1 事実認識
2 改革の基本方針
3 より分権的な税制改革の実現
4 共同税の導入と地域間税制調整
5 市町村と都道府県との財源配分と市町村間の財政調整
6 より広域的な体制の検討
第1図 地方政府の実際の仕事の分担
第2図 地域間の税収格差
第3図 市町村、都道府県、中央政府間の主な税源の再配分
第4図 それぞれの地域におけるサービス
第1表 地域別税収状況
第2表 国税の歪みを正すことによる地域の国税の増減
第3表 国税が県内総生産に比例すると仮定した場合の計算例
第4表 地域毎の財源過不足額、共同税額とその配分
第5表 地域を大括りした場合の財政計算
第1表 地域別税収状況
第2表 国税の歪みを正すことによる地域の国税の増減
第3表 国税が県内総生産に比例すると仮定した場合の計算例
第4表 地域毎の財源過不足額、共同税額とその配分
第5表 地域を大括りした場合の財政計算
A 中央政府の一般会計70兆5500億円(91年度決算)からこうした地方に回す分を差し引けば41兆5000億円弱となり、これが中央政府のネットの財政規模である。さらに、このうち15兆5000億円が国債費であり、中央政府の実際の仕事量は26兆円の規模にすぎない。同じ比較をするために地方財政総額から地方債費用7兆円を差し引けば73兆円となり、地方は実に中央政府の3倍弱の仕事を実際に行っていることになる。
B 中央政府から3割にも及ぶ財源の補給を受けて財政を賄うという現在の仕組みを続ける限り、地方は中央に従属せざるをえない。その典型的なものは各種の補助金であるが、自主財源といわれる地方交付税についても、その総額および個々の自治体への配分については中央政府の強いコントロールの下にある。しかも、この中央政府依存度の3割という数字はあくまでも総額であり、大多数の自治体はこの数字が5割を超えている。
C 中央に財源を集中させ、それを強い中央集権的なコントロールのもとに配分するシステムは、富国強兵あるいは経済的キャッチアップの時代にはそれなりの合理性があったかもしれない。しかし、高度成長をなしとげ、各地域の水準もある程度上がった今日においては、この強い中央集権的な財政構造は利点よりも欠陥が目立つようになってきた。
D 欠陥の第1は、各地域の中央依存体質が定着し、地域の独立的な気風が衰え、社会全体の活力がなくなってきたことである。第2は、巨額な財源配分が利権化することによって中央・地方の政治が腐敗し、住民自治を基本とする民主主義が形骸化したことである。第3は、中央省庁のタテ割り行政ならびに一律主義によって、ムダや重複が生れ、行財政の効率が大きく損われていることである。これらの弊害は、現在の中央集権体制を維持したまま、その彌縫策を講じてみてもなんら解決には結びつかない。中央集権体制を打破し、名実ともに地方主権を実現しなければ解決できない。
E 現在、高齢化社会への対応が求められ、市町村など地方の役割が強調されている一方、中央政府の財政危機に端を発した税制改革論議では、国税である消費税を増税することによって、一層中央集権的な財政構造が作り上げられようとしている。こうした流れをくいとめ、地方主権が実現できるような財政、税制の仕組を作り上げていくことが急務である。
F さらに、このたびの選挙制度改革によって衆議院議員選挙に小選挙区比例代表制が導入されようとしている時、同時に財政面の分権を強力に進めておかなければ、いまよりはるかに強い中央主導の利権政治が生れ、地方自治は根底から否定される結果になりかねないことを指摘しておきたい。
A このためには、現在、国税とされている税も(関税など一部を除いて)全て地方税とし、中央政府に必要な財源は地方が拠出することとする。
B 地方と中央との財源配分の割合は、地方と中央との行政責任の分担いかんによって変ってくる。しかし、ここでは、まず、現在の実際の仕事の分担の仕方を前提として、それをいま機関委任事務や補助金など中央のコントロールの下に行っているやりかたから、地方が自主的に行うやりかたに改めることを第1段階の作業とする。
第1図にあるように、すでに現在でも殆どの仕事は実際には地方で行われているのであり、財源配分さえ工夫すれば分権は大きく進むのである。勿論、さらに権限などの移管が行われ、地方の役割がさらに大きくなれば、それに応じてさらに地方の自主財源を拡大していくことが必要である。
D 地域間の税収に大きな格差が生じているのは、地域間の経済力に大きな格差があるためであるが、さらに、現行税制に歪みがあって、経済力の格差以上に税収の格差を生んでいることも見逃せない。そこで、まず、地域間の財政調整を考える前に、この税制の歪みを是正して、経済力に応じた税収が確保できるような税制を考える。
E こうして税制の歪みを是正しても、依然として地域間の格差は残る。そこで、財政力の弱いところでも現在の財政規模を維持できるよう、財源を補うための地域間財政調整システムを導入する。ただし、これは現在の地方交付税や補助金制度のような、中央政府の意のままになる制度ではなく、地方の創意工夫が生かせて独立心の養える、しかも地方財政健全化のインセンティヴが働くような、新しいシステムとする。
