱え、制度的に地方自治の条件整備を行っても、財政的自立がなければなんにもならない。自主財源をいかに確保するかが地方主権を現実のものとするためのもう一つの要件である。

 これまで、地方交付税は地方自治体の自主財源であるといわれてきた。たしかに補助金と違って使途に制限がないという限りにおいては自主的ということも出来ようが、その配分は自治省の権限であり、それぞれの地方自治体の固有の財源ではない。地方間の経済力の格差が著しい現状においては財政調整のための制度は今後も必要であるが、現在のような配分方式による地方交付税を廃止して、新たな制度に切換えるべきである。

 

【起債の自由化】

 自主財源を確保するために起債の自由化は是非とも必要である。地方自治法では、起債の許可制は「当分の間」とされているものの、すでに地方自治法が制定されて40数年経過している。昨年12月の行革審の答申においては、起債制限の問題について触れながら、ほとんど実質的な改革を提言していない。起債許可の権限が自治体を拘束する自治省の有力な手段になっていることを考えれば、なおさら、起債の自由化は直ちに行うべきである。ただしその際には、元本、利子の返済はあくまでも自治体の責任であり、国などがその肩代りを行うべきでないことは勿論である。

 

 

2 新たな財政調整方式

【共同税の創設】

 地方自治体の自主財源を確保するためには、現在の税源を根本的に再編成したうえで共同税を創設し、現在の地方交付税制度、補助金制度をすべてその中に吸収し、廃止することを提唱したい。これにより、自治体の自主財源を確保するとともに、基準財政需要とか補助単価などという一切の束縛をなくそうというものである。

 

【国税、地方税の抜本的な組替え】

 今後の税制の姿として、固定資産税のような税は市町村、消費税や酒税など消費に関する税は都道府県、所得にかかわるものは共同税、関税などは国税と大きく税体系を再編成することが、それぞれの責任を明確にするためにも望ましい。それぞれの税目、税率は各自治体が住民の意思で自由に決定できるようにするわけである。

 この場合、現在の市町村民税や都道府県民税、事業税などはむしろ所得税や法人税に一元化し、共同税としたほうがすっきりする。国が徴収せず、全て地方が徴収して国に交付することも一案である。こうなれば納税者も事務が簡素化されるし、税務の合理化も実現する。(表1 参照)

 

【共同税の地方と国との配分率について】

 現在の地方と国との間の財源配分を実質的に変えないとした場合、共同税の地方と国との配分率はどうなるかを、決算がすべて出そろっている1988年度の数字をもとに試算してみると次のようになる(ただし、この年度は消費税が導入されてはいない)。

 まず、共同税の税収は55兆8060億円である。

その内訳は次の通り。

      所得税  18兆7804億円

      法人税  18兆7106億円

      県民税   4兆0209億円

      事業税   5兆7798億円

      市町村民税 8兆5143億円

 この結果、いままでは地方税であったものが共同税に移行したものは、県民税、事業税、市町村民税の3税で、その合計額は18兆3150億円である。

 逆に、これまで国税であって新たに地方税に移行するものは、酒税、砂糖消費税、物品税、揮発油税、地方道路税、石油ガス税と相続税であり、その総額は8兆2201億円である。

 したがって、税収の帰属を変更することにより地方は差引き10兆0949億円のマイナスとなるから、地方はその分を共同税から取戻さなければならない。

 1988年度における地方交付税は13兆0322億円、また、国から地方への補助金は10兆0150億円、地方譲与税は5264億円であるから、この合計は23兆5736億円となる。この分も共同税から支払われることになるから、共同税から地方に支払われる総額は、税収の帰属変更分も加えて33兆6685億円であり、これは共同税の60.3%強である。

 同様の計算を1989年度について行うと、共同税は61兆7595億円、帰属変更による地方の取戻し分は9兆8018億円、地方交付税(補正後)は14兆9647億円、補助金は10兆0944億円(当初予算)、譲与税1兆4534億円(当初予算)であるから、地方の取り分は36兆3143億円、共同税の58.8%となる。

 したがって、当面、共同税の配分率を地方60%、国40%とすれば、さほど大きな狂いは双方に生じないはずである。

 

【地方間の配分について】

 こうして得た共有財源を各地方自治体間でいかに配分するかが次の課題である。今と同じ方式で自治省が配分していたのでは共同税の意味がない。

 一つの考え方は、いわゆる不足払い的発想に立って各自治体の毎年の収入と支出の差を補填する方法であり、第2の考え方は固定配分である。

 財源の不足する分を配分するという考え方は、確かに現場の希望にそうものであるが、努力をして財政を合理化していこうというインセンティヴが働かない。足りないと誰かが補ってくれるなら合理化する必要がないからである。また、放漫財政の尻ぬぐいをさせられないように、各自治体の財政運営について結局どこかが監視監督することになるであろう。これでは改革の意味が全くない。したがって、今後は不足分をその都度補うのではなく、共同税の自治体間配分率はそれぞれの自治体の財政状況にかかわらず固定すべきである。