F 地域の財政の懐を広げ、地域ごとに財政調整の工夫をしやすくするためには、いまの47都道府県よりはもっと大括りな地方政府(州)の創設が必要となる。その実現には多少の時間が必要であるが、その完成された姿(連邦制)における権限・財源のわけかたについて、いまから明確なイメージを描き、当面の改革がそれにつながるようにする。
A 現在の国税、地方税の地域ごとの税収をみると、第1表のとおりである。これでみると、東京など一部の地域を除いては、かりに地方税に加えて国税をすべてその地域で使うことが出来たとしても、その地域の財政は賄えない。どうしても中央政府か他所の地域から財源を回してもらわなければ、その地域の財政は立ちいかない。地方分権はおろか地方主権は夢のまた夢という嘆きが聞えてくる。
B しかし、この地域の税収は本当にこれだけしか上がらないのであろうか。たとえば、国税と地方税の地域ごとの状況をみると、国税収入における格差に比べて地方税收における格差のほうがまだ少ない。たとえば、東京は国税の全国総額の34%を占めているが、地方税では19%程度である。そのほかのほとんどの地域では、逆に、国税総額に占める各地域の比率は地方税総額に対する比率よりも低い。すなわち、国税においては東京一極集中が極めて激しいのである。
C 中央集権体制のもとでは、どこで税収があがろうともすべてそれを中央政府の手中におさめ、それを地方に分配するわけであるから、国税の地域別格差ということは問題にならなかった。むしろ、東京で一括して徴収できたほうが便利で合理的であった。しかし、地方主権をなりたたせるための財政的基盤を地域ごとに確立させる立場からは、こうした東京一極集中的な税制は見逃すことは出来ない。
G この考えをさらに飛躍させたものが、第3表である。ここでは、各地での国税の税収が県内総生産と比例すると仮定して、国税収入総額をそれぞれの地域に割り振ってみた税収を計算したものである。この計算によると、東京の税収は激減し、その分各地域の税収は増え、ほとんどの地域が自分の地域の財政を地方税も含めた自分のところの税収で賄えることになる。勿論、これは一つの計算例であるが、これから地域間の財政調整を考えるにあたって、財政調整とは、貧しい恵まれない地域に対して裕福で余裕のある地域がお情けで援助するのではなく、歪んだ税制のもとでの税収を本来の経済力に応じた姿に戻す作業が多く含まれていることに留意してもらいたい。
A 地方財政の財源としては、現在の地方税のほか、その地域であがる国税収入を全部あて、そのかわりこれまでの交付税、補助金、地方譲与税など中央政府からの財源移転は全て廃止する。ただし、その結果生じた財源不足については、あらたに設ける地方財政共同基金から必要額を補填する。また、財源超過になるばあいには、その地域は超過額をこの共同基金に拠出する。
B 以上の原則で地域毎の財源の過不足を計算すると第4表のとおりである。47地域のうち24地域が財源不足、23地域が財源超過となるが、財源超過額の合計が不足額の合計を上回るので、差引き32兆円の残高となる。これを中央政府の財源とすればいいわけである。
C この計算方法では中央政府は独自の財源を原則として持たないことになる。それではあまりに不自然であるから、所得税・法人税を地方と中央政府の共同税とすることを考える。各地域はその地域で生ずる所得税・法人税を共同税として共同基金に拠出し、地域間の財政調整を行うとともに中央政府にもそこから財源をまわすことにする。共同税にすることにより、所得税・法人税の税率その他具体的な運用は地方と中央政府が対等に協議することになる。
D 共同税を導入することにより、地域毎の財源不足額は共同税拠出分だけ増えることになる。その結果、各地域ごとの配分額も共同税拠出分だけ増えることになる。それでもなお、東京、大阪、神奈川、愛知、千葉では、その他の国税を自らの財源とした結果、財源が超過するので、その分、さらに共同基金に追加拠出をすることになる。この分を計算すると共同税収入からは12兆円を地域間財政調整にまわせばよいことになる。残りが32兆円となって、これが中央政府の財源になることは前の計算と変らない。
E 以上の計算を実際にあてはめようとしても、すべて税収が確定したあとでなければ計算できないのでは実用にならない。そこで、以上の計算による配分比を固定して配分額を決定することとし、その配分比の見直しを5年毎に行うこととする。たとえば、北海道は共同税収入の191%を配分する計算になるから、これを北海道の取り分とするわけである。同様に、東京は共同税の21%を追加拠出する計算であるから、この比率で追加拠出を続けるわけである。こうすることにより、翌年の所得税・法人税の全国的な税収見込みが計算できれば各地域への財源配分額も自動的に計算でき、予算も組めることになる。