 自治体間配分率を固定するとして、その決定にあたっての一つの考え方は、現在の地方に対する配分状況を是認して、地方と国との間で行ったような財源再配分の計算を各地方自治体毎に行うことである。こうして得られた共同税の再配分比率を当分の間固定しておけば、各自治体は共同税の伸びと自前の税収の伸びを考えて、財政運営を行っていくことになる。(表2 参照)

 この方式によれば、各都道府県(市町村分も含む)の共同税の再配分率は次のようになる。

 

北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山
  7.1%   1.9%   1.9%   1.5%   1.6%   1.5%   2.0%   1.9%   1.0%   1.3%   3.2%   2.4%  11.7%   2.8%   2.6%   1.2%
石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根
  1.1%   1.0%   1.0%   2.3%   1.8%   1.8%   2.6%   1.2%   1.0%   1.8%   5.4%   3.2%   1.3%   0.9%   0.9%   1.3%
岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 合計
  1.3%   2.3%   1.3%   1.1%   0.9%   1.6%   1.4%   4.0%   1.1%   2.1%   2.1%   1.4%   1.5%   2.4%   1.5%  100%

          

 この方式は、現状を是認し前提としているため実践的であるが、現在の地方財政の姿を固定する結果となる。たとえば、北海道は全国人口の4.6%であるのに、共同税の配分率は7.1%になっている。東京も人口は9.5%であるのに配分率は11.7%と人口に比して配分が多いが、神奈川は人口で6.4%を占めながら、共同税の配分は2.8%にすぎない。総じて人口が多い地方の中核地域に配分が薄いというのが、現在の地方財政の姿である。こうした「ゆがみ」をどう是正していくかが今後の課題である。

 これを避けようとして仮に共同税の配分を人口比で機械的に行うと、一つには過疎地域にとって非常につらい結果となるが、同時に、東京都の過大な財政を抑制し関東諸県や近畿、中京などの地方中核都市への配分を今以上に増やす結果にもなる。一挙にこのような機械的配分方式に移行することは出来ないとしても、たとえば共同税の半分はさきに計算した配分比率、あとの半分は人口比にするなどの方法で段階的に是正していくことも一法である。この計算結果を別表として掲げておくが、この方法によれば、過疎地域の財政規模の圧縮度合いはかなり軽減されることになる。(図1〜3 参照)

 

【財政調整のための3条機関の設置】

 共同税の税率は国会できめるとしても、地方と国との共同税の配分比率は地方の代表に国の代表も交えて構成する行政委員会(国家行政組織法第3条にもとづく委員会)で協議決定するのが望ましい。

 さきに地方と国との共同税の税収配分を4:6と試算したが、この比率は地方主権を推し進め、地方に政策主体が移るにつれ、さらに変更すべきことは勿論である。

 また、共同税の配分は県(将来は州)ということにして、それぞれの県内部における県と市町村、市町村間の配分はそれぞれの内部で自由に決定すればよい。その際、共同税はあくまでも県だけでなく市町村も含めた地方全体の共同税であることを忘れてはならない。


 

W 連邦国家への展望

【連邦制への移行】

 「地方主権」を推し進めていったとき、現在の都道府県、市町村の体制は自ずと変容をとげることになる。国の出先機関としての性格を強くもった都道府県や市町村は、制度的にも財政的にも独立の度合いをはるかに高め、一つのミニ国家というべきものになっていく。

 その段階で現在の市町村が寄り集り人口30万人程度の「市」を形成し、また、都道府県がいくつか集って「州」を形成することが、財源、人的資源の有効な配分の上からも望ましいことになる。特に、自ら計画を立案し実施する業務がふえるにつれ、こうした要請は強まるであろう。こうした「州」の集りが「国」となり、連邦制がここで具体的な姿になってくる。

 こうして形成されてくる連邦国家とかねてから提案されている道州制の基本的相違は、道州制はあくまでも単一国家であって、州は国の一部を広域的に受持つ機関にすぎないのにたいし、連邦国家はそれぞれ「主権」をもつ「州」の集合体であることである。

 

【州の権限】

 「州」は基礎自治体である「市」の共同体として「主権」をもつが、行政権、立法権は当然として司法権ももつべきかどうかが一つの問題である。国の法律に違反したかどうかの判断は国の裁判所の権限になるとしても、州内部での行為が条例に反したかどうかを判断する独立した機関が州内部にも必要であると考えられる。

 

【州の区割り】

 連邦制の具体的なイメージを描く場合、州の区割りが常に関心事となる。いわゆる電力会社方式とか国のブロック割りなどが一つの目安となるが、これはそれぞれの都道府県の住民の自発的意思に任せるべきである。一つの県だけを単位として「州」を名乗りたかったならばそれも出来る位の弾力的な考え方が必要である。

 しかし、結局地域経済圏とこれまでの行政区画とを睨み合わせながら、全国に10ないし15程度の「州」が出来ると思われる。

 

【東京の取り扱い】

 東京都をどうするかは一つの問題である。首都圏としていまより広域的な政策実行できるようにすることが必要であるという考え方もあるし、中央3区をワシントン的に特別に国直轄にする案もある。また、極めて簡素化された連邦政府の所在地を東京以外の地に移すことも検討されてよいだろう。いずれにせよ、今後十分検討する必要がある。

 

【国、州、市との関係】

 連邦制のもとでは「市」、「州」、国の3者は、それぞれ垂直的関係から水平的分業の関係に移るべきである。ある政策を巡って競合関係も時にあってもよい。そうした前提で補助金などの制度も、権力的でない誘導手段として有効になる。現在は自治体を補助金に頼らざるを得ない状況に追込んでいるから、弊害が生ずるのである。

 

【まず決断】

 地方自治法を書き改めること、税の帰属を抜本的に改革すること、連邦制に移行することはいずれも極めて困難な課題である。ここにラフなスケッチを行ったことも、さらに十分な検討を加えなければならない。

 しかし、困難で時間がかかる課題であるだけに、まず、思い切った決断を行い、そのうえで経過措置、段階的移行措置を考えていく必要がある。出来ることから徐々に実行していくという態度では何事も進まない。

 いずれにせよ、これまでのシステムを抜本的に改革していくのであるから、多くの混乱が生ずるであろう。すべての自治体がうまくいくとはかぎらない。しかし、この混乱を恐れず、必要な学習期間だと考えて、果敢に改革に取組むことが必要である。

 

【住民の意識の改革】

 地方の主権を確立する上で、最も重要なものは住民の意識改革であるかもしれない。いかに地方主権を唱えても、住民が中央依存の行政、政治を望んでいては実現しない。

そのためにはここに述べた考え方をたたき台として全国各地で「地方主権」の確立を巡って活発な討論が行われ、それが一つの流れに結集していくことを期待したい。

以上

 



 

【地方分権研究会について】

 

 (社)行革国民会議では、これまでの行革の議論で不十分なところの一つは地方分権論であるとの基本的な認識のもとに、これまで機会あるごとに地方分権の議論をおこなって参りました。昨年11月に発表いたしました「行財政改革の新たな課題」でも、今後の重要な柱として地方分権をとりあげております。

 こうした議論をより具体的に進めるため、昨年10月、恒松制治獨協大学教授(当会理事、前島根県知事)を座長とする「地方分権研究会」を発足させ、これまで13回にわたる議論を行ってきました。そうした議論の中から、特に今緊急に問題提起を行うべきだと思われた事項だけに絞って取りまとめましたのが、今回の報告であります。

 また、この報告には、行革国民会議が昨年3月から7回にわたって開催して参りました政治改革にかんする公開討論会での議論も盛り込まれております。

 なお、研究会の委員はつぎのとおりです。

       都立大学名誉教授    磯村 英一

       神奈川県参事      後藤  仁

       旭リサーチセンター専務 山同 陽一

       拓殖大学教授      竹下  譲

       国民経済研究協会顧問  竹中 一雄

   (座長)獨協大学教授      恒松 制治

       行革フォーラム代表   並河 信乃

       連合総研専務理事    村上 忠行

 



 

【(社)行革国民会議について】

 行革国民会議は1983年、臨調答申の実行を監視するとともに、臨調などの議論の不十分なところは補い、あくまでも筋の通った行財政改革を実現するために結成された、純粋に民間の組織です。代表は、現在、磯村英一都立大学名誉教授です。

 これまで、定期的に行革の進捗状況を採点した「民間版・行革白書」を公表するほか、地方分権、政治改革、民営化、透明な政府など重要な課題について、研究会や公開討論会を開催しています。

ご意見やお問い合せは (社)行革国民会議事務局

              東京都千代田区平河町2ー12ー2

              電話03-230-1853  FAX 03-230-1852 まで

 注:事務局の住所は、97年2月より下記に変更になりました
              東京都千代田区麹町2ー3 麹町ガーデンビル9階
   電話、FAXは変わりません


 

 

(1988年度決算による)