F 以上の方式を採用すると、その地域が別途、税収を増やす努力をしても、いまの交付税制度のようにその分配分を削られることにならないから、地方財政健全化のインセンティヴが働くことになる。勿論、この比率を未来永劫変えないのではなく、たとえば5年毎に見直していくことは必要であろう。
G 5年ごとに見直しを行う時には、地域間の配分比だけではなく地方と中央政府との配分についても検討しなければならない。そのためには、地方と中央政府とが対等に協議できる委員会を設ける必要がある。この設置についての規定は、別途提案している地方自治基本法の中に書込んでおく必要がある。地域間の配分は地域の自主的な話合いに任せれば良い。
A 基本的な考え方として、消費税や揮発油税のように広域的な流通にかかわる税は都道府県税、相続税のように土地・財産にかかわるものは市町村税とすべきであろう。地価税も市町村税とするが、固定資産税、都市計画税、地価税と3重にも税を課する必要はなく、一元化すべきであろう。
B 市町村民税や都道府県民税などの住民税については、均等割的な部分は市町村税として残すとしても、所得比例の部分は所得税・法人税に統合し、共同税とすべきであろう。仮に現在の住民税をすべて共同税に組入れるとなると、東京の住民税総額は3兆円程であるから、さきに計算した共同基金への追加拠出分がほぼそれで賄われることになる。
C 以上の結果、都道府県の財源は、あらたに都道府県の税となった消費税などの流通税と共同税からの受取分になる。共同税からの受取分は基本的にはこれまでの交付税と補助金の合計であるが、市町村に相続税などの新たな税が国税から加わったので、その分は都道府県が共同税から受取ることになる。
E しかし、それを大前提としたうえで、市町村間の財政調整はそれぞれの地域ごとに工夫があっても構わない。地域毎に予め共同税からに配分は割当てられているのであるから、他の地域に影響を与えないかぎり、それぞれの地域毎の工夫をこらすことは自由である。まさにそこに地方主権の意味がある。
A まず、日本を東西2州に分けることを考えてみよう。大井川から糸魚川を結ぶ線で分けるのが本来だが、ここでは統計の都合上、静岡、長野をすべて東日本に組入れて計算しておく。(第5表)
こうして分けてみると、東京を抱える東日本は勿論のこと、西日本においても、共同税のうちの半分程度を調整財源にまわすだけで済み、それぞれ地域が自前でやっていけることになる。この東西2州案は極めて単純で分りやすい。
B また、別稿の「日本連邦基本構想」で示した10州案(このうち首都特別区は場所未定につき計算から除外)を考えると、東京を含む州は共同税以外に追加拠出をすることになるが、それ以外の州はすべて調整財源を分け合う仲となる。これもこれで一つの形である。
C いまの47都道府県をもう少し大括りにするメリットは、国との財政調整の関係にあるのではなく、それぞれの地域内の調整に独自の考え方を工夫できるところにある。それぞれの州に含まれることになるいまの都道府県間、および市町村と都道府県、市町村間の財政調整のやりかたは、それぞれの流儀で行なうことがあってもよい。この自由度をある程度大きくするためには、47都道府県体制は少し集約した方がいいと思われる。47都道府県体制のままでは、結局、都道府県間の財政調整の仕方を自由に工夫しにくいからである。
D 当面、東西2州案を基本にして必要なら名古屋を第3の核とする3州案を考え、札幌、仙台、広島、福岡がそれぞれ周辺の地域を支える真の意味での「地域中核都市」に成長させることをそれぞれの州の戦略目標にたてていくことが、だれにも分りやすい筋道であるのかもしれない。
A いかなる市、州に住もうとも、日本国民として受けられるミニマム・サービスは連邦政府および州政府・市政府によって提供される。それを保証するものが共同税である。
連邦政府は、その共同税の一部を使って、国民一律に連邦政府としてのミニマムサービスを全ての国民に提供する(たとえば、法秩序など)。
B 州政府は、共同税によって国民に対するミニマムサービスを州政府として提供するとともに、消費税によって州民に対する一律のサービス(たとえば教育水準の維持など)をを提供する。州内の市間の財政調整は、この州としてのミニマムサービスを維持するためのシステムである。州政府自らが多くのサービスを提供するばあいには財政調整は少なくなるし、市に多くを委ねる場合には財政調整の額は大きくなるだろう。その加減は、それぞれの州の自由である。
C 市は固定資産税や相続税を中心とする財源によって、独自のサービスを展開する。州からの財源を受けて、国民に対するミニマムサービスや州民に対するミニマムサービスを受け持つところもあるだろう。州内の市の間にはサービスの差は出てくるかもしれないが、いずれの場合にも市民がうけるサービスは、ミニマムサービスの水準を下回ることはない。